放課後遊戯
作:しにを
光がろくに差し込まぬ薄暗さ。
淀んだ空気。
埃がちの饐えた臭気。
じめじめとして肌を湿らすような不快な感触。
体育倉庫なんて処は、そんな決して居心地の良い処ではない。
そう志貴は思っている。
小学校の頃はそれでも、平均台や跳び箱、普段は眠っている運動会の時の小
道具等が格好の遊び道具となり、また禁じられていた空間にこっそりと忍び込
む事にある種の喜びがあった。
けれど、今では頼まれてもこんな処に長居はしたくない。
普通であれば。
そう、何もなかったとすれば……。
だが、今この瞬間の体育倉庫は、普通ではなかった。
志貴は僅かに開けた隙間から身を滑り入れ、後ろ手に扉を閉めた。
そして外よりも暗い空間に目を馴染ませるように、眼鏡の中の目を細めた。
志貴の目に白いものが映る。
白い服、白い肢体。
ほっそりとした体つき。
……女性の体。
いや、視覚以前に知覚できる。
甘い、体から漂う匂い。
汗の匂い。
そしてオスを惹きつけるメスの匂い。
淀んだ体育倉庫の空気にあっても、それは志貴の鼻を擽り、この場に女がい
る事を伝えていた。
志貴は二三歩前に進んだ。
ぼんやりとした影が、はっきりと目に映った。
志貴のよく知っている人物。
いや、そこで待つよう指示したのは志貴自身であったのだが。
ショートカットで眼鏡の少女。
薄暗い体育倉庫の中で志貴を待っていたのは、シエルだった。
「待たせたね、シエル先輩。掃除当番だったの忘れていたよ」
マットの上に体育座りをしているシエルに、志貴はそう声を掛けた。
シエルは顔を上げて、覗き込むように自分に顔を向けている志貴を見つめ返
した。
「遠野くん……」
シエルは体操服姿だった。
半袖の白い上着とブルマーをつけた姿。
腕と脚は惜しげもなく外に晒されている。
さほど寒いとは思えないが、膝を抱えて微かに震えていた。
志貴は黙ってシエルを見つめている。
シエルが不自然なまでに体を、特に腰の辺りを震わせ、時にもじもじと動か
しているのを。
目が潤み、息が微かに乱れているのを。
「少し暗いね」
志貴はそう言うと、椅子を引きずりながら窓を開け始めた。
壁の上にある細い採光窓の曇りガラスを開けていく。
もっと容易な照明を点ける事はしない。今の行動にしても校庭に向いている
窓はそのままに、西日を受ける外向けのものだけを開けていた。
それだけでも、だいぶ体育倉庫の中は明るくなった。
窓から埃の踊る光の線が出来ている。
志貴はシエルを振り返る。
そしてゆっくりと間近に近づき、改めてシエルの姿をしげしげと眺め始めた。
そもそもシエルの発達した胸や腰は制服やカソックを着ていてさえ、隠し切
れずによく見て取れる。
シエルの持つ雰囲気故に、健康美といった感じではあるが、艶かしいライン
を形作っている事は間違いない。
それが、水着や体操服姿になると、はっきりと誇示されてやや反則気味にす
ら目に映る。
むっちりとした太股を擁して、そこからすんなりと伸びた脚。
やや大きめの腰周りと魅惑的なヒップのライン。
形良く膨らんだ柔らかそうな胸の双丘。
立っていても目を惹く美しさだったが、動いている時のラインの変化や揺れ
は、目を奪い心を虜にするに足る魅力、破壊力に満ち満ちていた。
しかし、それが今は、いつもとはやや違う雰囲気。
頼りなげな顔つきで、すがるように志貴を見る瞳。
別なシエルの貌だった。
「遠野くん、もう……」
潤んだ目、乱れる息。
「早くから来てたみたいだけど、先輩。授業終わってからどうしたの?」
シエルに構わず、志貴は質問を投げた。
「え? あ、調子が悪い事にしてHRは欠席させて貰いました。制服を持って
そのまま保健室へ行くと言って……」
「そして保健室で休んでいる筈が、何故かこんな処にいる訳だ。意外と不真面
目だなあ、シエル先輩。みんな心配していたんじゃないの? にしろ体育の時
間から息を乱したりして様子が変だったんだから」
シエルは志貴の言葉に僅かに息を呑み、そしてぼそぼそと言葉を続ける。
「授業をサボった訳ではありません。それに、そのままの姿で此処で待ってい
ろって遠野くんが……」
「でも、運動部の子なんかは体育着のまま着替えないでHR出て、そのまま部
活に出たりするだろ。先輩もそうすればよかったんじゃないの?」
「だって、そんなの……」
志貴は身を屈めて、無造作にシエルの膨らんだ、胸の先と思しき部分を指で
弾いた。
「きゃうッッ」
シエルが悲鳴を上げて身悶えする。
痛みではなく、もっと別の何かが起こったようだった。
「そうだね、こんなに欲情して感じやすくなっているの、教室なんかにいたら
気づかれちゃうかもしれないものね。確かに普通の状態じゃないか……」
志貴はシエルに並んで腰を下ろした。
肩や腰が触れ合うほど近く寄り添う。
背から手を回すようにして、志貴の手がシエルの腰に触れた。
そこからさらに手を這わすような真似はせず、軽く添えるようにあてがった
だけだが、シエルは身を竦ませている。
「振動が伝わってくる」
「やだッ」
志貴のぽつりとこぼした一言に、過敏なまでにシエルは反応した。
身を離そうとするが、志貴は手で押さえてそうはさせなかった。
「体育の授業中にそんなエッチな格好でいるなんて」
「だって……」
「クラスにも先輩に憧れている同級生とかもいるだろうに。白い太股とか見つ
められて、気づかれなかったかな。先輩が本当はいやらしい女の子だって」
「遠野くんが命令したんじゃないですか」
「そうだけど、逆らう事もできたし、だいたいこんなに喜んでるじゃないか」
志貴は無造作に手を伸ばし、ブルマーの上の縁を摘んだ。
そのまま前に引き出すように、大きな隙間を作り出した。
入れ込んだ体育着の裾、ショーツが顔を覗かせる。
そして、密封されたような状態に穴が開いた為、蒸れた空気がもわっと外へ
と漏れ出した。
シエルの下腹部の濃厚な匂いが志貴の鼻にも届く。
体育の授業での汗を含んで強まった体臭、そしてそれに混ざるように、別の
匂いが漂っている。
生臭いまでのオンナの匂い。
「凄い匂い」
「遠野くん、やめて。恥ずかしい、運動した後で汗をかいて……」
「いいってば。いい匂いだよ。でも、これって随分といやらしい匂いが混ざっ
ているよね、先輩?」
言いながら、志貴はもう一方の手をブルマーと体の隙間へと侵入させた。
「あん、いや……」
「ここかな?」
迷わず志貴はシエルの谷間を覆うショーツに指を当てた。
そして辺りを指で弄ると、たちまち指先は湿り気を帯びた。
「あーあ、濡れちゃって凄いこと。こんないやらしいの隠して蒸れさせていた
んなら、匂いも篭もるよね」
さらに志貴の指はシエルの一番濡らしているところ、膣口を探り当てる。
しかし、そこは常ならば柔らかく志貴の指が沈みそうになるのだが、今は違
った感触を指に伝えている。
志貴は別に驚きもせず、くにくにと動かしている。
「何かあったよ、シエル先輩」
「……」
「ねえ、何、これ?」
《つづく》
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