殊塗同帰
                     睦月


―― First Stage 朱い月 ――


『おかしい』

 俺の中に疑問の声は日に日に大きくなっていく。

 ネロとか、ロアとか…
 世間を騒がし克、世間の目が到達しえなかったセンセーショナルな事件はもう
ない。
 その原因に至って、自分、遠野志貴は大きく関わりかつ解決に貢献したと言え
る。
 もちろん、自分だけの力など奢る気などは微塵もなかった。
 ともすれば持て余すばかりの自分の『力』を方向付けてくれたのは、俺の功で
はない…。

 日常の象徴とすら思っていたシエル先輩
 彼女は、俺よりもずっと重い物を、永きに渡り背負い続けていたのに…
 人よりも遥かに永い、永劫とも刻を『生きていなかった』吸血姫アルクェイド
 彼女は、孤独を知らず、ぬくもりを知らず、目的のみを持って存在し続ける

『孤高』

 知らないからこその白い心その心に土をつけたのは自分かもしれない。

『俺はそれを知ってその資格もないのに…。』


 俺は彼女たちの笑顔を見て、ただ一人の人間である俺には『それ』が―
 とても、とても痛かった…。

 巻き込んだ巻き込まれたの話ではない。
 俺は自分の日常にどこか綻びがあることを知っている。

 俺が、俺としてあるのは彼女達のおかげであり感謝する事はあれ、される権利
などない。
 また、俺自身がその当事者であり、彼女達を含む俺の周りの人達を、護りたい。
 彼女達を他人事として捕らえることは俺にはできなくて、なによりも俺自身が
それを望んだからだ。

『全ては円く収まった筈なのだ。』

 さまざまな経緯があるにせよ、俺はロアという吸血種が用意した俺という名の
形を『ネロの意思』という概念を殺した俺は、もとは志貴のものであった魂、
シキに奪われた半魂、シキを経てロアとなった魂を自分のものへと取り戻す。

 もう、ロアいない、シキもいない。
 不完全な生ではなく、自分を取り戻したはずだった…。

『わからない』
 わからなかった。

『おかしい』
 俺の目はおかしかった。

 眼鏡を通しての世界はこんなにも明るいのに、『眼鏡』というフィルターを外
した筈の目が映すモノは、なんだろうか?

 まるで、逆にフィルターを掛けているよう…

『どうして』
「どうして」

 ―― どうして、

「これほどに…、月が」

 魔眼と知らされたその眼が、闇にしてなお細められる。
 これほどに、

『月が、――― 朱いのだろうか?』

(To Be Continued....)