――何でこんなことになってしまったんだろう?

 志貴は翡翠に服を脱がされながら、志貴は内心で問う。
 目の前ではしずしずと秋葉が琥珀の手によって衣を脱ぎ、その白い身体と肌
を見せていた。琥珀も秋葉もごく自然に振る舞い、秋葉のスカートやブラウス
が琥珀に畳まれて脱衣籠に積まれてゆく。

「……志貴さま?」
「あ……うん」

 傍らの翡翠に声を掛けられて、志貴は我に返る。秋葉の脱衣の様に見とれて
しまったようで、頭を振って翡翠からタオルを受け取って腰に巻く。
 下着を脱ぎながらも志貴は、どこに目を遣っていいのか悩んでいた。翡翠は
じーっと志貴の挙手を見守っているのでなんとなく目を併せづらく、秋葉を見
つめているのも出歯亀っぽくて嫌だった。そうなると、脱衣所の一隅を見つめ
てもぞもぞと着替えるしかない。

 しかし、脱衣所まで一緒じゃなくて良いのに……と志貴は思っていた。だが、
秋葉は何気なくこの女子脱衣所まで志貴を連れ込んでいた――まるで銭湯に子
供を連れ込むように、何気なく。そして琥珀も翡翠も異論を呈さなかった。

 全くの子供扱いに、役得だと思う反面、微かな悔しさを感じる志貴であった。

「…………」

 脱いだ下着を翡翠が手に取る。それを志貴は恥ずかしく思い、そっぽを向い
た。
 確かに志貴の身の回りの世話をするのは翡翠の役割であり、この行為は当然
であった。だが、今それを殊更に目の前に見せられると、自分が身勝手で思い
やりのない存在になってしまったようで情けなくもなる。

「……翡翠も着替えを」
「はい、姉さんと一緒に参りますので、秋葉さまと共に是非」

 そういって、腰の上にタオルを巻いただけの志貴に頭を下げる翡翠 。
 傷のないつるりとした少年の肌。志貴は何となく胸の上を撫で、そこにあっ
た筈の傷の指触りが無いことに、微かな物足りなさを感じる。
 でも、この傷がなければ死の線を見なくて良い――それは嬉しいような、哀
しいような。 

「……兄さん?では参りましょう?」

 その声に志貴は振り返ろうとして――振り返り掛けた首を止める。
 視界の片隅に映ったのは、ピンクのバスタオルを胸に巻いて身体を隠した秋
葉の姿だった。すらりとスレンダーな身体はタオルだけの姿でより明らかで、
長い髪がそれを引き立てる。その足などもまるで牝鹿のようにしなやかで、そ
の肌は白くきめ細やかで。

 美しかった。美しかったが故に、志貴はそれを直視できなかった。
 裸に近い姿を見せているのは秋葉の方なのに、志貴はかぁっと赤くなる。こ
うなることは予期していたとは言っても、実際に秋葉の裸を見るとその決心も
鈍る。

 ごめんなさい、と何となく何かに謝りたくなる。
 そんなもじもじした志貴に、後ろから秋葉が近寄る。

「もう……照れないでください、兄さん」
「だ、だってその……」
「兄さんが照れると私も恥ずかしくなります。だから……」

 秋葉は手を伸ばすと志貴の二の腕を取る。
 細い指が志貴の腕を巻くと、そのままつつっと志貴の身体を引っ張っていく。

「すぐに二人とも続いて参りますので、秋葉さま」
「そう……それじゃぁ先に楽しませて貰うわ」

 秋葉は頭を下げる双子に軽く会釈をして、志貴を浴場に引っ張っていく。
 志貴は腰のタオルを押さえながらわたわたと付いていく。目の前にあるのは
薄ピンクのタオルの上に流れる秋葉の長い髪。
 ちょっと待って、心の準備が――と志貴は悲鳴を上げそうになる。

 がらり、と風呂場のドアが開く。
 この先は露天風呂なので、内風呂のように中から湯気が溢れることはない。
外は暗いので、この大浴場はどんな風景になっているのか?そう志貴が思う間
もなく……

「へぶっ!」

 志貴は秋葉の腰の辺りにぶつかる。
 それは志貴が転んだのではなく、大股で歩いていた秋葉がいきなり立ち止ま
ったからだった。志貴が顔を秋葉にぶつけるが、それが秋葉のお尻の辺りなの
で慌てて飛び退く。ちょっとでも間違うとタオルが外れて裸になってしまうと
心配していたが。
 でも、どうせ裸になるんだよなぁとも頭の片隅で思う志貴であった。

「いて……ど、どうした?秋葉」

 それよりも、いきなり風呂場の入り口で立ち止まった秋葉が志貴は不安だっ
た。
 志貴が回り込んで秋葉の顔を見上げると、そこには眉を怒らせ、怒りに言葉
もなくわななく秋葉の顔があった。志貴は自分が何か秋葉の逆鱗に触れる所業
をしたのではないのかと青くなるが、秋葉の目は低い自分ではなく、風呂場の
彼方を見つめているのを知る。

 そこに何が?志貴も目線の先を追って振り返った。
 露天風呂の湯船にはお湯が張られ、湯気が上がっていた。風情のある岩風呂
で、この屋敷の中になんで……といつ見ても思うまるで温泉旅館の露天風呂の
ような大浴場。
 その中に、確かに何かが居た。それは胸元までお湯に浸かって、頭の上に畳
んだ手ぬぐいをのせ、鼻歌を歌っているショートカットの女性。
 遠目であったが、他に誰も見間違えようのない、愛嬌のある顔。普段はそら
とぼけた顔でいることが多く、こんなのんびりしたくつろぎの表情はあまり見
たことがなかったが――

 もう一度秋葉を志貴は見る。
 秋葉の瞳はその、露天風呂の先客を映していた。志貴はおそるおそる、その
先客の名前を呼ぶ。間違っていたらいいんだけども、と思う反面、間違ってい
たらそれはそれで大騒ぎだと思いながら。

「………シエル先輩?なんでそこに居るの?」
「ああ、お先に失礼します、遠野くん?それに秋葉さん」

 先客――シエルは相好を崩してにっこりと笑みを投げかけてくる。
 まるで混浴の温泉に先に入っていたシエルが、遅れてやってきた二人に挨拶
をするように自然な振る舞いであった。そしてちゃぽん、とお湯を掌で掬う。

「いやぁ、いい湯加減ですねぇ……極楽極楽」
「……何をされているのですか?シエルさん?」

 ふるふると怒りに震える秋葉の低く押し殺した声が響く。
 それは傍らにいる志貴が震え上がりそうになり、自分に向けられた怒りでは
ないのに土下座して謝りたくなるほどの激怒のポテンシャルを秘めていた。
 が、シエルはすっとぼけて左右を眺め、うんうんと頷くとおもむろに――

「これが入浴以外の何に見えますか?秋葉さん?」
「私が聞いているのは何故我が家の風呂に他人の貴女が、それも無礼にも一番
風呂を決め込んでいるということです!」

 キー、とヒステリックに秋葉が絶叫する。秋葉の怒りにシエルの挑発、それ
が見事に歯車を合わせた激発であった。見事であったが、それをわざわざ見せ
つけなくても良いのに、と泣きたくなる志貴であった。
 おまけに自分は内気な少年であり、この二人を止めることは出来もしない。

 もともと秋葉とシエルは反り合いが好くなかった。秋葉は面と向かって嫌い
だと公言していたぐらいなのに、志貴の復活の一件でもそれは改善したように
は思われなかった――むしろ周到な計画を巡らせていたシエルに、蚊帳の外だ
った秋葉が反感を抱いている部分もある。
 逆にシエルと琥珀は奇妙なほど仲が良くなっていたのであったが――

 そして、そんな二人が図らずも激突している。
 シエルはふっふっふ、と秋葉の怒りをいなして笑う。シエルは秋葉の怒りが
堪えていない様子だった。

「うーん、アパートのお風呂は狭いんですよねぇ。それに銭湯も最近値上がり
していて、生活費の予算が厳しい私にはなかなか毎日そういう贅沢も出来なく
て」

 うんうん、とシエルはお湯の中で腕を組んでうなずく。その生活感のにじみ
出る発言に、かつて財布の中に4ケタの金額も容易に満たせなかった志貴は共
感を覚えて頷く。
 そんな志貴にじろり、と秋葉の視線が刺さると凍り付く。シエルはにぱっと
笑うと手を広げ、この浴場を指し示す。

「それなのに、遠野くんの家にはこんなに豪華なお風呂があるじゃないですか」
「……ここは我が家の風呂です、シエルさん?」
「神は仰いました、持てる者が天国の門を潜るのは楽だが針の穴を潜るより難
いと。であれば持てるものである秋葉さんが私にお風呂に入らせてくれてもバ
チは当たらない筈です」

 今にもこめかみの血管が切れそうな秋葉を向こうに、したり顔で頷くシエル。
頭の上に畳んだ手ぬぐいを乗せてすっかりと温泉気分でくつろいでいる彼女は
ふぅー、と気持ちよさそうに一息吐くと――

「それにしても良いお風呂ですねぇ、毎日お世話になりたいぐらいですよ」
「貴女の行動は居直り強盗のそれと知って?」
「説教強盗かもしれませんけどねぇ。まぁ、宗教者の言うことは得てしてそう
いうものです。で、遠野くん?こっちは気持ちいいですよ?早く入りませんか?」

 シエルはくいくいと志貴を手で誘う。
 もしかして先輩は、お風呂に入りに来たのではなくて俺が目的だったのか?
と志貴は疑念に捕らわれる。もし風呂だけ入りに来たのなら、わざわざ秋葉を
挑発せずに逃げ去っていたはずだ。
 それなのに、お湯に浸かるシエルは志貴に誘惑の眼差しを送ってきている――

 じり、と去就に迷う志貴が後ずさろうとする、だが、それよりも早く動く影
があった。
 それは傍らにいた秋葉で、しゃがみこんで志貴をひっしと守るように抱きし
める。秋葉の細い肩とバスタオルの胸に抱きしめられ、わぁと志貴は声を上げ
るが――

「……兄さんが目的なのね?シエルさん」
「それはもう……ああ、かわいいですねぇ遠野くん、お姉さんと一緒にお風呂
に入りましょう〜」

 子狐を守る母狐のように警戒を露わにする秋葉に、全く堪えた様子を見せず
に手招きするシエル。そして何を思いついたのか、口元を手で隠すとむふふふ
と怪しい笑いを含む。視線の先にあるのは秋葉の腕に抱きしめられ、事態の推
移に怯える志貴。
 むふり、と秋葉は笑うと――

「とおのくーん?」
「せ、先輩、その先輩がそこにいるといろいろと差し障りがぁぁ!」
「何言ってるんですか、イタリアにいたときは一緒にお風呂に入った仲じゃな
いですか?今更なにも恥ずかしがることはありませんよー?」

 うぐぁ!と志貴は目を見開いてうめき声を漏らす。
 シエルの爆弾発言を受け、志貴の顔色は真っ青になっていく。シエルの言葉
とあからさまな兄の態度に、秋葉も腕の中の志貴に疑いの目を向ける。
 秋葉はぱくぱくと空気を噛むと、やがて――

「本当ですか?兄さん」
「え……あ、その、嘘じゃないけど……でもあの時は寝たきりみたいだったし……」
「もう、遠野くんのちいさな身体を洗うのは楽しかったですよー、うふふふ」
「うっ!あ!先輩、それ以上はもう言わないでぇ!」

 志貴の悲鳴が上がる。その声色にシエルの発言が嘘ではないことを察して、
秋葉は志貴の肩を掴んでガクガクと揺さぶる。

「兄さん、あなたという人は私がいながらシエルとそんなことをしていたんで
すか!」
「していたんじゃなくてされたんだってばさ!」

 秋葉の腕はぶんぶんと容赦なく志貴を揺さぶり、容赦なく揺さぶられる志貴
は必死の弁明を口にする。志貴の記憶にあるのは一緒にお風呂にはいるという
にものではなく、看護の清拭がシエルの欲望によっていやらしいセクハラぷれ
いになったというものだったが――
 それも事細かに述べても、今の秋葉は聞く態勢にはなかった。

「可愛かったですよ、もう遠野くんったらちょっと弄ったらぷるぷる震えて
『シエル、そこは……ああん』とかまるで女の子みたいな声を上げて」
「どこですか!どこをそんなことをされた時に声を上げたんですか兄さん!」
「ち、ちくびだけどそんなディティールは今はどうでも………わぁぁあ!」

 はらり、と秋葉の身体からバスタオルが落ちる。
 それは石敷きの床の上のぱさりと落ち、志貴の目の前に露わになったのは――

 秋葉のすらりとした、無駄のない裸体であった。
 首筋と鎖骨の描く線は美しく、細作りの身体は柔らかくもしなやか美しさを
感じる。胸もなだらかにあり、その上のピンクの乳首が眩しいような。

 あああ、と志貴は意味のない呟きを口にする。
 秋葉はしばらく志貴をゆさぶっていたが、床に落ちた自分のタオルを目で追
う。そして、二人の視線が絡み合って――

「あらまぁ」
「………あ、秋葉……ご、ごめん!」

 志貴は慌てて、何がどう悪いのかも理解せずに謝る。それに秋葉がどう反応
するかは予想の外であった。
 秋葉は志貴の瞳を見つめる。その眼差しに湿った、熱いものを感じる。
 秋葉は志貴の身体を、自分の身体に目を遣るとやがて――

 秋葉はひっしと志貴の身体を抱きしめた。
 タオル越しではなく、素肌が触れ合う。それは直に肌ざわりと体温と、お互
いの存在を伝え合う接触であった。それも、裸で秋葉に抱かれる――身体の大
きさの違いで、文字通り秋葉に包まれるように抱かれた志貴は驚きを隠せずに
秋葉の顔を見ようとする。

 だが、秋葉は志貴の肩に顔を埋め、志貴が視ることが出来たのは秋葉の豊か
な黒髪だけであった。ただ、自分に伝わる秋葉の身体が熱く感じる。
 それに、秋葉の身体は肉付きこそ豊ではなかったが、それでも女性の柔らか
さはあり志貴はその腕の中でとろけそうになる。

「……秋葉?」
「ふふふ……そうね、兄さんはシエルさんにそんなことを……でも、今の兄さ
んは私のものです。だから」

 秋葉はすいと志貴の肩から顔を外し、志貴と向かい合う。
 秋葉は口元に含み笑いを忍ばせ、目尻を下げて艶容に笑っていた。それはぞ
くり、と志貴の背筋を粟立たせる怪しさを含んでる。それに、志貴は女郎蜘蛛
の腕に捕らわれた蝶のように逃れることも出来ない。
 
 はぁ、と秋葉の暖かい吐息を頬に感じた。
 秋葉は横目でシエルを見る。シエルは裸で抱き合う志貴と秋葉に、興味深く
も悔しそうな、どことなくそっぽを向いているような表情でいた。そんなシエ
ルに聞かせるように、秋葉は言う。

「……では、兄さんがシエルさんにどんな風にされたかを、私が確かめてあげ
ますわ?」
「え?あ、秋葉?そんな先輩の目の前で……あああ!」

 秋葉の妖しい宣告に志貴は困惑の声を上げるが、ひょいと――秋葉の腕に抱
え上げられてしまう。腰のタオルが落ち、志貴もまた生まれたままの姿になっ
てしまう。
 いくら自分が子供の身体に戻ってしまったたといっても、秋葉にそんな力が
あったのか?志貴は頭を振りたい思いだった。

 でも、現実に秋葉の腕に志貴は抱え抱かれていた。
 それも背中と膝の裏に腕を回された、お姫様だっこの格好で。
 仮にも小学生並みの身体といえ、女性――それも妹にこんなことをされると
いうのは、志貴には目眩のするような屈辱と、倒錯した微かな喜びを感じてし
まう。それも、シエルに見つめられている――

 手込めにされる。先輩の見ている前で。

 今までシエルに押し倒され、琥珀と翡翠に交わられ、秋葉に浅上女学園の女
装で嬲られ、そのほかにも多くの女性に――能動的なセックスではなく、どこ
となく犯されるようなセックスばかりが志貴の身の上に降りかかっていた。
 そんなマゾヒスティックな喜びを、志貴の身体は覚え始めている……

 などと納得できる志貴ではなかった。そんな変態ちっくな目覚めのことはわ
からない、でもとりあえずさらし者のえっちはいやだ、となけなしの志貴のプ
ライドが主張する。
 志貴は手をのばすと、秋葉の身体をぽかぽかと叩く。

「秋葉ー!正気に戻れー!」
「おほほほ……まるでやんちゃ坊主みたいで可愛いですわ?兄さん?」

 やんちゃ坊主と兄さん、という言葉だけに力点を置く秋葉の口調。
 秋葉の胸と肩を叩きながら、志貴はお姫様だっこされているよりも、やんち
ゃ坊主扱いされたことに抗議の声を上げる。

「そんな、先輩の前でなにをするんだよー!」
「なにを……そうですわね、シエルさんになにをされたかを私が確かめてあげ
るだけです」
「待て、秋葉、大人しく全部ゲロするから、ちょっと冷静になれ!」
「私は至って冷静ですわ?それに……」

 秋葉は暴れる志貴の耳元に唇を寄せる。
 ぬるり、と秋葉の舌が志貴の耳朶を撫でた。その生々しい感触に志貴は震え
上がる。

「うひぃ!」
「……せっかく兄さんを気持ちよくさせて上げようとしましたのに」

 妖しい誘惑の言葉であった。
 志貴はそんな秋葉の誘惑に、ただふるふると震えるだけであった。何につけ
てもこの志貴の少年の身体が、行動の選択肢をほとんど無いものとしていた。
 秋葉に抱きかかえられた志貴が出来ることと言えば、ただ……

「うわーうわーうわーうわー!先輩!翡翠!琥珀さぁぁん!」
「あらあら、私の名前を言ってもらえないだなんて……兄さんったらもう」

 志貴の救いを求める叫びは、秋葉の薄ら笑いに打ち消される。
 実際、シエルはその叫びを聞いていたが――聞いていただけであった。何を
していたのかというと、岩風呂の縁に身体を乗り出して、わくわくと二人の方
を観察している。

 助けよう、とも邪魔をしよう、という気もさらさらない素振り。

「さて……では兄さん?」

 志貴の身体はすとん、と洗い場の椅子の上に下ろされる。
 秋葉の腕になすがままにされる志貴の身体だっった。足が地面に着いた志貴
は走って逃げだそうとするが、すかさず秋葉が後ろから志貴を抱きしめる。
 秋葉の汗と息と、微かにコロンの混じった薫りが志貴を包む。それに、志貴
の背中に秋葉の胸がぺったりと触れた。
 
 柔らかな女性らしいふくらみはなかったが、それでも男性とは質の異なる女
性の肌が触れるとそこがかっかと熱を持ったように――

 秋葉は腕を伸ばすと、ボディーソープを手に取る。
 それを志貴の前で二三度振って翳すと、たらり、と手に垂らす。
 まるで瓶詰めの精液を手に垂らすような、白濁液の粘り。秋葉の掌を濡らし、
堪り、そしてしたたるそれを志貴はまるで魔女の媚薬の様に感じる。

「ふふふ……これで」

 いや、今志貴を抱きしめる秋葉は魔女のような、淫乱な息を志貴の耳に浴び
せかける。はぁはぁと、耳朶に響く秋葉の息。
 秋葉は両手に白濁液を絡める。ぬたり、と秋葉の手は液にぬれ、泡立つ。
 
「兄さん……洗って差し上げますわ?」
「う、うわ、秋葉、それは……ひゃう!」

 志貴の胸に、べったりと秋葉の手が触れる。
 たっぷりとつけられたボディーソープを撫で、塗り込むように秋葉の手が動
く。秋葉の指は細く、志貴の少年の膚をなで回す。その手が志貴の胸元を円を
描くように滑り、膚を白濁のボディーソープで塗り尽くしていく。

「ふふふ……こんな風にされましたの?兄さん?」
「ん……や……あうあ……」

 胸の上をはい回る秋葉の手は、志貴の胸の小さな突起を触れていく。ぬるぬ
るとしたボディーソープを塗りつけられる感触だけでもぞくそくするのに、秋
葉の指は志貴の膚から快感を絞り出そうとするマッサージ師のように動く。
 秋葉の身体に抱き込まれ、秋葉の手で無力に身体を洗われる。それだけでも
頭がぼうっとしそうなのに、秋葉の興奮した呟きがより志貴をあおり立てる。

「こんなに……こんなに可愛いあえぎをあのシエルに聞かせたんですか?」

 秋葉は自分の言葉に酔っていた。
 熱い吐息を志貴に浴びせかけながら、秋葉は自分の身体に隠すように抱きし
めた志貴の身体をなで回す。手にたっぷりと浸したボディーソープが、秋葉の
指の感覚を鋭敏にする。志貴の少年の膚は適度な脂を含んで滑らかで、秋葉に
は兄の膚、男性の膚を撫でているというよりは一人の少女の膚を撫でている様
に錯覚もさせた。

 それだけでも秋葉の官能を刺激するのに、腕の中の志貴は――身体故にすこ
し高くなった声で、身悶えして喘ぐのだ。
 その声を聞いて、秋葉は止まることが出来ない。志貴の背中にぎゅっと身体
を密着させると、左手を顎から喉の敏感な部分に宛われ、そして右手が弄り回
していた志貴の下腹部に降りていく。

 それは、志貴の身体に後ろから巻き付き、自由を奪う蛇のように。

「兄さん……こんなに小さくて可愛い兄さんを……シエルは嬲ったんですね?
こんな風に」
「ん……んぅ……あ……うぁ……」

 喉にある手が、ぐっと志貴の首を掴む。そしてそれはぬるぬると動き、くす
ぐるように揉む。秋葉は志貴の耳に唇を付け、その耳朶を甘噛みする。
 ほんの少し志貴の髪が口にはいるが、秋葉は気にせずに志貴の耳を噛み、舌
を伸ばして複雑な耳の窪みを舐めた。

 びくん、と志貴の身体が震える。

「あら……兄さんったら……私に身体を洗われているのに……」

 秋葉の右手は志貴の下腹部をマッサージするように動いていたが、その甲に
ちょこちょこと当たる感触があった。志貴は足をぴったりと合わせて秋葉の愛
撫に堪えているが、それでもその手触りは零れだしてきてしまったように。

 秋葉の手が下がるにつれ、志貴の身体が緊張に難くなるのを感じた。
 だが、秋葉はそんな初な反応の志貴を楽しむようにくすりと笑いを漏らし、
耳に甘い息を吹き込む。

「……ご、ごめん、秋葉!」
「何か謝ることがあるのですか?兄さん?」
「だ、だって……秋葉の手が……手に……うううう……」


(To Be Continued....)