「そんなに、遠野くんの事好きなのなら、試してあげましょうか?」
「試す?」

 こちらを振り返ったアルクェイドは、真剣な表情でわたしを見つめた。

「あなたがどんな事を遠野くんにしてあげられるのかを」
「……」
「それなりに遠野くんに悦んで貰えるようであるなら、わたしも考えてみても
いいですよ」
「やるわ。でも、どうするの? 志貴を起こすの?」
「それには及びません。わたしが直接試してあげますから」

 怪訝な顔でわたしをアルクェイドは見つめる。
 顔だけでなく、体全体を。

「それって、シエルと、その……、するって事?」
「はい。嫌ですか」

 アルクェイドは真っ赤になっていた。
 
「嫌じゃないけど、でも、シエルには……、ないでしょ?」
「ご心配なく。もう少し待って下さいな」

 そう、もう少しで、効果が現れる。
 ぴくりとアルクェイドが反応する。
 ふうん、さすがに、魔術の発動には敏感だこと。

「シエル、何を……」
「査定用の道具を出しているんですよ」
「あ、ええっ? うわぁ」

 アルクェイドが驚愕の表情でわたしを見つめる。
 より正確に言えば、わたしの股間を。
 今まで存在しなかった筈のモノを。
 男性器に酷似、いえそのものを。
 わたしに生えたペニスの姿を。

「これって、何?」
「ああ、こういう人間の研究は知りませんか。まあ、必要ないでしょうけど。
 わたしだって別に必要ないですけどね。ロアの忘れ形見の一つですよ」
「凄い、本物みたい……」
「ある意味本物なんです」

 そう、初めからそこにあったかのように肉体上の違和感はない。
 まあ、自分で見てもぎょっとするような光景だけど。
 ろくな想い出もないし……。

「触ってもいい?」
「いいですよ、と言うか、なんでこんなの出したと思っているんです?」
「あ、そうか」

 恐々とアルクェイドの手が触れる。
 そして、指先で突付いては手を引っ込めをしてから、手全体でその逸物の状
態を確認し始める。

「どうやったの」
「ありうべき可能性に火を点すとでも言いますかね。完全に女性器を男性のも
のに変化させる術も心得てますけど、あれは体への悪影響と元に戻すのに時間
が掛かりすぎるので、別の方法を」
「ふーん。あ、下はそのままなんだ」

 そう。アルクェイドが物珍しそうに弄ぶ陰茎の下には陰核があり秘裂がその
まま残っている。
 あくまで、新たに生やしたもの。外に睾丸が作られずその機能は体内にある
以外は、まったく本物と相違ない……、筈。

「あ、大きくなってきたよ」
「う……」

 アルクェイドの柔らかい手の感触で、そのペニスは鎌首をもたげ始めた。
 軽く握られ、上下にやわやわとしごかれていたのだ。
 ほとんど手の中に隠れていたものが、はみ出るほど体積を増していく。

 嬉しそうにアルクェイドは手の力を強め、それに拮抗するかのように、わた
しのペニスは硬く大きく熱くなっていく。
 そして、屹立しきったペニスはグロテスクな威容を示した。

「凄い……」

 アルクェイドの手が離れ、見慣れぬ男性器をまじまじと見つめている。
 自分のペースを取り戻そうと、わたしは落ち着いて言葉を口にする。

「では、わたしを遠野くんだと思って、悦ばせてみなさい。
 そしたら、ご褒美に遠野くんの温かいミルクを上げますよ」
「え、志貴?」
「たっぷりわたしの中に注がれた遠野くんのが、ここから出るんですよ。本物の
遠野くんの精液がね」

 根元からペニスを揺すって、はや露を滲ませた鈴口をアルクェイドに向ける。
 取り込んだ精液を活用する魔術の応用。
 ちょっと勿体無いけど、こちらの方が身が入るだろう。
 ほら……。

 アルクェイドが跪く。
 頭を下げてから、わたしを見る。
 アルクェイドが上目遣いになっている……。
 なんだろう、この胸に広がる気持ち?

「ご奉仕致します……」

 え?
 どこで憶えてきたんだろう、こんな言葉……。
 どきどきとする。

 そしてアルクェイドはそっと動いた。
 いきなり咥える真似はしない。
 少し珍しそうに鼻を擦り付けて匂いを嗅いだり、手で感触を確かめている。
 さっきは屹立しきらない時点で手を離したから、完全に臨戦体勢となったペ
ニスにはまだ触れていなかったのだ。
 その愛撫でも何でもない動きでも、アルクェイドに触れられて少しペニスが
ビクビクと反応する。
 アルクェイドは片手で幹を柔らかく握り、ゆっくりと上下に動かし始めた。
 そして、もう一方の手で根元をさわさわと探る。

 これは、気持ちいい。
 ただ弱いのと、柔らかく刺激を与えるのは全然違う行為であるとわかる。
 慣れてなければ、強くしごくよりもあっさり、このむず痒い刺激で吐精させ
られてしまいそう。

 そして、唇と舌がペニスを包み込んだ。
 とろけそうな温かさ。
 ぬるりとした湿り気。
 柔らかく触れる感触。

 なんという快感。

 まだ口に含み舌を滑らせているだけだ。
 なのに、なんて気持ちいいんだろう。
 男としての感覚に万全の対応が出来ぬ身には、オーバーフローなほどの様々
な感覚の奔流。
 これだけでも耐えがたいのに、アルクェイドは唇と舌を本格的に使い始めた。
 きつすぎず緩すぎず、絶妙の強さの唇の輪が幹を締め付け、上下に動き、擦
り上げ、しごき上げる。
 舌がぬめぬめと幹を這い、張り詰めた亀頭とくびれとを舌先で舐めまわす。
 頬の内側に押し当てられた時の柔らかな感触、舌で丹念に急所を突付かれる
時の震え、唾液が吸上げられペニスを伝う時の痒みにも痺れにも似た快感。
 どれも驚くほど巧みだった。

 そしてその意外な性技の冴え以上に、あのアルクェイドに咥えられしゃぶら
れ奉仕を受けているという信じがたい光景。
 腰をひくつかせないように抑えるのに、かなりの自制心が必要だった。

 しばらくそうしていて、ちゅぽんとアルクェイドの口からペニスが飛び出る。
 もっと。
 そうせがみそうになるのを堪えて、平然とした顔でアルクェイドに対する。

「どうかな?」

 心細げな表情。
 
「まだまだ、わたしの域には達しませんが、だいぶ気持ちいいですね。思い入
れがないわたし相手でここまで出来るなら、遠野くん相手だとずっと効果的で
しょう」
「ほんと? シエル気持ち良かったの?」
「ええ、まあ」
「嬉しいなあ」

 自分の唾液でてらてらと光っているわたしのペニスをじーっと見つめる。
 いや、その先っぽ。
 明らかに唾液とは違うぬめりをもった透明の粘液を注視しているようだ。
 すっと前触れ無く指が伸びた。
 ちょんと鈴口に指を当てられ、くりくりと刺激される。

「んんんッッ。何です、いきなり」
「ごめん、ねえ、これってあのまま続けたら射精するんだよね?」
「ええ。さっきも言った通りですよ」
「ふうん、だったら最後までしないとダメだよね?」
「え」
「だから……、射精するまで」

 ええ、と頷きつつ心の中で首を傾げる。
 どうも彼女の声と表情が不整合だ。
 
「ごめんね、途中で止めて」
「え?」

 申し訳無さそうにアルクェイドは謝罪の言葉を口にして、またその形の良い
唇をわたしの赤黒いペニスに寄せた。

 なんだ。
 そういう事か。
 遠野くんを基準にして考えれば、行為の途中で中断するなんて蛇の生殺しみ
たいな事は、とんでもない事だ。
 まだ、ひくひくとしているわたしのペニスを見て、勝手に止めた事をすまな
く思ったのだろう。

 ……。
 熱心に口戯が行われている。
 思わず、綺麗な金髪に手を伸ばした。
 気がつくと頭を撫ぜていた。

「そのまま。最後まで気持ち良くさせて下さい」

 咥えながらアルクェイドは小さく頷き、わたしはその痺れるような快感に素
直に身を委ねた。
 さっきよりも熱が入っている。
 夢中で舐め、すすり、しごき、啄ばむアルクェイド。

 その熱の高まりに負けて、快感のうねりがあっさりと制御領域を逸脱した。
 如何に堪えようと、後はこの波に流されるだけ。
 いいだろう。
 わたしは素直にアルクェイドの愛撫に身を委ねた。
 そして。
 その口淫を行う彼女の顔を見ながら、わたしは……、精を放った。

 久々の男としての絶頂。
 その何十倍もの長さを感じる一瞬。

 アルクェイドはわたしのペニスを咥えたままでいる。
 口をもごもごさせて……、わたしのはなった白濁液を呑み込んだ。

 そして、ゆっくりと口中からわたしを解き放った。
 粘液を軽く吸いながらの為、微弱な快感が続いている。
 くびれの辺りを唇が軽く押した時は思わず呻き声が洩れた。
 赤黒い亀頭がアルクェイドの薄いピンク色の唇を擦り現れる。
 なんとも淫靡なその眺め。

 舌先が踊り、垂れ掛かった粘液を舐め取り、鈴口をちろとかすめた。

「っはぁ……。どう、だった、シエル」

 

                                              〈続く〉