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五悦同舟
                           靖ゆき


回路1>>>真祖に接続

「本当にお前には情緒とかムードとかいったものが欠けているな」
 部屋に入るなり服を脱ぎ散らかし、ベッドにダイブしたわたしに志貴が苦笑
する。
「そんなものが必要?」
 そう、それがわたしには分からない。
 わたしには志貴がいればそれでいい。
 志貴と一緒なら散歩をしていてもいいし、ご飯でもいい、おしゃべりをして、
ふざけあって遊ぶのもいい。それだけで幸せなのは確か。
 でも。
 でもだよ。
 わたし達二人だけの時間を持てて、加えてそこにベッドがあるなら、やっぱ
り志貴には抱きしめて欲しいし、愛して欲しい。その欲望は血を求める衝動よ
りも大きく、炎となってわたしを深奥から燃え上がらせる。
 志貴はわたしにもそんな感情があるんだって教えてくれた。
 志貴に殺されて、そんな感情を覚えることができた。真祖ともなれば、人を
好きになるにはそれぐらい衝撃的な出会いが必要だったってことだと最近では
思ってる。自分でも笑っちゃうような考え方だけど、それぐらい好きだってこと。
 凄く好き。
 だからこうして二人きりになれた、ほんとは公園で志貴と待ち合わせたとき
から、わたしの中でのムードは最高潮に盛り上がっていたのだ。
 それに気がついていない志貴の方こそ鈍感さんなのだ。
 ま、彼がこの手のことについてとことん鈍いのは知っているけど。
「あむ」
 最初はキスから。それがわたし達2人の暗黙の了解。何も言わなくたって、
志貴はわたしのしたいことを良く分かってくれている。
 志貴が貪欲にわたしの舌と唾液とむさぼるり口腔内を犯しつくす。わたしは
それを受け入れ、時たま反撃に転じて、でもすぐに撃退されて逃げ帰る。
 悔しいけど、時々すっと絡めとって、わたしを志貴の中へ招き入れてくれる。
その瞬間、意識はふっと一段高みに上り、つかの間の開放感に浸る。
 どちらのものともしれない唾液が口から洩れ、頬にぬめった跡を残す。その
感触がわたしの意識をまた上方へと追いやる。
「はぁ はぁ はぁ あっ、んん−」
 快楽に浸ることにのみ集中された意識は辺りの認識をぼかし、志貴の愛撫に
よる感触のみに集中される。
 愛撫は口腔から首筋、胸、腹を通り、下腹部に達していた。
 ぴちゃりぴちゃりと響く音と、志貴の発する猥雑な言葉にわたしの脚は開き、
腕は自分の胸を揉みしだく。
「キレイだよ、アルクェイド」
 何十回と重ねてきた行為なのに、絶頂と評せるその快感が薄らぐことはない。
 むしろ回を重ねるごとに、身体を重ねるごとに、身体が快感を得る方法を覚
えていく。快感をむさぼることを知っていく。
 幾百年と変わることのなかった自分が変わっていくというのを実感するのは
嬉しい。
 でも、その快楽の最中にはそんな思考は、ない。
 ただ、気持ちいいという言葉だけが、否、そんな言葉すら快楽の果てに飛び
去っていく。
「ああああ、あああ、ああ、んんう。あっ、あっ、ああ」
 自分が何を発しているのか分からない。
 ガンガンとぶつかり合っている二人の腰を中心に発する熱が、なにもかもを
包んでいく。
「くぅ、うう、アルクェイド、行くぞ」
「うん、うん、来て」
 絶頂の更に頂点へ達っし、更にその上の宙へ意識が飛ぶ。
 白に埋め尽くされた意識の中で、自らの中へ圧倒的な熱量が注ぎ込まれてい
るのを大事に感じ取る。
 わたしは幸せに浸りながらも体力の回復に努める。ムードがないのは志貴の
方だ。
 余韻に浸る暇もなく、すぐに第2ラウンドが始まるに決まっているのだから。

                   

                                      《つづく》