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 冷たい夜気を吸い込んでも、身体の熱は少しも収まらない。
 このまま最後まで駆け抜けろと、全身が無言で訴えている。
 俺自身、シオンのあの言葉を聞いたらあと一秒だって我慢できそうになかった。

「シオン……君を、抱きたい」

 まっすぐに見つめると、シオンはこくりと頷いてくれた。

「私も、ここで志貴と繋がりたい。抱き締めて――――ください」

 倒れこむように俺の胸に身体を預けて、シオンは全身から力を抜いた。
 シオンも求めてくれている。
 今更、どんなブレーキをかける必要もないだろう。
 さらに身体を密着させて、互いに伸ばした指と指がきつく絡み合った。
 
 ――――そして、唐突に。
 柔らかい指の温もりから、真っ白く天真爛漫な少女の顔を思い出した。
 ころころと笑って生まれた喜びを満喫していた弥生ちゃん。
 まだ未熟で弱々しく、けれど太陽みたいに眩しい小さな生命。
 あの弾けんばかりの笑顔や人形のように小さく繊細な手を思い返すと、今までに感じた
ことのないような気持ちが沸いてくる。
 この数年――いや、割と人生を通してドタバタ続きで歩いてきたから、平和の象徴みた
いな赤ちゃんの姿に感傷めいたものを覚えたのかもしれない。
 
「志貴――――?」

 急に黙ってしまったせいか、シオンが不安そうに顔を上げる。
 お詫びも込めてもう一度指をしっかりと絡め、囁きかける。

「ごめん。今、ちょっとさ――――弥生ちゃんのことを思い出してた」
「……それは、奇遇です。私も、彼女を回想していました」

 きょとんとした顔で、シオンは俺をきょとんとさせるようなことを言った。
 神様をド突きたくなるような偶然。
 今、俺達は手を触れてまったく同じイメージを分かち合っていた。
 穏やかな蜃気楼は俺の体内で成長して、蝶が蛹から羽化するように新しい姿を作り始め
ている。
 今まで生きてきて、一度も意識することのなかった言葉。
 今、生まれつつあるその声を、目の前のシオンに伝えたい。
 まだ形にできない。だから、今はまだこの身体で意識を交わそう。

「……始めようか。シオン、俺の上においで」

 コンクリートの上に寝転がるとかなり冷たいけど、代わりにシオンから伝わってくる体
温が際立って感じられる。
 シオンは膝立ちになって俺の上に跨ると、まっすぐ上向きにそそり立ったペニスに身体
の向きを合わせ、ゆっくりと腰を下ろしていく。
 ぱっくりと割れたピンク色の亀裂がくびれた亀頭に肉迫し、そして、接触する。
 男根はシオンの熱烈な奉仕で混ざり合った体液に濡れ、達したばかりの熱い秘裂と重な
ってくちゅりと擦れる。

「あ――――つっ、志貴、こんなに……まるで、燃えているようです……」
「シオンだってかっかしてる……。それに、たくさん俺の上に零れてきてるよ」
「……い、言わないでください。志貴の熱が、伝染ってきているせいです……きっと」

 僅かにシオンへ触れただけのペニスは、真上の膣からとめどなく流れてくる愛液で竿の
辺りまでびっしょりと濡らされている。
 準備万端ってところだ。

「オーケー。そろそろ降りておいで」

 シオンは小さく頷き、膝を緩慢に折り畳んでいく。
 既に密着していた屹立は、ほとんど抵抗なく吸い込まれるようにシオンの中へ沈む。

「は、ん、あぁッ……! す――ごいっ、志貴が、なかで、膨らんで――――」

 下の唇、なんて言葉を聞くけど、シオンの内部はまさしく物を咥え込んだ唇のような滑
らかさと激しさでペニスを締め付けてくる。
 もう充分に勃起したと思っていたのに、強烈な圧迫を受けて男根はまた一際膨張する。

「ぐ――――」

 “強烈”なんて言葉じゃなまぬるい。
 実際、破裂寸前まで膨れたペニスはその上から痛いくらいにプレスされている。
 そして、腰の上でシオンがぎこちなく動き始めると、刺激は一気に倍加した。

「――――ん、あ、ふぅッ……! 志、貴……んっ、ンぁ――――あッ……」

 覗き見お断り、と言わんばかりにミニスカートがふわりと舞い、結合した部分をすっぽ
りと覆い隠す。
 けれど、波打つように躍動するシオンの身体と、これ以上ないくらいに密着した性器が
セックスの実感――頭を溶かすような快楽――を感じさせてくれる。
 むしろ見えないことがかえって卑猥な想像を掻き立て、一層に身体を昂ぶらせる。

「く、シオン……! もっと、勢いつけて……!」
「は、はいっ――――!」

 シオンは片手を俺の腹について、乗馬をするような姿勢で腰を使う。
 支点ができただけ体重が安定して、シオンの動きは急速に過激さを増した。
 臍と臍とを擦りつけんばかりに上体を反らして、膣の中にペニスの筆で“し”を描くよ
うに何度もグラインドする。
 濡れそぼった肉に挟まれた男根は、その度に神経を総動員して押し寄せる感覚のすべて
を受け止める。
 ものすごい快楽。
 一秒ごとに射精の欲求が爆発する。
 呼吸が止まりそうだった。

「はっ、はぁッ、シオン……!」

 頭上で揺れる双丘に手を伸ばし、服の上から千切らんばかりに握り締める。

「あ――――ぅんっ……! はぁ、アっ、む、ねはぁ――――」

 乳房を鷲掴みにされてもシオンの律動は衰えず、忙しく押しては戻される腰の間でくち
ゃくちゃとエロティックな水音が弾ける。
 そちらの主導権はシオンに譲って、俺は二つの膨らみを弄ぶのに没頭する。
 たわわに熟れた肉の丸みをぐにゃりと押し潰し、跳ね返ってくる弾力を堪能しながら頂
の肉芽をこりこりとボタンを押すように指で撫でまわす。
 直接触れられなくても、キスやクンニでこちらまで快感は届いていたのか、小さな乳首
は第二のクリトリスのように固く勃起していた。

「ん、くぅっ――――そん……なに、胸――駄、目ぇっ……!」

 上下から二重の快楽で攻められて、シオンは豊かな長髪を振り乱して甘く身悶える。
 絶え間なくぶつかり合う二つの腰。その先で、固く屹立した亀頭とシオンの陰核が何度
も摩擦する。
 それは、まるで神経を直接に擦られているかのような怒涛の奔流だった。
 意識を甘ったるい煙に包まれながら、俺はシオンの手を導いてスカートに触れさせる。

「隠れて見えないけど……この中でちゃんと繋がってる。
 ほら、触ってごらん」

 シオンは快感に顔を歪めながら頷き、左手を軸にして右手でピストン運動を続ける結合
部に触れる。

「ん――――ぁッ……! はい、わかります……志貴のかたちも、大きさも……」
「じゃ、そろそろラストスパートだ……準備は、いい?」

 少し動きを緩めて、確認するようにシオンを見上げる。
 シオンの、汗と媚熱に染まった桃色の顔。
 月と一緒に俺を見下ろす少女には、不安のカケラさえ見当たらない。
 答える代わりに、シオンは顔を下ろして俺に軽く口付けをしてくれた。
 俺も一つ頷いて、言葉よりも行動に移す。
 ――――止めていた腰を、下から背まで貫かんばかりに思い切り打ちつける。

「あ――はぁぁっ……! こん、な、深くぅっ……!」

 シオンはスカートの上から結合部を押さえたまま、自分も激しく腰を揺らす。
 触れた場所から、身体の奥に沈んでいくペニスを直接に感じているんだろう。
 曲線的だった動きはまっすぐな線になり、スピードと力強さを増していく。
 シオンが上からすっぽりと飲み込んでくれば、俺は返す腰で奥の奥まで抉り上げる。
 濡れそぼった二つの性器は滑りながらも互いを決して離そうとはせず、ぬるりと抜けか
けた亀頭は唇のようにすぼまった入口に引っ掛けられ、また膣へ飲み込まれる。

「く、あ、ふううっ……!」

 手足や頭が胡乱になって、すべての感覚がペニスに集まっていく。
 呼吸がままならない。どれくらい疲れているのかも察しがつかない。
 ただ、シオンに飲み込まれた部分だけを、中に溢れる熱とぬめりを、貪欲に求める。

「んっ、志貴、志貴――――! わたし……弾けて、しまい、そう――――!」

 シオンの身体が倒れ込んできて、両手が首に回される。
 ぴたりと触れ合うほど近くに、シオンのうっとりとした顔がある。

「シ、オン――――」

 不意に熱い感情が込み上げて、俺も両手できつくシオンを抱いた。
 そのまま、密着した腰を二度、三度と勢いづけながら打ち振るう。
 ペニスの根元から、熱いものが上ってくる。

「ああ……志貴、もう、何も考え――――られ、なっ……!」

 シオンも、もう上り詰めることだけしか残っていない。
 俺に合わせるようにして、柔らかい腰を次々と打ちつけてくる。
 首の両手が締まり、擦れあった胸の間で乳首がふるふると躍る。
 そして、締まる。
 シオンの興奮を一身に受けているかのように、膣内の締め付けも極めつけに強まる。

「は――――ぁっ」

 互いに、身体が空っぽになるまで快楽を詰め込んだ。
 そのすべてを、ペニスからシオンに上らせる。

「志……貴ぃっ――――」

 シオンの瞳が、ぎゅっと閉じられる。
 ペニスを包んだ幾層もの襞が、一斉に蠕動して亀頭から竿までを搾りつける。
 それが、二人にとって最後の刺激となった。

「くふっ――――!」

 締め付けられたまま、ペニスの中をマグマが突き抜けていく。
 ぶるりと一つ震えて、亀頭から大量の白濁がシオンに注がれた。
 フェラチオの時よりもはるかに多く、しかも一度が長い。
 ゼリーのように凝った精液が、膣の中で弾けては辺りじゅうに飛び散る。
 どく、どく、と心臓のようにペニスが脈打っている。

「あ――――ぁ、はっ……! 何度も、出て、溢れて……んっ、あつ、い……」

 目の前でシオンがひくひくと震え、唇から熱く満たされた息が漏れる。
 震えているのは膣内も同じで、未だに射精を続けるペニスを隙間なくサンドイッチして
淡い余韻を与えてくる。
 貪り合うような獣のセックスが終わって味わう一時さえ、蜂蜜のように甘ったるい。
 そして、身体中の力を使い果たしたシオンはぐったりと俺の上で脱力する。
 短くテンポの良い息遣いが頭の横に聞こえて、不思議と心地好かった。
 ――――今なら、あの言葉を言えそうな気がする。
 冷たく冴え渡る夜の空気で肺を満たして、大きく深呼吸。
 タタリと戦う前にシオンが見せた勇気を真似るように、胸に活を入れて。

「シオン。――――結婚、しないか」
「……え?」

 はっと顔を上げて、シオンが怪訝そうに俺を見る。

「だから……俺のお嫁さんになってくれないか、って言ってる」
「お、お嫁さん……! それは、つまり私と志貴が、こ、ここ婚約を……する、というこ
とでしょうか」
「うん。……やっぱり突然すぎるかな。でも、今がいいチャンスみたいな気がしてさ。
 もちろん、こんなコト無理強いはできないけど」
「い、いえ。状況を巧く整理できていない私の過失です……。
 しかし、その……志貴は、真祖の姫の類稀な寵愛を受けている人間ですし……」
「なんだ、まだソレを引き摺ってるのか。確かにあいつとは気心の置けない付き合いだけど、
少なくともシオンの想像してるようなコトはないよ。
 もう一つ言うと――――女の子に対して“結婚”なんて言葉を思い浮かんだのは、今夜、
シオンが初めてだからさ」
「――――――」
 
 シオンは小さく息を飲み、俺を見つめたままで身体を凍りつかせる。
 そして、二つの瞳に迷いとも憂いともつかない翳が浮かんだ。

「……でも、私の躰には未だ吸血鬼の因子が残っている。
 いつどんな理由で弾けるかもしれない爆弾を抱えている。
 貴方は、そんな危険をこれからの人生に付きまとわせることになりますが」

 ――――なんだそりゃ。
 なんで、あんなことまでした後にそんな他人行儀を言うんだ、シオンは。
 なんていうか、唐突に思いっきり制御不能に頭に来た。

「――――くぉの、頑固娘がーーーーーー!」
「きゃああああっ……!?」

 シオンの頭を両手で掴んで、遠慮も何もなしに思いっきり胸に押し付ける。
 息が出来なかろうが知ったこっちゃない。
 余計な心配とか悪い予想とか、そんなものは胸の中から息と一緒に吐き出させる。
 ばたばたと手を振り回して暴れるシオンを、さらに力を込めて圧迫する。

「し、志貴……やめて、苦しい、です……!」
「だったらシオンもつまらない事言うなよ。シオンが吸血鬼だからとかは関係ないだろ。
 さっきアルクェイドの名前が出たけどさ、俺がアイツと友達になって、色々危ない橋も渡っ
たのは、アイツが吸血鬼だったからじゃない。
 アイツがどうしようもなくアルクェイド=ブリュンスタッドで、俺がそんなアイツを気に
入っちまった、ただそれだけなんだよ。
 シオンを好きになったのだって同じだ。錬金術師だとか、エーテライトだとか、もちろ
ん吸血鬼に噛まれたことなんてまるで関係ない。
 ――――俺は、シオン=エルトナム=アトラシア、君が好きなんだ。文句あるか」

 “文句あるか”なんてプロポーズをしたのは、多分俺が初めてだろう。
 願わくば、告白っていうのはもう少しロマンティックであってほしいけど。
 でも、言わずにはいられなかったんだから仕方がない。
 これが、遠野志貴からシオンに捧げるプロポーズのカタチだ。

「……君は俺なんかよりずっと頭がいいけど、もうあれやこれやって自分に理由をつけなくて
いいんだ。イエスかノー、たった一つだけ、答えを俺にくれ」

 それだけ言って、押さえつけていたシオンを解放する。
 シオンは俺から顔を背けたまま、小さく嗚咽しているようだった。
 涙に混じって、弱々しく声が聞こえてくる。

「志貴は、相変わらず破天荒すぎます……。そんな生き方をしていたらいつか大変なことにな
るのに、絶対に自分から改めようとしない。
 不合理です。不条理です。不適切です。……他にも、たくさんです」
「いいんだよ。今日までタイヘンの一線は超えてないし、ミライなんてお荷物を今から頭に抱
え込むつもりもないんだ。シオンだって、今どう思ってるかだけ言ってくれればいい」
「あまりに、刹那的……。不が多すぎて、どこから指摘していいか解かりません。
 ……でも、決して“不快”ではない。私は、志貴が――――貴方が、好きです」
「――――ありがとう。俺も、ずっと好きだよ」

 誓いの指輪はまだないから、一番手軽であったかい方法で交し合う。
 シオンの背中に両手を回し、しっかりと支えて顔を寄せる。

「シオン、男と女が幸せになる方法、知ってる?」
「え……いえ、その、幸せの探求法と言われるとあまりに漠然としていて……」
「簡単だよ。本当に――――凄く簡単なコト」

 ぼうっとしたシオンに不意打ちで口付けて、離れざまに呟く。

「一杯キスをして、えっちして、弥生ちゃんみたいなかわいい子供を作ること。
 俺達の答えは、それでいいんじゃないかな」

 びっくりした顔もほんの一瞬。
 次の瞬間、シオンは弥生ちゃんのあの笑顔にも負けないくらい魅力的に笑って、俺に抱きついてきた。
 耳元で、はっきりと喜びの声が聞こえた。

「はい。とても素晴らしい――――私達の、答えです」


 


                   

                                      《つづく》