想いゆえに少女に還る
                          稀鱗





 夜は既に更け、日付は丁度切り替わったばかり。セイバーは1人窓際に腰を
かけ溜息をついた。
 今は、むしむしとした暑さがまだ蔓延る夏の終わり際。しかし、夜更けであ
るためか窓から入る風が心地よい。セイバーは眠れず、窓のところに腰をかけ
夜風に当たっていた。蒼白い月明かりがセイバーを照らす。その光の中でセイ
バーは誰もいない部屋に向かって呟いた。

 「遅いですね…、シロウ。」

 セイバーは隣の部屋の主を待っている。いつもこの時間なら既に部屋に戻っ
て床についているはずである。しかし、今日は違った。既に日付は変わって、
それでもなお士郎は戻ってこない。いつもならば気にせずに眠ってしまうのだ
が、何時も眠そうにしている士郎が今日は気になった。
 士郎はいつも夜になると凛の部屋へと魔術の修行のために足を運んでいる。
凛の部屋と言っても洋風の建物の建て並ぶ反対側の土地にある凛の家に出向い
ているのではなく、ここ衛宮家に住みついた凛の部屋に行っている。士郎は凛
に師事し、凛はそんな士郎を面白がっている。セイバーは元マスターのそんな
姿をいつも見ている。セイバーの今のマスターは凛。士郎の時の様に魔力の心
配をあまりしなくても良いことが利点だが、別に士郎が悪いと言っているわけ
では無い。呼び出したのは士郎であるのだから、セイバーはマスターでは無く
なった士郎をそれでも守りたいという思いがあった。

 「まだ、リンの所でしょうか。それとも、またあの土蔵に入り浸っているの
でしょうか。」

 セイバーは腰を上げ、隣の部屋に誰もいないことを確認して廊下に出た。電
気は消え、月明かりの蒼白い光だけが暗い廊下を照らす。玄関へと移動し、靴
を履き外に出る。まず向かうは士郎のテリトリーである土蔵。昔から士郎が魔
術の訓練をする場所であり、セイバーが呼び出された場所でもある。

 土蔵へと来た。入り口の戸は開いている。セイバーは中へと踏み込んだ。

 土蔵の中は思った以上に涼しい。開け放された格子窓から入ってくる夜風が
通り抜ける。土蔵に射し込む月明かりが中を照らす。蒼白く染まった土蔵の中
には士郎が魔術の訓練に使ったと思われる物が散らばっている。
 士郎の姿は見当たらない。
 
 何処にも士郎がいない事を確認するとセイバーは、

 「ここにはいませんか。と言う事はやはり、リンの部屋ですね。リンも早く
寝ないとお肌に悪いでしょうし。」

 と、セイバーが少女らしい事を口走った。セイバーがこの世に残ってから早
半年。その間にセイバーは色んなことを勉強していた。大抵は凛から教わって
いた様なのだが時折自分で雑誌を買ってきて読みふけっていると言う事もあっ
た。その雑誌が何であるか士郎おろか凛も知らない。

 土蔵を後にしてセイバーは凛の部屋のある離れへと向かった。靴を脱ぎ中に
入る。足音と気配を消し凛の部屋へゆっくりと歩いていく。何時ものセイバー
ならこんな事はしない。今日はほんの小さな好奇心、どんな修行をしているの
かが気になっただけ。
 1歩1歩進むたびに、凛の部屋が近づいてくる。向こう側に一筋の光が見え
る。薄く開いた戸の隙間から部屋の中の光が漏れ出した光が一筋の線を描いて
いた。

 「あ…ん……、士郎…もっと、もっと…。」
 
 不意にセイバーの耳に色の入った甘い声が響いた。その声は光の漏れる凛の
部屋から聞こえる。ゆっくりと凛の部屋に近づく。声は少しづつ大きくなり、
その声で部屋の中が今、どういう状況なのか容易に想像できた。
 息を飲みセイバーは戸の隙間から部屋の中を覗きこんだ。

 「!」
 
 部屋の中には、一糸纏わぬ男と女。男は士郎、女は凛。その二人は身体を重
ね合い、性行為にふけっている。士郎は凛の身体に舌をはわす。首筋から胸へ
と舌は流れ、胸の先端を舌で弄ぶ。

 「はぁぁ…あん…、士郎…もっと、胸だけじゃなくあそこも…して…ね?」
 「遠坂…わかった…。」

 士郎の舌がゆっくりと胸から下腹部へと滑っていく。舌の通った後には薄い
唾液の道が走る。凛はそれに応える様に士郎のペニスに舌をはわす。士郎のペ
ニスは天へと跳ねあがり、凛の秘裂は艶やかに濡れている。士郎の舌が凛の秘
裂を舐め上げる。舐めるたびに秘裂は涎を流す。それを舐め取り、舌を少しづ
つ沈めていく。

 「あ、あぁぁん…、し、ろう…凄い…よ。」
 「こんなに溢れて…、いやらしい音を立ててるぞ、遠坂。」
 「いやぁっ、言わない、で…。」

 二人の行為に比例して淫らな音は時に緩やかになり、時に激しくなる。
 そしてゆっくりと士郎は身体を起こし凛に覆い被さる。士郎のペニスが凛の
秘裂へとあてがわれる。そのまま士郎は体重を凛の方へとかけ、秘裂に沈めて
いく。

 「…はぁっ、ああああああ……。」

 一際、高い凛の声が聞こえた。それと同時に肉のぶつかり合う音と、秘裂か
ら聞こえる淫水の音がセイバーの耳に響いた。


 /


 「シロウ…リン…。」

 セイバーは力が抜けた様にその場にへたっと座り込んだ。士郎が帰ってくる
時間が遅い理由、それは凛とのセックス。セイバーにとってそれは経験した事
の無いこと。マスターと元マスターのその行為をセイバーは食い入る様に見つ
める。

 セイバーは自分の身体が熱を帯びていくのを感じ始めていた。決して、薫る
筈の無い淫らな臭気をセイバーは肌で感じている。それが、セイバーの理性を
壊していく。
 無意識か、それとも望んでか、セイバーの手がゆっくりと秘部へと伸びる。

 くちゅ

 そんな音が聞こえそうなほどセイバーのショーツは濡れていた。ショーツの
上から秘裂をなぞる。ぞくっとするほどの甘い痺れが身体を駆け巡る。それは、
意識を停止させるほどの快感。そして、目の前で繰り広げられている光景にセ
イバーの身体は快感を求める。もう片方の手が胸を弄ぶ。先端を虐め、快感を
呼び起こす。意識は否定しても、身体が欲しがる。理性はとうに壊れ、欲とい
う本能だけがセイバーの身体を蹂躙していく。

 ――もう、止まらない…止められない…

 セイバーの理性はそこで終わった。指がショーツの中へと滑り込む。秘裂に
指を食い込ませ、指の間で小さな包皮を剥く。剥いたものをきゅっと挟む。

 「んあ、あああ…。」

 押し殺して小さく漏れる嬌声。セイバーの指の動きは早くなり、秘裂へと指
が埋没していく。やがてショーツに治まりきらなくなった淫水がセイバーのス
カートを濡らしていく。自らの秘裂が立てる淫水の音。秘裂と指と淫水が奏で
る卑猥な狂想曲。そして、部屋の中から響く肉のぶつかり合う音、嬌声。それ
らがセイバーの身体は燃え上がらせる。
 士郎と凛のセックスを見て興奮する自分。士郎に犯されたいと欲情した自分。
そして、今快感に溺れていく自分。

 ――それは全て、士郎の傍に居たいから

 士郎を愛しているがゆえの行為。マスターでは無い士郎。故に、一線を超え
る事は可能なのでは無いだろうか。
凛は言っていた。

―――士郎は私と契約して使い魔みたいなものだから

もし、その契約がこの行為によるものなら、私がシロウと再び“契約”する事
は可能なのではないだろうか。ならば、私も…。
 セイバーはそう考えた。

 「シロウ…シ、ロウ…私にも…して。」

 セイバーの指の動きはなおも激しさを増す。秘裂に沈めた自らの指で内襞を
掻き回す。セイバーにとって考えられないほどの卑猥な行為。それは、シロウ
のペニスを突き立てる事に似せた行為。自らの指はシロウのペニス。そして、
部屋の中では“ホンモノ”を凛に突きたてている。

 部屋の中からはより一層、身体を打ちつける音が早くなる。

 「イイ、…士郎。気持ち…いい。」
 「遠坂……、膣が…すご…。もう、出そうだ…。」
 「士郎…一緒に、一緒にイって。」
 「ん―――。」
 「あ、ああああぁぁぁぁぁぁ……。」

 凛の声が一際大きくなる。身体が跳ね、肩で大きく息をしている。凛の秘裂
から引き抜かれたペニスから、白濁液が放たれた。それは、凛の身体に白い斑
点を作って行く。

 「あ、熱い…、士郎。」

 熱に浮かされたような凛の声に、士郎はゆっくりと唇を重ねた。



 ――――



 これ以上入らないくらい秘裂に指を沈めたセイバーは身体の奥底から突き上
げてくる熱に戸惑った。やがてそれは身体を駆け巡り、セイバーを絶頂へと導
いた。

 「シロウ…シロウ…あ、ああああぁぁぁぁぁ…。」

 一際粘りのある淫水が秘裂から溢れ出す。それは、指の間から流れ落ち、シ
ョーツをはたまた、スカートを濡らした。身体の力は抜け、息は荒く、肩で大
きく息をする。
 女性として感じた身体を突き抜けた快感。騎士王と呼ばれた自らの鎧を壊し、
一人の少女へと還っていった行為。その行為には威厳は無く、ただ恥辱がある
のみ。しかし、セイバーはその行為に酔っていた。そして、大きく膨らむ欲望
――

 ――シロウにして欲しい

 



 呼吸を整えたセイバーは見つからないように凛の部屋の前を後にした。ふら
ふらとした足取りで玄関を抜け自分の部屋へと帰った。着ているものを全て脱
ぎ、布団へと入る。身体は未だに熱い。先ほどの自慰の余韻がまだ残っている。

 ほどなくして隣の部屋の戸が開く音が聞こえた。そして布団の擦れる音。ど
うやら、士郎が帰って来たようだ。
 士郎の事を考えるとあの部屋の光景が甦る。再びセイバーの身体が熱く火照
った。それを押さえるためにセイバーは身体に指をはわす。自らの淫水の音だ
けが耳に響く。

 「ん…んん…。」 

 布団の端を噛み、。士郎に聞かれ無い様に必死に声を堪える。
 その夜、セイバーは士郎に気づかれ無い様に、自分を慰めていた。








 朝。

 光が窓から射し込む。身体に感じる気だるさが意識を朦朧とさせる。「ここ
は、どこ?」そんな事を考えてみる。そんなことは決まっている、ここは衛宮
家で、私が寝ている部屋はシロウの部屋の隣で…シロウ?

 その名前に凍り付いていた意識が恐ろしいほどの速さで解凍して行く。
 布団が濡れている事に気づいたセイバーは飛び起きた。そこには、昨日の自
慰行為の痕がくっきりと残っていた。

 「ど、どうしましょう。」

 悩んだセイバーだが、とりあえず布団を窓にかけ干す事にした。とくに、お
漏らしをしたわけではなく、ほとんどが汗。汗をかいたといえばまだ通じる範
囲である事がせめてもの救いである。
 セイバーは予備の服を出し、それに着替えて居間に向かった。

 居間では既に士郎が朝食の準備を終わらせていた。ついでに言えば、桜も手
伝っている。そして、今か今かと待っているタイガ。凛は…まだ来ていない。
元々凛は朝に弱いので朝食を食べる事は殆ど無い。

 「おはよう、セイバー。」
 「は、はい、…おはよう…ございます。…シロウ。」

 心なしかセイバーの声が上ずっている。それに顔も少し赤い。
 そのことに気がついた士郎は、

 「セイバー、どうしたんだ顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」

 と聞いた。当然セイバーに熱などあるはずも無く、しかし、セイバーは顔が
赤い原因を口にすることなどは出来ない。

 「い、いえ、熱などありません。大丈夫です。」

 セイバーはそう言って、いつもの所定の席につく。

 「?」

 士郎は首をかしげながらも、席に着いた。

 とりあえず、セイバーが現れた事で衛宮家の朝食が始まった。
 特に何もなく、いつもの調子で食事は進む。先に、桜とタイガが食べ終わり、
部活があるということで学校に行ってしまった。

 しばらく、二人だけで食事が進んで行く。セイバーにとってこの状況は非常
に辛いものがある。昨日までの士郎であれば顔を合わせることが出来たのだが、
あのことを知ってしまった以上、なかなか面と向かって顔を見ることが出来な
い。

 「ふぁ〜、おはよう二人とも。」

 寝起きで目つきの悪い凛が前を横切った。そのまま、台所へと消えて行く。

 「おう、おはよう。」
 「お、おはよう…ございます。」

 どうしたことか、セイバーは凛の顔すらもまともに見ることが出来ない。

 「?」

 凛は士郎の方を見た。凛もセイバーの様子がおかしいと言う事に気が付いて
いる。
 しかし、凛はさほど気にした様子も無く今日は出された朝食を食べている。
 ほどなくして朝食は終わった。凛は今日は私用があるらしく夕方まで戻らな
いと言う事らしい。結局、午前中は士郎とセイバーとで道場で剣術の稽古をす
る事になった。。



(To Be Continued....)