布団の中が、むしむしと暑い。

 安堵したのは、腕が動くことだった。
 肩の関節がチキンウィングというかフルネルソンというか、なんかそんな藤
ねえが使うみたいな関節技みたいな形に固まってしまって、胸の筋肉からビキ
ビキ射だして動かなくなると言う悪夢だけはなんとか避けられるみたいだった。
ああ、よかった、この両手に温もりを感じるんだから――って

「……起きたわね、色男」

 胸をつねる小さな痛みに、目が覚める。
 で、思ったのはそんなことだった。随分と長く、容赦なく背中に腕を縛られ
ていたので痺れてどうかなっているかと思ったけども、身体の下敷きになって
るだけで至って健全だった。右手の上にはセイバーが、左手には遠坂が横たわ
っていてまるで川の字。

 ……川の字。それで胸の上に顔をのせている遠坂が、ずいぶんとジト目で俺
を見ている。髪を下ろして裸で、目が三角になって口元も難しそうに結ばれて
いる。なんでそんなに遠坂のご機嫌が斜めなのかよく分からない。

「………」

 とりあえず遠坂から顔を逸らし、反対側のセイバーを観察する。
 俺に背中を向けるようにして、軽く背中を丸めて眠っているセイバー。髪は
結ったままだけど随分色っぽく解れていて、金の髪と白い項が艶めかしい。俺
の腕を枕にしているけど、あまりに気持ちよさそうに眠っているので起こすの
が可哀想だった。

 ぽんぽん、と腕を畳んでその頭を撫でてやりたい思いに駆られたが――

「いでででででででで!」

 今度は頬をつねって顔を引っ張られる。口の中で頬と歯茎が浮くほど、結構
容赦ない。
 遠坂、お前一体何が不満なんだー!

「な、何をするか遠坂、せっかく幸せにハーレム同衾気分を味わっていたのに」
「そんなカリフかスルタンみたい真似は士郎には十年早いわよ!百年でもいい
けどそうなると士郎はよぼよぼのじいさんどころか骨壺に入ってるから1/1
0でまけてあげるけど!」
「しーしーしーしー!セイバーが起きるっ!」

 ついいつもの様にやり合い始め、もう片腕に眠るセイバーの事が気になって
声を潜める。遠坂はそんなの構わないわよ!と人の提案を蹂躙してペースを掴
むかと思われたけども……
 むす、と口を曲げてまた白目がちに俺を睨んでいる。ああもう、二人とも裸
で抱き合っていると言うのにムードがない、というか……

「なぁ、遠坂」
「…………なによ、士郎」
「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、なんでこう……こうなったんだ?」

 そもそも、今晩に遠坂が雨の中をやってきてここまでの痴態を演じるに至っ
た経緯がよく分からない。計算があってもこいつ、終わるまで絶対口にしない
類だし……今の状態ならなにか答えが得られるかも知れないと思ったから。

 頬を摘んでいた遠坂の指が外れる。そして、それが顎を伝って首筋に……あ
あ、ひどく思わせぶりなことをしなくてもいいのにもう。
 遠坂の目が、怒りを消して困ったように瞬く。

「……あのね、士郎」
「うんうん、なんだ」
「………………………………なんでもない。女の子だって時々えっちなことを
したくなる気分になるってこと。それ以上聞いても答えないわよ、私」

 …………なにか困った、予防線まで張ってある回答だった。
 そのまま受け取ると、遠坂がむらむらして俺とセイバーを襲ってさんざん弄
んだということになるけど……身も蓋もないというか、いくらなんでも二人と
も遠坂ズアイテムだったとしても最低限の尊厳というモノがー!

「セイバーへの魔力補充とか、そういう意味があったんじゃないのか!?」

 驚きながら詰問するようで声を潜めるというのは難しい。結果、俺の口調は
押し殺した愚痴みたいな色合いになり、遠坂に食ってかかるような感じになる。
むしろ驚きが先に立つんだけど、ああなってこうなって最後はセイバーのお尻
で果てたことを考えると……

 それに、俺がこんな物腰になると、遠坂も当然買ってかかる。

「確かにそれもあったわよ、でも、精による小源の移動なんてセイバーが必要
とする本来の力に比べれば微々たるものだし、このテーマだってそのまま極め
れば儀式魔術の分野で時計塔の卒業課題になるほどの……」
「あー、悪い遠坂、その辺よく分からないからパス」

 分からないわけはないけども、裸で抱き合ってする話題じゃないのは確かだ
ろう。
 むむむ、と遠坂はまた不満そうに口を噤む。胸の上で遠坂の指がのの字を描く。

 ……怒ってるんじゃなくて、これは、拗ねてる?

 遠坂の僅かに頬をふくらませた顔といい、こののの字を描く指と良い……な
にか、遠坂の意識と感情に着いていけないけども、全速力で追撃しながら聞く。

「……遠坂、その、怒ってるのか?俺がセイバーにあんな事をしたのを」
「う……で、でもあんな事させたのは私なんだし、セイバーに後ろ以外は許さ
ないからね?士郎」

 ――釘を刺されてしまった。
 いいやそんなのやだ、というと殴られて魔術の貞操帯でもつけられそうだっ
たし、うんそうするというと毎日セイバーのアナルを犯すようでこれも貞操帯
ものだった。そんなもの遠坂が持ってるかしらないけど、持っていても不思議
そうじゃない。
 
 ある種真剣に見つめる瞳を前に、俺は遠坂から目線を逸らす。暗い室内を瞳
が彷徨う――それが落ち着いて像を結べる先なんか無いんだけど。

「だから、士郎と……その、普通にえっちしていいのは私だけなんだから」
「お、おう、遠坂。それは天地神明に誓って。セイバーとも何もなかったんだ
ぞ?今まで」
「……嘘。信じない。セイバーみたいに可愛い女の子と同じ屋根の下で同棲し
て何もないほど士郎は甲斐性なしじゃない。そんな甲斐性なしだったら私が惚
れるはずがないし」

 困ったな、遠坂が意固地になっている。
 でも、胸の上で指がずーっとのの字を書いている。指が触れる肌が、熱く、
くすぐったい。
 ぶつぶつと口の中で聞き取れない何かを言いながら、柔らかな髪を俺の身体
に垂らす遠坂の身体はたおやかで、腕の中で熔けてしまいそうなほど……

 ――ああ、そうか。と天啓が閃く。
 でもなにか腑に落ちて心が落ち着くだけで、それが本当に何なのかが自信が
ない。
 遠坂がもう一度、顔を上げる。目が拗ねて怒っていて……

「……士郎、セイバーにだけして寝ちゃうんだから……」
「そういうことか、やっぱり……遠坂」

 ぐっと腕を抱き寄せ、遠坂を身体の上に乗せる。
 きゃ、と小さく遠坂が声を上げる。そのまん丸に見開いた瞳と、薄く開かれ
た唇。つっと顔を重ねて唇を奪って――そういえば、キスするのは今日初めて
だった、な。

「なっ、なにするのよ士郎!」
「だから、遠坂もしたい気分一杯だったのに御免な、先にぐーすか寝ちゃって」
「ば、ばか、そんなこと私は言ってるんじゃなくて……もう!」
「そうじゃなかったら何だって言うんだよ、あ、でも俺的にはお前の不満はそ
ういうことだって解釈したから、撤回不能だぞ?」

 見る間に、間近の遠坂の顔が紅くなってくる。わなわなと口元が震えるけど、
こんな格好でこんな風だと可愛いもんで――くわっ、と遠坂の口が炎を吐く。
 でも、ぺふん、と気が抜けた不完全燃焼のガスが漏れてきたみたいな。

「こっ、こっこっ、この士郎の奴隷○、奴隷○んぽ風情がえらそうなこといわ
ないでよー!」
「なんかそのフレーズ気に入ってるな遠坂、なんか今は口にするのが恥ずかし
そうだったけど。よろしい、じゃぁ奴隷○ンポ風情がどこまで出来るかお見せ
しよう!」
「……シロウ?一体何が……ああ、これはいけない、凛も……ああ……」
「セイバー、なんだ、その、つき合え。まだ我らがますたー様はご満足されて
いないとな」

 茶化してそんな風に語り、遠坂を身体の上で抱き留めて逃がさないようにす
る。
 一瞬の酔眼と、覚醒したエメラルドの瞳のセイバーが……恥ずかしそうに顔
を逸らす。そそくさ、と布団の片隅に逃げるのが如何にも内気で可愛らしい。

「その、私は満足しましたので、私にはお気遣い無く……お休みなさい、凛、
シロウ。それと、士郎のモノは卑しい奴隷というよりは逞しい戦士の風格があ
り、今も中に入ってるみたいで……」
「あなたは黙って寝てなさい、セイバー!」
「む、残念。というわけでお楽しみの時間がやって参りましたー!」
「やぁぁぁぁんっ!士郎の馬鹿ー!」

                                     《おしまい》


《後書き》

 どうも、阿羅本です。裏剣祭は1本だけかと思ったのですが、いろいろノリ
に乗って2本目も完成致しました、今度は至って実用重視でごさいます。

 ……というかあれです、なんで2本目を書くかと言うことになったかというと、
しにをさんと誓った「奴隷●んぽ」の義兄弟ゆえの責務だからです、ええ、
いつしか必ず凛様が士郎をしごいて「この奴隷●ンポ」というというSSを書く、
と牛耳を啜りながら誓った……(笑)

 日本500万の凛様ファンの皆様、申し訳ない……凛様は気高いお方で
「ふふふ、士郎ったら奴隷●ンポをぴきぴき言わせてほしがってるわね」
なんて言いません、きっと、多分、いや本当なんだってば!(笑)

 それと、セイバーさんでお尻を書きたかった。もう、それがびっくんびっくんと
阿羅本を動かして悪い生物にしてしまったんです、あひー!

 というわけで、迷妄の夜は感動を、この作品は至って実用本位で!(笑)

 皆様、お楽しみいただければ有り難く存じます。
 でわでわ!!

                               2004/4/21 阿羅本 景