Like a slave

                         阿羅本 景


「シロウ……大丈夫ですか?」

 そんなセイバーの声が聞こえるけど、悲しいかな俺の視界の中には彼女は居
ない。こんな蒸し暑い夜だっていうのに馬鹿正直に襟元まで止めたブラウスと
スカート姿で、見ているこっちが暑苦しくなったけど、今は……その声の方向
を見たかった。

 空気が、重く湿っている。
 ざぁざぁという雨音が窓の向こうから聞こえる。夜来この梅雨の雨は降り続
け、何日も何日も雲を低くたれ込めさせて、地上に雨を注いでいた。瓦を雨が
打ち、庭の土に雨水が染みこみ、緑がより色を濃くして来たるべき夏の前に力
を撓めるこの梅雨時に……

 今日は、そんな梅雨の夜なのに、妙に蒸し暑かった。
 その暑さがこんなことを巻き起こしてしまったんだろうか?そうなると、あ
の肌にもう一枚いやらしくまとわりつくような熱さが着せられる、盛夏の熱帯
夜にはどうなってしまうんだろうか?この家は夏涼しく冬温かいと言っても限
度があって、だからもしこれが温度と湿度の不快指数の裏返しだとしたら――

「あら?心配するのは士郎のことじゃなくて、自分の身じゃないの?セイバー」

 そしてもう一つの声。それがセイバーと一緒に聞こえる。
 小憎らしくふふん、と鼻で笑っているのもその声色で分かる。誰かを聞き分
けるまでもなく、むしろ誰であるかをあまり理解したくもないというか――そ
れは遠坂凛だった。
 というか、俺とセイバーだけだったらこんなことにはならなかった、筈。た
しかにここ数ヶ月はだんだん俺もセイバーもお互いを意識するようになったけ
ども、それはあくまで友人以上家族並の付き合いであって、それ以上の恋人で
ある遠坂の世界には足を踏み入れてない……筈だったんだけど。

「ぐ……ああ……」

 ああ、後ろ手に縛られて転がされているという情けなさ。
 一体何か俺が悪いことをしたのか、と何度聞いても遠坂は生返事だった。そ
れなのに夜中にいきなり、雨の中をやってきたと思ったらこれだった。

「凛……そんなところを触らないでください……ああ……」
「ん、やっぱり胸大きいわね、セイバー……ちょっと身体の造りが違うって感
じかな……やっぱりこんなに綺麗だから……」

 わさわさと布地の上からまさぐる音。どこを触っているのか、やっぱり胸な
んだろうな。セイバーの胸は綺麗で形も良いけど、凛と同じくらいだったか…
…ああでも、セイバーと稽古の途中でぶつかったときはやっぱりもっとある様
な気がしたけど。

 いや、そんなことをだらだら思い浮かべてるんじゃなくて。
 とりあえず、遠坂とセイバーの方を向くのが先決だった。頭の向きと身体の
向きが逆で、そっちを見るのももどかしい事に代わりはない。それに遠坂、ご
丁寧に手首じゃなくて膝や足首まで縛りやがって……何の恨みがあるんだか。

「ここ、士郎に触って貰ったの?それとも揉んで?ここは感じるの?こんな風に」
「あ……止めてください、凛……シロウがいます、ここでは……」
「その言い方だと士郎が居なければ、私にどれだけ弄られても良いってことよ?
そこの士郎を放っておいて、隣の部屋に入ればいくらでも触らせてくれるの?」

 そこの、と言う言葉に侮蔑ではなくただ単に小馬鹿にしている声色を感じる。
まぁ、束縛の術に一も二もなく抵抗できない俺がそれ、呼ばわりでも仕方ない
んだけど、でも遠坂の声は純情で融通の利かないセイバーに絡みつくような女
性的ないやらしさがあった。

 かっと、頭の中がふくらんで火照ってくるみたいな。

「こんな風に……ほら、セイバーの胸柔らかいから……女の子の私でもこんな
に触りたいって思うほどなのよ?自信持って良いわ、セイバー」
「そのようなことは……凛、私の身体は凛ほどに女らしくありませ――はぁっ!」

 きゅう、と締め付ける音が聞こえたようだった。
 見えないのがもどかしく、声と微かな物音が、雨のノイズの中に混じって聞
こえる。まるで質の悪い盗聴器を耳にして、女の子二人が背徳的な行為に耽る
のを盗み聞きするような、興奮と後ろめたさ。
 ただ、それが盗聴ならともかく、不条理に縛られて転がされているというの
が問題だった。

「凛、痛いです……そこは敏感なので、そんなにされたら……ん……はぁ……」
「やっぱり痛いわよね、でもこれだけされたら痛く感じるのは女の子の証拠な
んだから……ほら、ね……こうしたら……ん……はぁ……」

 今度は優しく、一定のリズムで擦るような音がする。
 ざあざあという雨の音がうるさい。これがなければ、もっと鮮明にセイバー
と遠坂の立てる音が聞こえるのに。いや、見ないといけない、今どうなってい
るのか、これからどうするのか。
 身体を丸めて、なんとか向きを変えようとする。側転方向には転がれるが、
肝心の頭を90度でもいいからそっちに向けるのが難関だ。それなのに、俺の
耳には次々に寄せてくるこの、睦み合いの声と音。

「はぁ……り、凛……こんなことは、いけません……思いとどまってください」
「どうして?セイバーとえっちなことしたいって私が思っちゃいけないって法
は無いわよ?それは、こんなセイバー見てると自信がなくなっちゃうってこと
はあるけど」

 遠坂はむずがるセイバーを言い聞かせる……というより、その抵抗すら愉し
んでいるようだった。遠坂相手は分が悪いし、こんな風に身体で絡み取られれ
ばセイバーだって抵抗しづらいだろう。
 でも、遠坂が何で……というのがわからなかった。

 もしかして、俺とセイバーの関係に嫉妬した……いや、遠坂に至ってはそん
なことはないと信じたかったけど、そこまで遠坂の人間が出来ていると過信す
るのも危険だった。そして俺の身が迂闊と言えばそれまでだけど、ここまで事
態が急なのはどうして……

「そう、私とセイバーがえっちなことをしてもいいの。だって」

 遠坂の長い吐息が聞こえる。俺に吹きかけられた訳じゃないけども、俺の耳
にその温かい湿った遠坂の奥から噴き出す息を感じたようで、身体が勝手に竦
み上がる。
 セイバーの怯えたような気配を感じる。あの不羈のセイバーが、まるで遠坂
の腕の中では年端もいかない処女のように震えている。

 どんな格好で、セイバーは震えているのか。もう少し、体を動かせば。
 でも、次の言葉を聞いた瞬間、俺は動くことを忘れた。だって、もしこんな
格好じゃなくてもそんなことを聞かされたら、どんな風にすればいいのか分か
らなくなるに違いない、それほどに遠坂の言葉は……

「だって、セイバーと士郎がえっちなことをしてもいいんだから」

 ――卑怯だった。

 そんなこと無いだろう、だってそう思ってたらこんな事何で俺にするんだよ!
という抗議の叫びが頭の中に巡るけど、それが怒りに繋がらない。頭の中のポ
イントがハンマーで破壊されて、その上を遠坂の言葉が通り抜けていく。えっ
ちなことをしてもいいんだから、セイバーと士郎が。それは重い貨車を積んだ
列車のようにリフレインする轟音となって、俺の耳から全ての音を奪っていった。

 雨音すら聞こえない。
 心音すら響きはしない。

 目を見開き、弾けそうな心臓の苦しみに身体を捩り、俺は足掻く。
 それはセイバーも同じ筈だった。きっと、この甘美かつ許しと唆しと、粘る
沼地に脚を取られるようなそんな罠の薫りを感じる言葉を間近に浴びせかけら
れ、正気を保てる筈がない。俺はセイバーなんかより遥かに弱いけども、セイ
バーがそこまで強いとも思えない。

「はぁ……あああ………」

 息がままならない。こんな、身体がどうしてしまったのか分からない苦しみ。
 やがて遠坂の言葉の重い響きが過ぎ去り、耳鳴りがするほどの沈黙の後に音
が返ってくる。雨音と、雨音よりはるかに湿って、俺の身体をしとどに濡らす
少女たちの甘い囁き。

「そんなことを、凛、あなたは――はぁぁぁぁっ……」
「んー……んちゅ……ん、いいのよ?二人とも同じ屋根の下なんだし、私を仲
間はずれにしなければ士郎もセイバーも私のものなんだから……はぁ……ね、
セイバー、私のも触って……えっちなことして、セイバー……」

 な、なにを凛はさせようとしているのか。
 そんな、セイバーと俺を許すとかいいながら、俺を放置する遠坂はひどいと
思う。俺が仲間はずれじゃないか、そんなの納得できないぞ……って、いや、
こうしているのも遠坂の算段じゃないかとおもうけど。
 でも、どんな答えになっているのか分からないし、おまけに遠坂は計算の途
中でミスるし、検算できないあの性格だから一体どうなっているんだか――

「あ……凛の身体は……その、やはりシロウは凛の身体の方が好きなのでしょう、
こんなに……はぁ……ん……」
「嘘。こんなにセイバーが綺麗なのに嫌いだなんて言うわけ無いし……私だっ
て好きなのに、こんなに……ほら、セイバー、暑くない?脱がなきゃこれも」

 そんな遠坂の声で、むしりと湿った空気の存在を思い出す。
 口の中や鼻に絡みつく、寝室の空気。後ろ手に縛られているためか、前より
も遥かに蒸し暑く感じる。じたばたと動くと俺の回りに熱だけ貯まって、この
寝室の空気に風が無くてどんよりと……それなのに、俺の鼻に嗅ぐ、女性の薫
り。

 それは香水と汗の入り交じった薫りで、じわじわと重くこの部屋の床に漂っ
ている。それなのに、床に転がっている俺の顔は避けようが無くてその空気を
吸い込んでしまう。何のことはない人の薫りなのに、耳に入る言葉がそれを卑
猥な薫りに変えていった。

「あ……ああ、そんな凛がしなくても、私が脱ぎ……しかし、シロウが」
「いいのよ、私がセイバーを脱がせたいんだから。ほら、こんなに綺麗なんだ
もの。セイバーの首筋……白磁か、それとも雪花石膏みたいでつるっと……ねぇ、
ここに士郎は口づけしたの?こんな風に――」

 ちゅう、と唇が吸う。その音を俺に聞かせるためであるのは間違いない。
 そんな、セイバーの首にキスしたいだなんて、思わなかったことはなかった
けどもまだ一度もないし、それが――そうしてキスしている遠坂の唇が羨まし
い。

 でも、遠坂の唇に口付けしたことがあるのは俺だから、間接キスって言えな
くもない……あああもう、何考えてるんだ、俺も。嫉妬してるのかそれとも困
ってるのかどっちかにしないと。

「はっ……そんな事をシロウにしてもらったことは、ありませ……はぁ……」
「あら、思ったより意気地なしなのね。私が男の子だったら、こんな事は序の
口なんだけど……私にだっていつもこうしてくれるわよ、士郎は」
「こんなって……う、ああ、はぁ……」

 唇の音が続き、セイバーの細い声が上がる。
 耳にするだけ、その言葉が意味するところが胸を焼く。悔しいのは俺の甲斐
性じゃなくて、それから耳を塞げない自分と、それに欲情を駆り立てられてし
まう己の情けなさ。
 遠坂はセイバーを唇で、そしてその言葉で俺を弄んでいる。

「お願いです凛、そんな……あっ、そこ……はぁ……ん……」
「もちろんここも、ここもして貰わなかったらここにも士郎がしてるわけはな
いわよねー、うん」

 もそもそごそごそという物音、それにセイバーの立てるか細い喘ぎ声。それ
は嫋々として、雨音に混じり俺の心を濡らす。それは冷たい梅雨の雨ではなく、
肌が溶け出しそうなぬるま温かい雨であったけども――
 ようやく、頭が半分ほどに向く。もうすこし、なのに遠坂はまだセイバーを
責める手を止める様子はない。は、と吐息に混じって遠坂がまた、セイバーを
甘くくすぐるように尋ねる。

「じゃぁ……士郎のことを思って、自分で触ったことはあるの?」
「な――――」

 今度は流石に俺も声が上がる。身体に電流を流されたみたいにびくん、と来
る。
 だって、それはセイバーがお、オナニーというか自慰をしていたかというこ
とで、そんなことあり得ないし俺とセイバーの間は襖一枚なんだからそんなこ
とは、でも、俺はそのセイバーで……だったらセイバーも俺で、したりしない
んだろうか?

 したことがない、と言って欲しかったけど、言われるとそれはすごく残念。
 自分勝手な欲望と、同じくらい自分勝手な理性がせめぎ合う。セイバー、何
とか答えてくれ、と。でも唇を噛んでその問いに答えあぐねるセイバーの顔だ
けはやたらに鮮明に想像できる。あの碧緑の瞳を伏せ、見る者を図らずも胸を
掴むあの憂いの俯き顔が――

「その、凛……や、やり方がよくわからないので……その、不浄には……」
「――え?あ?そ、そうなの?」

 いや、聞いた俺もびっくりな回答だった。

 そうか、セイバーはそういう育ちをしたんだから普通の女の子みたいにした
こと無いんだよな、とか思うけど普通の女の子がするかどうか知らないし、凛
や桜には聞けないし藤ねえに聞いたら殺される。美綴?それは悪いジョークだ、
弓道部の合宿罰ゲーム拡大版じゃないんだぞ、だからその、女の子がオナニー
するっていうのは、セイバーにとっては……

 混乱しきった頭で、おれはばたばたと藻掻く。しかし縄と違って遠坂の束縛
の術は解けもせず、肩や足首が痛くなってくる。でも、じっとしてなんか居ら
れないけど。

 遠坂も戸惑っていたみたいだった。まぁ、同性だと思っても常識の基礎が違
うんだから驚きもするだろう……でも、それで悄げる遠坂であるはずがない。
 もそもそっ、と何かが這うような音がした――

「はぁぁぁっ、凛、そこに触れては……汚いです、そんな凛の手を汚すことは」
「そう?女の子のここって思ったより……うふふふ、ね?セイバー?」

 遠坂は何をやってるんだろうか。きっとその、セイバーの身体に手を這わせ、
あのストッキングの中の膨らみに手を触れて弄っているんだろうか。その手触
りがどんな風なのか、想像したり類推はするけどもセイバーのはきっと穢れな
く綺麗でやわらかくて……

 こんな格好なのに、それで股間をぎんぎんに硬くするのは苦痛だった。
 遠坂が声を潜めた。ひそひそ話で何かを言うらしい。雨音の向こうでそれは
掻き消されるはずだった……けども、遠坂は俺たちを弄ぶために、俺に聞こえ
るようにそっと……

「その汚いセイバーのあそこ、士郎は舐めたいっておもってるのよ――」

 耳を切り落として、中身をえぐり出したかった。
 こんな自由がままならない格好で聞くにはあまりにも辛い台詞で、脊髄が体
の中で暴れ所を求めてはね回るようで、こんなリビドーが爆発するようなこと
を聞かされるのなら、耳がなかった方が良いと思う。

 口の中に、あり得ない味覚が広がる。
 それはセイバーの秘所に唇をつけ、湧き出るセイバーの愛液を舐める味だっ
た。乾いた喉を唇を潤そうと、襞の中を下でまさぐりそのほんの少し塩辛く、
薫りの強いセイバーの蜜を舐める。舌の上でそれは広がって、まるで毒か媚薬
のように俺を狂わせるだろう、きっと。
 まだ飲んでないのに、おれがこんなに狂おしくそれを求めるんだから――

 セイバーの驚愕の声も、耳に痛い。鋼を鳴らすような澄んだ声も、今の俺に
は耳の奥の骨を乱打されるように痛く響く。

「そ、そんなことをシロウが……あ、あ、あり得ませんっ!」
「そう……じゃぁ、試してあげるわ。ほら、セイバー……ふふ、こうして……」
「ああ、それを……はっ、ああ……ん……ああ……」

 セイバーは攻められる一方で、遠坂が絡みついているらしい。その光景を見
られないのが悔しいのか、見られないから理性が保てるのか。でも、見ないま
ま理性を保って、遠坂の手によってセイバーが乱れさせられるのただ座視する
のは我慢できない……したくない。
 ずるずる、と畳の上を動く。芋虫程度にしか動かないけど、串刺しにされて
いる訳ではないからまだいい。これでなにかに縛り付けられたら手も足もでな
いけどこれなら、まだ。

 どさっ、と布団の上に倒れ込む。その音を追って重なる音。
 強いた俺の布団の上に、セイバーを押し倒したのか。本来の腕力ならばセイ
バーが凛を押し倒すことは造作はないけども、今は逆だ。それを照明するよう
な戯れる声。

「ほら、こうすれば……ほら、スカート脱げるから……上も暑いでしょ?セイ
バー」
「そんなことは……でも、ああ……そ、そんな、凛……はぁ、ああ……ん、ん
……撫でないで、ああっ、はぁう……う……」

 する、しゅる、がさ、ずす、と布と身体が立てる音。
 それを耳にして、少しでも頭の中で状況を組み立てようとする。遠坂は脱が
していて、セイバーはそれに抵抗できていない。すこしは頑張ってくれれば俺
が――

「………」

 俺が見てどうになるというのだ。それはむしろセイバーを辱めるだけだから、
俺はこのまま寝たふりをしている方が良いのかも知れない。遠坂がセイバーに
戯れかかっただけで、俺が見なければそれは俺にとって起きなかったことをす
ればいいのかもしれない。
 ……否、それはない。だって俺がそんな逃げる真似をしたら、セイバーはど
うなってしまうか分からないんだから。だから俺は少しでも動いてセイバーを
見ないといけないのに……

「ほら、ブラも……ん、やっぱり綺麗、セイバー……勿体ないわよ、こんなに
綺麗なのにそんなに隠しちゃうだなんて……ほら……ん……」
「凛……脱ぎます、だから……ああ、あ……これも、脱げばいいのでしょう…
…でもシロウが」

 後ろ頭辺りに視線を感じる。やっぱり、こっちを向こうとする俺の動きを察
したのか。
 やっぱりセイバーは見られない方がいいのかもしれない。そんな、遠坂に脱
がされる姿を見られればセイバーは消え入ってしまうほど恥ずかしがるに違い
ない。でも……

「ふふふ、士郎も当然興味あるわよ、セイバーの身体は……ね?士郎?」
「…………」

 その言葉に応えられない。ふふふ、と鼻で笑う遠坂の問いに、YESとNO
が頭の中で乱れる。見たくないというのは嘘で、見たいと言えば俺がどうしよ
うもなく下卑た雄になる。
 でも、答えないのは卑怯だ。だから、俺は自分の心に忠実になるしかない。
想像する遠坂の姿と、セイバーの姿。半分脱がされて、遠坂の唇と指でとろか
されるセイバー。それを見たくないってことはあり得ない――

 身体の力を抜いて、ゆっくりとその言葉を吐く。良い格好をして嘘を付くよ
り本当のことを言って罵られる方が、俺の性に合っているから。

「……みたい。セイバーの身体……綺麗だから」
「………シ、シロウ……わ、私ですよ?凛に劣ります、私の身体は……」

 戸惑うセイバーの声。真っ赤になっているのが、その不確かな語尾で分かる。
 自分の身体を凛に比べて卑下してみせるセイバーはすごく、聞いているだけ
で可愛かった。もし腕にしてそんな声を聞いていれば、キスの嵐でそれを否定
したにちがいない。でも、俺はしばられた芋虫状態で――みっともないったら
ありゃしない

「うふふふ、正直ねぇ、士郎」
「馬鹿、お前それで見たくないだなんて言っても見せるんだろ、そっちの方が
セイバーも俺も恥ずかしがってお楽しみかも知れないけど、俺は遠坂もセイバー
も見たいんだから」
「見るだけ?見るだけねぇ……」

 強がりを言ってばたばたする俺に、遠坂の面白がるような声。お前が縛って
おいて何を言う、という抗議が常に漏れそうになるけども、それよりも言わな
きゃいけない重要なことが先にある気がしていた。

「あ……は……凛?」
「セイバーはそこでそうしててね。さて、士郎?」

 セイバーを手放したようで、凛がこっちにくるのが足音で分かる。ストッキ
ングで畳の上を擦るように歩く足音と、キシキシと畳が微かに鳴るのが聞こえ
る。遠坂がこっちに来ると分かると息を殺してその挙動を待つ。生殺与奪は悔
しいかな向こうが握ってるんだから……

「士郎?さっきから大変そうだったけど――」

 遠坂の足が見える。黒いストッキングは履いたままで目の前ににゅっと立つ。
 それが横向きに生えている――んじゃなくて、俺が横に寝ているから。首を
上げると遠坂の――見えたけども、心が動転してしまってそれがそれであるこ
とを見分けるまで、時間が掛かってしまう。つまり、下から見上げたら遠坂の
スカートの中が覗けるわけで、おまけに遠坂はもうスカートを履いてなくて、
白いショーツと上も脱いでいて……

 そんな、ストッキングと下着だけの遠坂が俺のまえにしゃがんでくる。足の
肉感的な動きと、目の前に丁度柔らかそうなショーツの奥が見えるのはもう計
算しきった卑怯さだと言うしかない。つい、見ているこっちが恥ずかしくなっ
て顔を背けたくなる。

「ね、士郎は見たいの……じゃぁ、見せて上げる」

 お、おう、と答えるのも間抜けで黙っていると、遠坂が手を差し伸べる。優
越感を噛みしめて笑っている遠坂は、俺のこの束縛を解くべく詠唱を――
 しなかった。何をしたかというと、両手で俺の肩をむんずと掴んで、思いっ
きり引っ張る。

「うわぁぁぁ、お、おおおお!」
「ほら暴れない、見たいんでしょ士郎、セイバーのこと……ほら」
「あっ、あああ、し、シロウ……」

 視界がぐりゅん、と回る。寝転がったまま回され、気分が宜しくない。
 でも壁がぐんと回っていき、俺の目の前に布団とセイバーの姿が現れるに至
って、頼りない俺の脳みそは立て続けに限界が越えそうになる。

 布団の上に、あられもない姿になっているセイバー。
 あのスカートも、ブラウスも脱がされてしまって、ただ足にパンティストッ
キングがまとわりついているだけの、裸身。胸を隠して足を閉じているけども、
その白い身体は己が燐光を発しているように、この寝室の中で薄く輝いている
ように見える。

 脛から膝、太股に至る線。腰の薄くもしっかりとした骨格の美しさや、細い
ウェストと腰骨のライン、そして綺麗に引き絞ったウェストと肩首、その上に
は上気して目を伏せたセイバーの美貌が……まるで、捕らわれて辱められる姫
君のような憂いに満ちていて。

 ある意味堂々と俺の前で脱いでしゃがんでいる遠坂と対照的な、絹のヴェー
ルの羞じらいのなかにいるような美しさ。背中でぽんぽんと遠坂が手を払う音
が聞こえた。
 そのまま背中を持ち上げられ、もっと良くセイバーの姿を見えるようにさせ
られる。

「あ……その、セイバー……綺麗だから……そんな、恥ずかしがることはなく
って」


(To Be Continued....)