「だ、大丈夫……、でも、少し抱きしめて……」
柔らかい体がぎゅっと上半身に合わされた。
脚にも……、あ、いつの間にか曲げていた体が、戻っている。
下半身はじんじんと鈍痛が広がっているけど、他の部分は羽居の感触に癒さ
れていた。
唇が合わさる。
羽居の唇。
いつもみたいに舌は来ない。
ただ、軽く触れ合わせ、半開きで互いの呼気を混じり合わせるだけのキス。
痛みで時折洩らす悲鳴を吸われ、大丈夫だよと言ってくれる吐息を吸う。
羽居は気遣うようにあたしを見て、あたしが痛みにびくびくと体動かす度に
わずかに表情を変える。
これは、快感に耐えている顔?
さっきの、じっとしているのが耐えがたい熱に浮かされたような感覚を思い
出した。
羽居もきっと動きたい筈なのに、それなのに我慢してくれているんだ。
あたしの為に。
「もう、平気みたい。いいよ、動いてみて」
「ゆっくりするね」
ずずっと抜く動く。
さっきと逆に、引き剥がされるような痛みが起こる。
でも、羽居の気持ちよさそうな顔を見ていると耐えられた。
「さっき、羽居にもこんな痛い思いさせていたんだな」
それなのに、構わず動いてしまった。
自分の快楽を優先させて。
「わたしはそんなでもなかったよ。
やっぱり蒼ちゃんの方が辛かったと思う」
「でも、羽居があたしの中にいると思うと、凄く嬉しい」
「うん。あたしも、蒼ちゃんにして貰って、初めてをあげられて、凄く嬉しか
ったよ。ううん、今も嬉しくて仕方ないくらい」
「わかるよ。それに羽居も、あたしが羽居の中に入った時、どんなに感激して
気持ち良かったか、わかるだろ?」
羽居は体を揺すりながら頷く。
「うん。蒼ちゃんがあたしの初めての男の人で、女の人なんだね」
「変だけど、そうだね。羽居に男にしてもらって、女にして貰ったんだ」
「どっちも蒼ちゃんでよかった、わたし……」
「うん……」
羽居から唇を求めてきた。
軽く突き出して、その啄ばみを受ける。
「蒼ちゃん……」
切なげな声。
こんなゆっくりな動きではもどかしい筈。
さっきのあたしのように。
「いいよ。激しくしても。
どのみち初めてだとこっちはついていけないから、好きに初めてを楽しんで
くれ、羽居だけでも。
……今日は平気だから」
最後の言葉で顔が紅くなり、視線を外した。
羽居も、微妙なニュアンスで「うん」とだけ答えた。
そして、羽居が動く。
しだいに早く、大きく。
痛みがぶり返す。
傷口を絶えず擦られているのだ。
これが痛くないわけが無い。
でも、羽居があたしの体で感じていると思うと、ぞくぞくとした。
あたしの指や舌で、前後不覚な陶酔状態になったのを見るのも、肉体の快感
とは違う、体が痺れるような喜びがあるけど、それともまた違う。
あたしの愛撫ではなく、あたしの体自体に夢中になっているからだろうか?
「蒼ちゃん、また、出ちゃう」
「うん……、いいよ、羽居」
互いに抱きしめあう、強く、しっかりと。
羽居の腰だけが、びくびくと動き、あたしを揺らす。
そして、強く、息が止まるほど強く突きこまれた。
「ああッッ、蒼ちゃん、ぁぁああ…………」
羽居が初めて、あたしの中で絶頂を迎えた時の顔。
間近で、まじまじと瞬きすら止めて見つめた。
そして、あたし自身はそれに同調して達する事は出来なかったけれど、その
羽居の極みの表情を見た瞬間に、涙が出そうなほどの感激と、体中が震えるよ
うな、幸せを感じた。
魂の絶頂とでも言うべき至福……。
幸せだ。
本当に、なんて幸せなんだろう……。
羽居。
・
・
・
しばらく、羽居の体の重みを感じていた。
汗ばみ、ぐったりとした羽居の体。
愛しかった。
その重みも、触れる感触も、何も。
目も鼻も耳も何もかもで羽居を感じ、そして酔った。
やがて羽居は顔を上げた。
とろんとした目があたしの顔を覗く。
「蒼ちゃん……」
「どうだった、初めての女は、あたしの中は?」
「凄く気持ち良かった。途中からぜんぜん体が止まらなくなった」
「あたしも、さっきそうだった」
うっとりと羽居は言う。
「まだ、気持ちいい……」
「そうだろうな、まだ入りっぱなしだし」
「え? ああ、本当。あれっ?」
「大きいままだな、すぐにでもまた始められるな」
「……」
羽居の目。
覗うような表情。
あたしは笑った。
「いいよ、本当に続けても。羽居がいっぱい気持ち良くなってくれたら、あた
しも嬉しいよ」
「うん。じゃあね……」
羽居はゆっくりと離れた。
あ、なんだか半身を引き離されるような感じ。
ずちゅるという音と、何かがこぼれる感触。
今ので、中のが出てきたかな……。
羽居は浅くつながったままで、体を起こした。
そして、あたしの脚を手にする。
「体の向きを変えるのか?」
「うん、ちょっと大変だけど、蒼ちゃんも協力して」
「あ、ああ」
後ろからとか、騎乗位とか、そういうのしたいのかな。
それとももっと変な、前に見たビデオみたいな変てこな体位でも試すのか。
素直に羽居の指示に従って体を捻り、手や脚を動かす。
それにしても、この、何をする気だ、こいつは?
「こうして、と……、んんッ……」
「え、何、はね…うぁぁッッ」
予想外の感触。
びくんと体が跳ねるほどの快感。
まだ膣口ではない。
これは、もうひとつの性器。
羽居の手が掴んでいる。
そして、この、この感触は……。
濡れて優しく包み込むような感触は……。
「蒼ちゃんもわたしの中で気持ち良くなってね」
羽居の秘裂に触れている。
いや、浅く潜りかけて、羽居によって挿入させられているのか?
な、何?
頭が沸騰しそうで、混乱におかしくなりそうで、わからない。
ただ、あたしを貫く羽居の感触と、とてつもない快感のみがある。
ああ、わかった。
あたし、羽居の中だ。
羽居に貫かれながら、あたしも羽居の中に呑み込まれているんだ。
……。
いったいどんな格好をしているんだろう。
体がねじれ、斜めから挿入しあっている……、ようだ。
ありえるのか、そんな……?
わからない。
わからないけど、あたしが羽居の中にいて、同時に羽居があたしの中にいる。
それは事実のようだ。
……。
うん、確かに繋がっている。
同時に繋がっている。
たしかに……、でもその事実を目で見ても、頭が納得していない。
このうねるようにあたしを締め付け、優しく擦り舐めている狭道は羽居。
熱く硬く大きく、あたしの中に優しく荒々しく入り込んでいるのは羽居。
それがどうしても頭の中で整合が取れない。
同時に男として女として悦びを感じているなんて、脳が受け付けない。
どろどろ。
どろどろ。
感覚が混ざり、分散し、また溶けて一つになる。
まるで、あたし自身があたしを刺し貫いて、嬌声を上げさせているみたい。
こんなのずっと味わっていたら、狂っちゃう。
頭がどうにかなってしまう。
でも、離れられない。
貫いて、貫かれ。
呑み込み、呑み込まれ。
締め付け、締め付けられ。
いっぱいにして、いっぱいにされ。
擦り、擦られ。
ぐちゃぐちゃにして、ぐちゃぐちゃにされ。
あたしがした事を、羽居がお返ししているのか。
羽居がする事を、あたしがなぞっているのか。
あたしは自分の意志でしているのか。
羽居があたしにさせているのか。
もう、何もわからなくなった。
ただ、ただ、羽居とひとつになって快感にのたうった。
もう、下半身は二人でひとつになってしまった。
後は……。
熱にうかされた頭で、羽居を求めた。
強引に上半身を捻って羽居を求めた。
「羽居……」
すがるような声。
「蒼ちゃん」
羽居の何かに怯えるような声。
手を握った。
首だけを伸ばして口づけをした。
視線を合わせあった。
可能な限り羽居と触れ合った。
より羽居とひとつになった歓喜。
でも、もっと。
もっと。
そう願い、そして、同時に絶頂を迎えた。
羽居の中に今まででいちばん凄い勢いで弾ける。
体中のあたしが全て流れ込んでしまったような、迸り。
そして、羽居があたしの中で弾けて、体中に広がっていくのを感じて。
今日始めて異性のモノを受け入れたというのに、女としても達した。
あまりの愉悦、暴力的なまでの快楽。
何がなんだかわからない。
どう羽居と絡み合っているのか。
羽居の存在は確かにあるのに、それが曖昧模糊となってしまった。
まるで、二人が溶けて混ざり合ったよう。
そうだ、そうなんだ。
あたしは羽居で。
羽居はあたしで。
そう気がついたときに、最後の高波が来た。
あたしは歓喜の声をあげて、
羽居は歓喜の声をあげて、
その奔流に呑まれ、窒息し、あえなく溺死した。
幸せな表情を浮かべながら……。
◇
うんん……。
……。
あ、ああ…ん……。
目が覚めた。
一瞬、全てが熱夢かと思った。
羽居の無茶で、おかしくなるほどイカされてふっと意識が消えた事は何度か
あったけど、こんな完全に時間が跳んだのは初めてだ。
そのまま眠ってしまったらしい。
無理も無いか。
女として、男として、普通の二倍、いやもっともっと凄まじい洪水みたいな
感覚の爆発を味わったんだから。
本当に脳の神経が何処か焼き切れたかもしれない。
体が緊急脱出の為に、あたしを失神させたのかもしれない。
でも、いつの間にこんな……?
見ると、今のあたしは羽居と体が離れていた。
正確には体が密着して、軽く腕を回しあって抱き合う格好だけど、さっきま
での体が溶けて一つになるような一体感とは比べ物にならない。
さっきの……。
ふと、また夢ではないかとの疑いが生じて、慌てて下半身を確認する。
……あった。
二人共まだついている。
さすがにもう天衝くような高ぶりはおさまり、小さくなってはいるが。
良かったのか、悪かったのか。
このまま、ずっとだったら、どうしよう……。
女でありながらペニスを生やしている。
こんな秘密を抱えていては、まともに生きていけないかもしれない。
そうしたら、羽居と……。
羽居と一緒に……。
そうだな、そうしようか。
羽居の初めてを貰ってしまったんだから、男として責任取らないといけない
だろうな。
でも、羽居。
あたしの処女を捧げたんだから、おまえもあたしに、責任取ってくれよ。
嫌とは言わないよな?
どこかが狂った言葉。
でもあたしの中では正しい。きっと羽居にとっても。
その言葉を幸せそうな羽居の寝顔にそっと囁く。
そして、羽居の唇を奪った。
軽い、羽のような口づけ。
それから、あたしも目を閉じた。
羽居と寝息を重ねる為に。
おやすみ、羽居……。
FIN
―――あとがき
無理だと思います、同時になんて。
……さて。
何をどこまで書いたらいいやら、と迷う今回の『+凸』でしたが、とりあえ
ず王道(?)の羽居&蒼香で、甘々に書いてみました。
で、羽居×蒼香と蒼香×羽居どっちがいいかなとか考えていて、そうだ両方
と……、何か間違っている気もしますね。
それと独り善がりのお遊びですが、このお話と時間軸を同じくして、秋葉も
生やしております。そっちのは、裏秋葉祭で書かせて頂いたSSになりますの
で、よろしければ合わせてどうぞ。
さらにその続編を大崎瑞香さんに書いて頂いたり……。
あとは晶ちゃん残っているな等と不穏な事を考えつつ、お読み頂いた感謝の
意を表します。
by しにを(2002/11/15)
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