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 ――いいザマね、瀬尾。


 痛みに歪み、涙に濡れた晶の顔を見下ろして、秋葉は薄く笑う。


 苦しい?
 苦しいわね。
 もっと苦しみなさい。
 もっと苦しめてあげる。
 でも、本当に苦しいのは、これが終わった後。
 瀬尾。貴方、兄さんに何があったか話せるかしら。
 私に、秋葉に犯された、なんて言えるかしら。
 貴方にはそんなこと言えないわね、瀬尾。
 誰にも言えずに独りで苦しみなさい。
 ずっと独りで苦しみなさい。
 いい気味だわ。


 だが。
 その時。

「あ、お……おっきい……の、入って、来るぅ……っ!」

 晶が、叫んだ。

「先輩の、おっきいの……入って来ます……っ!あ、あぁぁ!」

 晶が、背中を弓なりに反らし、自分から腰を突き出して、叫んだ。

「んはぁぁぁぁっ!凄い!凄い凄い凄いよぅ!先輩の凄いですぅ……っ!」

 晶が、自分から腰を突き出して秋葉のペニスを迎えに来ながら、叫んだ。
 それどころか――

「あ、あはっ。……先輩、全部、入り、ましたぁ」

 晶が、全身脂汗にまみれながらも、満足げな笑みを浮かべて、言った。

「え……?」

 予想外の晶の反応に、秋葉の方が戸惑っていた。

「どう……して?」


 泣かせてやるつもりだった。

 苦しめてやるつもりだった。

 辱めてやるつもりだった。

 壊してやるつもりだった。

 それなのに――


 どうして?


 どうしてこの子は平気なの?
 どうしてこの子は、こんな顔が出来るの?


 ――わからない。


「あの……遠野…先、輩?」

 不思議そうに、下から晶が秋葉の顔を覗き込んで来る。

「あの、どうしたんですか、遠野先輩?」
「……どうして?」

 訊いてしまったら、止まらなくなった。

「瀬尾、どうしてよ?
 私にこんなことをされているのに、どうして貴方は平気なのよ?
 私にこんなことをされているのに、どうして貴方はそんな顔が出来るのよ?
 怯えなさいよ!苦しみなさいよ!泣きなさいよ!
 どうして平気でいられるのよ?」

 ひた、と、秋葉の頬に晶の掌が触れた。
 そうされて、秋葉はようやく自分の頬を流れ落ちる涙に気付いた。

「私、遠野先輩だったらいいかぁ…って思ってましたから」

 晶は、秋葉の頬に触れたまま、一点の曇りもない笑顔で、言った。
 言われて、秋葉は思わず目を丸くした。

「え゛……?」
「えへへぇ……」

 唖然としている秋葉の首に、下から晶の両腕が巻き付いた。
 同時に、秋葉の腰に、下から晶の両脚が絡み付く。
 晶は秋葉のお尻のあたりで両足首を交差させ、がっちり締め上げる。

「ちょ、ちょっと待ちなさい。瀬尾、貴方――」
「ねぇ、遠野先輩?どうして動いてくれないんですか?」

 晶が不満そうに頬を膨らませて訊いた。

「志貴さんだったら、こんな風に――」

 言いながら、晶が腰を突き上げて来る。
 強く。

「瀬尾!待ちなさい……動かないで……お願い……!」

 晶が晶の腕から逃れようともがきながら、切羽詰った声を上げた。

 なぜなら――


 気持ちよかったのだ。


 秋葉のペニスは作り物ではなく、クリトリスを肥大化させた代物だ。
 つまり、女性の身体で最も敏感な部分を、肥大化させた物だ。

 そんな物を、ただでさえ狭い晶の膣に挿入したのだから。
 たまらない。
 晶の体内の熱さと、圧迫感と、柔らかさと、蠕動する襞の感触が。
 気持ちよかったのだ。
 それも、物凄く。
 すぐにでも逝ってしまいそうなほどに。
 その上、晶が下から激しく腰を突き上げて来るとあっては。
 たまらない。


「だめよ!瀬尾、今動かしたら……!」

 秋葉を下からがっちり絡め取った晶は、悲鳴に近い秋葉の声を聞くと――
 腰の動きをさらに加速させた。

「はぁ、はぁ、はぁ。気持ち、いい、ですか?先輩?ねぇ?ねぇ?先輩っ?」
「だ、だからぁ……だ、だめぇ!待って!待……っ!嫌、嫌あぁぁ……」

 完全に晶のペースに支配された秋葉は、もはやなす術もなく絶頂に向かって
押し上げられて行く。


 秋葉のペニスは、あくまでクリトリスを肥大化させてペニスにしただけで、
精巣までは再現していない。
 だから、射精することはできないはずなのだが――
 今、現に秋葉は切羽詰った射精感を覚えていた。
 本当に精液が出てしまったら?
 大変だ。


「あ、あ、あぁ!瀬尾、私、私ぃ……っ!私、もう、もう……っ!
 で、出ちゃいそうなの。何か、出ちゃいそうなのよっ!」

 秋葉がどうにかして晶から抜こうとしながら叫んだ。
 もちろん、晶は秋葉にしがみ付いて離れない。
 離れないどころか――

「はぁ、はぁ。い、いいです、よ。はぁ、はぁ。中に、出して……」

 とんでもないことを、しかも笑顔で口走る。

「ダメなの!ダメ、ダメ!ダメ!あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」


 びゅく!


 何かが、精液ではないはずだが精液によく似た液体が、秋葉のペニスの中を
走り抜け、晶の膣内にどくどくと流れ込んだ。

「あ!先輩のが、びくびくって……」
「言わないで……あ、あ…………ま、またぁ…………」

 びゅっ、びゅっ、と、不随意に何度も何度も繰り返し繰り返し襲う射精感。
 秋葉は脱力して、ぐったりと晶にもたれかかった。

「あ……はぁ……はぁ……はぁ…………はぁ…………」

 小柄な晶には、いかに相手が秋葉でも全体重でのしかかられては相当に重く
感じられるはずだ。
 しかし晶は下になったまま逃れようともせず、ぐったりとした秋葉の身体を
じっと抱き締めていた。





 やがて。

「…………ごめんなさいね、瀬尾」

 顔を伏せ、長い髪で表情を隠したまま、秋葉がぽつりと言った。

 今頃になってようやく晶に全体重をかけていたことに気付いたのか、秋葉が
慌てた様子で床に両手を突き、身体を起こそうとした。
 顔にかかっていた髪が脇に流れ、秋葉の悔恨の表情が覗く。
 そのとたん。

「先輩!待って!」

 晶が全身で秋葉にしがみ付き、もう一度自分の胸に引き倒した。

「ちょ、ちょっと、瀬尾?」
「私なら大丈夫です。遠野先輩軽いから」

 晶は冗談めかした口調で、なおも起き上がろうとする秋葉を制した。
 そして、不意に真顔に戻って秋葉の顔を覗き込む。

「先輩、思いっきり後悔してますよね?失敗した――って思って」
「……ええ」

 秋葉は暗い声で答えた。
 晶は、秋葉の頭を掻き抱いたまま、大きくうなずく

「そうですよね。でも、大丈夫ですよ」
「…………瀬尾?」

 秋葉が怪訝そうに声をかけた。
 まだ秋葉と繋がったまま、晶が腰を動かし始めたからだ。
 大量に射精して勢いを失っている秋葉のペニスが抜けないようにするため、
晶は激しいピストン運動は避け、ゆっくりと腰をグラインドさせる。

 そうしながら、晶は秋葉をあやすように話しかける。

「後悔なんてしないで下さい、遠野先輩。あんなことくらいで――」
「『くらい』って……。瀬尾、貴方には、本当に悪いことをしたわ……」

 秋葉が思わず声を詰まらせた。
 その時。

「ちょっと早かったくらいで落ち込んじゃダメです」
「………………は?」

 秋葉が思わず目を点にした。

「瀬尾?……貴方、一体何の話をしているの?」
「先輩、初めてだったんですよね?初めてなら早くて当たり前なんですよ」

 晶はもう一度、秋葉の頭を撫でながら続ける。

「先輩、信じて任せて下さい。今度は絶対大丈夫ですから」
「瀬尾!ち、違うわよ!私は……んむぅっ!ん――!」

 そういう話をしているんじゃないわ、と言おうとした秋葉の口を、晶の唇が
塞いだ。
 そして、晶の腰の動きがねちっこさを増す。
 だんだんと、萎えかけていた秋葉のペニスに、再び血が流れ込み始める。

「……ぷはっ。せ、瀬尾、そんなにしたら、ま、また……」

 深く繋がったままなので、秋葉の腰が晶のクリトリスを圧迫し、擦り立てる
格好になった。
 その結果。

「ん……んふぅ……はふ……はぁっ……はぁっ……あぁぁぁぁ……っ!」

 たちまち、晶が快感に喘ぎ始めた。
 晶の中がどんどん濡れて来る。
 潤滑がよくなったので、晶の動きにつれて秋葉のペニスも滑りだす。

「ふわ………」

 奥に当たると晶が微妙な声を上げる。

「ぁ………ぁ……ぁ………」

 抜けそうになると晶が切なそうな表情をする。
 晶の声を聞き、表情を眺め、熱い襞に包まれる感触を味わっているうちに、
秋葉のペニスは前回以上に大きくしかも固くなる。

「凄ぉい。さっきよりも大きくなってるぅ……」

 晶がくすくす笑い、その振動が秋葉のペニスにまで伝わって来た。
 その瞬間。

「あはっ。先輩の、またおっきくなったみたい……」
「う……あっ……あ、あぁ……」

 秋葉は極限まで怒張していた。
 痛いほどに。
 それこそ、このまま破裂するのではないかと思うほどに。

「遠野先輩……」

 今までずっと下から秋葉にしがみ付いていた晶が、絡めていた手足を解き、
床に身体を横たえた。
 そして、ゆっくりと両手を上げ、秋葉を差し招く。

「いっぱい、して下さい」

 潤んだ目で晶にそう言われて。
 さらには下がって来た晶の子宮に亀頭をくすぐられて。
 秋葉は、もうどうにも止まらなくなった。

「瀬尾!ごめんなさい、ごめんなさい……っ!」
「あぁ……先輩……ぅあ、あはぁぁっ!凄い、凄いですぅ……っ!」










 数時間後――

 消灯時間を過ぎて照明の落とされた廊下に、人影がふたつ。


 ドアにぴったり耳を押し付けていた羽居が、青い顔をして振り返った。

「ね、ねぇ、蒼香ちゃん……」
「何も言うな」

 ドアの脇の壁にもたれて立ったまま、蒼香が苦い表情で遮った。
 羽居はひとつ大きなため息をつくと、それで空気が抜けたみたいにぺたんと
廊下に座り込んだ。

「どうしよう。このままじゃ、いつまで経ってもお部屋に入れないよ……」
「それはそうだが――」

 言いながら、蒼香も羽居の隣に腰を下ろす。

「お前、今この部屋のドアをノックする勇気、あるか?」

 そう訊かれて、羽居はゆっくりと首を左右に振った。

「………………無理」
「だろう?」

 蒼香は羽居の肩に腕を回してやった。
 羽居は引き寄せられるままに蒼香の肩に頭をもたせ、ぽつんと呟く。

「今夜はここで蒼香ちゃんとビバークかなぁ……」
「……明け方の冷え込みが問題だな」





おしまい