お許しが出た。
小刻みに腰を動かす。
耐え難い高まりの瞬間までその動きを繰り返し、限界を悟って深く一突き。
一子さんの奥の奥へと入る。
肉棒が震える。
そして弾ける様に精液が迸った。
ぎゅっと一子さんを抱きしめたまま、激しすぎる快感に耐えた。
荒い息を吐きながら、余韻に浸る。
体重を全て一子さんに預けているのに気がつき、肘を立てる。
「イったの」
「うん」
「何となくわかった。有間のが、ぴちゃって来たの……。
それであたしの中で広がって……」
どこかうっとりとした顔。
と、それが一転する。
「あたし変じゃなかった?」
不安そうな顔。
変な心配するなあ。
でも初めてだと気になるものかな。
自分の初めてを思い出す。……ああ、気になるな。確かに、うん。
「変じゃないよ。凄く気持ち良かったよ、一子さん。
ありがとう……」
「よかった」
一子さんが安堵の表情を浮かべ、俺もまたほっとする。
「ところで有間……」
「はい?」
「これってまだおさまらないの?」
「え、ああ」
赤面する。
まだ一子さんに埋まったままの肉棒は、少し萎え始めたものの、またさっき
までの大きさに戻っていた。
節操が無いというかなんと言うか。
でも一子さんの中がこう、ぐねぐねと収縮してそれで……。
「これはさ、その……」
「いいよ、何度でも好きなだけ」
そういう事なら。
好意に甘える。
さっきまでの焦燥感は薄まっている。
ゆっくりと抜き差しを始める。
射精したばかりでまだ敏感な肉棒の先が、痛い程刺激される。
さっきは最初は一子さんの事を気遣っていたのに、最後は自分の肉欲優先で
走ってしまった。
今度はせめて一子さんに少しでも感じて欲しい。
「一子さん、少し体勢変えるね」
「あ、ああ」
一子さんは戸惑いつつ同意する。
正常位から、少し体位を変化させる。
足を高く上げて貰い、肩に担ぐようにする。
より深く密着する。
そして目の前の胸をゆっくりと愛撫する。
手を置いたままだけど、腰の動きとと共に前後に揉みほぐす様な格好になる。
時々アクセントに勃ったままの可愛らしい乳首を刺激する。
「ふぅぅン、んんっ」
そうした行為を続けていると、最初は反応が無かった一子さんが声を洩らし
始める。
「気持ちいい?」
「……うん。気持ちいいよ、有間」
かあっと一子さんが顔を紅く染める。
可愛いなあ。
それに、嬉しい。
もっと感じて欲しい、もっともっと。
出来るだけの手管で一子さんの官能を引き出そう。
ただ、体だけでなく頭でも感じてもらおう。
そう思ってちょっと意地悪く質問をする。
「どこが気持ちいいのかなあ、一子さん」
「……」
「ここかなあ」
乳首の先を指で摘み、もう一方のピンク色の蕾を口に含む。
「んんんっっっ」
抑えがたい喘ぎ声が洩れる。
「どうなの、一子さん?
それとも俺はヘタクソで一子さんの事を全然感じさせられない?」
「そんな事ない。あたし……」
「じゃあ、どこが感じてるの?」
「なんでそんな意地悪になるんだ」
「一子さんが可愛いから。で、どうなの?」
「胸と、その、あそこが少しじんわりと。まだ痛いんだけど少しだけ痺れたみ
たいになってて……」
「ふうん、胸と、ここか……」
合わせ目に指を差し入れる。
皮をかぶった突起をやわやわと指で摘み転がすように刺激する。
「ダメ、そこ、強すぎて……」
嫌がってはいるが甘い声。
構わず一子さんの性感を高める。
何とか一子さんにも最後まで達して欲しい。
そう思いながら、いろいろと手を尽くすが、先にこっちの限界が近づいた。
「一子さん、また……」
「来て……」
残念だけど、一子さんと一緒には無理だな。
でも、初体験が痛いだけでなくて、少しは、感じてくれたなら……。
でも、もう限界だ。
俺がもっと大人だったら、もっと経験豊富だったら、もっともっと一子さん
を幸せにしてあげられたのに。
一瞬そんな事を思いながら、絶頂を迎えた。
さっきの二回のような頭が真っ白になって眩暈がする様な快感、爆発する様
な快美感は無い。
その代り全身が痺れて肉棒も腰も、いや体全体が融けるような快感に満たさ
れる。
染み入るように、広がるように。
体が蕩けていく……。
◇ ◇ ◇
さすがに三回も続けるとぐったりと体の力が抜ける。
一子さんと横になったまま言葉もなく、軽く抱き合う。
激しく愛し合っていたときよりも満ち足りた気分になる。
「ごめんね、一子さん」
「何が?」
「俺がもっと経験あって巧ければ、一子さんの事もっと歓ばせてあげられたの
に……」
「……馬鹿」
「え」
何を考えているんだ、という顔の一子さん。
俺が間抜け面をしていたからだろう、教え諭す様に言葉を口にした。
「そんな事気にしなくていいんだよ。もしも有間がこういう事に凄く慣れてて
平然と私のこと抱いていたらきっと嫌だった。哀しかったと思うよ……」
「そうなのかな?」
「そういうものなんだよ。それにあたしで感じてくれただけで凄く嬉しかった。
痛いだけで終わってもきっと幸せだったと思う。
それなのに、こんなに優しくしてくれたし、初めてが有間で良かった……」
力いっぱい一子さんを抱き締めた。
こんな言葉に応えるのに、こんな事しかできなかったから。
俺の抱擁を受けながら、一子さんが耳元で囁く。
「だから、これっきりにしよう」
「え?」
「有間があたしを選んでくれるなら別だけど、もっと他にいっぱい大切な人が
いるんだろ?」
「……ええと、その」
「いろいろ有彦から聞いているけど。眼鏡の似合う先輩に、正体不明の金髪美
人に、お嬢様学校の可愛い中学生。家に帰れば絶世の美少女の妹に、お付のメ
イドさんまでいるんだろ。
今まで女に興味の無い人嫌いですって雰囲気漂わせていたのに、変われば変
わるものだな、うん、有間?」
「……」
「あたしが言うのもなんだけど、帰れる家があったり大事な人がいる方が、人
間としては正常だと思うよ。
あたしとしては、ちょっと寂しいけどね」
一子さんが頭を撫でてくれる。
子供に戻ったような気分になる。
「それに有彦の事。あれでもそれなりには大事な弟でね。有彦にとって有間っ
て特別な存在だから、取っちゃいけないって思ったりもしてる」
「なんか嫌な表現ですけど」
「だから、有彦には内緒だよ」
「はい、それはもう」
言えないな、有彦には絶対に。
知られたらどんな顔して会えば良いのか想像もつかない。
さっきこぼれてきた精液を拭いたティッシュを一子さんが手にして、ちょっ
と感慨深げに呟く。
「でもまあ、もしも今ので子供が出来ちゃったら、責任取ってくれって泣きつ
きに行くから」
「え、子供……?」
「有間もそういう反応返す処、男だなあ」
「だって、安全日なんじゃ……」
「誰もそんな事、一言も言ってないだろう?」
「だって、その……」
「あんな顔されたら断れないだろう」
「有彦に兄さんて呼ばれるのか……」
「まあ外れる可能性も……、って冗談だよ」
「酷いよ、一子さん」
「安全日と危険日誤魔化すのなんか女の常套手段だけどね」
ふふふ、と一子さんは笑う。
どこまでが冗談なのか、ちょっとだけ背筋が寒い。
「だから、こんな事引きずらないで忘れちゃってよ。いや、忘れろ」
「……」
はいとは言わなかった。
俺の返事には構わず、一子さんはそれでスイッチを切り替えたと言うように、
いつもの表情を取り戻す。
自分がそうする以上、俺もそうすると信じている。
そしてそれはその通りだ。
でもやっぱり無かった事になんかできない。
今日の事は忘れません、一子さん……、と心の中で呟く。
そしてきっとそれは一子さんも同じだろうと確信しながら。
「さてと、もうこんな時間か……。もう昼というより早めの夕食だな、有間」
「そうですね、イチゴさん。そう言えばお腹すいたなあ」
「約束通りご馳走するよ。じゃあ食べに行くか、それとも何か取るか」
「イチゴさんの手料理という選択は?」
「却下。取りあえず仕度して……」
起き上がりかけて一子さんの動きが止まる。
顔をしかめている。
「外に食べに行くのは無し」
「どうしたんです?」
「じんじんと痛くて、それに何と言うか凄く違和感が。歩きたくない」
「ああ、なるほど」
「シャワーも浴びなくちゃいけないけど、もう少し横になってる。
思ってたより痛いものだなあ。年食ってからの方が痛み大きいとか言うらし
いけど。終わってからも随分と痛みが残っているし」
「大丈夫ですか、イチゴさん」
一子さんから、イチゴさんに呼び方を変える。
非日常から日常への回帰の印として。
一子さんもそれに気付いたのだろう、それでいいと頷く。
「大丈夫じゃない。じゃあ何か出前でも取って」
「食欲はあるんですね。宅配ピザでも取ります?」
「うん、それでいい。適当に注文して。あ、でもアンチョビ多めに」
「了解」
「じゃ、頼む、有間」
はい、と言い残してとんとんと階段を降りる。
もう明日にはいつもの二人の関係に戻るのだろうな。
何事も無かった様に。
少なくとも一子さんがそう望むなら、従うしかない。
ふと、もう少し前に、まだ遠野の家に戻る前にこういう事があったらどうだ
ったろうと思った。
まだ自分が遠野家から捨てられた実子だと信じていたあの頃だったら。
まだアルクェイドやシエル先輩と出会ってないあの頃だったら。
まだ秋葉や翡翠、琥珀さんと再会をしていない頃だったら。
まだ七夜志貴なんて名前を知らなかった頃だったら。
まだただのぼんくら高校生だった頃だったら。
ほんの数ケ月程前に一子さんとこうしていたなら。
そうだったら、どうなっていたのだろう。
それは考えても意味の無い事だけれども、少しだけ残念に思った。
少しだけだけれども確かに残念に思う気持ちがあった。
でもまあ、あの頃はこんな事になるなんてまったく想像もしていなかったの
だから。
これから何がどうなるのか誰にもわからないよな。
とりあえずは友達のお姉さんと、弟の友達、そんな関係に戻っていよう。
さてと、目の前の事から片付けようか。
電話台のの横に置いてある広告を手にとる。
そしてジャーマンポテトとシーフード、どっちを頼むのが良いかという命題
に取り組んだ。
特に劇的でロマンティックな体験とは言えないけれど、
これが今でも鮮明に覚えている、一子さんとの初めてだった。
《FIN》
―――あとがき
と言う訳で乾家のお嬢様、一子さんでした。
お嬢様と言ったらお嬢様なの。
何と言うかツボなキャラなんです。少なくとも『歌月十夜』の新キャラ群の
中ではダントツ。羽ピンも朱鷺恵さんも、四条つかさ嬢もまったく太刀打ちで
きません、私の中では。
という賛同者少なそうな思い入れの下、妄想肥大化させて書いてみました。
無理矢理姉属性を入れてみたり、初めてを朱鷺恵さんに奪われたので逆に舵
を取ってみたり、もう俺妄想炸裂です。
でも、本当に自分用にカスタマイズしたら志貴じゃなくて、あり、いや何で
もありません。
それから、これって「Crescendo」のアレに(以下略)と言うのは
禁止です。まあ他にも似たシチュのお話っていろいろありますけど。
あ、冒頭のはテンゲンの名移植作品『ガントレット』MD版です、念の為。
読者軽視の作品ですが、お読みいただいてありがとうございます。
by しにを (2002/3/25)
……そう言えば一年前の今日も乾一子SS脱稿したなあ。
《つづく》
|