『ソドムの午後』
瀬尾晶
初夏の日差しを浴びて、遠野寺の緑青を葺いた屋根が照り返しを振りまいて
いる。齢三十半ばでこの寺の和尚となった志貴は、袈裟を着こみ、本堂で木魚
を叩きながら、深く渋みのある慈悲にあふれた読経を放っていた。
ポクポクと、ただ聴くと少し間の抜けた音が、彼の声を寺の鐘突堂まで運ん
でいる。
寺の僧侶である有彦は、その声を聞きながらうっとりと冷たい鐘を擦ってい
る。時折、何かに思い当たったかのように眼を潤ませてはため息をつく。
蝉の声が煩いほど響き始める。
有彦は眉根を寄せた。さすがに遠い志貴の読経が聞こえなくなっていた。
「和尚様……」
有彦は煩悩を振り払うかのように、大きく昼の鐘を……衝いた。
夕刻、有彦は床についたが、寝つけずに寝返りを繰り返していた。
蒸し暑さのせいか、心の迷いのせいか、脳裏に志貴和尚の彫りの深い禿頭顔
が去来しては心を締めつける。寝所の他の僧に気が付かれやしないかと思うほ
ど、有彦の魔羅は六尺褌を押し上げるほど勃起していた。寝返りのたびに亀頭
が擦れ、さすがに根元を擦れば途端に射精しそうなくらい昂ぶる前に、有彦は
寝所を飛び出した。
向かうところは、寝所の近くの炊事場に隣接した井戸である。神山の冷水で
身を清め、煩悩の火を沈めようと思い立ったのだ。
中腰に勃起を隠し、小走りに井戸に向かう有彦。が、彼は暗闇の中、月明か
りに照らし出された者に驚愕してうめいた。
ざざー……。
そんな有彦をよそに、その人物は屈強な肉体に六尺褌一丁の裸体で釣瓶を手
に、水を頭から被っていた。冷水を浴びて月明かりをはね返す禿頭、彫りが深く
陰影が増したその顔は、まさしく和尚の志貴であった。
「お、和尚様」
うめく有彦に、志貴和尚はフと顔を向けると微笑んだ。
「どうした有彦、このような夜更けに」
月夜に生じた幻かと思えるほど、和尚の肉体は美しかった。有彦は股間の昂
ぶりが増すのを覚えた。水に濡れた肉体のてかり具合が、より幻想的に有彦の
脳髄に刻み込まれる。
「い、いえ、その……」
「眠れぬのか?」
「は、はぁ」
「……わしか?」
志貴和尚は禿頭を叩いて苦笑した。
「わしも修行が足りぬのか、蒸すのですこし水を浴びたところじゃ。お主もそ
の口だろう。まぁわしがこのていたらくだから叱責しようにも出来んなぁ」
ははは、と快活に笑う志貴和尚。
「は、はぁ」
裏腹に勃起を増す息子を押さえんと、有彦は腰をかがめ、手で股間を押さえる。
「どれ、こっちへこい。水をかけてやろう」
「あ、いえ、結構で御座います!」
志貴和尚は有彦の腕を掴み、引き寄せる。
「遠慮するでない、どれ、脱ぐが良い」
「あ、あああっ」
あっと言う間に六尺褌一丁にさせられた有彦は、さらにグイと引き寄せられ
て志貴和尚の胸に倒れこんだ。
「……あっ」
「おっと、暗いぞ、気をつけよ有彦」
逞しい胸板に受け止められ、冷水にまみれた身体が放つ体臭に、さすがの有
彦も我慢が効かずに、一つうめいて大量に射精をした。
腰を突き出すように何度も痙攣し、有彦は六尺褌の中で大量に果てた。
「む」
志貴和尚は様子のおかしい有彦を抱える際に、自分の太股を押し付ける有彦
の強張りに気がついた。
「ほほぅ、寝つけない原因はこれか」
低く笑うと志貴和尚は右手を、有彦の臍のあたりから褌の中に突き入れる。
「ああああ、駄目で御座います和尚様ぁああ」
「ふふふ、出したては敏感じゃからのぅ」
ぬちゃりと音を立てて引き抜かれた志貴和尚の右手には、大量に放たれた有
彦の精液が塗されていた。
生臭いそれを躊躇なく口に含みながら、志貴和尚は月夜に黒く沈んだ顔を綻ばせる。
「悟りを開くには、煩悩を追い払うだけではいかんのだ」
志貴和尚は、有彦を抱きしめて唇を強引に奪う。
にちゃりと音がして、先ほど含んだ精液を、多量の唾液を交えて口移しに有
彦の口腔に注ぎ込まれる。
「ああ、ああ」
恍惚とした表情で嚥下する有彦に、志貴和尚は満足げに頷いた。
「有彦、お主いくつになる?」
和尚の黒い乳首に指を這わせながら、有彦は蚊の鳴くような声で答える。
「十七になります、和尚様」
「ふふふ……十七か、聞くだけで勃起するわい」
志貴和尚は有彦を抱え上げると、愛しそうに、硬く勃起を再開し始めた有彦
の魔羅を滑る六尺褌ごしに撫でまわす。
「さぁ、夜のお勤めだ有彦。わしに火をつけたのだから、責任を取ってふたり
で修行してもらうぞ」
「ああっああっ、和尚様ぁぁぁ」
本堂に横たわった有彦の唇を奪いながら、志貴和尚はゆっくりと片手で六尺
を紐解いていく。灰暗い本堂に唯一灯された蝋燭が有彦の身体を滲むように浮
かび上がらせている。
荒い息遣いが有彦の口と鼻から溢れ出す。
間近でそれを感じ、嗅ぎ、志貴和尚も魔羅を痛いほど勃起させていた。
「和尚様、先ほどから私の臍を突くものが……」
「ふふふ、わしの魔羅じゃ……ほぅれ」
腰を浮かせ、有彦に六尺褌を突き破らんばかりに押し上げる魔羅を見せる。
「こ、こんなに勃起するなんて」
「男子たるもの、六尺を押し上げるくらい勃起させなければ男とは言わん。ま
してや我が寺の者ならばなおさらじゃ」
志貴和尚は有彦の露になった魔羅に右手を寄せて一気にしごき始める。
「ふふふ、有彦、お主は合格じゃ」
志貴和尚は微笑むと、そのまま身体を上下逆にして、ぷっくりと膨らんだ有
彦の魔羅を口に含むや自分の股間を彼の顔の上に晒す。
ジュポッジュポ!
「ああ、和尚様、切のぉ御座いますうっ」
「我慢いたせ、この程度で精を放つなら、睾丸を握りつぶすぞ!」
右手で有彦の魔羅をしごき、亀頭を口に含みながら、志貴和尚は左手で褌を
めくり自分の魔羅を露にする。
「……おおおお」
その大きさ、太さ、長さに有彦は恍惚とうめいた。
ジュポジュポッ!
さらに咽喉の奥まで魔羅を含み、和尚は目を細める。
「この睾丸の汗を含んだ酸味の香り…………たまらぬ」
そのまま志貴和尚は顎と手で有彦の臀部を掻き分け、夜気に晒された肛門に
舌と指を擦り付ける。
「有彦、お主の涅槃は誰かの魔羅を受け入れたことはあるのか?」
涅槃とは、仏教界における肛門の隠語である。
「滅相もありません、私は…………和尚様だけのもので御座います」
「ふふふ、愛いやつめ」
人差し指を有彦の涅槃に捻じ込みながら、志貴和尚は周辺に唾液を落としま
くる。
生暖かい感触と、焼けつくような感触が涅槃を襲い、有彦は堪らず苦痛の声
を上げる。
「……むう」
和尚は眉根を寄せる。
「さすがに、わしの魔羅はまだ入れられぬか」
和尚は有彦の涅槃から指を引きぬくとそのまま舐り始め、少し考えてニタリ
と笑った。
「よし、お前に今日はわしの涅槃を味わわせてやろう」
「お、和尚様!?」
腰を換え馬乗りになる志貴和尚の優しい微笑みに見下ろされ、有彦の魔羅は
ビクンと興奮に身を躍らせる。
「今更聞くことではないが、お主……童貞であろうな」
有彦は頬を染めながら、少し視線を逸らしつつもコクリと頷いた。
その瞬間、志貴和尚が腰を落としたかと思うとものすごい快楽が有彦の下半
身を飲みこんだ。灼熱の臓器が亀頭から魔羅の根元を強くしごく感触が脳髄ま
で走り抜ける。腰を持って行かれそうな感覚に有彦は恐怖に似た感動を覚えて
震える。
「ふぬ! ふぬん! どうじゃ有彦、初めて味わう漢の味は!」
「ああああああ、和尚様、和尚様ぁ!」
騎乗位で責められ、有彦は今宵二回目の射精の予感に臍をひくつかせる。
「ぬう!?」
志貴和尚は有彦の睾丸に手を沿わせる。
「ふふふ、どうした? もう金玉が競り上がってきおったぞ!?」
「ああ、後生です、和尚様!」
その声を聞き、和尚の腰も微妙な締めつけと回転を加え、激しさを増して上
下して叩きつけられる。
「ほうれ! 出せ! 出してしまえ! 貴様の馬臭い精汁をわしの尻子玉にぶ
ちまけい!」
「おお、和尚様っも、もうっ!」
「名を呼べ有彦、愛しいわしの名を!」
有彦の腰がビクンと震え、その手が志貴和尚の腰を押さえつける。
「ああ、志貴様ぁぁあああああああああ!!」
「有彦ぉおおおおおおおおおおおおおお!!」
有彦は大量の精を志貴和尚の涅槃に注ぎ込み、志貴和尚もそれはそれは大量
のほとんど固形と言える精液を有彦の顔面にぶちまけ、互いに抱き合うように
脱力する。
本尊は、そんな二人を優しい微笑で見つめていました。
《つづく》
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