天に漂うような軽い身体がゆっくりと地上の重力に引き寄せられていった。
そして地上に降り立った。
でもまだ体が痺れるような快美感に包まれている。
さっきの絶頂の余韻だけで充分で、これ以上少しでも刺激を受けたら、むし
ろ苦痛ですらあっただろう。
それを見て取ったのか、羽居はゆっくりと松葉崩しの体勢を解除してくれた。
体には触れないようにして私と並んで横たわり、上から顔を近づける。
「蒼ちゃんだけずるい。
だから、わたしのお手伝いしてもらうんだから」
お手伝い?
ぼんやりとしてその言葉を消化できずにいると、放心しているあたしに構わ
ず羽居は実力行使に出た。
あたしの手を取る。
「蒼ちゃん、ちょっと指伸ばして」
素直に羽居の言葉に従う。
その指先が動かされ、にゅるりとした感触の何かに触れた。
濡れて暖かい。
さらに動き指の先端だけでなく。第二関節くらいまで柔らかいものに包まれ
る。
口の中に指を入れたらこんな感じだろうか。
顔をそちらに向ける。
「えっ」
あたしの指が羽居のとろとろになった谷間に挿し入れられていた。
びっくりはしたが、羽居の手でがっしりと掴まれていたし、変に抗わず、羽
居の好きにさせた。
あたしの指は羽居の中をゆっくりと前後し、時には円を描くように動いたり
もする。
「蒼ちゃんの手がわたしを……」
うわ言の様に呟きながら、羽居はすっかり没頭している。
過去にも羽居のそこを触ったり、快感を引き出す為に弄んだりもしたが、あ
くまで外から触れる部分とその上の敏感な突起を攻めるだけで、こんなに奥の
方まで指で探った事はない。
あたしはまだ自らの内奥に男のモノを、それを模した性具や自分の指ですら
受け入れた事はないので、少し怖れを持っていたから。
でも今は、不思議と拒否感を覚えなかった。
それで羽居が喜ぶのであれば、道具として使われても構わないと思った。
それに正直、その感触は嫌悪感を伴うものでは決してなかった。いや、むし
ろ積極的に好ましいと言ってよかった。
女の、いや羽居の中ってこういう感触なんだ、あたしは未知の感覚に幾ばく
か心を奪われていた。
羽居に食べられているのは、人差し指と中指の二本。
かなりきつく締め付けられている。でも、それでいて柔らかいという不思議
な感覚。
圧迫を加えられつつも、周りの肉が絶えずズレ動いている。
手自体の動きとは別に、体の奥の触れている部分が蠢動し、あたしの指を刺
激している。
これは……、気持ち良いかもしれない。
それに羽居の表情。
あくまであたしは指を貸しているだけで、能動的に羽居に対して何かをして
いる訳ではない。だけど、明らかに感じて乱れ始めている羽居の顔を見ている
と、あたしが羽居を愛撫し官能を引き出して、絶頂へと誘っているような気分
になる。
「羽居、気持ちいい?」
「うん。蒼ちゃん、気持ちいい。ねえ、もっとして。蒼ちゃんの指、もっと欲
しいよ」
その言葉の響き、その表情。
急にピクンと何もされていないあたしのあそこにも、電撃のように刺激が走
った。
思わず体が縮こまる。
足の指もきゅっとなり、手も。
そして羽居の中にあった指も、くっと曲げられた。
柔らかい少しざらざらした襞を、軽く掻き毟る形になった。
「ひゃん、なに、蒼ちゃん」
「ごめん」
「ふんん……」
「うん? ……気持ちいいのか?」
「うん、お願い、もっと……」
そう言いながら羽居はさっきよりも激しくあたしの指の出し入れを始めた。
これは、近いのかな。
うん、この表情、体のぴくぴくした動き。
羽居は絶頂を迎えようとしている。
じゃあ、お手伝いしてあげよう。
こうだったかな。
指が羽居の中で動いていて動かしづらいが、さっきのように指を曲げる。
爪は立てないようにして、指先できつい羽居の膣内の襞を掻く。
「いぃぃぃ、あぁ、んんんっっっ」
さっきよりもツボに入ったのだろうか。
怖いほど羽居の体がガクガクと動く。
「強すぎるか、羽居?」
心配になって訊ねるが返答はない。
やばいかなと指を引き抜こうとすると、がっしりと手首を両手で掴まれる。
「やだ、やだ、意地悪しないで。もっと、ねえ、もっとして」
「……わかった」
こんなに真剣な羽居って初めて見たような気すらする。
そうか、それなら遠慮はいらないな。
指を曲げて引っ掻く動きを再開する。
羽居は悦びの表情。
あたしが積極的に動くのに安心したのか、あたしの手首をしっかりと掴んで
いた手を離した。
そして片手が柔らかそうな胸に伸び、先端の乳首を中心に刺激を与える。
もう一方は、あたしの指が呑まれた谷間の少し上、少し顔を覗かせた突起を
包皮の上からくりくりと指で弄くっている。
可愛いな。
夢中で快感を求めている羽居の姿は、魅力的だった。
だからあたしも熱を入れた。
少しでも羽居に強い快感を与える為、最後を迎える羽居を目にする為。
そして、高まり外へ聞こえるのではないかという声で叫んで、羽居は絶頂を
迎えた。
あたしは言いようの無い満足感と共に、硬直して動きを止めた羽居の姿を眺
めた。
◇ ◇ ◇
それからしばらく二人で何もせず横たわっていた。
「蒼ちゃん、どうだった?」
「ああ、確かに慰められたよ」
「よかった。わたしもね、慰めてもらっちゃった」
「羽居、人の事なんだかんだと言っていたけど、おまえさんも寂しかったんじ
ゃないのか、遠野がいなくなって?」
羽居は肯定を表すように、えへへと笑い顔をした。
なるほどね。
「ねえ、蒼ちゃん。秋葉ちゃんに会いに行ってみない?」
「遠野にって、自宅にか?」
「うん。やっぱり顔だけでも見て安心したいよ」
「そうだな」
「お兄さんにも会ってみたいし」
「それはあたしも興味あるな。……行くか」
嬉しそうに頷く羽居。
「うん。いつも蒼ちゃん一人で街に出掛けちゃうし、たまには一緒にお出掛け
してもいいよね」
「そうだな。今度の土曜日か日曜日にでもでも早速」
「うん。わたし秋葉ちゃんに連絡して……」
「やめとけ、羽居」
「なんで?」
「もしきっぱりと断られたら、行けなくなる。
それにいきなり行って驚かせた方が面白いと思わないか」
その時の遠野の驚き顔が目に浮かぶ。
自然と笑みが浮かんでくる。
羽居はあたしが邪悪な笑い顔してるとか評しながらも、賛同した。
じゃ、週末は久々に遠野家探訪だな。
楽しみだなあ。
一方的で悪いけど、連絡一つ寄越さないおまえさんが悪いんだから。
さらに笑みが深くなり、くっくっと声にまで出して小さく笑う。
確かにこれは邪悪な笑みかもしれない。
まあ、そういう事になったからさ、遠野。……覚悟して待っていてくれ。
《FIN》
―――あとがき
椅子とりゲーム参加作品。
設定としては、宵待閑話のさらに後、結局秋葉が遠野の家にというか志貴の
許へ自分から戻っていった後になります。秋葉は秋葉でいろいろあるんでしょ
うが、残された形の二人はどうしているかな、というお話です。
参考文献と言うか、氷室冴子先生の『クララ白書』『アグネス白書』が大好
きで、女子校の寄宿舎などというものに謂れなき偏見が植え付けられています。
あの雰囲気が少しでもある(……無いと思われ)
蒼香はもっと男前な筈ですが、まあ、こんな感じで。
本当はさらに遠野家での話が続いて、「ねえ、秋葉ちゃん、あそこに隠れて
いる男の子誰?」とかなんやかやとありますが、とりあえずここまで。
読んで頂いてありがとうございます。レズものって難しかったです。
by しにを (2002/3/17)
《つづく》
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