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「羽居……?」
「えへへ、ね?秋葉ちゃんもしちゃってるよ……独りで」


 その言葉でようやく蒼香もこの音の正体を理解した。
 同室の寝入っているはずの秋葉がいつの間にか目を覚まし、そして……ベッ
ドを慣らすほどに激しい自慰に耽っていると。

「と……遠野が……そんな……」

 蒼香はあっけの取られる思いであった。遠野秋葉といえばその兄以外にはス
キがなく、こんな痴態を人に気取られることは決してない少女だと蒼香は思っ
ていた。同じ女性の身体を保つ以上性欲がないとはいわないだろうが、それで
もこんなにあからさまには……と蒼香は思う。
 だが、羽居はのほほんと笑って蒼香の頬にキスをした。

 その間にも、秋葉の自慰は続いていた。耳を澄ませば秋葉の秘裂を指が割り、
愛液をまとわりつかせる音すら聞こえそうな気がする。

「秋葉ちゃんも、えっちなコトしたい気分なんだね……私たちと同じ」
「そう……なのか?」
「くすくす……ね?蒼香ちゃん?大丈夫だから……しちゃお?」

 羽居はそう言って、蒼香の脚の間に自分の脚を割り込ませる。
 蒼香の身体の上に被さって、羽居は太股に蒼香の秘裂をこすりつける。同じ
ようにして、自分の秘裂も蒼香の太股に宛う。

「動かしても……大丈夫だから……」
「羽居……ぁ……あああ……あ……」

 羽居が下半身をスライドしだし、自分の濡れた秘部が肌に擦り上げられると
蒼香はうっとりとした声を上げる。身体の下だから積極的に求めることはでき
ないが、それでも柔らかい羽居の太股により密着させ、快感を漁ろうとする。
 羽居も、腰を使いながら与える快感と与えられる官能に酔いはじめていた。
次第に羽居もスライドを深くし、エスカレートさせる。

「蒼香ちゃん……ね……気持ちいい……」
「羽居……いいよ……ぁああ……んんー……」

 二人は腕と腕、脚と脚を絡め合って快感に身震いする。
 漏れる息は快感の吐息であり、触れる肌はお互いの熱で溶けて汗ばむ。
 やがて動きが激しくなり、蒼香も、羽居も喘ぎ声を上げる。

「羽居……あああ……きちゃう……はっ、はっ、は……」
「蒼香ちゃん……イかせてあげる……だから……」

 羽居はぐっと蒼香の身体を強く抱きしめる。
 抱きしめられた蒼香は、腕と唇を羽居に求める。
 二人はひしと強く抱きしめ合い、そして震えながら――

「あああ……羽居……ひゃ……ぁあああ……」
「うあんっ、んっ、あああああ!……ぁぁん……」

 ベッドの上で、絶頂の快感に震える蒼香と羽居。
 そして二人ははーはーはー、と荒い息をつきながら、お互いの身体の存在を
その腕の中に確かめていた。やがて、快感の鋭い高まりは和らいでいき心地よい
疲労感が広がる。
 お互いに顎をお互いの肩に掛け合い、胸と胸、お腹とお腹、脚と脚をぴった
りくっつけながらしばし余韻に浸っていると、そっと羽居が尋ねる

「蒼香ちゃん……」
「ん?」
「んふふふ……ちゃんとイけた?」

 そのあからさまな問いに、蒼香はわけもなくうろたえる。

「ば……馬鹿、そんなこと……いや、ちゃんと」
「そう……よかったねー。私も久しぶりだったよー、こんなに気持ちよかったの」
「……それはよかった」

 二人とも身体を離すこともなく、ベッドの上でじっとしていた。
 いつの間にか秋葉のベッドの方からも音はしなくなっていた。どれほどの時
間、お互いを求め合っていたのか蒼香にも、羽居にも分からない。

「羽居……一つだけ良いか?」
「……いいよ、蒼香ちゃん」
「おれ、上のベッドに戻らなくて良いかな?」

 そう言ってぎゅっと腕に力を込める蒼香に、羽居は破顔一笑すると――
 顔を向けて、蒼香の頬に軽くキスをする。

「うん、おやすみなさい……」

             §           §

「おはーよー、秋葉ちゃんー」
「うっす、遠野、早いな」

 寄宿舎の食堂で独り黙然と食事をとっていた秋葉の傍らに、トレイを抱えた
蒼香と羽居がやってきていた。朝食の時間で寮生が集まりはじめ、カウンター
に並んで整然と朝食を受け取ってそれぞれの席に向かう。

 同室の秋葉は一足早く食卓に着き、目の前にべーグルとサーモン、サラダと
いった朝食を広げている。蒼香はと羽居は仲良くその向かい側に並び、似たよ
うなメニューのトレイをテーブルに下ろす。
 秋葉はそんな同室の二人を一瞥すると、やや遅れて口を開く。

「おはよう。蒼香、羽居。ご機嫌はよろしくて?」
「ああもう、お前に心配されるほどもなく万全」
「今日はご機嫌なのー、えへへー」

 仲むつまじく並んで朝食を共にするこの同室のでこぼこコンビを、秋葉は何
とも言えない不思議に咎めるような色の瞳で見ていた。
 おもむろに牛乳のコップに口を付けていた蒼香が、そんな秋葉の煮え切らな
い不機嫌な態度に気が付いていた。首を傾げて顔を覗き込むと、一言。

「……あ、悪い。お前今日はあの日……」
「そんなことじゃなくってよ、蒼香……その、二人とも」

 秋葉はベーグルを手に持ったまま、何と言い出したら分からないもどかしさ
の中にいた。うー、と秋葉は唸ると、周囲を見渡してから背を丸めて小声で喋る。

「二人とも……昨日の夜にあんな事を……」
「あー」
「あー」

 真っ赤になって俯く秋葉と対照的に、蒼香と羽居は二人とも口を開けて奇妙
に納得したかのような、間の抜けた顔で合唱する。
 蒼香も秋葉に遅れて赤面して、フォークを持って気もそぞろにサラダをかき
混ぜる。秋葉が何を言いたいのかを気が付いた蒼香だったが、それ以上は恥ず
かしくて尋ねる気にもなれない。

 だが、ぽかーんと口を開けた羽居はこんな二人を見つめて、ふふふふーとな
にやら得心した笑いを浮かべる。そして口を開くと……

「秋葉ちゃんも独りでするのはもったいないよー、ね?今度は一緒にする?」

 その瞬間、蒼香も秋葉も仰天してうつむけていた顔を跳ね上げる。
 蒼香は眼を見開いて思いも寄らぬ大胆な発言を吐く羽居を見つめるが、口が
凍り付いてしまったかのように何を言ったらいいのか分からない混乱に襲われ
ている。

 一方の秋葉は、手に持ったベーグルを取り落としているのも気が付かずに硬
直している有様だった。周囲の目は秋葉のいつもは見せない困惑の態に気が付
き、ひそひそとお互いに耳打ちする声が聞こえる。

「な……ぁ……そんな……」

 秋葉の口から漏れるのは、そんな意味をなさない言葉であった。
 秋葉より先に正気に返った蒼香はやおら、羽居のほわほわの頭めがけて――

 ぺしっ!

「いったーい、蒼香ちゃんなにするのー」
「羽居!お、お、お前という奴はこんなお日様が高いのになんちゅうことを!」
「えー、まだ朝だよー。お日様は東の空からのぞくぐらいなのにー」
「誰がそんなことを聞いた!んなことじゃなくって!うぁぁぁ!」

 周囲の奇異の瞳に気が付き、これ以上羽居を叱りつけるととんでも無いこと
を口走りそうな蒼香は焦りと苛立ちで逆手に持ったフォークでぐりぐりとサラ
ダをかき混ぜる。
 羽居は頭を抱えてふにゅーん、と半泣きの顔になっていた。そんな羽居が口
を開いて蒼香と羽居に言った科白と言えば……

「えー、だって、やっぱりきもちいいことは一緒にしないとだめだよー」

 またしても悪びれない、天然に大胆極まる発言に絶句する蒼香。これは、朝
の清々しい寮食堂でする話題ではない。
 そしてその言葉を聞いたか聞かずか、遅れて意識を取り戻した秋葉も口を開
いて――

「私だって……私だって一人でするのなんか嫌よ!」
「遠野!お前も混乱しているからこれ以上口を開くなっ!」
「じゃ、今晩は三人一緒だねー」
「ぉら!お前が一番口を開くなぁぁ!羽居ぃぃ!」

 ぺしぺしぺし!

 蒼香が不穏な発言を止めない羽居を続けざまに叩いていたその時、テーブル
の向かいから蒼香と羽居に声が掛けられた。

「おはようございます。月姫先輩、三澤先輩?」
「お?瀬尾か、おはよう」

 蒼香はがしっと羽居の頭を掴んだまま、中等部の友人に声を掛ける。
 そこに立っていたのは、中等部の制服の瀬尾晶だった。手には同じ様な朝食
のトレイが握られている。
 ぐりぐりと頭を押さえつけられた羽居がふにゅーと鳴きながら挨拶する。

 秋葉はちらりと晶を眺めると、嬉しいのか困っているのか分からない曖昧な
表情で目配せをする。晶はそんな先輩の秋葉に恭しく頭を下げる。

「おはようございます、遠野先輩。お隣に座っていいですか?」
「よくってよ、瀬尾」

 高等部の女帝・秋葉の脇に座りたがる生徒は居ないので傍らの席は空座で
あった。そこに一礼して晶は座る。
 蒼香も羽居もしばし動くのを止め、晶を見守った。晶は席に座るとすっ
と手を伸ばして秋葉の腕を取った。腕を掻き抱く恰好になった晶は熱のこもった
瞳で秋葉を見つめる。

 え?――と蒼香が首を捻るまもなく……

「遠野先輩……昨日の夜は素敵でした……」
「「えええええええええ!」」
                              《おしまい》