「あいつ……人の気も知らないで!」
アルクェイドの行動に苛立ちを覚えながら、志貴は部屋を飛び出していた。
玄関を抜け、外に出る。迷わず自分の部屋の階下に立ち、そこから見える森
に向かってまっすぐに走り出す。
深い森の中、志貴はアルクェイドの姿を求めて走る。
空には、満天の月。あまりにも月が大きく、星の光も届かない。
そんな中を、志貴は走った。
そして、ふと前方に、僅かに開けた広場。
アルクェイドは、その入り口でにこにこと笑いながら立っていた。
「アルクェイド……」
志貴は呼びかける。その体に近付こうとする。が……
「ふふふ。おいで、志貴……」
アルクェイドはぴょんと後方に飛びすさり、そのまま後方の闇にとけ込んでゆく。
「ま、待てよ、おい……」
志貴は、その行動に慌てて後を追う。
木々の間を、まるで散歩をするようにアルクェイドは進む。
こちらは地面に脚をとられながらも必死に追いかけているのに、ちっとも追
いつけないでいる。
そのもどかしさが、いっそう志貴を焦らせていた。
「く……そ……っ!」
地面から生え出た根に脚を突っかからせて、前のめりに転びそうになるのを
必死でこらえる。
そうして、一瞬目を離したスキに……
アルクェイドの姿は、闇に完全に見えなくなっていた。
その姿を失い、立ち止まる志貴。
その時、初めて自分が息が上がっているのに気付く。
「ハァ……ハァ……」
聞こえるのは自分の呼吸。
ドクン……ドクン……
そして自分の心音のみ。
その音を聞き、酸素の欠乏した脳に響き渡る最悪の感覚。
「……同じだ」
そう、それは夢の中の情景と全く一緒だった。
見渡す風景も。
必死に追いかけている自分も。
ただ1点違う事は、白馬と、アルクェイド……!?
「違う……アル……クェイド!!」
アルクェイドの姿が、白馬のそれに完全に一致してしまう。
そして、思い出したくもない夢の最後を……思い出してしまっていた。
「違う!」
思わず最悪の結論を思い浮かべてしまい、大声で否定する。
その瞬間、あの夢の全てが理解できてしまっていた。
「あれは……ただの夢じゃない……だから、夢の通りになっちゃダメなんだ!!」
志貴はそう叫ぶと、ただ先も分からず、全力で駆け出していた。
はぁ……はぁ……
どのくらい走ったのだろうか
はぁ……はぁっ……
もう、とっくにダメになりそうだった。
でも、走る事を止めたら夢が現実になりそうで。
「ダメだ……ダメだ!!」
動かす脚を、止める事が出来ない。
自分が事切れる前に、アルクェイドを見つけださないといけない。
志貴はそう感じていた。
そうして、またあの広場に戻ってきた。
その入り口をくぐると、真ん中には……アルクェイド。
「志貴、おいで」
両手を広げ、微笑む彼女。
真祖の姫に天使の微笑み。
志貴は、衝かれた様にその両腕の中に飛び込む。
「どうしたの、志貴?なんだか可愛い……」
アルクェイドはそう言うが、俺はその体を力強く抱きしめた。
なのにアルクェイドは面白がって、その抱擁をするりとほどくようにして抜
けると、また奧へ行こうと、体を翻らせた。
「アルクェイド……!」
志貴は、残されていた力を振り絞り広場の出口でその姿に追いつくと、その
体を背後から力一杯抱きしめた。
「ちょ、ちょっと……志貴……」
志貴の意外な力に、僅かに抵抗するようにアルクェイドは身をくねらせるが
「ダメだ!行かないでくれ!!」
「志……貴……」
その迫力のある声に気押されてしまい、その抵抗を止めてしまう。
「行……かないでくれ……」
気付くと、志貴からは震えた声色。それは声を出す事を失いかけたように、
弱々しい。しかし、心の底から振り絞るような声。
それは、泣いているように……
「志貴?」
その声に驚き、アルクェイドは振り向こうとするが、それさえも許されない
ようにして抱き締められる。
「……分かったんだ、夢の意味が」
「え?」
背後から抱きしめられながら、志貴の告白を受ける。
「お前に……どうしても言えなかったその夢の続き……」
志貴は一瞬言葉を止める。が、意を決したように話し出す。
「絶対に、白馬はつかまえられなくて……そして……」
ぎゅっと、アルクェイドを抱く力が一段とこもる。
「俺の前から……消えて……いなくなってしまうんだ」
志貴の独白。
「白馬は、夢の中での象徴だって分かっていた。触れられない事も、消えてし
まう事も、俺の不安の産物なんだって……でも、それを認めるのが恐かったんだ」
アルクェイドはまだ訳が分からないでいた。
が、次の一言で、全身を射抜かれていた。
「それは……アルクェイド、お前なんだ」
びくりと、志貴が抱いた腕の中でアルクェイドが反応する。
「え……わ、たし……?」
アルクェイドは驚き、顔だけを何とか志貴の方に向けた。
「一緒に……一緒になれたのに、お前が……お前がいつか突然、何事もなかっ
たかのように俺の前から消えていなくなっちゃいそうだと思うと……」
それ以上言葉が続かない。見れば、志貴はきつく閉じた目から涙を流していた。
アルクェイドは、自分の行為を深く恥じた。
自分の奔放さが、志貴をこうも苦しめていたとは
繋ぎ留めてやらなくちゃいけないのは、自分ではなくて志貴の方だったのだ
志貴の前からいなくなった時、自分は志貴の事を本当に愛していると気付いたのに
どうして今、自分から志貴を悲しませるような事をしてしまったのだろう
真祖の姫と呼ばれていた頃には決して感じえなかった感情
それを教えてくれたこの愛おしい人に、私はなんてことをしてしまったのだ
そう思うと、胸が張り裂けてしまいそうだった。
「なぁアルクェイド……あの時みたいに、急に俺の前からいなくなっちゃった
りしないよな?」
志貴は決してその手を離すまいと、ギュッと体を抱きしめてきた。
アルクェイドは、自分の胸の前で合わされた両の手を包み込むように手を重ね
「うん……大丈夫だよ。私は、いつまでもあなただけのそばにいる……」
同じように、その手を強く抱きしめてあげた。
「アルクェイド……!」
ふたりは、その体温を確かめ合うように、深く抱き合っていた。
青白い月の下
志貴は、決してアルクェイドを離さない。
アルクェイドは、決してこの人を二度と泣かせてはいけない。
そう誓っていた。
そうして、どのくらい時間が経ったのだろうか……
志貴はゆっくりと、その腕の力を緩めた。そうして
「アルクェイド……今ここで、お前を抱きたい」
決意のように、そうアルクェイドに告げた。
一瞬、アルクェイドは言葉を詰まらせた。
しかし、それは拒否のための思案ではなかった。
ゆっくりと頷くと
「うん……いいよ……志貴の、好きなようにして」
決意のこもった、一言だった。
「アルクェイド!」
志貴は、もう一度強くその体を抱く。そして、回した腕の先にあるふたつの
膨らみを強く掴み、揉み出した。
「あっ……ん……」
普段は痛がる素振りを見せるアルクェイドも、それが今の志貴の気持ちだと
分かっているので、決して嫌がらなかった。
逆に、愛されている事の証であるこの痛みまでもが、甘美に思えてくるよう
になった。
「ああ……志貴……」
掴まれるようなその感触に、思わず声が出てしまう。
その声にアルクェイドの気持ちを悟った志貴は、がむしゃらだった力を緩め、
優しく胸を愛撫する。
先程素肌の上に直接付けていたセーターの上から、そのふたつのまろみの頂
点にある蕾を探し出す。見つけだすと、それをふたつの指で摘み、転がすよう
にする。
「んんっ……!」
アルクェイドが上半身をくねらせ、快感に震えた声を上げる。
しかし、志貴はそれだけでは満足できず、そんな余裕もなかった。
早く、抱きたい。
早く、証が欲しい。
早く、一緒になりたい。
自分でも明らかに良くないとは分かっていながらも、愛撫の手を止め体を軽
く離すと、アルクェイドのスカートを掴み、一気にお尻の方までめくり上げて
しまう。
そのまま、自分のズボンから十分にそそり立ったペニスを引きずり出すと、
アルクェイドの腰を前から回した手でぐっと引き寄せる。そして、その中心に
狙いを定めるやいなや、一気にそれを押し込んだ。
「ああああっ!!」
いきなりの深い挿入に、アルクェイドは大きな声を上げる。
先程の愛撫で僅かに濡れてきた膣壁だったが、大きな志貴を受け入れるには
まだ十分とは言えない愛液の量だった。
だが、志貴はそれを考える余裕を失っていた。奧まで突き上げると、一気に
激しく動き出す。
「あっ!志貴!そんな、いきなりっ!あああっ!!」
困惑しながらも、アルクェイドの膣はそんな志貴の攻めに女の本能で対応し
ていた。その激しい動きに合わせて、内部が収縮する。
「あっ!志貴!激しい!!」
そのふたりの体の密着した野生の交わりには、テクニックなど存在しなかった。
志貴はただ腰を打ち付け、アルクェイドはただそれを受け止める。
死が迫った動物のように、ただ交尾を目的とするかのようなその動き。
ただふたりは、互いの体を感じているだけだった。
志貴はその行為に没頭し、いつしか迫り来るその射精感に、一秒もこらえよ
うとはしなかった。
「い……ク、アルクェイド!」
《つづく》
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