「志貴、本当に見たいの? そうなの? うーん……、なら、いいよ。興味あ
るし。とりあえずどうすればいいの?」
「正しい手順なんて知らないけど、とりあえず服脱いでくれないかなあ。そっ
ちの方が見てて楽しい」
素直にアルクェイドが一枚一枚衣服を脱いでいく。
もう少し躊躇いが欲しいなあと贅沢な不満を持つが、さすがに口にはしない。
黙ってその肌を露わにする過程を楽しむ。
いつもなら途中で手を伸ばしてしまう処であるが、今回は絶対に手に触れな
いでいようと心に誓う。
せっかくその気になってくれたのに途中で中断させたら勿体無い。
それにしても、このお姫様の一糸纏わぬ姿。
月並みな表現だけど、言葉を失うような美しさ。
何度見ても目を奪われる。
このアルクェイドと、俺は何度もしているんだよなあ……。
自分でも信じられない。
アルクェイドの少しほんわかした雰囲気が無ければ、気後れしてとても手が
出せない存在かもしれない。
ほれぼれと眺め、自然と溜息が洩れる。
「綺麗だな、アルクェイド」
「え、ええ。何で」
「何でってなんだよ」
「だって志貴って、普段そんな事言わないじゃない。なんだろう、なんか恥かしい」
「そうか。でもいつもそう思ってるんだけどな」
俺の正面からの視線に晒されるのが恥かしいのか、ぷいと顔を逸らしてぐるっ
と後ろ、ベッドの上へ飛び乗る。
そして、体育座り。
「ええと、じゃあ、いつも俺としてて感じる処、胸とかあそことかを自分の手
で弄って刺激を与えてみて」
うん、と頷いて、アルクェイドの手がそっと動き始める。
そして、目の前でこの上なく甘美で艶かしいショーが始まった。
……のだが、どこか、その思ったのと違う。
何と言うか意外に盛り上がってくれない。
アルクェイドもどこか想像していたのと違っていたらしく首を捻っている。
「ねえ、志貴、本当にこれでいいのかな?」
「うーん、良い筈なんだけど」
やり方は違っていないよなあ。
右手が胸をゆっくりと揉んでいる。
片手では全然おさまらない量感溢れる胸が、アルクェイドの手によって波打
ち歪み、形を変えていく。
拡げた指の間からこぼれ落ちるのではないかという様子が何とも言えず息を
呑ませる。
だが、何か足らない。
時折、指の先が薄ピンクの先端を弄くるが、乳首は縮こまったまま。
左手はと言うと。白く見える茂みを越えて秘裂に伸びている。
膝をほとんど開いていないのでよく見えないが、ぎこちないながらも指で擦っ
たり中を探ったりと休む事無く刺激を加えているのがわかる。
なまじはっきりと見えていないだけに、かえってアルクェイドの手の動く様
が魅惑的に目に映る。
それなのに……。
うーん、個々の行為自体は立派なものなのに、全体としてみるとそれほど淫
靡な感じが漂って来ない。
「あまり、楽しくないけど……。もう少し続けてみればいいのかな?」
それでもアルクェイドは言われたとおりに指を蠢かす。
俺は腕組みしてそれを眺めていた。
何が悪いんだろう。
「やっぱり志貴の手じゃないと感じない」
ぽつりとアルクェイドが、独り言の様に呟く。
それを聞いて気がつく。
「アルクェイド」
「何? やっぱり何処か変だった?」
手が止まる。
「いや、動きはそのままでいい。
いいか、今、おまえの胸とか太股とかそのもっと奥とかを触っているのはお
まえじゃない」
「えっ?」
「おまえの事を今触っているのは、おまえでなくて俺だ」
「志貴の手?」
「そう。手はおまえ自身の手だけれど、それをしているのは俺だ。
俺がアルクェイドの胸を今みたいに潰したり、乳首を弄ったり、花びらを掻
き分けてもっと奥に指を挿し入れたりしているんだ」
「……」
「俺の手がいつもみたいにアルクェイドに触れている、そう思ってみろ。そう
思ってまた手を動かしてみて」
「志貴の手が私の事を……」
自分に言い聞かせる様に呟くと、アルクェイドの動きが再開される。
心なしかさっきより熱がこもっている。
アルクェイドの白い裸体が自分の指に慰められている様を、またじっと見守る。
違う。
さっきまでとは明らかに違う。
肌が僅かに色を帯び、どこか熱気を漂わせ始めている。
ほとんど平常と差異がなかった表情が、戸惑いを浮かべている。
さっきまで如何にしようと反応しなかった体が、今アルクェイド自身の指の
動きに何かを感じている。
「あ、志貴。さっきと違う……」
「それでいいんだ。続けて、そしてもっと思い出すんだ。今まで俺としてきた
事を。された事を」
「志貴と、私、いっぱいした」
「そうだな。それを思い出せ。どんな風に触られたか、どんな風に指が動いた
か。前にされた事が今またされているんだ。
どんな時どんな事をされて一番感じた? 一番鮮明に憶えているのはどんな事?
初めて俺とアルクェイドが結ばれた時はどんなだったかよく憶えているだろう?」
暗示をかける様に囁きかける。
もう聞こえていないか。
目は開いているが、目の前のものが目に入っていないようだ。
己の中のみを見ている。
身体がひくひくと動き、熱にうかされた様な上気した顔をしている。
指だけが別の存在の様に片時も休まず動き続けている。
ゆっくりと、早く。強く激しく、軽く優しく。
時折潤んだ目が何かを探して、俺の方を見て止まる。
アルクエイドの中の俺は、いったいどんな事を彼女にしているのだろう。
アルクェイドの体が絶頂めがけて突き進んでいるのがわかる。
服を脱いでいた時に起こった、アルクェイドの体に手を出したくなる衝動が
より強く湧き上がるのを、必死に止める。
どうせなら、このままアルクェイドが自分自身の手によって最後の高みに到
達するのを見てみたい。
苦しげにも見える表情。
止まらぬ手、白い指。
片時もじっとしていられない様に震え、ピクピクと動く身体。
仰向けになっても形の崩れない大きな胸がぶるぶると揺れる。
足の指が時々きゅっと丸まる。
白い指で拡げられ襞を掻き分けられて、アルクェイドの花園の深奥が曝け出
される。
鮮やかなローズピンクの複雑な重なり。
充血し精一杯咲き誇り、奥から滴る甘露を受けて濡れ光っている。
目の前の魅惑的などの部分にも触れた事があり、舌で感触を味わっていない
未開の場所は無い。
それだけに、その甘美な肉体に触れてはいけないとの自分で入れた縛りが耐
えがたく思える。
アルクェイドの白い指が、ある時は大胆に激しく動き、またゆっくりと繊細
に自分の敏感な突起や襞を擦るのを、ただ生唾を飲み込みつつ眺める。
ある意味、蛇の生殺しの様な拷問。ただしこの上なく甘美な拷問。
視覚からの刺激だけではない。
耳から入って脳髄をかき回すようなアルクェイドのあえぎ声と水音にも似た
湿った指が奏でる音。
激しく官能を刺激させられる、「志貴……」とうわ言の様に何度も呼ばれる
俺の名前。
甘い、それでいて艶かしい香り。
目に見えぬ何とも言えず淫靡な雰囲気。空気。
魔眼によって魅入られた様に、ただ魂を奪われてアルクェイドの姿を見つめる。
さっき自分で処理していなかったら、ただこの光景を目にしているだけで、
情けなくもこちらが先に絶頂を迎えていたかもしれない。
すっかり復活してかちかちになりつつも、何とか堪えていられる。
「あ、やだ、変。志貴……」
怯えた様な声。アルクェイドがこちらを潤んだ瞳ですがる様に見ている。
「大丈夫だよ。傍で見てるから。このまま続けて、アルクェイド」
「うん……。あ、あああっ、んん……」
指がいっそう激しく踊る。
ピアノの演奏みたいだなとふと連想する。
口からは絶えず押さえ切れぬ嬌声が洩れる。
「ああ、志貴、もうダメだよ……。 んん……」
言葉が声として発せられなくなる。
そして、指が止まった。
アルクェイドの身体が一瞬反り返り硬くなる。
そしてゆっくりと力が抜けて行くのがわかる。
ぎゅっとつぶった目が放心したように開かれる。
泣きそうにも見える表情。
イッたのか……。
何度も、絶頂を迎えたアルクェイドの姿は見ていたが、それともまた異なっ
ていた。
他動的に最後を迎えるのと、自分自身の手で果てるのでは、違うのだろうな。
「志貴……、凄かった……」
「綺麗だったぞ、アルクェイド」
アルクェイドはぼーっとした目で俺を見ている。
身体がひくひくと痙攣した様になっていた。
ただ横たわっているだけなのに、さっきまでの行為の残滓故か、淫靡に見える。
もう黙って見ていられなくなった。
手を出さずにはいられない、限界だった。
そっと、盛り上がった胸の裾野に手を触れ、そこから脇腹を経てすーっと腰、
太股のラインをなぞる。
軽く手が触れただけだったが、アルクェイドはびくりと過剰に反応する。
「やだ、志貴、止めて」
「どうして」
「なんか、電気が走るみたいに、あああーーっ」
《つづく》
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