嵐の夜に
〜『カサンドラの微笑』第三章「慟哭」より〜
作:しにを
※前回までのあらすじ※
浅上女学院内で、次々と起こる怪異な事件。
瀬尾晶との会話でそれを知る遠野志貴。志貴はそれを語る晶の中に不思議なほどの怯えと諦観の色を見る。
そしてそれから毎夜、志貴は同じ夢を繰り返し見るようになるのだった。
それは知らない土地の何でもない景色の断片……。しかしそれは禍々しい何かを志貴に感じさせた。
晶と再び会った時に現れた異形を退けた志貴は、突如発現した晶の未来視から、自分が夢の中で見ていた処が晶の故郷と知る。
真実を求めて旅立つ晶と志貴。
しかしそれは晶が秘めていた思い出、未来視の力を持つが故の悲劇、忌み子として排斥された過去に触れる旅でもあった。
平穏さを消した街、二人に迫る危機、蘇る追憶の過去。その中で志貴は妹の様に思っていた筈の晶への、本当の想いに気づく。
目に見えぬ敵の手から脱出し、山道の奥、晶の家の山小屋へ逃げ込む二人。
そして夜の帳が下りた……。
§ § §
外の荒れ狂う風とは対照的に、志貴と晶の間には沈黙が続いていた。
二人共言葉を失い、ただじっと押し黙っている事しか出来なかった。
晶はさっき目にしたものに衝撃を受けて心を閉ざしており、志貴はそんな晶
に掛けるべき言葉を見つけあぐねていた。
こんな時、気の利いた言葉の一つもかけてやれない。
志貴は自嘲しつつ小さく溜息をついた。
「志貴さん」
「うん?」
小さい声が志貴の耳に届く。
気をつけていなければ気づかない程度の大きさであったが、張り詰めた今の
空気の中では叫び声の如く感じられた。
「……大丈夫ですよね」
「ああ、大丈夫だよ」
お互いに「何が」と言う部分にあえて触れない。
志貴はあらかじめ考えていた言葉を口にした。出来るだけ考え深げに説得力
をもって。
出来るだけ晶を安心させようとして。
「狙われているのは俺とアキラちゃんだ。二人共あそこから消えたんだから、
あれ以上の被害は出ないよ。
もし奴らがここに現れたら、それはそれで今度こそケリをつける」
志貴は晶を見つめた。
「……絶対にアキラちゃんは俺が守るよ」
「はい」
僅かとは言えほっとした様な響きを感じるのは自分の欲目だろうか。
そう志貴が思って横目で晶を窺った時、くしゅんと小さく晶はくしゃみをした。
「寒いよな、アキラちゃん」
ぽつりと呟く。
晶も機械的に「はい」と答える。
「こんな格好だからしかたないけど。下着だけしか……、あっ、しまった」
夢から醒めた様に晶は志貴の顔を見つめ、目が合ってしまい急に真っ赤になる。
志貴はまずい事言ったなあと苦笑する。
せっかくアキラちゃんも意識しなくなっていたのに、と。
横の壁を見れば、晶と自分のさっきまで来ていた服が吊るしてある。
ずぶ濡れになった布地からぼとぼと雫が垂れるのが、ようやくおさまっている。
その為、部屋が暖まる迄と、下着姿のままで二人で一つの毛布を肩から被っ
ている状態。
改めて今の半裸の姿を再認識して、晶は志貴の体から微妙に遠ざかろうとする。
剥き出しの肩が毛布から外に出てしまう。
「風邪ひいたらいけないからじっとしてなさい」
わたわたとしている晶の肩をそっと抱く様にして志貴は体を引き寄せた。
とりあえず晶はおとなしく志貴に寄り添う。
「もうすぐ服も乾くと思うから」
「そ、そうですね」
「一晩休んで巻き返しを図ろう」
「はい……」
そうだ、今は束の間の安息の時。
明日は何が待っているのかわからない。
じわじわと不安が湧いてくる。
それに気づき苦笑する。
いつだったか学校で出かけて暴風雨の中、同じ様に山小屋に閉じ込められた
事があったっけ。
あの時は、もっとあっさりしていた様に思う。
死にたくは無いけど、何か起こったとしてもそれはそれでかまわないと思っ
ていた。
今と何が違うのだろう。
それは家で待っている秋葉達であり、今一番近い処にいるこの少女の存在だろう。
この不安は遠野志貴自身に対してでなく、それ以外の何かに対してのものだった。
守るべきものがあると……などと陳腐なフレーズが耳に浮かぶ。
でも、その後は相反する二つの言葉で結ばれるんだよな。
強くなれる、あるいは弱くなる。
自分はどちらだろう。アキラちゃんがいて、強くなるのだろうか、それとも
逆だろうか。
そんな事を志貴は、ふと考えていた。
不思議だな、と心の中で呟く。
いつの間にこうなったのだろう。
可愛い妹みたいに思っていた少女の存在がこれほど大きくなって。
命がけで戦って逃げて、今こんな処に二人で過ごしている。
その前にはお互いに相手を求めて、裸で最後の一線を越えかけ……。
「そうだ。そう言えばこの前なんか下着姿どころじゃなくて全部……」
ああ、しまったと志貴は内心で舌打ちする。
物思いにふけって考えなしに口に出してしまった。それもとびきりまずいのを。
なんでこう失言を連発するのだろう。
でもこの前は、あのまま邪魔さえなければアキラちゃんと……。
いやいや、今この場で思い出す様な事じゃないよなあ。
アキラちゃんも思い出しているのかな。
顔が真っ赤になっている。
「ごめんね、変な事ばかり言って。女の子がこんな格好して恥かしい思いをし
ているのはわかっているのに」
「いえ、大丈夫です」
あまり大丈夫そうでない顔のまま晶は答える。
そのままじっと考え込んでいる。
何考えているんだろう?
しかし、こっちもまずいな。
改めて晶ちゃんの事意識して、寸前まで進んだこの前の事なんか思い出すと……。
おさまれ、おさまれってば。
志貴が我が身との静かな戦いに没頭していると、どこか決意を露わにした顔
で晶が口を開く。
「志貴さん、あの、この前の続き……」
「え、あの、何かな」
「続きしたいですよね……」
「……」
即答は出来なかった。肯定にしろ否定にしろ。
ゆっくりと志貴は答えた。
「それは……。正直に言うと、あのまま進むのが怖かったのは本当だよ。寸前で
邪魔が入って良かったという気持ちと、あそこで中断させられて残念な気持ちが
半々くらい。うーん、うまく言えないけど」
「あの、それでその……、今……。志貴さん、そういうお気持に、その、体が……」
言いながらどんどん晶は真っ赤になっていく。
それと対照的に志貴はどんよりとした表情に転じていく。
「気づいたよね、そうか」
「はい……」
ちょっとだけ逃げ出したい気分。
でも無理もない。自分の好きな少女とこうしてお互いに下着姿で一つの毛布
に包まって体を寄せ合っているのだ。
能動的にどうと考えている訳ではないが、自然と体が反応してしまう。
変じゃない、変じゃないぞ。
志貴は必死に自己弁護を心中で試みる。
「変な事考えているんじゃないんだ、自然現象みたいなものだから。ごめんね、
でも怖いよね」
あまり下半身に欲情の印を示している男の傍にはいたくないだろうなあ。
「志貴さんがその気があるのなら、私は……」
「……。無理しなくていいんだよ、アキラちゃん」
「無理してなんかいません。何もしないでこうしているとどんどん不安になってきて。
それにもし、このままどうにかなってしまったら、絶対心残りになると思います」
「それは、俺も同じだけど」
「こんな二人共ずぶ濡れになってロマンティックじゃない処で結ばれるのなん
て、ちょっと抵抗ありますけどね。
なんだかこんな非常時にわざわざ変な事して殺されちゃうB級ホラーのカッ
プルみたいだし……」
そんな事を言ってから晶は真顔になり、正面から志貴を見つめる。
怯えと懇願がその瞳にある。
「私からお願いしないと駄目ですか?」
ここまで言われて躊躇する事は出来なかった。
志貴は決意した。
「俺、アキラちゃんを抱きたい。アキラちゃんが欲しい」
「私も志貴さんにしてほしいです」
じっと目を見詰め合う。
――本当にいいの?
――はい
そんなやりとりが目でもかわされる。
頷くと志貴は毛布を取ると傍らに広げた。
ささやかな寝台遊戯の舞台代わりとして。
どちらからともなく唇が近づく。
触れるか触れないかの微かな接触。
何度かそうやって羽毛の如き軽いキスを繰り返す。
それから少し強く。
小鳥の啄ばみのように。
そしてまた、少しだけ強く。
唇を合わせたまま動きを止める。
しばらくそうしていて唇同士を擦るように動く。
僅かに開いた口から舌先が覗き、相手の唇に振れ、ちょんと舌同士を触れ合
わせる。
それが合図と言う様にそれまでの軽めのキスから、互いに舌を絡ませあう濃
厚なそれに変化をとげる。
しばらく口腔での交戯を続け、そのまま志貴は晶の肩を抱き、そっと広げた
毛布の上に横たえた。
幾分緊張を湛えながら晶はじっとしている。
絡めた舌を離し、志貴は一人上半身を起こした。
今の内にパンツを素早く脱ぎ捨てる。
晶の姿をじっと見つめ心に刻んでから、志貴は晶の傍らに横たわった。
震える晶の体を、心配をほぐす様に軽く抱き締める。
この前はここまでだったな、と思うと緊張を覚える。
自分が躊躇してちゃいけないなと、志貴はよどみなく晶の背中を探りホック
を外す。
プツンという音が聞こえ、恥かしそうに晶は顔をぷいと横へ向けてしまう。
志貴はあえてそれを追わずに、かわりに目の前にある耳に唇を寄せた。
耳たぶを唇に挟み軽く噛む。
「あ、やだあ」
晶の甘い声。
今度は舌での愛撫を加える。そしてそこから動き、耳の穴の周辺を舌でなぞる。
しばらくそれで晶に甘い悲鳴を上げさせると、うなじを手で刺激を加えながら、
ゆっくりと首筋を舌で這い、鎖骨の窪みへと到る。
子供っぽい体だと思っていたが、こうしているとそれなりの艶かしさを感じる。
胸へと進攻を開始し、胸を覆っていたブラジャーをさっと外してしまう。
「ああっ」
決して大きくはない、おそらくは同じ年頃の女の子と比べても小さいであろ
う胸が露わになる。
そのささやかな白い胸、先端が初々しいピンクに染まっている。
「可愛いよ、アキラちゃん」
志貴は率直に感嘆を込めて口にした。
本当に可愛いなと改めて思う。
寒い地方での生まれの為か、普段隠されている部分の肌が抜けるように白い。
少し縮こまり背を幾分丸める様が狐か猫みたいに小動物めいていた。
もっと明るい処でじっくりと見てみたいと思う。
アキラちゃんは恥かしがって許してくれないかもしれないけれど。
壊れものに触れる様にそうっと志貴はその肌に触れた。
その慎ましやかな丘陵に掌を置く。
小さく硬く見える未発達な膨らみであったけれど、すっぽりと覆っている手
に弾力と何とも言えない柔らかさを伝えてくる。
力を入れていったら何処まで押し返してくるのか。
指先に力を込めたら何処まで沈みこんでいくのか。
試したくなる誘惑を志貴は必死に抑える。
まだそうした行為に慣れぬ体には苦痛しか与えないだろうから。
もっと優しく胸にに手を胸に置いたままゆるゆると右に左に、上に下に、円
を描く様に動かす。
掌に収まった左の胸がそれに伴ってぷるぷると撓み形を変える。
その柔らかさ、手に伝わる晶の鼓動、晶の表情、洩れ出る吐息。
志貴もそれによって高まっていく。
手だけでは足らなくなり、唇を寄せる。
左胸は手にまかせ、空いている右の胸の先を口に含む。
「ひんっ」
いきなりの行為に晶が悲鳴をあげる。
ぴくと体が動く。
しかし、志貴はすぐには動かず、ただ唇で乳輪を軽く抑えて感触を楽しむの
みにとどめ、依然として手だけを動かした。
ただし今度は掌の刺激ではなく、指を動かす愛撫を繰り出す。
指の腹を幾分強く使って、胸の丘陵を何度も登っては降りる。
裾野からループを描くように動き、山頂の突起をつんと突付きこねてはまた
下へと戻る。
そんな行為を続けている内に、胸の先は硬くなり、つんと勃起するのが目に
見えてわかるようになった。
同時に直接的にはほとんど刺激を与えていない筈の右胸も、ゆっくりと口の
中で頭をもたげ始める。
少しだけ尖った乳首を唇で噛み挟み、そのくびきを解いてまた胸の先全体を
口をすぼめて吸い、そしてまた乳首だけを攻める。
唇の動きに合わせて舌が時に強く押し付けられてちろちろと蠢き、そして優
しく軽やかに羽のようにくすぐる動きを行う。
晶はその間ずっと声を押し殺すようにして、耐え切れずにくもぐった声をあ
げていた。
その様子を見て志貴は少し強めに舌と手を駆使する。
歯を立てて乳首をかりと噛んだ瞬間、耐え切れず晶は悲鳴を上げる。
「志貴さん、やだ、そんな……、あああっ」
《つづく》
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