「……ずるいよ、朱鷺恵さん。自分ばっかり」
「え?」
ようやく見つけだした言葉に、朱鷺恵さんは少し驚いた表情を見せた。
「……俺だって初めてだった。でも、朱鷺恵さんの事を気持ちよくさせたいと
思う。なのに自分ばっか俺に気遣って、俺には気遣わせてくれないんですか?」
俺は、素直に想いをぶつけた。これで終わり、だったら絶対に許せなかった。
「だから、今度は俺にも気を遣わせてください。さっきは……ダメだったけど、
今度は頑張って、朱鷺恵さんにも気持ちよくなって貰いたいんです」
捧げてくれた嬉しさと、このままだと後悔しそうな自分に、自然に口を衝い
て出た言葉だった。
朱鷺恵さんは驚いた表情のまま、それを聞いていた。が、ゆっくりとその顔
をいつもの微笑みに変えると
「うん……、お願い……志貴君……」
そう言って、俺に体を預けてきた。その瞳には、微かに涙が浮かんでいたようだった。
ゆっくりと、二人を繋げているモノを抜く。
「あっ……」
朱鷺恵さんの膣から出る瞬間、軽く声があがる。そして、僅かに紅く染まっ
た精液と愛液の混合物が、蓋を開けられてごぼりとたれ落ちる。
「痛い?」
朱鷺恵さんは頭を振る。そして恥ずかしそうに
「ううん、違うの。志貴君のが出ていく時に、また変な感じがして……」
そんな風に言われて、改めてそこを見やる。
その粘液の動きが淫靡で、更にぬらぬらと光る自分のモノが糸を引いて離れ
るその光景は、あまりにも刺激が強かった。
ペニスは、今放出したばかりだがまだまだ足りないらしく、十分に固さと大
きさを保っていた。すぐにまた挿入できる程だが、そんな過程を飛ばした行為
には及べなかった。
めちゃくちゃだけど、順番にしたかった。
朱鷺恵さんへの気持ちは強く、自分を冷静にさせてくれているようだった。
余裕を持てる程でもないけど、ちゃんと愛したいという想いで一杯だった。
「朱鷺恵さん……」
顔を上げ、正面に映るその顔をじっと眺める。視線が交わり、そして意を決
して顔を近づける。
ゆっくりと、その唇に触れた。
「ん……」
塞いだ口から朱鷺恵さんの声が漏れる。少し強弱を付けて押し当てて、その
弾力を確かめる。
改めて通じ合って触れたからか、温もりがじんわりと広がる感じに、嬉しさ
がこみ上げてきた。もっと、もっと喜ばせたい。そんな包み込んであげたいと、
非力ながら思った。
唇を触れあいながら、右手で髪を撫でる。手に通すとサラッと流れて、絹糸
の美しいカーテンが出来る。
目をつぶっている朱鷺恵さんの顔と、ピントがずれて髪の曲線。美しすぎた。
このまま触れあうだけで幸せだったけど、すこしずつ、先に進みたいと思っ
た。もっと繋がれるキスがある。それを試したかった。
唇を僅かに開き、その間から自分の舌先を軽く差し出す。そのまま、触れて
いる唇をなぞる。
「ん……!」
朱鷺恵さんが一瞬震える。反射的にか離れようとするが、追いかけて後頭部
に手を添える。そのまま、唇の周縁部を触れるようにして、合図とする。
しばらくすると、ようやく朱鷺恵さんの唇の強ばりが解ける。軽く開いた唇
にすかさず舌を滑り込ませて、まだ合わさる歯をなぞる。
「んっ」
くすぐったいのか、朱鷺恵さんが軽く喉をならす。舌先でその並びを確かめ
るようにする。綺麗に並んだそれを舌が滑り、付け根まで軽く触れる。
やがて、閉じられていた門はゆっくり開き、そこから控えめに舌が蠢き出す
のを感じた。瞬間、俺は朱鷺恵さんの口腔奥深くまで舌を滑り込ませていた。
「んん……」
奧に眠っていた雛を呼びさますように、優しく舌で合図を送るようにする。
朱鷺恵さんは始め、遠慮がちに俺のそれに触れていた。が、一度その互いの
熱さが分かると、緊張が解けたように動いてきた。
それに合わせて舌をゆっくり戻し、自分の口腔に導く。
「はあっ……」
合間にあがる声が、少しずつ興奮を帯びているようだった。それは自分も同
じだが、何とか理性が保てた
そうして、互いの唾液を送り込み、飲み下す。ぴちゃぴちゃといやらしい音
が静かな部屋に響くようで、それが興奮を高めた。
名残惜しいが、一度ゆっくりと唇を離す。とろりと、二人を繋げる銀の橋。
「あっ……」
ゆっくりと瞳を開きながら、朱鷺恵さんの潤んだ表情を見つめる。
朱鷺恵さんは真っ赤になりながら俯く。
「イヤ……なんだか志貴君、巧すぎ……ほんとに初めてなの?」
「だって……そうしたいって思ってたから、自然に……」
「私も、そうなってた……」
テクニックを凌駕する気持ち。それがふたりの間に繋がっていた。
もう一度、ゆっくりキスをする。
そのまま、右手をゆっくり背中に回して、位置を入れ替える。そうしてゆっ
くり横たえ、朱鷺恵さんを布団に寝かせる格好にした。
「恥ずかしい……」
「俺も……緊張してます」
改めて、行為に及ぼうとするその逆転した立場。共に緊張が見られた。それ
を振り切り、ゆっくりパジャマに隠された膨らみに手を添える。
「あっ……」
朱鷺恵さんが控えめに声をあげる。パジャマの下には何も付けていなかった。
布越しに、朱鷺恵さんの柔らかい胸が掌に吸い付く。その先端に固く当たるも
のを感じ、それを撫でるようにして揉み出す。
「はっ……うん……!」
感触が、異常だった。今までのどれにも形容できない柔らかさ。考えていた
イメージは、一瞬で崩壊する。
無心で、その胸をこね回す。上着は手を動かすたびに乱れ、その下の形状を
否応なしに表す。一番上のボタンはいつからか外れていて、そこから上る熱気
と香にクラクラさせられる。覗く鎖骨がいやらしく、欲情させられる。
「上……脱がしますよ」
答えを聞く前に既にボタンに手をかけていた。普段と違う行為に戸惑いなが
ら、一つずつ外していく。
3つほど外したところで、汗に光る谷間が目に飛び込む。光が反射し、あま
りにも美しすぎ、淫靡だ。手が慌てるが、何とかして全て外し終える。
ゆっくりと手をかけ、その邪魔者を取り去る。朱鷺恵さんも体を僅かに浮か
し協力してくれて、その全貌を明らかにした。
「朱鷺恵さん……綺麗です」
目の前に愛する人が生まれたままの姿でいる。
恥ずかしさに胸の前に軽く手を合わせ、俺を見つめてくる。
「恥ずかしい……私ばっかりじゃイヤ。志貴君も脱いで」
言われて、僅かに残っていたTシャツを脱ぎ捨てる。原始の姿で、互いに見
つめ合う。
ゆっくりとその腕をどけ、双房を見つめる。小さい訳でなく、それでいて仰
向けでも形の崩れない張り。先端で息づくピンク色の蕾。
俺は迷わず、その頂点に唇を寄せた。
「ああんっ……」
しっかりと自己を持った感触。それを啄むように甘噛みし、跳ね返る弾力を味わう。
朱鷺恵さんの体は罪だ。男をこんなに狂わそうとする。
「志貴君……気持ちいい……ん」
一度唇に戻り舌を重ね、今度は先程されたように首筋にゆっくりと舌を這わ
せる。軽く朱鷺恵さんの汗の味がしたが、心地よい味に感じて、まるで体から
染み出る媚薬のようだった。それが俺を興奮させている。そんな気分だ。
されるがままに朱鷺恵さんは声を上げ、シーツに捕まるようにしている。そ
の手の一つを握り、俺の顔に導く。指が俺の顔の形状を確かめるように動く。
やがて唇に来て、その奧まで探り出そうとする。俺は差し込まれる指を舌で愛
撫する。そうするだけで
「んっ……」
指にも性感帯があるかのように反応する。
乳首の愛撫に戻り、今度は軽く歯で引っ掻くようにする。朱鷺恵さんが
「あっ、ああ……」
と反応し、頭に持ってきていた手で胸に押しつけるようにする。顔全体に当
たる感触に陶酔してしまいながら、最後に一度強く吸い付いて、顔を下に持っ
ていった。
「あ……」
朱鷺恵さんはぴったりと足を閉じている。見られる羞恥心からだろう。
先程まで積極的に俺を導いていたとは思えない。攻守が逆転して、一気に弱
々しい女性の姿になっていた。
それが愛おしく感じる。でも、大事な人のその部分を確かめたい、その想い
で両膝に手をかけた。
抵抗は、僅かだった。自分の中での葛藤がそのまま力となっていったのだろう。
「大丈夫……」
俺がそう言って、弛緩させた。ゆっくりと脚を割り開く。
遂に、その部分にたどり着いた。
先程まで俺を受け入れていた、その部分に。
美しかった。
本当にさっきまでの事が嘘であったかのように、秘裂はぴったりと閉じ合わ
さっていた。
「はずかしい……」
視線を感じて、朱鷺恵さんが消え入りそうな声で言うが、初めて見るそれに
目を離せなかった。
もっと見たい一心が、更に脚を割り開かせる。
ゆっくりと閉じ合わさった裂け目を開く。
そこで、夢心地に現実が見えた。
先程までの繋がっていた名残。
合わせ目からしみ出している、僅かな血と精液。会陰部に伝わるそれは、グ
ロテスクに、リアルに俺達が先程までしていたセックスを肯定するものだった。
「朱鷺恵さん……ごめんね、我慢してたんでしょう……」
そう言い、俺はその合わせ目にゆっくりと顔を近づけた。
「いやっ、恥ずかしいっ……!」
俺の突然の行動に、朱鷺恵さんはそう言って脚を閉じようとする。だが、既
に間に頭を滑り込ませているから、俺の頭が両側から押されるだけだった。
俺は朱鷺恵さんの腰を掴み、下がってしまわないように軽く押さえながら、
その合わせ目に口づけをした。
「やだっ……汚いよっ……」
朱鷺恵さんはイヤイヤと拒否するが、そんな気持ちは微塵もなかった。むし
ろ、先程まで自分が汚してしまっていたのかと思うと、清めてやらなければな
らない存在だと思うほどだった。
口に混じる、血と愛液と、精液と思われる味。だがそれは全く嫌悪を抱く対
象でなかった。むしろ愛の結晶のようで、嬉しい味にも思えるほどだった。清
める行為に没頭するように、奥に進むようにする。
「んっ……あんっ……」
腰を引く抵抗がないと見て、腰に回した片手を合わせ目にあてがう。開くよ
うにして中をのぞき込み、奧に舌を突き入れるようにする。
舌で探検するようにして届く限界の最奧。血の味の濃いような部分を感じ、
そこを重点的に舐める。
「志貴君……やだっ、変な感じ……そこっ……!」
朱鷺恵さんの反応が次第に大きくなる。痛みではない、新たな感覚に戸惑っ
ているようだった。
舌で攻め入るにも狭い膣。さっきまで俺のモノが入り込んでいたなんて思え
ない。まるでねじ込むようだったのではないか、そう思うほど舌でさえも跳ね
返される感触があった。
それを隅々まで調べるかのように、秘裂への浄化とも言える愛撫を続ける。
「ああっ……あっ!やだ……」
朱鷺恵さんの腰が、動いているようだった。舌が動くのに合わせて、壁をす
りつけるような動きが起こっていた。
「朱鷺恵さん、気持ちよくなってる?」
唇を僅かに外し、俺は訪ねる。
「わからない、わからないけど、何か変……さっきとは違う感じなの……」
朱鷺恵さんは熱にうなされるように、その秘裂を妖しく蠢かせながら答える。
「きっとそれが、気持ちいい証拠なんだよ。ほらっ」
そうして、今まで触れなかった合わせ目の上部、先程から鼻先が触れてヒク
ついていたその部分に唇を触れた。
刹那
「……ああっ!」
ぎゅっと頭を強く挟み込むようにして、朱鷺恵さんが硬直した。俺も一瞬分
からなかったが、それは朱鷺恵さんが強く感じた証拠だ。先程まで清めていた
部分から、今度は透明な液体が沢山溢れ出してきた。
「……朱鷺恵さん」
俺はそれを舌ですくうようにして味わう。その間にも朱鷺恵さんは啼き、喘
いでいた。ぴちゃぴちゃと、新たな音を加えて愛撫すると、感極まったようだ。
「ダメ、おかしくなっちゃう……!」
そう言ってまた大きく仰け反って、それからゆっくりと弛緩した。
もう、きっと二人とも十分だった。
さっきから俺のモノは、その存在を主張し、どこかに収まりたいといきり立
っていた。理性で押さえつけるのは、もう限界だった。
「朱鷺恵さん……行きます……」
まだ遠くにいるのか、朱鷺恵さんは虚ろな表情だった。
脚の間から体を起こし、顔を近づけてキスをしてあげると、焦点が俺に合っ
た。朱鷺恵さんは頬を赤らめ、ゆっくり頷いて
「うん。今度は、私を志貴君のものにして……」
そう、小声で言ってくれた。
その一言が、俺の中で一気に爆発した。
俺はペニスをその入り口にあてがうと、腰をゆっくりと突き出すように挿入した。
ぬるりとした感触が、少しずつ俺自身を包んだ。
「あっ……入ってくる……入ってくるよ……」
朱鷺恵さんは、少しずつ進入する俺のモノを感じていた。手はシーツを掴み、
まだ痛いのだろうか、目を閉じていた。
俺はその手に自分の手を重ね、そうして俺の背中に回した。朱鷺恵さんはぎゅっ
と俺にしがみつき、俺は受け止めるようにしながら、同時に腰を深く深くに進めた。
そうして、一番奥まで到達した時、ふと朱鷺恵さんを見ると、閉じた瞳の縁
から涙が流れてた。
「痛い……の?」
俺は気遣うようにして聞いた。痛い想いはなるべくさせたくないから、少し
腰を引こうとした。が、逆に朱鷺恵さんは脚を俺の腰に巻き付け、離そうとし
なかった。
「ううん……違うの」
朱鷺恵さんはゆっくり目を開けて、今まで以上の笑顔で俺を見た。
「嬉しくって……ずっと、こうなりたかったから。志貴君に抱かれてるって思っ
たら、なんでだろう……あはっ」
「……!?」
その笑顔と台詞に、俺のココロは一気に沸騰してしまった。
「んっ!」
キスをする。すぐに舌を差し入れ、絡ませる。
そのまま、腰を律動させ始めた。
ゆっくり引き、また差し込む。まだ何にも知らなかったけど、こうする事で
気持ちよくなれると体が勝手に動いた。
テクニックなんてもちろん知らないから、ただただ前後させるだけ。それでも、
締め付けてくる膣の動きは物凄く、十分過ぎるほど気持ちよかった。
「あんっ!志貴君のが、動いて……気持ちいいよ……」
痛みはほとんど無いようで、朱鷺恵さんも声を上げる。
「あっ……ああっ……うんっ……ゃ……ん……」
動かす度、いくつもの音色で朱鷺恵さんが喘いでいる。その声に翻弄されそ
うになる。
奥歯を噛み、出そうになるのをこらえていたが、未だ慣れない強烈な感触に、
限界はあっという間に訪れようとしていた。
「ごめん……朱鷺恵さん……気持ちよくしてあげるって言ったけど、もう限界
かも……」
動かなくても十分気持ちいい膣で、俺は最後の時が近いのを感じる。
「私も……何かこみ上げてきて……おかしいよっ……ああ!」
朱鷺恵さんも何かが迫っているようだった。せめてそこまで連れて行ってや
りたくて、必至に耐えながら腰を打ち付けるようにした。
「ああっ!志貴君、何か変だよっ!」
朱鷺恵さんが強く収縮する。同時に俺もそれに従って飛びそうになる。
「朱鷺恵さん……」
俺が朱鷺恵さんを強く抱きしめると、朱鷺恵さんも俺を抱きかえし
「来て、志貴君。膣に」
そう言うと、それが引き金になったように
「ああっ、ダメ、ダメ!」
一気に朱鷺恵さんの膣が収縮した。あまりに強いその運動に、今まで耐えて
いたモノが、全て爆発した。
ドクン、ドクン!
膣の最奧に突き刺して、俺は果てた。朱鷺恵さんの収縮するその動きに合わ
せて、精液を送り込む。
「あ……あ……あ……」
精が送り込まれるたびに、朱鷺恵さんが反応する。
「……あ……志貴君……」
涙を流し、朱鷺恵さんが俺の名を呼ぶ。抱きしめ、存在を誇示した。
「幸せ……」
そう言うと、朱鷺恵さんはゆっくりと力が抜けていった。まだ収縮は収まら
ず、体を離すが結合部はまだ吸い取るような力で、俺を離してない。
やがて、大きな波が次第に収まると、朱鷺恵さんの膣の収縮も解け、俺はゆっ
くりとそのモノを抜き出した。
物凄く、幸せだった。
満たされていた。
愛する事が出来たんだ、その思いが、俺を安心させていた。
朱鷺恵さんに重ならないように布団に横になると、目を閉じた。
ちょっと、眠ろう。そう思った。
朱鷺恵さんは目を閉じて、眠っているように見える。
満たされた想いは、俺を急速に夢の世界に誘っていった……。
「……し……ん」
「ん……」
遠くで、誰かが呼ぶ気がする。
「……志……貴君」
ああ、俺の名前を君付けで呼んでるから、きっとこれは朱鷺恵さんだな。た
まに夢に出てきては俺をからかってたからなぁ。
……って、朱鷺恵さんだって?
「あ……」
そこで、目が覚めた。
「もう、いくら呼んでも起きないなんて、頑張りすぎだよ」
見ると、俺の顔を覗き込むようにして朱鷺恵さんが笑っていた。
「朱鷺恵、さん……」
それは違う、と言おうとしたけど、それもあるかも知れないと思った。
「おはようございます……」
「ふふっ、まだ夜は明けてないわよ。でも、おはよう、志貴君」
ようやく辺りを確認すると、確かに外はまだ暗いようだ。
朱鷺恵さんはパジャマを着て、すぐ横に座っていた。対照的に俺は眠ったま
まの格好……つまりは裸だった。何だか気恥ずかしくなる。
「どのくらい、眠ってました?」
シャツを掴み、被りながら聞く。
「そうね……私はすぐに目が覚めて、志貴君が寝てたから起こそうとしたけど、
寝顔が可愛かったからずっと眺めてたかな。それからずっと呼びかけてたから……」
「……寝顔って」
「うん、綺麗だったよ」
「そうじゃなくて……」
自分でも赤面しているのが分かった。朱鷺恵さんに無防備に寝顔を見られた
のは不覚だった。かなり恥ずかしい。
「どうしたの?」
目を反らして照れ隠しに俯いていた俺を追うように、覗き込んでくる。
「いいです……ところで、どうして起こそうと思ったんですか?」
「あ、そうだ。これからどうしようかな、と思って……」
含みのあるような表情と言い方で、朱鷺恵さんが訪ねてくる。
「どうしようって……」
こんな夜中にどこかで歩く訳にもいかないし、さっきまであれだけ動いてた
から体も汗だらけで……汗か。
「そうですね……良かったら、シャワー浴びませんか?」
「えっ……?」
ちょっと意外そうに朱鷺恵さんが答える。
「ほら、さっきまで……してたから、お互い汗かいただろうし、そのままにし
ておくと良くないじゃないですか……」
口に出して、改めて眠る前までの事を思い出し、少し照れながら答える。
「……そうね。じゃぁ、行きましょう」
《つづく》
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