毎日のように二人は離れに来て愛し合った。
 初めは行為のたびに痛みを感じていた秋葉も次第に女の歓びを知ることがで
き、秋葉が慣れてきたと感じると志貴はだんだん大胆に行動するようになって
きた。
 また、秋葉もより深い快楽を求めるようになり、志貴の望む行為を自ら示す
ようになっていった。

「秋葉、今日は一緒に風呂に入ろうか」

 志貴の提案に秋葉は頬を真っ赤に染めながらコクンと小さく頷くと、その場
でするりと衣服を脱ぎ始めた。
 泡まみれでお互いの身体を弄り合う。ぬるぬるした感触で全身を愛撫される
とどれほど気持ちが良いだろうか。そんな想像をしながら一糸纏わぬ姿になる
と、二人は手を繋いで風呂場へと入っていった。

 またこんな時もあった。
 志貴がいつもの時間に遅れて離れに到着し、言い訳をしながら障子を開ける
とそこには素っ裸で股をこちらに広げて自慰をしている秋葉の姿があった。
 呆然とその行為を見つめる志貴に対して妖艶な目つきをしながら秋葉は言った。

「遅れた罰です。兄さんのも見せて下さいね」

 二人の行為は、侍女の琥珀と翡翠には秘密にしていたが、恐らく彼女らに気
付かれていただろう。それは秋葉も志貴も感じていた。なぜなら休みの前日な
どは行為に没頭し、うっかり次の日の昼頃まで離れで寝ていたこともしばしば
あったからだ。
 しかし主人に対してそれを咎める侍女がいるはずもない。
 夜になると琥珀と翡翠は自然と部屋から出なくなり、志貴と秋葉はひっそ
りと離れへと消えていくのが日常になった。

「秋葉さま、最近すっかり女らしくなられましたねぇ」

 朝食の準備を終え、微笑みながら話し掛ける琥珀にそんなことはないと秋葉
は軽く否定した。
 志貴はなんと言っていいか分らずに黙って紅茶を一口を飲んだ。

 だが、日に日に女らしい身体つきになる秋葉を自分も含めて誰もが認めていた。
 腰や尻のあたりがふっくらとした肉付きになり、堅くて小さかった胸も少し
は大きく柔らかくなった。
 肌のつやも以前とは異なった輝きを放つようになった。
 そして幸せな毎日を過ごしているため、以前よりも格段に笑うことが多くなった。
 今も心からこの朝食のひとときを楽しんでいる。
 そんな秋葉を琥珀は本当に嬉しそうに見つめていた。



  §



 その日も、いつものように離れの和室で二人は愛し合っていた。
 既にに部屋は蒸々とした熱気に包まれており、薄い香の香りと饐えた雌雄の
匂いで充満していた。

 志貴はその日何度目かの射精感を感じて、腰の動きを早めながら自分の下で
快楽に身を委ねて陶酔している秋葉に向かって話し掛けた。

「あっ、秋葉っ……はぁはぁっ……もぅ、出すぞっ」

その言葉に反応したのか、秋葉はその開かれた両足を持ち上げ、いまだ激しく
動き続ける兄の腰に巻きつけた。

「ダメっ……はぁはぁっ……まだダメですっ……」

 兄の腰の動きに合わせて同じように激しく揺さ振られていた秋葉は、より深
く繋がるために自然とそのような行動にでた。
 それに対し志貴は、腰の動きに制約が付いたとはいえ寸前まで迫って来てい
る射精欲求にもう耐えることが出来なくなっていた。

「すまんっ……秋葉出るッ!!」

 ずんっと大きく垂直に腰を落とすと、その勢いに弾き出されるように志貴の
陰茎から白濁した液が発射され、秋葉の膣内で炸裂した。膣粘膜にピタリと包
まれた男根はビクッビクッっと数度痙攣し、その度に志貴の頭の奥で何かが白
く弾けた。
 秋葉も自分の子宮に熱湯を浴びせられたような感覚を得て、軽く絶頂を迎え
た。二人は暫く繋がったまま深く深く乱れた呼吸を整えようと新鮮な空気を求
めて息をついた。

 今日は何度達したのだろう。いつもより回数が多いような気がする。
 それになんだか行為も激しい。二人ともペースが上がっている。

 志貴は未だ秋葉と繋がったままの結合部に再び血が通い始めるのを感じなが
ら、漠然とそんなことを考えていた。だが彼の思考能力はとっくに奪われ、そ
れ以上深く考えることは出来なかった。ただ、秋葉を愛する時間がまだある事
が嬉しく思えた。

「兄さん、また大きくなってきてます」
「あぁ、秋葉のことを思うとすぐにこうなっちまうんだ」
「…………嬉しい」

 秋葉は自分の中で達した兄が、またすぐに回復していることを自らの膣内で
感じ取っていた。ムクムクと大きく熱くなっていくそれは兄の自分への思いに
他ならない。秋葉は兄のその行為に女の幸せを感じていた。

「今度は私が兄さんを喜ばせて差し上げます。……兄さん、寝ていただけますか」
「ああ」

 秋葉の言葉の意図を理解すると、志貴はその二人の汗と体液でじっとりと湿
った布団に横になった。むっと蒸した空気が顔を包み込む。今まで下にいて激
しく乱れた秋葉の体臭が彼の鼻腔をくすぐった。

 逆に秋葉は起き上がって志貴の体の上に跨った。上から兄を見下ろすと彼は
自分の方を期待に満ちた目で見つめているようだった。秋葉の行動を黙って待っ
ている兄の姿を見ていると、今まで感じなかった嗜虐的な感情が芽生える。

「ふふっ、兄さん。今度は簡単にイってはダメですよ」

 そう言うと秋葉は股を広げて志貴の股間に向かって腰を下ろし始めた。

「兄さんの、もうこんなに堅くて熱い……」

 志貴の陰茎を手で垂直に支えると、自分の陰唇にそれをあてがい前後に擦り
つけた。半腰の体勢のまま、クリトリスから大陰唇の端まで幾度も素早く動か
し続ける。その度に先ほど膣内に出された精液と、新たに滲み出した愛液がぴ
ちゅぴちゅと音を立てて志貴の男根に降り注いだ。

「あぁッ……」

 その姿は兄のペニスを使った秋葉の自慰行為だ。
 秋葉はその行為をそれと認めていたが、過去に自室で行っていたそれとは全
く異なっていた。一人で自分を慰めるそれとは違いこれは兄そのものだ。そし
て兄のものをシゴきながらすることによって、また兄を悦ばせることも出来る
のだ。それは二人オナニーと言ってよかったのかもしれない。

 兄を思って幾度自分を慰めただろう。何度行為を終えて自己嫌悪したことだ
ろう。
 しかし、そんな思いをすることはもうない。今、目の前には兄がいる。望めば
いつでも自分を愛してくれるのだ。兄のどんな小さな愛撫も、自分でするそれよ
り何倍も気持ち良いのだと秋葉は知った。

 ……余りにもその行為に没頭していたせいだろう。激しくその手を動かす秋
葉に、さすがに志貴が耐えられなくなって言った。

「秋葉……入れる前に出ちゃいそうだよ……」
「あっ! は、はい! すいません兄さん!」

 慌てて手を止める秋葉。このまま二人果ててしまっても良かったのだが、や
はり最後は中で出して欲しかった。

「……では、行きますね」

 真っ直ぐに聳え立つ志貴の男根に、人差し指と中指を使って左右に広げた自
分の女陰を押し当て、ゆっくりと腰を落とす。べったりと濡れそぼっていた陰
部同士は対した抵抗みせずにずるりと収まった。
 それからどちらともなくゆっくりと動き始めた。

 ぶじゅっ!ぶじゅっ!
 志貴の上で秋葉が上下する。二人の腰がぶつかり合う度に結合部からは秋葉
から漏れ出す愛液が音を立てて飛び出し、ぱんっぱんっと肉の弾ける音が響いた。
 秋葉のその長い髪は大きく広がり、小振りな胸は自己主張するかのようにプ
ルプルと上下に激しく揺れた。

 志貴はそんな秋葉を下から見上げるのが好きだった。
 滑らかなラインを持つ秋葉の体はまさに女体美と呼ぶのに相応しく、尻から
腰、腰から背中、そして首筋に至るまで、完璧な曲線美を誇っていた。
 その小さな胸も好きだった。小振りでも柔らかく形良い、美乳と呼ばれる類
いのものだったし、そのそそり立つ乳首も色、大きさともに美しく愛らしかった。

「あぁっ、兄さんっ、兄さんっ!」

 その秋葉の身体が自分の上で跳ねている。上気し汗だくになった熱っぽい身
体がゆらゆらと揺れる。
 ふと気が付くと、志貴は奇妙なものを見ている気がした。

「紅い……?」

 秋葉の髪が紅く染まってきていた。秋の紅葉のように始めはうっすらと、し
かし徐々にその色は全体に広がっていく。
 秋葉はそれに気が付いていないようだった。恍惚の表情を浮かべ行為に没頭
している。
 志貴は何かおかしいと思った。しかしそれが何かは分らなかった。
 なぜなら、とっくに本能は麻痺していたし、理性もそんな些細なことを考え
るのをやめていたからだ。
 ただ、髪を真っ赤に染めた秋葉がそこにいる、という事実があるだけでそれ
以外は何も問題はなかった。

 秋葉は普段とは考えられないほどの性欲と快楽が自分を支配していくのを感
じた。しかしそのことに疑問を持つ事はまったくなかった。それどころかその
快楽をさらに貪欲に求めた。
 不思議なことに今日はいくらやってもまったく疲れることも衰えることもな
かった。これならばもっともっと兄さんを悦ばせることができる。それが秋葉
にとって全てだった。

 志貴は気づいていなかった。激しい行為のため、かけていた眼鏡がずり落ち
て布団の隅に転がっていることを。だが志貴の眼にはあの忌むべき死の線は見
えていなかった。ただ映るのは愛しい秋葉の姿だけだった。

「兄さん、なんて蒼い……キレイな眼……」
「秋葉、……なんて綺麗な紅い髪……」

 志貴は上半身を起こし、秋葉に口付けを求めた。
 秋葉もそれに答え、二人は上下の唇で激しく求め合った。
 お互いがお互いをより求め合うかのように、密着した状態で背中に手を回し
て強く抱き合った。それでも快楽を求めるために二人は動きつづけることをや
めなかった。

 ぼんやりとした意識の中で志貴は思った。

『秋葉は琥珀さんの血を飲んでいたときに言っていた。別に必要なものは血で
はないと。ただ血が最も栄養価の高いものだから採取しているのだと。

 ならば精液はどうなのか?
 精液も栄養価の高い体液だ。しかも同姓の血液よりも秋葉は進んで俺の体液
を求めるだろう。
 もし、行為の最中に秋葉は無意識で精液を取り込んでいたとすれば。

 そうすれば、秋葉の身体は活性化し、その命と繋がっている俺の生命も活性
化する。
 ……つまりは循環しているんじゃないか』

 なんだか可笑しかった。もしかしたら無限循環で二人ともずっとこのままで
いられるのかと想像してしまった。
 そんなことには決してならないはずなのに、妙に今の状況がそれに似ていた。
現に志貴の身体はさっきから活性化し、体力も気力も精力も十二分に満ちていた。

 ただ志貴は嬉しかった。このままずっと秋葉とこうしていられるのだ。
 あとはもう考えるのをやめた。ただ秋葉をどうやって悦ばせようかという考
えだけが志貴を支配した。

                                          《続く》