「我慢なさらなくていいんですよ、秋葉様」

さらに琥珀の指が強からず弱からずそこを撫であげる。

「くうううっっっ」

もはや、声を出す事すら崩壊につながりそうだった。

「もっと素直になられればよろしいのに。いっそ獣まで堕ちてみましょうか」

言いながら琥珀が秋葉の左の太股を持ち上げる。
下半身を外に晒す形になるその体勢。

「こうなると、まるで犬と同じですね」
「い、、、ぬ、、、?」

四つ這いになって片足を高々と上げて。
ああ、犬なんだ、私。

「もう、我慢なさらなくていいんですよ?」

駄目押しとばかりに琥珀は、くりくりと動かしていた指の腹を曲げ、爪先を
より強く尿道口に押し当て、一瞬の間を置いて、つま弾くように刺激を与えた。

それが秋葉の限界だった。
ほんの微かに間が開いて、しんとした部屋に水音が響いた。
こんな格好で、人が見ている前で……、琥珀と翡翠に……。
人間としての心は千々に乱れ、絶叫したくなる恥辱に支配されたが、別の秋
葉はじらされじらされて解放された甘美感に浸っていた。
そうしている間にも、放尿は続き、水溜まりを作って、やがて止んだ。




「気持ち良かったですか、秋葉さま?」

そっと柔らかい布で優しく、まだ滴っている雫をぬぐいながら、あさましい姿
をさらして放心している主に対し、琥珀は先程と同じ言葉を掛けた。
不思議と邪気を感じさせない、日常での会話の時のような声。
いつものようにニコニコと笑っている顔が浮かぶような。

「ええ、気持ち良かった」

思わず秋葉も本心を吐露した。

「それはよかったです。そうやって素直になさっている秋葉さまなら、志貴さ
んも虜になりますよ」

忘我の中にいた秋葉は兄の名を聞いて、体を強張らせた。

「こんな時に、兄さんの名前を出さないでよ」
「すみません。でも…」

意味ありげな沈黙。
数秒が長く長く感じられる。




「でも、なに?」

耐え切れずに秋葉の方から問い掛けてしまう。

「秋葉様のお姿に、志貴さん、ひどく感動なされているようですよ」
「えっ」

頭の中が白くなる。全てが爆発して霧散したような空白。

「な、に、をいってい、、、るの」

言葉がうまく出てこない。

「ですから、先程からの秋葉様の可愛らしいお姿を見て、志貴さんは感極まっ
ておいでです、と申し上げたんです」

間違えようが無く言葉の意は届いていたが、秋葉に残された理性全てがそれ
を拒絶した。

「なにを言っているの」
「秋葉様の奇麗な体も、私達の指や舌で気持ち良くなって下さったお姿も、上
りつめてしまったところも、すべて志貴さんに見てもらっていたんです」

さっきからあった違和感、ときどき動きを止めたり、向きを微妙に変えさせた
りしたのは…。
裸身を晒して、胸やお尻や、一番恥ずかしいところまで露わにして、琥珀と翡
翠に愛撫されて感じまくって果てて、いっぱい恥ずかしい言葉を発して、挙句の
果てに犬のような格好で放尿までして………。
あれを全部?
こともあろうに、兄さんに見られていた?
嘘。
嘘。
嘘。

「嘘でしょ。琥珀、嘘だと言って」
「私は秋葉さまに偽りなど申しません。志貴さんたら、妹の恥ずかしい姿を見
ているだけで、こんなに興奮なさっちゃって」

くすくすと琥珀は笑い出す。

「じゃ、志貴さんと御対面ですよ」
「いや、やめて。そんなのいやーーーっ」

恐慌に体がガクガクと震え出す。

「お願い、やめて。それだけはやめて。やだ、見せないで。お願いだから」
「もう全て見られているんですよ、秋葉さま。手後れです」

秋葉の目隠しが琥珀の手で外される。

いつもと変らぬ笑顔の琥珀と、顔を真赤にして、どういう表情をしたらいい
のか判らないといった風情の翡翠。
兄さんは…、兄さんは……、いない。
よかった、いない。
安堵が反動になったのか、体の震えがピンと伸び切って止まり次いで完全に弛
緩した。体の奥からこれまで感じた事のない何かが押し寄せる。

「何、これ。嫌だ。なに、あっっ、んんん………ん」

先ほどの絶頂とはちがう衝撃が走り、全身の力がぱーっと飛び散り……、果てた。
秋葉の体が糸の切れた操り人形のようにグッタリと崩れ落ちる。

「ちょっと吃驚させすぎちゃいましたねえ。秋葉さま。今日は翡翠ちゃん苛め
たお仕置きですから、志貴さんはいませんよ。志貴さんには刺激が強すぎます
しね。あんまり秋葉さま感じやすいんでノっちゃいました。って、もう聞いて
いらっしゃいませんね。お休みなさい。秋葉さま」



「っっっ・・・」

声にならない声を上げつつ、がばっと上半身を起こす。
いつもの部屋、いつもの寝台、かえってその事に頭の中の認知が追いつかず、
しばし呆然とする。

「え、と夢……?」

ぼんやりした頭が急激に思い出す。
夢とも現ともつかぬ先程の淫靡な体験を。
しかし、改めて見ると先程の痕跡は見当たらない。
夢にしては、あまりにリアルすぎる。胸はドキドキとしているし、体が少し火
照ってはいるが……でも。
あれは、本当だったのか。琥珀と翡翠の声も、体中に走った快感、指や舌で翻
弄された残り火も。最後にはまるで犬のように・・・・・・。

そこではっとして、ぱさりと掛けられた寝具を跳ね除ける。
あんな夢を見て、まさかまさか子供みたいに。
シーツを撫でさすりながら特に異常なしと見て取って安堵の溜息をつく。赤面
しているのが自分でも分かる。

「いくらなんでも」

まさか、この私がおねしょなんて……。

コンコンと音がする。

「秋葉さま、入りますよー。もうお目覚めになられてますか?」

琥珀の声。
どうしたらいいのだろうと狼狽しているうちに琥珀がいつものようにニコニコ
としながら部屋に入ってきた。

「もう、お目覚めでしたか。おはようございます。 ・・・・・・・・・?」

大きなベッドから落ちている羽毛の掛け布団、ちょっと過去の記憶にない表情で
固まっている主人を前に、琥珀は珍しく表情を消してしまっている。
むしろ秋葉の方が「こうしてるとやっぱり双子ね、翡翠と似た雰囲気」等と無駄
な冷静さを取り戻す。

「ええと、どうなさいましたか? 秋葉さま?」
「なんでもないわ。それより、琥珀……」

いったい何をどう言えばいいのだろう?
翡翠と一緒に私の事陵辱して、最後に私は犬みたいに…とでも聞く? 出来る訳
が無い。
主人の言葉が続かないのに、頭を捻り、琥珀は心配そうに逆に問い掛けた。

「…何か至らぬ点がございましたか、秋葉様さま」
「そうじゃないけど。いいわ、夢見が悪かっただけ」

安心したように笑みを浮かべる。
邪気のない誠実そうに見える表情。
「じゃ、早く居間へ向かわれたほうがよろしいですよ。今日はどういう訳か志
貴さん、変な時間に目を覚まされて、翡翠ちゃんをびっくりさせてましたから。
秋葉さまとご朝食一緒になさろうとお待ちですよ」
「えっ、兄さんが。すぐに行くわ」

ベッドから降りかけ、大事な事を思い出した、というように琥珀を見る。

「昨日、翡翠に八つ当たりして酷い事言っちゃった」
「そうでしたか。なんか落ち込んでると思いましたが。翡翠ちゃん、けっこう気
にしちゃう性質ですから、僭越ながら、後ででも声を掛けて頂けると」
「そうね。謝っておかないといけないわね」
「ところで秋葉さま、夢見が悪いって、どんな夢をご覧になられたんです?」

興味津々という顔で尋ねる琥珀に、秋葉は真っ赤になって部屋をパタパタと出
て行った。

 ベッドを整え、着替えを持って部屋を出ながら琥珀は呟いた。

「今回は夢ということにしておきますけどね、次は楽しみにしててくださいね」

低い低い、微かな独り言。
「でも、秋葉さま可愛かったなあ。あれでお変わりになって志貴さんを振り向か
せてくれるといいんですけどね」
クスクスと笑いながら琥珀もまた部屋を後にした。


                                          《FIN》





後書き―――

初めてきちんと書いてみた18禁小説なのですが、どうでしょう?
何というか匙加減(なんの、ねえなんの?)がえらく難しいですねえ。
らぶらぶ赤面H小説も考えてみたんですが、二重に難しいので、エロシチュ
エーション直球ど真ん中勝負にしてみました。でも「地下室系」率高そうなの
で別なの考えればよかったなあとの思いも。
なまじ秋葉好きなので、志貴以外の男にやられちゃう話は不可で、使いやす
い琥珀さんの手を借りました。琥珀さんはともかく翡翠はこんな子じゃない、
という方には素直に頭を下げます。
タイトルは多芸さに敬意を持っている、さっぽろももこさんの曲より頂きま
した。流れる黒髪をイメージしてるそうですが、いろいろ深読みして下さい
(何故に「地獄SEEK」から選ぶ?)
目隠ししてるキャラの視点で話を進めるのは無理、と知ったのが収穫でした。

                           by しにを (2001/7/28)