「清冽な奔流」
                                    作:しにを



暗い。

最初に感じたのはそんな事。
まだ半ばまどろんでいる秋葉は、自分の身に起こったことを認識していなかった。
何故腕が動かないのだろうとか、目覚めの良い自分がどうしてこうもぼんや
りとしているのだろうとか、そもそもここは何処なのだろうとか。
異状を異状と認知できず、そんな当たり前の疑問が形にならない。
頭にも闇が降りたような様に。
目を開けてるのに……、暗い……。
そんなぼんやりとした思いのみが虚っている。

コツコツという音がした。
微かな響きが近づいて来る。
そう知覚はするものの認識はしない。
何か…変…。
頭が働かない……。

「秋葉さま、秋葉さま」

ああ、知っている声だ。
誰だったか、良く知っている人。
誰だったかしら?

「ちょっと効きすぎちゃったかしら?」
「姉さん、大丈夫なの? 秋葉さまのご様子、どう見ても変だけど…」
「うーん、これくらい平気のはずだけど」

そうだ、琥珀と…翡翠だ。思い出した。
……? そうだったかしら、そんな名だっただろうか?
どうもはっきりとわからない。
でも、何をしてるんだろう。

「秋葉さま。ちょっと失礼しますね。

顎に手が当てられ、ちょっと上を向かされる。
唇に何か柔らかいものが覆い、濡れた何かが口の中に入ってきた。
秋葉の舌をかすめるようには動き、次いでトロリとした液体が口の中を満たす。
唇からそれが離れ、秋葉は口腔に残った液体を反射的に飲み下した。

「姉さん、今のは?」
「お目覚め用のお薬が半分」
「……残りの半分は?」
「うふふ」

喉と胃がポカポカとして来る。
そして真っ暗だった頭に少しだけ光が射す。




何、これ……。
目を開けているのに真っ暗で何も見えない。
暗いというより、何かが目を覆っている?
顔に手をやろうとして、手を上に伸ばしたままほとんど身動きが出来ない事
に気が付く。
体自体も重く間延びした動きをしている。
それでも緩慢に手を下ろそうとして動きが止められる。
手首に何か嵌まっていて、カチャカチャという音がする。
何なの、これ。
拘束されているという事実にパニックになりかけ、すぐ傍に自分の使用人の
姉妹がいる事に気が付く。

「琥珀、翡翠、これは何? どういう事なの?」

声を出すのも普段使わない筋肉を使うようにぎこちない。

「あっ、お気づきになられましたね。秋葉さま、おはようございます。ってま
だ朝というには早すぎますけど」

いつもと変らぬ琥珀の声。
まるで普通に寝室で目覚めを迎えたかのような言葉。

「何を言っているの。これを何とかして。いったいどうしたの」
「ええと、秋葉さま。申し訳ございませんが、ちょっとその不自由な状態で我
慢なさって下さい。今、拘束を解いちゃうと、せっかくの私と翡翠ちゃんの苦
労が台無しですから」

琥珀の言葉を消化する為に数秒を要した。
あたまがぼんやりする……。なんでこうも思考がまとまらないのかしら……。

秋葉が黙り込んでいる間、琥珀は秋葉に言うとも無く言葉を続ける。

「むやみやたらと叫んだりなさらなくて良かったです。一応、ボールギャグと
か、楽しいものもいろいろ用意してきたんですが、ちょっとお顔に痕が残るの
もまずいですし」

ボールギャグって何かしら、という疑問が起こったが無視して、秋葉は口を
開いた。

「教えて、琥珀。今、私は貴方達にこういう身動き取れない状態にされているのね」
「はい、秋葉さま」
「ここは何処? 私の部屋ではないわね」
「はい、秋葉さま。さすがに秋葉さまのお部屋を使う訳にはいきませんので、
地下のお部屋にお運びしました」

地下室? 少しひやりとした空気を感じていたが…。

「で、何をするつもり。こんな真似をしてただですむと思っているの」
「これくらいしないと、満足に話が出来ないんです。人は猛獣とサシで話しは
出来ませんから」
「………」


「秋葉さま、どうも最近翡翠ちゃんに辛く当たっていますね。 どうしてです?
翡翠ちゃんの働きが悪いのであれば、主人として当然叱責し罰するべきですが、
私の知らない処で翡翠ちゃんが失敗したり仕事の手を抜いたりしていましたか?」
「そんな事はないわ」
「では、何故です。なんで翡翠ちゃんが一人で涙ぐんでるのを、私は見なくちゃ
ならないんです?」
「………」
「志貴さんのせいですか」

兄の名を聞いて、僅かに秋葉の身が硬くなる。

「シエルさんやアルクェイドさんが志貴さんの周りに出没しているのがお気に
触るのですか? 特にシエルさんとは非常に親しくされているようですけど?」
「そう…よ。何処から現れたの、あんないかがわしい女ばかり、兄さんの周りに」
「それで翡翠ちゃんを責められてもどうしようもありません。シエルさんはあ
くまで志貴さんが御自分の意志でお付合いなさっているようですし、アルクェ
イドさんの神出鬼没振りなど私にも止められません」
「でも、何事も無いように平然と翡翠が応対しているのを見ると腹立たしく感
じるの。八つ当たりだとは分かっているのに」
「そうですか。では秋葉さまは翡翠ちゃんに悪い事をしたとお思いなのですね」
「…ええ」
「では。……罰が必要ですね?」
「えっ、琥珀、何を」

改めて、自分が身動きの自由がほとんど取れない姿である事を思い出す。

「主人が道を誤るのを座視せずに、あえて心を鬼にして正道へ立ち戻らせるの
もお仕えしている者の勤めと思います」

少しだけ声に硬さが混じっている。

「何を言っているの。この拘束を解いてよ」
「ええと、秋葉さまのお力は封じさせてもらいました。そんな大袈裟なものじゃ
ないですけど、思考がまとまらないでしょう。その状態だと私達も目に入らない
し、目隠し自体を何とかしようというのも出来ないですよね。生身の秋葉さまは
あまりに危険すぎます」

秋葉の中にじわじわと寒気のようなものが満ちてきた。
彼女の持つ人外の力は、基本的に「見る」事により発動される。別な言い方をす
れば、今のように目隠しされてしまうと力は、ほぼ封じられる。
とは云えそれは絶対ではないから、見えないものを「見た」事にして力を振るう
事は可能だが、先ほどからの精神が弛緩したような状態では力を振るう為の集中
がままならない。
秋葉の能力を熟知している琥珀なればこその無力化であった。

「罰というより、秋葉さまにお寂しい思いをさせたのが原因思いまして、翡翠ちゃ
んと二人でお慰めしようかな……と。翡翠ちゃんも賛成してくれたんですが」

翡翠から賛同しているとは思えない声が上がる。

「でも秋葉さまの為、と納得したでしょう、翡翠ちゃんも。で、見られるのが
恥ずかしいと言うので秋葉さまには目隠しを。これ感覚も鋭敏になりますから
一石二鳥です」

プチプチとボタンが外されていく。腕が抜けないので全部剥ぎ取られた訳では
ないが、下着姿を晒している。

「な、何を」

返答はない。
ささやかな胸を覆う下着もあっさりと外されてしまう。

「湯浴みとかの時も、いつも感心してるんですけど、秋葉さまの肌って滑らか
で本当に奇麗ですねえ。翡翠ちゃんもそう思わない?」
「白くて…、凄く奇麗」
「これだとピンク色に染まると映えますね」

琥珀と翡翠の目に、少し薄暗い部屋の中で白い秋葉の裸身はぽうっと浮き上が
るようで、はらはらとかかった黒髪との対比が美しかった。

「目隠しされて腕を縛られて…、なんか被虐美とかいうのを感じますね、どうです?」



ほっそりとした手が秋葉の頬を撫でる。
「まあ、こういった事で、秋葉さまをお慰めしようと……」

その呟きが間近から聞こえる。琥珀の声。
ふっと、また暖かい柔らかなものに唇がふさがれる。上半身に何かが覆い被
さっている。
今度は、琥珀がのしかかるような体勢で、唇を奪ったのだと分った。
唇が重なっただけでなく、舌が秋葉の唇をなぞるように動き、口が少し開い
たと知ると隙間から口内に潜り込んできている。
口を塞がれている為声は出せないが、くぐもった音が絶え間無くもれる。
琥珀の舌がどんな動きをしているのか秋葉には分からなくなっていた。
自分の舌に絡むように動き、歯の一本一本の形をなぞり、引っ込もうとしては、
また奥深く差し込まれる。
トロトロとした唾液が注ぎ込まれたかと思うと自分のそれを飲み込まれる。
秋葉は、嫌悪感も何もなく、さらにぼうっとしてきた頭で、快感に近いものを
ただただ享受しているのが精いっぱいだった。

と、新たな刺激に体がピクリとはねる。
琥珀の手が、右胸にそっとおかれていた。琥珀の小さな手の平に、起伏に富ん
でいるとは言えない秋葉の膨らみがすっぽりと覆われ、微妙に円を描くように
動いたり、指だけに力を加えるように押されたり、と絶え間無く刺激を送られ
ている。
絡まっていた舌が解かれ、糸を引きながら唇が離れる。
自分の唇を手で拭い、秋葉の口も優しく拭いてあげながら、胸への愛撫は続け
ている。
すっと舌が秋葉の胸の突起をチロと舐める。

「んんっっ。やだ、胸はやだ……」

琥珀の動きに体を捩るようにする。

「秋葉さま、可愛い胸ですよ。触るとちゃんと弾力があるし、先っちょはこん
なに敏感だし…」

またチロリと舌先が這い動き、チュッと唇に含んで吸い上げる。
ツンとピンク色の乳首が硬く突き出している。
ビクビクと過敏に反応をしたが、つと琥珀が離れると、少しでも隠そうとす
るかのように、身を捩じらせる。

「そんなにお気になさる事ないのに…。 じゃ、翡翠ちゃんお待たせ」

琥珀がすっと離れ、翡翠が反対側からにじり寄る。

「秋葉さま。失礼します」
「翡翠ちゃん、いつもみたいにすればいいからね」

先ほどまで琥珀の手で弄ばれていた胸に翡翠の白い手が伸びる。
琥珀とは違って手の平全体ではなく指だけが胸の膨らみをなぞるように動く。
指の腹だけで刺激を与えつつ、時折爪を立てるように別の刺激を送り込む。
特に尖った乳首の周りを擦るように弾くように指が動き、その切り替えの度
に秋葉の頭が真っ白になる。
琥珀はともかく、なんで翡翠が…。
そんな思いが脳裏に浮かぶ。
いつもみたいに、って琥珀と翡翠……?

「翡翠ちゃん、こう見えて巧いんですよ。ええ」

クスクスと笑いながら琥珀が秋葉に、と言うより翡翠に向って言葉を投げる。
翡翠は返事をしなかったが、その代わりに秋葉のまだ何もされていなかった
左胸をいきなり口に含んだ。
そのままチュッと乳首を吸う。
舌先が動き、時に歯で軽く甘噛みする。
先に琥珀にされた愛撫ともまた違う、ぞくぞくするような快感が走る。
こらえていた声が、断続的にもれ出る。

「翡翠ちゃん、少し秋葉さまの体を、左に、そう」
「これでいい?」

あの翡翠がどんな顔をしてこんな事をしているのだろう。
胸を愛撫されているだけなのに、じんわりと快感が全身に広がって行く。

「あらあら、下の方もぐっしょりしてきましたよ」

脱がしちゃいましょうねえ、という声を遠くに聞く。
ほそい脚を撫でさする手を感じつつ、濡れた下着を手際良く抜き取ろうとす
る琥珀の手に無意識の内に協力して腰を上げる。
ほぼ全裸に近い姿になってしまったのも意識していない。

「ここの辺はまだ女の子みたいですねえ」

力の抜けた脚を開くようにしながら琥珀が言う。

「花びらみたいとはよく使う表現みたいですけど、秋葉さまのはそんな感じ」

翡翠の胸にかけての愛撫に忘我になっていた秋葉であるが、下半身の一番恥
ずかしい部分への刺激には逆に目が覚めるような衝撃を覚える。

何か暖かいものが、うねうねと動いている。
ピチャというような音が聞こえる。
仔猫がミルクを舐めるような湿りを持った音。
目はふさがれているが、琥珀が、そこを舐め、舌で痛みとすら思える刺激を
生みだとしているのだと分った。
舌先が踊っていただけの、それでも快美に真っ白になり何も分からなくなり
つつも必死に抗っていた秋葉であるが、次の刺激にはもう耐えようがなかった。
舌がピンポイントに肉芽をつつき、かと思うとまだ閉じられている花びらの
奥に忍び込み花蜜を啜り込む。強からず弱からずの絶妙の力加減で花弁を唇で
ついばみ、軽く甘噛みする。
それの繰り返しに、快感が急激に体中に広がって行く。

「うんんーーーーん」

頭がショートしたようにふっと弾ける。ふわふわとした余韻が残る。

「軽くイッちゃいましたか?」

返事も出来ず忘我の状態の秋葉から少し身を外し、琥珀は翡翠に話し掛けた。

「翡翠ちゃん、ちょっと」
「なに、姉さん?」
「ちょっとおすそ分け」

ベッドがギシと音を立てる。
秋葉の両脇にいる琥珀と翡翠が何かをしているようだった。
目隠しをされている秋葉にはわからなかったが、琥珀が妹を手招きし、唇を
重ねていた。翡翠も頬を染めつつもさほど嫌がる様子はなく、姉の唇と舌を受
け入れていた。愛撫というよりも親密ではあっても儀式めいた作業のような行為。
数秒そうしていて、糸を引くように二人は離れた。
翡翠は「どうするの?」と言う顔で 琥珀を見た。少し口の中をもぐもぐさせ
ている。
「舌全体に絡めるようにして、後は呑んじゃって平気」

翡翠の喉が微かに動く。

「じゃ、続きを始めましょうか」

(To Be Continued....)