お・し・お・き
                         阿羅本


「志貴さま……」

 寝台の中で共に横たわる琥珀が、そっと声を掛ける。琥珀は志貴の胸に頭を
寄せており、琥珀の声が胸にそのまま震動となって響くのを、志貴は感じる。
志貴は寝間着で、琥珀は襦袢一枚の姿でで、お互いに服越しにも体温が感じ取
れる。
 志貴は、そっと琥珀の背中に腕を回す。

「どうしたの?琥珀さん」

 志貴がそう答えると、琥珀は頭を起こして志貴の顔を見つめる。胸の上から
見上げられる琥珀の柔らかい顔に、志貴はいとおしさを覚える。琥珀はそのま
ま体を起こすと、上から志貴に被さるような形になった。
 帯で軽く抑えられた襦袢の前から、琥珀の白い肌が覗く。闇にも天鵞絨のよ
うに映る琥珀の肌に、志貴は見とれていた。

「……志貴さま、ちょっとしたお仕置きを許していただきますか?」
「お仕置き?」

 琥珀の言葉に志貴は眉をひそめる。お仕置き、と言う言葉の語感もさること
ながら、琥珀が何をいわんとしているのかを理解できない志貴は、そう鸚鵡返
しに聞き返すしかなかったのであった。
 そうです、と答える琥珀の笑顔。志貴は、琥珀の顔から何をも見逃すまい、
とじっと見つめる。

「ええ、お仕置きです……志貴さま、これをご覧になってください」

 そう言うと、琥珀は左手で襟を摘み、そっとはだけて見せる。琥珀の胸にま
では露わにならないが、肩は剥き出しとなりひどく艶めかしい。志貴は思わず
その仕草に唾を飲みそうになったが、琥珀が見せようとしたものを見ると、知
らず呻き声を上げる。

 琥珀の白い肌に残された、紅い傷跡。
 過日――嫉妬に駆られた秋葉が琥珀を襲った際の傷だった。幸い命にに別状
はなく、障害こそ残らなかったが傷跡は琥珀の肌に痕跡を残している。

 その傷跡のことを志貴は知っていたが、それを深く悲しんではいなかった。
むしろ、巫山戯半分に琥珀が「これで志貴さまとお揃いですねー」などと言う
のを聞いてはいたが、それ以上は考えないようにしていた。

 その傷跡と、お仕置きという言葉で志貴は、ようやく悟った。

「……秋葉のことか?」
「ええ、そうです、志貴さま。秋葉さまに……」

 その言葉を聞いて、志貴は眉をひそめて黙り込んだ。

 琥珀の意図は、世間様に迷惑を及ぼすどころか自分にまで多大な傷を負わせ
た秋葉にお仕置きさせてください、と言うことであった。だが、この事件の一
端は琥珀によって起因しているし、秋葉に関しても激闘の末に、なんとか許し
ている志貴としてはそのことを掘り返すのは、気が進まない事であったのだから。

 悩みの表情を浮かべる志貴に、肩を諸脱ぎにした琥珀が蠱惑的に笑い掛ける。

「困ってらっしゃいますね、志貴さま?」
「……それは、まぁ……琥珀さんの言うことも分からなくもないけど、だから
といって秋葉を責めるのはお門違いというか……」

 志貴の言葉に、くすりと琥珀は笑う。

「ええ、そう仰ると思っていました」
「……じゃぁ?」
「ですけども、他にも意味はありますの、志貴さま」

 琥珀はす、と指を伸ばし、志貴の胸元を撫でる。

「私、もうすぐ信州の方に参りますが……不安なんです」

 琥珀に言われ、志貴は思わず表情を暗く変える。
 琥珀は、人生をやり直す為に巫浄の実家筋に戻ることが決まっていた。愛す
る志貴と別れ別れになることはつらいものであったが、琥珀にとってはよから
ぬ思い出しかないこの遠野邸に留まり続けることに、心理的な抵抗を覚えてい
たからであった。

 もちろん、琥珀と秋葉が命懸けで志貴を奪い合った手前、毎日この二人は顔
を合わせづらい、というのもあるのだが。

「不安……俺もだよ、琥珀さんにしばらく会えなくなるし」
「ふふ、志貴さん。翡翠ちゃんに教えなきゃいけないこともあるから、週末は
戻ってまいりますよー……でも私の不安は他にあります」

 琥珀の笑顔から、暖かさが消える。
 笑顔が浮かんではいるが、その実心の中では笑っていない琥珀独特の表情に
、志貴は思わず背中が冷や汗で濡れるのを感じる。こういう笑いを浮かべる琥
珀は、何を考えているのかが分からず、過去それに志貴は振り回されているの
だから。

「琥珀さん?」
「ええ、私の心配は秋葉さまです……私が不在の間に、秋葉さまが志貴さまを
誘惑なさるのではないのか、と」

 その言葉を聞いて、志貴は一瞬ぽかんとした間の抜けた表情を浮かべる。そ
して、その後に琥珀さんはいったいなにを……とばかりに苦笑を浮かべる。
 だが、琥珀の表情は変わらなかった。琥珀は真面目に取り合おうとしない志
貴に説得を続ける。

「秋葉さまは、兄としてではなく男として志貴さまを見ておられますから」
「琥珀さん、一体何を……だって、あいつは妹だよ」

 それが、志貴にとっての全ての理由だった。志貴にとって秋葉は妹であり、
それは自明のことである。ゆえに、誘惑することなんかない――志貴はそう言
外に匂わせている。
 琥珀は動じず、妖しく笑いながら尋ねる。

「ですが、秋葉さまと志貴さまは再会されてからまだ日も浅いので、共に本当
の兄妹のように思われているのでしょうか?……それに、志貴さまはそう思わ
れていても、秋葉さまが果たして御納得されているかどうか……」

 琥珀の笑いとその緩やかな旋律を取る妙なる声が、志貴の心を次第に浸食し
ていく。灯りの絞られた部屋の中で、ランプのかすかな灯りは琥珀の身体を黄
金色に染め上げ、その肩の傷跡がまるで催眠術のシンボルのように、志貴の目
を射る。

 琥珀に上に乗っかられる格好で、身動きがとれない志貴は目の前の琥珀が口
を開くのを止めようかとも考えた。これ以上兄妹のことについての詮索をする
のは、琥珀の領分を越える、と言って窘めることは――できなかった。

 琥珀の肩から襦袢が落ち、桃色の乳首と双丘が志貴の視界に飛び込む。
 その曲線に、志貴は口を閉ざして見入ってしまった。

「志貴さま……」

 琥珀の指が志貴の胸をなで回していたが、そのまま腹を伝って降りてゆき、
志貴の下の寝間着の中に潜り込む。琥珀の指は悪戯をするように志貴の陰毛を
撫で、そのまま下の生殖器の突起をつまみ上げる。

「正直に仰ってください……志貴さまは、秋葉に肉欲を覚えられたことはござ
いますか?」

 その言葉に素っ頓狂な叫びを上げそうになった志貴であったが、声に併せて
琥珀の指が肉棒の先を撫で上げたので、声は知らずに喉から漏れる呻き声になっ
てしまっや。
 琥珀の指は、志貴の肉棒の感じるところを知り尽くしている、と言わんがば
かりに絞り、擦り上げて硬さを増していかせる。この、戯れるような拷問にお
もわず志貴は悲鳴を上げる。

「こ、琥珀さん……そんなことを……」
「あら、志貴さま、秋葉さまのことを考えて、こんな風にされているのですか?」

 琥珀の声には意地悪さが含まれていた。しゅ、しゅ、と擦り上げるたびに、
志貴の喉から快感の声が漏れ出る。琥珀は、志貴の肉棒が十分な硬さになった
のを感じると、責めている指を止める。

「さぁ、仰ってください、志貴さま……秋葉さまを抱きたいと思った事がござ
いますか?」
「うう……」

 志貴には答えはないが、この呻き声を琥珀は答えと取った。そして、襦袢に
裾を割り白い腿と、その付け根の淡い陰りを見せながら、志貴の上に跨る。
 志貴は、琥珀の為すがままにされ、動くことままならなかった。病が深いと
きの動きたくても動けない体調とは異なり、ただ、琥珀の次の動き、次の言葉
を心の中で密かに待ち望んでいたからであった。

 はー、はー

 志貴の寝間着の下がずり下げられ、志貴の下半身が琥珀の身体の下で露わに
なっていた。琥珀は腰を志貴の腰に押し付け、志貴の肉棒に自分の女陰の襞を
にゅる、と押しつける。志貴の荒い息は、熱い肉棒に当たる柔らかい琥珀の襞
の感触によって、期待を秘めた甘い呻きに変わる。

「あっ、琥珀……」

 琥珀は無言で、志貴の逸物に腰を撫で付け続ける。時々志貴のモノの位置を
指先で変え、腰をぬるぬるとゆっくりと、だが確実に震い、志貴の肉棒を責め
苛む。

「琥珀っ、うー……」
「うふ、私以外にも秋葉さまに色目を使っておられた、志貴さまにもお仕置き
ですね」

 琥珀は志貴の腹に手を置き、アンバーブラウンの瞳に妖しい光を宿らせなが
ら、志貴の逸物をその女陰の柔らかさで嬲り続ける。志貴は為すがままであり、
亀頭の裏の筋を琥珀の襞がなで回し、濡れた感覚が己の肉棒を責め上げ、早く
入れさせてくれ、という快楽を求める股間の波動に苛まれる。

 もちろん、腰を震う琥珀にも、志貴の肉棒の脈動が感じ取れていた。

「あはっ、志貴さまのおちんちん、苦しそうですね……早く入れた入れたいっ
てびくんびくんってしてますよ?志貴さまったら、お仕置きなのに感じていらっ
しゃるんですね?いやらしい」

 琥珀の言葉嬲りは、志貴の劣情を駆り立てるばかりであった。志貴は興奮に
息をうわずらせてゆき、腕についた琥珀の手を握りしめる。琥珀は、触れなば
落ちん……といった志貴の様子を感じると、腰の動きを止めた。

「琥珀さん……うごいて」
「志貴さま……私のアソコの中に入れたいと考えてらっしゃるでしょう?」

 琥珀の甘い声に、志貴は一も二もなく頷く。

「じゃぁ、仰ってください……秋葉さまのお仕置きに、参加されるって」

 そう口に乗せると、琥珀はゆるゆると腰を動かす。そして腰を浮かせて志貴
の肉棒を指で支え、その上に自分の女性器の中心を宛う。
 志貴が息を呑む中で、琥珀は指を動かし、志貴の亀頭の先を、自分の花弁で
くすぐるように擦り付ける。志貴の劣情を、琥珀はさらに唆して煽り立てる

「もちろん、志貴さまもたっぷりお楽しみになられますよー」
「分かった、琥珀さん……だから、中にっ」
「……はい、志貴さま、どうぞご存分に吐き出してくださいね」

 琥珀の腰が落ち、ぬるり、と琥珀の内側の肉が志貴の肉棒を締め上げる。
 志貴は喉を突き上げてその感覚に酔いしれると、琥珀を動かせ、さらには下
から突き上げて快楽を貪る。琥珀の肉の中に酔いしれる志貴の頭の中に、肉欲
に駆られた邪な衝動が駆け抜ける。

 ならば、全てを堪能しきれ、と――

                                           《続く》