『公園で、あ・そ・ぼ』

                           Parker




 上も下もわからない闇の中に俺は居た。
 ここは、どこだ…?
一体いつから俺はここに居るんだろう?

──わからない。

 オレは闇の中をゆらゆらと漂っている。
眠いなぁ。このまま眠ってしまおうかな。

 不意に闇の中に何かがボウッと浮かぶ。
闇の中にそこだけ色がある。

 …あ、れは…赤いリボンを着けた女の子…
一体誰だろう?
次第に鮮明になってくるその娘の顔は…

『あ・き・は』

 そんな名前が心に浮かぶ。
そうか…。あの娘は『あきは』っていうのか…。

 だけど、何故泣いているんだろう…?
 あの娘のことを考えると何故こんなにも胸が締めつけられるんだろうか?
 あの娘は俺にとってどんな存在なんだろうか?

──わからない。


『し・き……志貴……遠野志貴…』

 また、そんな名前が心に浮かぶ。
あぁ…そういえば、オレの名前は『遠野志貴』って言うんだっけ?
そしてあの娘は、『あきは…遠野秋葉』…。
 そうか、俺達は兄妹だったんだ。
確か俺は何年か前に他所に預けられて……そして、俺は遠野の屋敷に帰ってき
たんだ…。
…そして…遠野の屋敷に帰った俺は今度こそ妹である秋葉を守ろうと思って…?
でも、この気持ちは…兄妹というより…もっと大事な…そう…恋人に対するも
ののような気がする。
 俺と秋葉は一体どんな関係だったのだろう?

──わからない。


 秋葉の向こうの方に微かな光が見える。
光は次第に大きく明るくなり、光と秋葉が接触すると唐突に秋葉が消失した。

──待ってくれ。

 叫ぼうとするが声が出ない。

 光は更に強くなっていく。迫ってくる『白い闇』。

あ・き・は… あきは… 秋葉。

 光が俺を包み込んだ瞬間、秋葉に関する光景がフラッシュバックする。
あの裏庭で何が起きたのかを思い出した俺は、その瞬間目を覚ました。


 気がつくと俺は全裸で薄暗い部屋の中に横たわっていた。
 周りにはロウソクが配されユラユラと炎を揺らめかせている。
そして、俺の腰には裸の女性が跨がり、空中に何やら模様を描きながらブツ
ブツと呪文のようなものを唱えていた。
 俺のモノは痛いほど屹立して女性の中に消えている。
 女性の膣からは俺が放出したと思われる大量の精液が溢れ出していた。
 眼鏡をかけたその女性は腰を動かすことなく、膣の蠕動だけで俺のモノを
刺激している。
 まだ、俺が目覚めていることに気がついていないみたいだ。
 …と、不意に目をあけたその女性の虚ろな視線と俺の視線が絡み合う。

「と、遠野君…。くっ……う、うん…あ、あぁ…。」

 呪文の詠唱をやめた女性はそれまで我慢していたものを晴らすように激しく
腰を振り始める。

「ぁ、ぁ、あぁ…と、と…おのくぅ・・ん…」

「先輩…、シエル先輩………くっ……」

────どぴゅ、どぷっ…

 音が聞こえそうな勢いで射精すると、結合部から新たな精液が溢れ出して
きた。

 俺の射精と同時に達したと思われるシエル先輩は、ピンッと背筋を硬直さ
せると俺の胸に倒れ込んできた。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

 シエル先輩の荒い息使いを聞きながら、俺は射精後の虚脱感から再び眠りに
落ちていった。



 次に目を覚ますと俺はベッドの上に居た。
横にシエル先輩が俺に寄り添うように眠っている。

 よく見るとシエル先輩は目蓋のあたりが少し落ちくぼみ、頬が少し痩けて影
ができていた。

 辺りを見回すと床に魔方陣を描いたシーツ、その周りに幾何学的に配され
たロウソクなどがそのまま置いてある。
ロウソクの火は既に消えているが、体液で黄色く変色したシーツの染みが、
あの儀式が夢ではないことを教えてくれる。

 どうやらここはシエル先輩の部屋のようだ。

 サイドテーブルにあった眼鏡をかけ、とりあえず起きようと俺が身じろぎ
すると、先輩も

「ん……っ……。」

と目を覚ました。

「シエル先輩…。」

と声をかけてみる。
一瞬、キョトンとしたあと、

「と、遠野君…や、やっと…やっと戻ってきてくれたんですね…。」

と言って抱きついてきた。
先輩の目がみるみる潤み、涙が盛り上がって頬を伝っていく。

「まったく…いくら秋葉さんのためとはいえ、本当に無茶なことをするんです
から、遠野君は…。」

先輩は泣き笑いの表情で少し咎めるように言う。
 ふと、自分たちがお互い裸なのに気がつく。

「あの、シエル先輩。…なんで俺達ハダカなの?」

「え…えと、あの、あとでお話ししますから、とりあえずご飯にしましょ
う。遠野君もお腹が空いたでしょ?」

シエル先輩は頬を染めると、シーツを巻きつけるようにしてキッチンのほう
へ消えていった。

 ……あの…先輩、シーツを取られると、俺も素っ裸なんですけど…。
 シーツを剥ぎ取られた俺の下半身のモノに視線を移すと、先程抱きつかれ
た刺激でそれは見事にそそり立っていた。


 隠すためのものが無いので、仕方なくゴワゴワする魔方陣の描かれたシー
ツを腰に巻くと、俺はキッチンへと先輩を追った。

 キッチンに近づくと、プンッとカレーのいい香りが漂ってくる。

『ぐるるるる…』

盛大に俺の腹が鳴る。

「あ、もう出来ますから、ちょっと待ってくださいね。」

キッチンではシーツを身体に巻きつけた先輩がカレーの鍋を掻き回していた。

 俺は鼻歌交じりにカレー鍋を掻き回す先輩をボーッと見つめる。

腹が減った…腹が減った…腹が減った…ハラガヘッタ…ハラガヘッタ…

食べたい…食べたい…タベタイ…先輩が…センパイガ…タベタイ…

──ドクンッ

「と、遠野君!?」

 気がつくと俺は先輩のシーツを剥ぎとり、後ろから先輩に襲いかかっていた。

「く…、ぅあ、と、遠野く…ぅん、や、やめ……。」

 くそっ…。先輩が暴れるせいでなかなか入らない。
 いらつく俺の前にふと、紫がかった窄まりが目に入る。
なんだ、ここにも穴があるじゃないか。
 俺は火傷するのもかまわず、鍋に手を入れると少量のカレーを掬い、シエル
先輩のお尻の穴に塗りたくる。

「熱っ!…ちょっ、ちょっ…と、遠野くん、ほ、ほんとにダメ……。」

 両手でお尻を割り開くようにしてそのまま右手の親指を潜り込ませる。

ヌルッ…

呆気なく飲み込まれる。

「い、いやぁ…」

ぐっちゅ、ぐっちゅ…

 しばらく左右の親指を交互に入れていた俺は、タイミングを見計らって一気
に根元まで俺のモノを潜り込ませる。

「あ、あぁ、痛っ、痛い!!」

 あとは浅いストロークでずんずん突きまくる。

ぐつぐつぐつぐつ…

パンパンパンパン…

コンロの横に手を突いた先輩を、俺は鍋が煮える音に合わせて蹂躙する。

パンパンパンパン…

「あぁ、ダメッ、ダメェェェェェ…・・・・。」

────どぴゅ、ぶじゅっ…

先輩の絶叫に合わせて俺は先輩の奥深く解き放った。

「はぁはぁはぁはぁ……」

ゴポッ…

 俺がまだまだ固さを失わないモノを抜くと、逆流した精液がドロッと先輩の
内腿を伝っていく。
 まわりにカレーが塗りたくられ、まるでお漏らししたような先輩のお尻の穴
はポッカリ口を開いてヒクヒクしていた。

──サァテ、ツギハマエノアナダ。

 まだまだ衰えを見せない俺のモノを先輩の膣口にあてがおうとする。

…と、肩で息をしていた先輩が振り向いた。

「と、と、と、と、遠野君の…ばかぁぁぁぁぁ!!!」

ごいんっ☆

 側頭部に衝撃。弾き飛ばされる眼鏡。
 薄れゆく意識の中で顔を真っ赤にしてフライパンを握り締めたシエル先輩が
仁王立ちしていた。




「先輩、ゴメン!」

 俺は平謝りに謝っていた。
 先輩も俺も既に服を着ている。
 黙々とカレーライスを食べている先輩は、土下座する俺を見ようともしない。

パクパクパク…

「俺、どうかしてたんだ。なんかカレーの匂いを嗅いでいたら、腹が減った
なぁって思って、な、何故か…その…先輩が食べたい!って思って気がつ
いたら…その…」

パクパクパク…

 俺が「先輩が食べたい!」と言ったときに、先輩の頬にわずかに紅が差す。

「本当にゴメン!!」

 再度、床に頭を擦り付けるようにする。

「………痛かったんですからね。」

「う、うん。」

「………カレーなんか使って…まだ、ヒリヒリ、ズキズキ、するんです
からね。」

「う、うん。」

「とりあえず、食べたらどうですか?カレー。
…焦げてますけど。」

「う、うん……え?。」

「冷めますよ。」

 相変わらずこちらを見ないけど、どうやら許してくれたようだ。
 ホッとした俺はあわててテーブルについた。
腹が減っていたこともあって、盛られたカレーをかき込むように食べる。

「!!!!〜〜〜△☆●◎〜〜〜!!!!」

 絶叫した俺の皿に盛られたカレーは先輩のと違って真っ赤な色をしていた。





「ッ〜〜〜!!」

 まだ舌がヒリヒリする。フライパンで殴られたところもズキズキするし。

「罰として全部食べてくださいね。」

と、にこやかに言う先輩に激辛カレーを食べさせられた俺は、ガラスコップに
入れられた冷水に舌をベロベロと浸していた。

 ずずずっ……。

先輩も無言で熱いお茶をすすっている。

「さて、どこからお話ししましょうか。」

やっと許してもらえたようだ。

 魚偏に口を合わせると書いて『きす』とか、魚偏に坊主と書いて『たこ』
とか、怪しい漢字が一杯書かれた湯のみ(多分寿司屋でもらったんだな)を
テーブルに置くと、シエル先輩はこれまでの経緯を話してくれた。

「あの裏庭に私が駆けつけた時には、遠野君は既に亡くなっていました…。
正確には命の残滓が燻っている状態というか、炎が消えた後に辛うじて煙が
たなびいている状態というか、とにかく私の知っている通常の魔術では一時的
に生命力を補強することはできても、遠野君を完全に蘇生させることは不可能
でした…。」

 いったん言葉を切るシエル先輩。

「……そこで私は、賭けに出ることにしたんです。」

 湯のみを見つめて思い出すように話していたシエル先輩が顔を上げ、ジッと
俺のことを見つめる。

「教義に思いっきり反するために埋葬機関でもタブー中のタブーとされている
魔術があります。……私はこの知識を別のところで得たんですけれど…。」

 ちょっと口を濁すように言う。

「具体的には、私の中に命を宿らせ、その命に魂が宿る前にその生命力を遠野
君に移すという方法です。」

 しばし沈黙。

「…え、えぇぇ〜!?」

黙って聞いていた俺は思わず声をあげる。
フライパンで殴られたところがズキズキ痛む。

「そ、それってつまりシエル先輩が妊娠して、その赤ちゃんの命を俺に移すっ
てこと?」

「いえ、正確には受精して着床するまで。受精卵に魂が宿るまでのわずかの間
に、その生命力を移すわけです。
ただ、この方法はかなり分の悪い賭けでした。」

先輩はちょっとうつむく。

「第一に私の排卵周期までに遠野君の生命力が保つかということ。
第二にそこまで保ったとして、その後の性行為に遠野君が耐えられるかという
こと。
第三に万一耐えられたとしてもうまく受精するかどうかということ。
第四に受精したとして魂が宿る前にその生命力を遠野君にうまく移し替えるこ
とができるかということ。
この場合、別の魂が宿ってしまえば生命力の移し替えは不可能になります。
そうすると、遠野君は本当に死んでしまって、私は未婚の母に……。」

 そんなに大変なことだったのか。

「先輩、助けてくれて本当にありがとう。」

 俺は改めて先輩に頭を下げると、先輩は照れた表情になる。

「でも、それほど大変危険な賭けだったのに、どうして先輩はそこまでして
俺のことを助けてくれたの?」

「……そ、それは…、私も『遠野君に生きていてもらいたい』って思ったから
に決まっているじゃないですか。」

 シエル先輩は頬を赤く染めてチラチラと俺のことを見る。
…え、シエル先輩って俺のことを?…

───チクンッ

 胸の奥が痛む。…そうだ、俺には秋葉が…。

「ゴメン!先輩。俺には…。」

「その先は言わないでください。…秋葉さんのことですよね。わかっています。
あなたは文字どおり命をかけて守ろうとした訳ですし…。
……でも、私もあきらめたわけじゃないですからね。
私ってあきらめの悪い女なんです。」

 ニコッとシエル先輩は微笑む。

「…ところで、ここからが重要なんですが…。」

 シエル先輩が真剣な顔になる。

「今の遠野君は体力的には全く問題ないです。スキップでもマラソンでも好き
にして結構です。」

 ?なぜにスキップ? 一瞬、「るんらら〜。」とスキップする先輩が頭に浮
かぶ。…まぁこの際深く考えないことにしよう。

「問題は、心のほうです。
今の遠野君は、生乾きの絵というか乾燥させる前の粘土細工というか、まだう
まく精神力と生命力が馴染んでいないためにひどく不安定な状態なんです。
だから、今は感情に振り回されやすく、非常に衝動的になりやすい状態にあり
ます。これから数日間はときどき、…その…抑え難い性衝動が起こると思い
ます。
遠野君の場合は特に、今まで人の半分の生命力から一気に人並みに増えたわけ
ですから、その反動は非常に大きいと思います。
できるだけ理性を保つように努力をしてください。」

 先輩はちょっと目をそらす。

「…さっきの…その…私を襲ったのも多分…そのせいだと思います…。」

…そうだったのか…って、そのわりにさっきの俺、フライパンで殴られたけど。
さっき殴られたところがまたズキズキ痛む。

「そういうわけですから、身体と心がなじんで落ちつくまで。少なくともあと
1週間くらいは、私と一緒にいてください。」

 そうか、あと1週間はこんな状態が続くのか。
 あれ?でも、先輩と一緒にいるってことは、さっきのように俺の気持ちが
高ぶった時にまた先輩を襲ってしまうってことにならないか?

「…それはマズイ。」

 これ以上、先輩にも迷惑はかけられないし、秋葉を裏切るようなマネもした、
くない。

「…私と一緒にいるのはイヤなんですか?」

 先輩は拗ねたような表情をしている。

「あ、いや、そういう訳じゃないんだけど…、あ、ほら、遠野の屋敷のほうも
気になるし。」

 チラッと、日付の入った時計に目をやる。
…あれから、3週間近く経っているじゃないか。
 秋葉はどうしているだろうか。
 あの夢の中のように泣いているんだろうか。

「…あの…シエル先輩?
一緒にいるのは構わないんだけれども、とりあえず遠野の屋敷に戻ったらダメ
かなぁ? 秋葉のことも心配だし…。」

 ちょっと、上目づかいに尋ねてみる。

 『むーっ』としばし腕組みをして考える先輩。

「…わかりました。ここに縛りつけておくわけにはいきませんし、心が不安定
な時にあまり不安にさせるわけにはいきませんね。
そのかわり、私も一緒ですよ。」

ピッと先輩が指を立てて念を押すように言う。

 そういうわけで、俺はシエル先輩と一緒に遠野の屋敷に戻ることになった。




 翌日、午前。

 屋敷の前まで来た。
手にはシエル先輩の一週間分の荷物を持たされている。
一体何が入っているんだか、ちょっと重い気がする。
体力が戻ったとはいえ、これを抱えて坂道を登ってくるのは少々キツかった。

「いつ見ても、大きなお屋敷ですね〜。」

 シエル先輩は後ろに腕を組んで「ほぇ〜」と中を覗き込むようにしていた。

 とりあえず、以前遠野の屋敷に初めて戻った時のように、門の横にある不釣
り合いな呼び鈴を鳴らす。

 待つ事、数秒。

 ギギギッと音がしそうな玄関の扉が開いて、メイド服姿の女の子が顔を
出す。
まだ、こちらが確認できないのかゆっくりと近づいてくるが、途中でハッと
した顔をして転がるように屋敷の中に引っ込んでしまった。

 少しして和装に割烹着姿の女の子の手を引いて先程の子が走ってくる。

「──志貴さま。」

「──志貴さん。」

 翡翠と琥珀さんだ。

 門が開くと、顔をクシャクシャにした翡翠とニコニコと微笑んでいる琥珀
さんが立っていた。

「志貴さま…エグッ…い…いままで…どちらにいらしていたんですか…?
とっても…とっても心配したんですよ…。」

「そうですよ。志貴さん。翡翠ちゃんなんて志貴さんが居なくなってから、
あんまりご飯を食べなくなっちゃったんですよ。」

 琥珀さんは『メッ』っと子供を叱るような仕草をする。

「ごめん。翡翠、琥珀さん。詳しくは言えないけれどシエル先輩のところで
世話になっていたんだ。」

「シエルといいます。1週間ほどお世話になります。」

 それまで俺の後ろにいたシエル先輩が、ピョコンとタイミング良く顔を
出し、ペコリと頭を下げる。

「あの 、志貴さま? どういうことでしょうか?」

 翡翠は怪訝な表情をしている。

「う、うん。聞いてのとおり、シエル先輩は1週間ほど滞在するからよろしく
頼むよ。詳しいことはあとで秋葉と一緒に話すから。
ところで、秋葉は……」

──どくんっ

 感じる。
 ほんの一握りになってしまったからこそ、余計にわかる秋葉との『命の絆』。

「秋葉──!。」

 俺は手に持っていた荷物を琥珀さんに預けると、裏庭に向かって駆け出して
いた。


                                          《続く》