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血潮の溢れる首筋から口を離して、秋葉の指が包帯を引き剥がした。
露わになった志貴の蒼い瞳に映る、対照的とも言える緋色の輝き。
その瞬間、志貴の意識が昇華する。
「駄目、だっ……秋葉っ」
「兄さん、来てくださいっ！」
冷酷な、殺人貴へと。
弾けた志貴の逸物から、灼熱の精液が流れこむのを感じて秋葉は絶頂を覚え
る。高みに押し上げられていた秋葉には、志貴の変貌に気付く余裕など無かっ
た。ただ、美しい蒼の瞳に魅了されたように捕らえられ、自分の体内に溢れる
精液の熱に冒されて判断力を失っているだけ。
そんな腑抜けた秋葉の制御を逃れ、殺人貴の肉体は軽々と秋葉を跳ね除け、
体勢を入れ替える。
彼女を組み伏せた体勢は、先程とはまるで逆のもの。
「に……兄さんっ！」
「ふん、好きにやってくれたもんだな」
驚きと困惑の入り混じった秋葉の声は、それでも志貴の心になんの細波も起
こす事はなく。ただ静かに志貴は秋葉の服を剥ぎ取って行く。
枯葉の褥に横たわり、秋葉はただ兄を見上げていた。
そう、どんなに変わり果てたとしても秋葉には志貴がわかる。
目の前にいるのは紛れもなく志貴にまちがいなかったから。
怖れる必要なんて、何処にもない筈だった。
「だが、今度は俺の番だ」
宣言する声がいくら酷薄に聞こえても、秋葉は志貴を見つめる。
真円を描く月を背負った兄を見上げる瞳には、信頼の色。
「最初に一度だけ聞く。その髪は、お前の意思か？」
切り捨てるように志貴が言葉を発する。その蒼氷色の瞳と同じくらいの冷た
い声音で。それは、今も彼を浸している白銀の光のせいではない。
血筋の中に組みこまれた、単なる本能。
告げているのは一つきり。
人外の者、異生の存在を抹消せよ、と。
「ええ、私が決めました」
秋葉は毅然と頷く。
それは一面の真実ではあるが、全てを語ったわけでもない。
彼女が反転したのは当の志貴のために他ならず、力を補う為に使用人の血を
啜って人の道を踏み外した結果がこの髪なのだ。
けれど、秋葉には自分からそれを志貴に告げる事は出来なかった。
言ってしまえば。それは押し付けになる。
志貴の存在を繋ぎ止める為にそんな行為に出た事を認めるには、今の秋葉に
は矜持がありすぎた。
「そうか……ならば議論の余地はない」
本当は、志貴も事情を了解している。
一連の事件の後、一度だけ相見えたシエルから秋葉がどんな状況になってい
るかの情報を得ていたから。シエルにしてみれば志貴を人間の側に引き戻す切
り札のつもりだったのだろうが、その効果はさほど劇的なものではなかった。
志貴は遠野の屋敷から背を向けて、アルクェイドの側にいる事を選んだ。
それは制御の利かなくなった直死の魔眼のせいでもあり、死徒に付狙われて
いる自分の為に家族を危険には晒せないと言う考えの為だった。
けれど、秋葉の想いを、そして翡翠と琥珀の献身を踏み躙り続けた結果が変
わるわけでもない。
一方で、それら全ての感情を押し流して荒れ狂う破壊衝動。
秋葉の赤い髪に惹きつけられて離せない蒼の瞳が誘う死出の旅路。
既に秋葉を十度は殺せる死の線を数えて、志貴は口の端を吊り上げる。
それは、アルクェイドが忌み嫌った死神の微笑だった。
「人ならぬ異形は滅ぼさねばならない」
言葉とは裏腹に、志貴の手は秋葉の肉体ではなく服だけを引き裂く。
文字通り絹を引き裂く高い音が、夜の森に響いて消えた。
「どうして？ こんな力、残ってるはずない……」
組み伏せられ、素肌を剥き出しにされながら秋葉は志貴に問い掛ける。
その秋葉は、先程までの倣岸な態度を僅かに残しなら、それでも志貴の放つ
迫力に圧倒されてしまっている。
「どんな化物も、俺の瞳から逃れることはできない」
「勝手な、事をっ！」
独白する志貴に、秋葉の中で怒りが膨れ上がった。
何を気取った事を言っているのかと感じる程、髪が赤みを増して行く。
「兄さんは、私がどんな想いでこうしていたかっ！」
「ああ、知らない。現に俺はこうやってお前の支え成しでも活動できる」
だから秋葉のやっていた事はまるで無駄だったと志貴が嘯く。
あまりにも残酷な言葉、秋葉の知っている志貴は朴念仁ではあっても、こん
な形で人の気持ちを踏みにじれる男ではなかった。
けれど、秋葉の能力は目の前にいるものが紛れもなく志貴であると告げる。
「お前が余計な事をしなくても、俺はお前を犯せた」
「なっ！」
「そんな顔をするな、お前も望んでいたんだろ？」
志貴の指が秋葉の胸をなぞる。それは正しく先程の流れを再現していた。
ボタンを外して、小さな胸を包む肌着を露わにした志貴はそっと微笑む。
「秋葉の胸は、小さいな」
「つっっ！」
絶対に言われたくなかった言葉に、秋葉が目を見開いた。
志貴が抵抗も忘れた秋葉の胸に両手を当てて肌着を押し上げる。
小さいが、形の良い胸が明らかになる。
「まるで子供だな……」
心にもない事を言って乱暴に両手でその形を崩す。
芯のある、固い乳房。アルクェイドの柔らかなそれとはまるで違う感触を愉
しむ志貴の下で、余程胸のことを気にしていたのだろうか、秋葉が茫洋とした
視線を宙に投げ掛けていた。
けれど年相応の性感帯となっている胸は、秋葉に的確に刺激が加えられてい
る事を伝える。しこり立った小さな乳首に、志貴が唇を寄せる。
「あっ、ああぁっ！」
「ほら、お返ししてやるよ」
胸の先がじんと痺れるような感触に、秋葉が全身を硬直させた。
ただ乱暴なだけだった志貴の愛撫が、いつの間にか好ましく感じられている。
「可愛らしくしていれば、俺のモノとして生かしておいてやるさ」
与えられる刺激に頬に血を上らせた秋葉を満足げに見つめながら、志貴がヒ
ステリックな笑い声を上げた。その志貴らしからぬ仕草全てが秋葉の癇に障る。
黙って、秋葉は志貴を見据えた。
確かに、秋葉から「共融」による活力の供給が途絶えても志貴は活動してい
る。ならば、その活力を「略奪」してしまえば良い。そうすれば兄を自分の手
元においておけると考えて秋葉は自らの髪を解放する。
宙に舞う、不可視の赤髪。『檻髪』とも呼ばれる能力を伝達する髪が、秋葉
の胸の裾野を弄っていた志貴の腕を絡め取る。
「間違えないで下さい。この屋敷の当主は私、ですっ！」
凛とした声で、懲らしめとばかりに秋葉は志貴の活力を「略奪」する。
けれど、志貴は何も変わらない表情で秋葉を見下ろし、その肌に舌を這わせ
ている。まるで、秋葉の能力が通用しないかのように。
「駄目だ、遠野の小細工は俺には効かない」
「そんなっ……！」
半狂乱になって秋葉は自己の能力を全開にする。
秋葉の横たわる枯葉の褥が、樹木の天蓋が、その活動を氷の中に停止する
それこそが秋葉の能力。活力を奪われたものは全て凍りつく。急激に熱量を
奪われる時に、燃えるような痛みを残しながら。
そう迄して体の中に満たした力でも、志貴を押しのける事は出来なかった。
「やめて、離し、なさいっ！」
「無駄だ。どれほど世界から力を奪い取ろうと、俺には通じない」
姫君の護り手たる殺人貴は、同時にその力の一部を借り受けている。
志貴の体内に一滴の血が残るなら、そして姫君が殺人貴の存在を望むなら、
彼が滅ぶ事はない。それこそがかの姫君の血の魔力。
とは言え、秋葉によって大量の血液を文字通り「略奪」された志貴にはそれ
ほどの余裕があるわけでもない。勝負を急がねばならないのだが、それでも志
貴には言葉通りに秋葉を処断する気は失せていた。
「諦めろ」
地面に落ちたままの包帯を拾い上げると、秋葉の目に押し当てる。
激しく首を振って抵抗する秋葉の耳元にそっと唇を寄せる。
「大人しくしていれば、殺しはしない。優しく、俺のものにしてやる」
「……なっっ！」
不遜な物言いに、秋葉が邪魔な包帯を処理しようと目を見開く。
けれどそれは叶わない。これは魔眼封じですら抑え込めなくなった志貴の直
死の魔眼を抑え込む為の包帯なのだから、秋葉の能力もまた、封じられる。
「さあ、愉しもうか」
志貴が唇を吊り上げる。
今度は秋葉が暗闇に怯える番だった。
無骨な指が再び秋葉の肌を辿っていく。
同時に怒張がまだ白濁の蜜も乾かない秋葉の秘所に押し当てられた。
秋葉は諦めたように動きを止めている。どんなに取り繕った所で、秋葉は志
貴に抱かれる事を否定する気は無かったから。
「抵抗しないのか……それもつまらないな」
思い直したように、志貴が秋葉の体をひっくり返す。
力の抜けた腕を、傍の楓に巻きつけてその腰を引き寄せた。
「なっ……！」
「選べ。人形として俺のものになるか、化け物として死ぬか」
慌てて振り向く秋葉を見据える、蒼い光。
視界を閉ざされていても、志貴は本当に自分を殺す事も厭わないと感じた。
その途端、秋葉の眦から零れる雫。
「兄さんは……どちらがお望みですか？」
歯の根も合わずに、秋葉が問い掛ける。
それは、飼主に捨てられそうになっている子犬のような仕草。
志貴が唇を歪めた。
「答えを知りたいか？」
「は……うあああっ！」
不意に、二本の指が秋葉の蜜壷を抉る。
勢い良く中に溜まる蜜を掻き出し、膨らんだ下の唇を挟みこみながら、志貴
は秋葉に上の唇を重ねる。
「俺も、全部欲しい。アルクだけじゃ全然足りない」
囁いた声を秋葉が理解できるはずもない。
それでも、志貴が自分も望んでいたという事だけは伝わる。
ならば、それは彼女を祝福する響きとなるだろう。
「兄さん、兄さん……っ！」
零れる涙を拭う術もなく、秋葉は楓の幹に縋ってただ嗚咽を洩らす。
その秘所をくつろげた志貴の指が、肉棒を導き入れる。
「行くぞ」
「はい、はいっ！」
既に秋葉から矜持は消え失せたのか、腰を上げて志貴を待ちわびる。
突き入れられるそれが少しでも奥に届くようにする、それは本能の動き。
誘われるように志貴が、僅かに早急な仕草で突入した。
「あ……くぅぅ……くる……あああっ！ きますっ……！」
志貴の肉棒が秋葉の襞を擦り上げ、子宮にまで達する。
突き上げられた秋葉は呆けたように口を開いて、涎をこぼしながら強く滑ら
かな氷の木肌に抱きつく。まるで火照り始めた肌を冷やすように
「ああっ……深い、熱いぃ……」
串刺しの股間に、嫌でも志貴の性欲は昂進する。先程まで肯定のように振舞
っていた秋葉が今は雌の媚態を見せて腰を振っている。
そのギャップがまた、今の志貴を燃え立たせる刺激となる。
甘美な突き上げを繰り返せば、秋葉の体に熱が溜まって行くのが感じられる。
先程奪った熱量が体の中で荒れ狂っているのだろう、秋葉の頬が急激に紅を
さしていく。それがとても愛しくて、志貴は秋葉の背中から体中にキスの雨を
降らせてみせる。
「可愛いな、秋葉」
「……はいぃ、兄さん……」
誉められて秋葉が蕩けるような笑みを浮かべる。そこには欠片ほどの邪気も
なく、幼女のようなあどけなさすら漂わせていた。
一度凍った森が二人の熱気で息吹を取り戻し始める。
低下した気温すらも塗り替えてしまいそうな熱気が発せられていた。
叩きつけるような動きに翻弄されていた秋葉が、不意に身を震わせた。
「どうした？」
「え……」
問い掛けると、我に返った様子の秋葉が何かを考え込む。
答えがないのを見て取った志貴が律動を再開すると、秋葉が戸惑ったように
腰をくねらせて、志貴から逃れようとする。
「駄目、ちょっとまって、兄さん、お願いですから……」
「だから、どうした？」
「……やだ、どうしてっ？」
秋葉の頬がますます赤みを増していく。それに同調するように形のいい眉が
顰められてしまう。事情を理解しないまま、志貴は秋葉の膣内を愉しむ。
「待って、お願い、ですからっ！」
「なんだよ？」
「……に、いかせて、下さい」
消え入るような声に、志貴が得心したように頷いた。
まだ恥じらいが消えていない事にも満足感を覚える。
「なんだ、良いぞ。好きな時にいっても。俺は秋葉と違って勝手にいっても怒
ったりしないからな」
「ちが、違うっ……！」
志貴の言葉に、秋葉は慌てて首を振った。
秋葉を襲っているのは絶頂感に近くて、けれど本質的に異なる物だったから。
けれど、我慢にも限界というものがある。
「トイレに……トイレにいかせてっ！」
「お前……莫迦か？」
恥を忍んで叫んだ秋葉に、志貴は冷たい視線を向けた。
「はいそうですか、ってお前を離すと思ったか？」
「え？」
「まあ、な。この寒さだ、飲んだ分は出るだろ。我慢しないで、一気にいけよ」
「飲んだ分って……」
「たっぷり、飲んだろ？ ……俺の、血をさ」
「あ……あ……あ」
秋葉の理性も志貴の言動の正しさを認めざるを得ない。
その事に気付いた秋葉は激しく首を振って抵抗する。
「嫌です、兄さんの血は私のものです」
「お前ねえ……」
それはどこかピントのずれたもの。それがどうにも可笑しくて志貴は肉棒を
抜き差しするペースを弱めてやる。こうすることで秋葉の限界は遠くなるはず
だ。けれど、お腹の様子を見る限り、長く持つとは思えなかった。
「ま、仕方ない。楽にしてやろう」
肉棒を抜くと、秋葉の体を幹から引き剥がす。
今も彼女の矜持は最後まで抵抗を続けている。絶望的な、抵抗を。
そんな秋葉の両足を抱え、まるで女児にさせるような格好で持ち上げる。
「ほら、見ててやるって」
「そんなの、そんなの絶対に駄目っ！」
冷たく冷え切った大気は秋葉の膀胱に的確な刺激を加えて、彼女を抜き差し
ならない立場に追い込んで行く。それは因果応報なんて言葉では片付けられな
い皮肉。秋葉は身震いしながら狂ったように首を振る。
「兄さん、許してっ、本当に、私、もうっ……」
そんなこと、言われるまでも無かった。
張り詰めきった秋葉の腹部は、志貴の目にも明らかに限界を迎えていた。
「だから、見せてごらん」
「いや、いやいや、いやあぁっっ！」
志貴が器用に右の掌で秋葉の腹を押さえつけた。
じわじわと押し込まれる感覚に、秋葉の腹部から痛みが這い上がってくる。
それは諦めにも似た気持ちを秋葉に抱かせつつあった。
「可愛いよ、秋葉」
その言葉が引鉄となる。
一度こぼれ始めた小水を留める事は遠野の血筋の者にも不可能な事。
「いや、いやいやいや、あああっ、ああっっ……！」
幹に向けて勢い良く放たれた黄色い液体が放つ異臭。
それは秋葉の矜持を最後の一欠けまで崩してしまう。
「あ、ああっ……出てます、兄さんっ」
秋葉の意識が弾ける。絶頂感そのものを感じて、秋葉は見を震わせる。
股間からは明らかに小水とは違うものも飛沫を吹いていた。
「ああ、秋葉は良い子だな」
「はい……っ！」
立ち込めた性臭に、志貴の自制も聞かなくなる。
残る雫もそのままに、志貴は秋葉の体を回転させる。そして彼女を抱いたま
まで再び肉棒を突き入れていった。
「やだ、兄さんっ、押し上げられてる……だ、駄目、また駄目になるっ！」
背筋を突き抜けた快感が、秋葉の体中に染み渡って行く。
続けざまに押し上げられる感覚に、秋葉は気が狂ったように首を前後に振る。
「ほら、もう震えてるね、秋葉のココ。いきそうなんだ？」
「はい、はいっ……！」
その答えを確認した志貴が、突き上げる角度をずらして捏ねまわす。
痒い所に手が届くように、志貴の肉棒が秋葉の性感帯を擦り上げる。
「い、いきますっ、兄さん、私もう駄目っ！」
「ああ、いって良いよ」
「あ、ひぃっ！」
短くしゃっくりのような声を上げて秋葉は見を震わせた。
遅れてやって来る細波のような快楽に身を浸そうと包帯の奥の目を閉じる。
けれど、そんな甘えを許さずに志貴は秋葉の体を貪る。
「ほら、まだいけるだろ？」
「ふああああっ！」
もはや言葉も発せずにひたすら秋葉は志貴の成すがままに身を揺らす。
何度も追い立てられて過敏になった肉芽を志貴がくじり立て、その度に秋葉
は絶頂を体験させられていた。
「もう、もう、これ以上されたら死んでしまいます……っっ！」
「よしっ！ 俺も、出すっ！」
その掛け声に合わせて、灼熱のほとばしりが子宮に流れ込むのをかんじなが
ら、秋葉は意識を手放した。
「うー、志貴は意地悪だっ」
「いつも無理言ってるのはお前だろ」
「でも、でもっ、こんなのひどいーっ」
言い争う声で、秋葉はそっと目を開いた。
既に彼女の視界を奪う包帯は取り除かれていた。
頭上には黄金の月。今の秋葉のように満ち足りた顔をこちらに向けている。
「わたしが―――できないって知っててそんなコトしたんでしょ？」
「ば、莫迦、俺は別にっ！」
「知らなかった……志貴がそんな変態なんて」
「誰が……変態ですか」
重い体を起こして秋葉は抗議する。声から察するに若い女性が、志貴を呼び
捨てた挙句になにやら責め立てている。とならば、気にならないはずもない。
「あ、起きたんだ、妹」
「ああ、気分は大丈夫？」
視界に入ってきたのは、純白という言葉が似合う金髪の美女。興味深そうに
こちらの様子を伺っている。
そしてその隣りに立つのは、秋葉の兄。
「兄さん……ご紹介頂けますか？」
「あ、ああ……こちらは……」
「ひょっとして、アルクさん？」
秋葉がそう告げるとアルクェイドは満足そうに頷いた。
「そうだよ、有名かな？」
「いえ、兄から聞いたことがあるだけですので」
「……ああ」
とはいっても聞いたことは一度だけ。その状況を思い起こして志貴が頭を抱
えた。殺人貴としてしたい放題した付けを払わされるのだと悟る。
「アルクだけじゃ全然足りない、って」
「なっ！」
途端にアルクェイドの目が厳しい物になる。
「どーゆー事よ、志貴」
「いや、その、勢いで……」
「兄さん、誤魔化す事はありません。兄さんが人のおしっこに興味を示すよう
な変態でも、私は兄さんのものですから」
頬を染めて寄り添う秋葉。
それ自体はとても嬉しかったりするのだが、いかんせん語る内容が悪い。
「あの、秋葉さん？」
「それとも、兄さんはこの人のおしっこの方が良いって仰るんですか？」
いや、涙ぐまれても困ると志貴などは思うのだが秋葉は真剣そのもの。
溜息を吐いて、志貴は応える。
「いや、アルクェイドは排泄なんてしないから」
「あ、それならそうと仰って下さい」
何故か優越者の笑みでアルクェイドを見つめる秋葉。
その見事な体型に抱きかけたコンプレックスが霧散する。
「どんなに素敵な体でも、排泄できないのでは愛してもらえませんね」
「あのな、秋葉……」
「いいもん、排泄なんてしなくても生きて行けるもん」
アルクェイドがいきなり訳のわからない事を呟いてすねた仕草をはじめる。
涙ぐんだような声色は結構深刻に落ち込んでいる事を示していた。
「でもそれでは、兄さんを満足させられませんよ」
「いいもん、スカトロは妹に任せるから」
「ふふん、良いんですかそんな事を言っても。兄さんが私の体に夢中になって
も、絶対にお返ししませんよ？」
すっかり変態扱いされているが、今は反論する気もない。
そう言う意味で住み分けるならそれも言いかとすら思う。
志貴はもう七夜として反転している。それが意味する所は、縁故関係のある
人ならぬものへの並外れた愛情だ。
そう言う意味で志貴にこの二人を離せるはずがなかった。
この館にはもう二人、人の枠を外れかけた者がいる。
それを思えばこれぐらいの修羅場、なんでもなかった。
長い、長い宴が始まろうとしていた。
《了》
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