月姫 SS
またデート前(4/20)#1 (Side : Seven)


 みなさんおひさしぶりです、セブンです。
 今日は土曜日で晴れていて、ひなたぼっこなんかしています。
 風薫るとはこのことなのでしょうか?
 今日は暖かくて気持ちいいですよー、って精霊だから気温とかわからないだろうって?
 でもこんだけ晴れていてぽかぽかしていたら、いくら精霊でも気持ちいいっていうことぐらいわかりますよ。
 それに日差しがとてもキラキラして、すべてが輝いて見えるんですよ。
 ふふふ
 こういう時には、思いっきり、手足を伸ばして駆け回りたくなりますね。
 草原を思いっきり駆けたらどんなに楽しいことか――。
 あの青い空と緑の草が交わる彼方まで駆けることを思うと。
 一角馬として外で駆けたい、駆け回りたいとウズウズしてきちゃいます。
 でも我慢です。
 じっと我慢の子です。
 この領域――あマスターがこのアパートの一室を魔術的なテリトリーにしているんですよ――から離れてしまうことなどできません。
 本体から離れることもできませんしね。
 またマスターが呼んだわけでもないので外に出られませんし。
 だから、このお部屋の中で日向ぼっこというわけです。

 マスターは今日、つい先週買ってきた衣服をもって出かけています。
 帰りは遅くなるようですから、実体化して楽しんでいます。
 人参が食べれないのはちょっと辛いですけどね。
 ソープドラマがやってないのは寂しいですけどね。
 でもようやくマスターったら、デートの時の衣装を決めたんですよ。
 それ以外は返品して生活費を戻すとかいっていました。
 だから今日、それを返しに出かけたんですよ。
 でも笑っちゃいますよね。
 マスターが何を選んだと思いますか。
 青い清楚な感じのワンピースですよ。そして白のガーディガン。そして白のパンプス。
 あんなドス黒いオーラをまとって、清楚だなんて――まったく似合いませんよね。
 なのに、

 これしかありませんよ、ふふふ、みてなさいあーぱー吸血種

って拳を握りしめていうんですよ。
 なんていうのか
 ここだけの話ですけど

マスターって、お間抜けさんですよねー

 なんで志貴さんに見せるのに、含み笑いをして、あーぱー吸血種なんていうんでしょうかねー。
 とってもおまぬーさんです。
 目的と手段を取り違えているというか、マスターらしいというか。
 カレーを食べるために生きるのか、それとも生きるためにカレーを食べているのか。
 マスターは……前者なのかも、なんて思っちゃいますけどね。

 一応きょろきょろとあたりを伺います。
 うん、いません。
 出かけたのは今さっきのことですから、今いたら、ワザとですよねー。
 ワナ、ですよねー
 ははは、いくら陰険なマスターでもそんなことまでは……

………………

 ふぅー大丈夫です。
 トイレにも、バスルームにも、押入にも、天井裏にも、カレー鍋の中にもいません。
 マスターったら、陰でこそこそと立ち回るのが好きだから。
 ほら埋葬機関でも唯一の遠距離攻撃をする方で――。
 ナルバレックさんいわく、

 自分の手で直接くびり殺さないで何が楽しいというのだろうね、エレイシア

なんて言いますけど、マスターは

先手必勝

一撃必殺

勝てば官軍


 自分の身に危険が及ばないところから、相手にだけ損害を与える、これが現代戦の戦術というものです。
 湾岸戦争でも、テロ報復の爆撃でも、遠距離から相手を徹底的かつ圧倒的に、刃向かう気がなくなるまで叩きのめす。死徒ならば浄化する――それが論理的な行動というものですよ。

 なんて言い張って。
なんであんなに攻撃的なんでしょうねー。
もっと歳を考えておしとやかになれば、いいんですけどねー。
 でもマスターもマスターですよね。
 実は年下好みだなんて。
 不潔ですよ。
 そう2時のドラマでもいっています。
 あ、わたし、マスターが居ないときには、いつもテレビで見ているんですよ。
 ちょっとはらはらどきどきで。
 確かソープドラマというんですっけ?
 ちょっとおっちょこちょいの主人公の女性が健気に頑張る――まるでわたしみたいですね、へへ。
 そしていつもいる姑さん、もしくは職場の先輩のお局さん。陰険でネチネチと――これはマスターのことですよね。絶対にそうです。
 まるで自分のことを描いているようで、ついつい見てしまうんですよ。
 でも最終回では、いつもそういう人とうち解けて――仲直り。
 マスターとわたしが?
 ちょっと考えてみます。
 マスターとわたし。
 マスターとわたし。
 マスターとわたし……。
 ………………
 …………
 ……
 …

 ……どんどん怖い考えになっていきます。
 ああああ、なぜですかマスター。
 眼鏡が光っているんですか。
 あその魔法陣は、雌鳥はなんですか。
 ああああ、改造はヤですぅぅ。
 ……
 空想でも、ドキドキしちゃいます。
 もう心臓が――精霊にはありませんけど――ばっくんばっくんしちゃっています。

 玄関が開く音がして、

 思わず

  ドキリ

とします。

 ――今の聞かれていませんよね。
 というか聞いていませんように。

 にこやかに出迎えます。
 でも顔がちょっとひくついているようです。

  あれ、マスター。
 どうしたんです、もう帰ってきて?
 まだ出かけてから2時間もたっていませんよ。
 隣の県までいって、返品してくるんじゃーなかったんですか?
 手には……あれ紙袋がたくさん。
 しかも見覚えのあるブランド名がかいてあって。
 先週買ってきた衣服が入ったのと同じ袋で――。

 あのぅ……マスター、返品してくるんじゃ……。

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