デート前#3 (Side : Seven)


 マスターったらため息ついてますねー。
 性格がねじ曲がってあさっての方向を向いているマスターは、よくため息をつきます。
 まぁいい気味ですけどね……くす。
 でもマスター、この装いって着てみて初めてわかるんじゃないんですか。
 試着してきたんですか?
 え、してきたけど、どれも選べなかったんですって――莫迦ですね。

ゴツン

 ゴメンなさい、マスターぁ。口が滑りましたぁ。つい本当のことを……。

ボゴッ

 マスターぁ、め、めり込んでますぅ。これはいくらなんでもあんまりですぅ。

 でもこんな綺麗なお召し物、はじめてですぅ。
 本当に綺麗ですねぇ。
 まるでわたしの死に装束みたいですよ、えへへ。
 あぁそんな目でみないでくださいっ!
 拳を振り上げないでくださいっ!
 あのあの死に装束だなんていってごめんなさい。
 でもわたしが知っている綺麗な服ってそれだけなんですよ。
 ほら、前にいったでしょう?
 わたしが生きていたとき貧乏だったから、服なんて一着で着の身着のままで――。
 でも捧げられると決まったとき、村のみんながお金を渡してくれて、綺麗な衣装を着たんですよ。
 それがこの服に残っているんですよ。
 え、水着みたい、レオタードみたいですって。
 ……ってなんです、それ?
 えっと千年前にはありませんでしたよ、そんなの?
 え、そりゃこんな肌にぴったりくっつくような服じゃなかったですよー。
 でも色は、同じ、なんですよ、マスター。
 お母さんが選んでくれた、わたしによくあう色だって――。
 似合っているって――。
 えへへ、わたしって精霊だから、その思いがあって――。
 だから、青、なんでしょうねー。
 この色、村の湖の、あの蒼さに、よく似ているんですよ。
 だから、お母さんにも着て欲しかったんですけど。
 せっかくお金もらったのに、お母さん何もせずに家に閉じこもって。
 …………
 ……
 ……ねぇマスター。
 そ、そんな目で見ないでください。
 あ、あのその青い服――着てもらえませんか?
 そうです、その春は逆に水色で、と書かれているヤツですよー。
 ……ダメ、ですかー。
 え、どうしてかですって?
 たぶん、マスターに似合うと思うんですよ。
 そのお母さんにも着て欲しかった色のそれですぅ。
 じ、じゃ……服を当てるだけでも、それだけでも、ダメですかー。
 マスターったら、ため息をついて。
 でもマスターは、本当は少しだけ――ほんの少しだけですよ――優しくて、なんだかんだいって世話好きだから。
 こんなこといったらマスターがつけあがりますから絶対に云いませんけどね。
 あ、マスター……綺麗ですぅ。
 見とれるぐらい。
 窓から入ってくる陽の光が、きらきらと反射して。
 その青色が空にとけ込むようで――。
 マスター、とっても似合ってますよ。
 ……照れないでくださいよ、マスター。
 あ、あのぅ、その姿で、セブン、って云ってください。
 ……ダメ、ですかー。
 あ、もう一回。
 わたしが目を閉じてから、お願いしますぅ。
 …………
 ……ドキドキ
 ……
 これは絶対に絶対にマスターにいえませんけど、マスターはちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、ですよ――お母さんに似ているんです。
 お母さんはあんなに腹黒くないし、死んでも死なないような体していませんし、魔術なんか使えませんし、偏食じゃありませんでしたけど――。
 マスターが時折感じさせる波動――魂の色というか形というか――あなたも精霊か霊魂ならばわかると思うんですけど――波が似ているんですよ。

 マスターの声が聞こえてきます。
 ちょっとだけお母さんの色に染まった声――。

   お母さん。


 ボゴギ

 あぅぅ、声に出してましたかー。
 誰がお母さんですってって、怒んないでくださいよー。
 そんな歳じゃありませんって言われたって、こちらのせいじゃありませんから。
 せっかく浸っているんですから、気をもっと利かせてくださいよ、マスター。気が利かないと志貴さんに嫌われますよ。

 !!

 ……ゴ、ゴメンなさい……云いません。もぅ云いませんから……。
 あーうーあーうー、やめてくださいってばー

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