デート前#2 (Side : Ciel)


 ――最初はセブンが荷物を開けようとするのをとめようと思いました。
でも、どうせばれるのですから、わたしはとめません。
 「マスター?」
セブンは涙目で答えます。今さっき殴ったためですね。
 「これって――」
「それ以上いわなくてもかまいませんよ、セブン」
 セブンが広げたものは――服でした。
 そうです、服です。
 衣類です。
 でもタダの衣類ではありません。
 それはデート用の勝負をかけるための装いなんです。

 はぁ。
思わずため息が出てしまいます。
 セブンが見ていると自分が愚かになったようで――。
 でもいいんです。
 後悔なぞしませんし、している暇などありません。
 今日は4月13日、土曜日です。
 来日するまで知りませんでしたが、日本にはゴールデン・ウィークという制度があり、4月末日あたりから5月はじめにまとめて休日がくるようになっているとか――盲点でした。こんな制度はバチカンにも、フランスにもありませんでした。
 そうです。
 問題は5月はじめです。
 わたしは5月3日が誕生日なのです。ゴールデン・ウィークのど真ん中で、日本国憲法が制定された日でお休みなのです。遠野くんも学校がお休み。わたしもお休み。そんな時ぐらい――思い人の遠野くんとゆっくりとふたりっきりで過ごしたいじゃないですか?
 いつもの高校に忍び込んで茶道部部室での逢瀬――きゃ、逢瀬だなんて。照れちゃいますね――も、ほのぼのしてよいのですが。
 いつもの巡回(散歩)もイマイチですし。
 やっぱり恋人どうし、らぶらぶ――ええっと、あ、あういうのはなしで……言い訳しているわけではありませんよ。た、たしかにアレを期待していないといったらウソになりますけど。でもその前に、なんていうか普通の恋人同士としてのデートをしたいな、なんて――きゃー、わたしったら乙女チックなことを考えている。
 喫茶店でのデート。同じグラスのジュースを二人で飲んだり。映画を見たり、ウィンドショッピングしたり。
 そして邪魔されない――。
 そうです!
 わたしたちの逢瀬にはあの忌々しい吸血生物、不浄なるもの、アルクェイドが現れて、邪魔するのです。
 日の光も夜の輝きも届かない深淵の奥底、地獄の釜の中にでも、あんなヤツは落ちればいいんですよ。
 しかし遠野くんも遠野くんです。
 あんな不浄なものを近づけるなんて。
 わ、わたしという……恋人がいるのに。
 そうです!
 わたしたちは愛し、愛し合った仲――主も認める公認のカップルなんです。
 ここで、はたと遠野くんを思い出します。
 彼はとてもいい人で、格好良くで、強い人なんですけど……。
 ただ、女性からみると、問題点が多くて……はぁ。
 遠野くんは自分の魅力に気づいてなくて、しかも無意識に女性にやさしくするんですよ。
 もぅやさしくする女性は、わたし一人でいいというのに――。
 もぅ恋人失格ですよ、遠野くん。
 ………………
 …………
 ……
 ……はぁ。
 惚れてしまった弱み、というヤツですか。
 そのあたり指摘してちょっとおたおする遠野くんは可愛らしくて、そして死をみつめながら平然としているあの態度といい、常に全力投球なところといい――ダメです、やはり恋人失格ではありませんよ、遠野くん。
 遠野くんの側にいたいんですよ、わたしが。
 そして遠野くんと一緒にわたしも笑っていたいです。
 埋葬機関の一員ではなく、ただのシエル先輩として、乾くんたちと一緒にこんな楽しい日常を過ごしたいんですよ。
 だから――ついつい買い込んじゃいました。

 あれは3月25日のことです。
 学校の帰り道に、ふとポスターが目に入ったんです。
 それは本屋のボスターで。

特集●うれしいのは「可愛いね!」のひとこと
いま欲しいのは恋に効く服・モテる服


 このあおり文句が目に入った途端、この本を買ってしまいました。
 そうです、告白します。わたしはその本のこの特集が読みたかったのです。
 遠野くんのもう一つ悪い点は、朴念仁かつ唐変木であること。
 気づいてくれないんですよ。
 せっかくデートだからとめかし込んでも、リップの色をかえても、香水をかえてみても……はぁ。
 もしかしてわたしにはこういうことには縁がない――そんなことなど認めませんし、考えたくもありません!
 それに、遠野くんに「可愛いね」なんて言われたら、それだけで一日中幸せになれるじゃないですか。
 だから、こんなに買い込んじゃいました。

 「ねーマスター……えっちですね、これって」

そういってセブンは今買ってきた、新しい黒の勝負下着をぴろーんと両手で広げて持って見ているじゃないですか!

 や、やめなさい!

セブンに対して実力行為を行使して、それを奪い取り、しまいます。

 ふぅ。

 え、いや……だ、だから、アレを期待していないといったらウソになりますって前に言ったはずです。
 「可愛いね」っていわれて、そして夜――。
デート用に着飾った服を脱がされていって、そして遠野くんが、わたしのつけている勝負下着を見て、まずは息をのみ、言ってくれるんですよ。
 「先輩――セクシーだよ」
 きゃー、セクシーだなんて。
 そんな恋人どうしの甘い一夜を過ごしたい――なんて思って。
 だから、この本に載っている服を買い求めてきたんですよ。
 ゴージャス大人系かシンプルお姉さん系か、それとも可愛いお嬢さん系か――。
 ここはやはりシンプルお姉さん系として、水色×白色でいくことにして。
 いやでもこちらのゴージャス大人系も、遠野くんのまわりにいなかったようですし。
 ああ、でも可愛いお嬢さん系というのも、なんかよい響きですし。
 だから主よ。
 ――ゴメンなさい。

 そうです、この本に載っている服のタイプ、すべて買ってきたのです。
 知的でフレンドリーに見えるというこの装いもよいですし、両親にも紹介したくなるでしょうもよかったんですよ。
 でも少し「大人のお姉さん」というアピールもよかったので、クラブで一緒に遊びたいでしょう、やBARに誘いたいでしょう、にも目がいってしまいます。
  水色のノースリーブのワンピース。白色のカーディガン。そして白色のパンプス。
 これだけで32,700円です。さらに消費税がつきます……ふぅ。
 もちろん、このBARの装いも、ニットで14,000円、パンツで\19,000円、サンダルで\17,800円――合計で50,800 + 消費税。
 これだけの衣服を、わざわざ県を越えて買い込んできたのです。
 えぇ、遠野くんとのデートは1回で終わりじゃありませんし、こ、これは――そのぅ……そうです、先行投資ってヤツです。
 だからいいんですよ。

 いつもはカソリックの礼服で黒いのばかり。今回は少し明るく派手目でいこうときばったんですよ。
 これなら遠野くんもきっと「可愛いね」といってくれるでしょう。
 アルクェイドなんかに気を取られているのは、アノ忌々しい吸血生物が白色を身にまとっているからです。それで爽やかさを演出して、遠野くんを騙しているのです。
 相手がそうくるのならば、わたしも迎え撃ちます。
 だから、このコーディネートを選択したわけです。
 もちろん、下着は胸元を意識できる矯正ブラにショーツです。あんな不浄なものに女としての魅力で負けるものですか。
 だいたいあの胸は大きいだけで、かたちは悪いに決まってます。そうです、そうに違いありません。
 これで、遠野くんはわたしだけを見てくれるはず。
 ふふふ、待っていてくださいね、遠野くん。魅了の魔眼なんかに負けちゃいけませんよ。

 でもデートまで2週間ほど。
 かなり生活費に食い込む買い物をしてしまいました……はぁ。
 わたしも少しひもじい思いをしなければならないのかも知れません。
 これも、このセブンと契約しているためです。
 これでもわたしは本当は小食なんです。本当です。あんなにバクバク食べているのは理由があるんです。……まぁ遠野くんが食べにくるかも知れないとおもっておかずとかを多く作っているのは確かですけど。
 でも本当はセプンに霊力を与えずに、力を与えている関係なんです。たしかにわたし――弓と呼ばれるわたしの霊力は――ロアのこともあって人間としてはずば抜けた存在です。
 しかしだからといって霊力を与えていては、ロアとの戦いに勝てません。少しでも多く霊力がないと、魔術師にして死徒、転生無限者であるロアを浄化することなどはできません。
 だからセブンの維持のために、物理的なもの――てっとりばやくいえば栄養となる食物の摂取――を選択したんです。
 だからセブンがいる限り、わたしはたくさん食べなくてはなりません。
 まぁロアは浄化したんだから、もう転生否定の聖典などいらないのですが――こう見事なまでに素晴らしい銃器になると手放すのが惜しくて。
 初速400m/sまで、カリカリにチューンしたんです。
 たしかに連発はできません。しかし今は連発するよりも、周囲ごと吹き飛ばす大打撃の方が重要なんですよ。わかりますか?
 相手はボティスーツや防弾シールドの向こうにいるんですから、それごと吹っ飛ばせるほどの威力がなければ、意味がありませんよ。
 この第七聖典は連続で射撃しても、バレルに熱がこもらなくて使い勝手が良いんですよ。
 まぁ――。
 そ、それに、セブンと話すと楽しいし。
 一言多いのはむかつきますけど。
 でも、まぁ――ナルバレックよりかは1億倍もマシですしね。

 え、なんです、セブン?
 今、なんて――。

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