人混みのざわめきさえも聞こえない公園。
 白い息を吐きながら、志貴はアルクェイドを待っていた。
 遠くからは風にのってクリスマスソング。
 今日はアルクェイドの誕生日。
 志貴は祝おうといつもの公園で夜10時を指定して待ち合わせしていた。

 ――それにしても珍しいな。

 志貴はふと思う。
 アルクェイドならば逆に8時ぐらいから待っていて、遅いよ、志貴ー、というぐらいなのに。
 今日は遅刻だった。

 時刻を確認しようと時計を見上げた途端、

「ごめーん、志貴ぃー」

 とアルクェイドが現れた。
 いつもの白いハイネックに紫のスカート。

「ん」

志貴は笑ってアルクェイドを見て、いぶかしげな顔になる。

「んー、どうしたの?」
「い……いや……」

 やけに狼狽えている志貴にアルクェイドは突っ込む。

「ねーねーわたしの顔、なにか、ヘン?」

 志貴は少し黙った後、そっとハンカチを取り出す。
 そのとき、アルクェイドははじめて泣いていることに気づいた。

「あ、あれー、どうしたのかな? はははは」

 笑うがその綺麗な雫は次々に朱色の瞳から溢れてくる。
 薔薇色の頬をつたわって、ほっそりとしたかたちのよい顎からしたたり落ちる。
 ハンカチを受け取って顔を覆い隠す。
 志貴はこんなに儚いアルクェイドを見たことがなかった。
 あんなに強く、生命力にあふれ、元気はつらつなお姫様。それかアルクェイドのはずなのに。
 なのに、今はこんなにも儚く――まるで消えてしまいそう。
 冷たい風がふく夜空にかき消えてしまいそうで。
 だから抱きしめた。
 逃げないように。
 消えないように。

 志貴の体温が伝わってくる。
 その温かさが冷たくからっぽだったところに入り込んでくるようで。

「誕生日おめでとう」

 そっと囁かれる、志貴の言葉。温かくて、心地よくて。
 なぜか涙がこぼれてくる。
 嬉しいのか哀しいのかわからない。
 入り交じったぐちゃぐちゃな感情。
 ひくく嗚咽をあげながら、

「……うん……うん……ありがとう……志貴ぃ」

 白い姫君は、ただ心のままに泣きながらしゃべるのであった。

「……ありがとう……志貴ぃ」

 志貴と一緒にいられる。ただそれだけなのに、なぜが深い満足感が広がっていって。
 涙が溢れてくる。
 溢れてきて仕方がない。

「……逢えるっていいね……」
「ああ……」

志貴の言葉はとてもやさしく、甘く――。

「……俺も嬉しいよ……アルクェイド……」

 真祖の姫は、愛しい男の言葉にただ頷き、ただ抱きしめるのであった。



back / index / next