……女を知っているのか?

思わずなにか聞き間違いしたのかと思って呆然としていると、煙草をくわえたまま、彼女は再び話しかけてきた。

「なぁ有間、お前……女をしっているか?」

 …………
 …………
 わからない。
 いったいイチゴさんがなにをいいたいのかわからない。
 どういう意図なのか、どういう意味なのか、全然わからなかった。

ふぅーとため息めいたものを紫煙ともに吐く。
ゆらゆらと揺れて――そして消える。

 イチゴさんは灰皿で煙草をもみ消す。
 左右に一回ずつ。そしてフィルター部分をつま弾く。
 それが彼女のクセ。
 いつものクセ。
 それをみているうちにポニーテールの女性は立ち上がり、俺に近づいてきた。
 そしてじっとみる。
 こんな近くで見たイチゴさんは初めてだった。
 口調も、態度も、そして思考も全然女の人らしくない。
 でも、どこかお姉さんしていて、時折、はっとするほど艶やかな表情を浮かべる人――。
 可愛いというよりも凛々しい、という言葉があう年上の女性。
 そんな女性が、こんなにも側にいる。
 少し甘い香り。
 あの煙草独特の匂いではなくて。
 なんていうか、甘い香り。
 その人はいつの間にか、隣に座り、俺を見つめていた。
 緊張感が包む。
 朱鷺恵さんとのことを思い出す。
 たしかに女の人は知っている――。
 でも1夜だけで――。
 知らないといえば、知らない。
 ワカラナイ。
 わからない。
 なんと答えればいいのか――。
 答えられない。
 答えてよいのか、よくわからない。
 ただ心臓の鼓動と時計の音だけが聞こえてくる。

「よし」

彼女はそういうと、俺の手を握る。
その暖かさと柔らかさに心臓が一瞬止まる。
そのままイチゴさんは手を引くと、俺を立たせる。

「こっちだ、有間」

そして奥へと連れて行く。

 ついていっていいのか、わからない。
いや、しかし、もしも、あぁ……。
 わからない。

 そのまま、ごちゃごちゃした部屋に入る。
 イチゴさんの部屋だ。
 中は電気なんかついておらず、窓明かりのみ。
 薄らぼんやりと蒼白く照らされている。
 フェンダーのギターが大事そうにしまわれており、その近くには楽譜が散らばっている。
 テープや CD、MD は床に山積み。
 壁には様々な絵。イラストチックなものもあれば、写実的なものもある。
 片隅には書きかけのキャンパス。
 筆が何本が並べられ、油絵の具もある。
 そして机には、原稿用紙と白い紙。そしてペンとインクとスクリーントーン。そして煙草。
 そしてベットの上には、下着が散乱していた。
 ブラジャーやショーツが散らばっている。
 あとは、ジャンバーやらワイシャツなどが、壁にかけられていて。
 その昔、有彦とイチゴさんの職業について話しあったことがある。
 その時は結論がでなかった。今この部屋をみても、出てこない。

 惚けていると、イチゴさんは脱ぎ始めた。
 ワイシャツを脱ぎ捨て、脇に放る。
 ジーンズのジッパーをおろし、片足ずつ抜きさる。
 ジーンズを踏みつけたまま、ソックスを脱ぎすてる。
 そしてブラジャーを外し、
 ためらうことなくショーツを引き下ろす。

 月光が差すその部屋に、イチゴさんは全裸で立っていた。
 意外なプロポーションに、思わず生唾を飲む。
 でるところはでて、ひっこむところはひっこみ、腰はくびれていて――その曲線美に魅惑される。
 窓明かりでほのかにうぶ毛が輝き、まるでイチゴさんは――いや一子さんは光でできているようであった。
 そしてゆっくりとこちらを見る。
 その瞳に魅縛される。
そしてベットに腰掛けて

「さぁ有間」

とかすれた色っぽい声で囁く。
 その声に我にかえる。
 急いで後ろを向き、見ないようにする。
心臓はものすごい勢いで鼓動していて、パンク寸前だった。
そして情けないことに――いや男としては当然なのだが――反応していた。
 俺の分身がまるで心臓になったかのように、血があつまり、脈打っていた。

「どうした――有間」

 後ろから甘い声。
 ゾクゾクとなにかを滾られる声。

「一子さん」

ちゃんと名前で呼ぶ。
そうでないと理性が保てないから。

「こんなこと――」
「こんなこと――?」

少し不機嫌な声。

「有間は、イヤなのか?」

 答えない。答えられない。
 イチゴさんは家族だ。
 たしかに一度、朱鷺恵さんとしたことがある。
 でもそれは坂を転げるような、そんな感じで――。
 どうしよもなくて――。
 だから、今回もそういうわけではいけない。
 据え膳くわぬは……じゃなくて、武士は食べねど……。
 その時。

「ダメ、なのか――?」

消え入るようなかすれた声。
 泣いている!?
 一子さんが?
 あのイチゴさんが?
 慌てて振り向くと。
 不敵に笑ったイチゴさんがいた。
 目を細め、少し微笑んでいて――そして蠱惑的だった。

「有間――」

 そして誘うように、囁く。そのかすれた声が心を縛り上げる。
 ダメだ。
 でも目は、耳は、そして心は一子さんに捕らわれる。囚われていく。

「女に恥をかかすな……」
「イチゴさん、ズルい……」

返答するが、頭がくらくらとして、はっきりしない。

「ズルいよ、イチゴさん」

 その柔らかで匂い立ちそうな曲線に心奪われていた。

「有間、覚えておけ」

 いつしか、彼女の顔が近くにあった。
 煙草の匂いとあの甘い香り。

「女はズルいものだ――」

その声を聞きながら、彼女を押し倒していた。

まずは口づけしようとする。
が、彼女は止める。

「がっつくな、有間。女の子に嫌われるぞ」

そして彼女から口づけをする。
煙草の味が広がる。

「ふふ」

彼女が笑う。

「有間とこういう関係もいいな」

その目は少し熱く潤み、俺の顔を見ていた。

「その顔、思ったより、凛々しいぞ」

 そして再び口づけ。
 煙草の匂いや味が気にならなくなる。

「そうだ、そう口づけして……」

俺は一子さんの手ほどきを受ける。

「そう、みんながみんな感じるわけではないから」

そういって、おれの手をその乳房に当てやる。
 柔らかくしっとりとしている。
 軽く揉む。
 柔らかくて飲み込まれそうなどなのに、弾力があって、指を押し返してくる。

 そっと乳房に吸い付く。
 肌の変わらない味。
 ――のはずなのに、なぜか甘く痺れてくる。
 乳房に舌を這わせ、なめ回し、こね回す。
 そして乳首を舐める。
 その瞬間、一子さんの躰が痙攣する。
 あれ――、と思いながら、また舐めあげる。
 再び硬直する。

 自分のことに熱心で、気にならなかったが、彼女は熱い吐息を吐いていた。

「い……いったとおり、――どの女も感じるわ……けでは……ない……からな」

鼻にかかった甘くかすれた声で指導する。
が力はなく、蕩けているような声。
かまわず、そのまま揉み、舐める。

「あ……りま……」

彼女の手はそのまま、こちらの躰に触れてくる。
首筋をすべって、乳首をなで、そして胸板をなで上げる。
声を漏らすほど気持ちいい。

「……わか……るか……そこだけでな……くて、いろんな場所……が……感じるん――だ……」

 淫蕩な愉悦を前に頭が真っ白になる。
 イチゴさんの密かな指使いに、躰がねじれてしまう。
たまらず、胸に顔を埋めて一息つく。

 ふふふ

笑い声。

「――駄目だぞ、有間」

そういって首筋を爪先で触れるか触れないかで撫でていく。
快楽が背筋を走り抜け、陰茎をびくんとさせる。

「男だから、頑張れ」

そういって耳を甘噛みされ、舌が耳の中に入ってくる。
その濡れてぐにゃりとした感覚は、俺の理性を溶かしていく。
頑張って、そこら中に口づけする。
 胸にも、腰にも、腹にも、首にも、耳にも、手に、腕にも、脚にも、指にも――いたるところに口づけし、舐め、吸い、甘噛みする。

「……そ……そうだ――あぁ、いい……ぞ――あ!」

そして俺はポラーテールの彼女の股の間に口づけしていた。
まずは太股。
 そのむっちりとした柔らかく甘じょっぱい味に痺れながら、舌を這わせる。
 そしてちらちと見えるあそこ。
 女陰。
 薄い茶色の縮れ毛の向こうに、ひそやかに咲く赤い花があった。
それは赤く充血しきっており、少し花開いていた。
 その淫蕩な香りが引き寄せられる。

 ――ああ

ようやく思い当たった。

今さっきのあの甘い香りは
一子さんの、女の香り、だと――。

「そ……そこは……丁寧に……そうだ、大事な……ところで……」

息も絶え絶えに指導してくれる一子さん。声は歓喜で淫猥に震え、俺の耳を刺激する。
 感じさせている、ということがうれしくて。だからもっとその声が聞きたくなる。
 彼女の手は俺の頭にのせて、髪を梳き、優しく撫でてくれている。それだけでも気持ちいい愛撫であった。

「そ……そう――うまい……な」

 俺は一心不乱に舐めている。肉襞の表も裏も、そして秘壺の中に舌をいれ、そこにある蜜をすすり、陰核に舌を這わせた。
 口のまわりが濡れるのもかまわず、息もつかず、舐め続けた。
 どくんどくんという心臓の鼓動に追いかけられて、追い詰められて、舐め続けた。

「もぅ……いい」

一子さんはそうぃって、俺を引き離す。
その甘く刺激的な香りに包まれた俺は、ようやく一子さんの顔を見ることができた。
 火照り、目を潤ませて、切なそうにしている。
 そこにいるのは、乾家のお姉さんでもなく、イチゴさんでもない。
 俺が見たこともない女性の一子さんだった。

「上手じゃないか……」

少し鼻にかかった声。
では、とそういって、俺のものに手を伸ばす。
指先に触れられただけで爆発しそうだった。
それほど高ぶっていた。
ぬらぬらと漏れる腺液を亀頭になすりつけ、こすり上げる。
ジンジンとしたむず痒さが腰から昇ってきそうになる。

「……じゃあ」

ペロリと唇を舐めるその仕草はとても淫らで――。

そしてそのまま、股をわって、入っていく。
陰茎が彼女の手によって、花弁へと導かれていく。
 そして入れた途端――。
 そのぬりゅりとしてぐにゃりとした熱い感触に
 迸しらせていた。

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