わたしはそっと荒縄を取り出します。
それを視た秋葉様は息をのみました。
でもその視線は熱く潤んでいて――。
なんて浅ましい女の人なんだろうと思ったのです。



華 雅 魅 (視)




 わたしは目の前の浅ましい人に仕える使用人で、いうなれば目の前の人はご主人様といえます。
でもわたしは翡翠ちゃんほどの、使用人の鑑などではありませんし――。
こうして期待にわななき、怯えて、そして震えている秋葉様を見ていますと、昔を思い出します。
 「空っぽ」だった頃。
 何も感じなかった頃。
 演じていた頃。
目の前の人――いいえ、遠野という家に対しての復讐しかありませんでした。
 復讐、だと思っていました。
 でも本当はたぶん違ったのですね。


   秋葉様――


 声を出さずにそっと呼びかけます。


   大好きですよ。


わたしはただ無感動になれば、何も感じなければ檻から出られると信じていて。
 でもそれは違っていました。
檻の中にいるとおもっていたけど、檻になっていたのだと――。
そう気づかせてくれたのは、志貴……様でした。
 がらんどうのわたし。
 からっぽのわたし。
 なんにもないわたし。
『琥珀』という名の檻。
 それ――だけ。
檻というものになってしまった「わたし」

 だからこそ、その中を埋めるために、槙久様を、四季様を、そして秋葉様を使ったのです。
 この人たちは自分の罪悪感からか、それとも自己中心的な考え方からか、わたしの思ったとおりに、そそのかしたとおりに動いてくれました。


   ――少しでも逆らってさえくれれば
             よかったのですけど――。


 そうすればこの檻の中にいれるものがそれでなくてもいいと気づかせてくれたのに。
なのにこの人たちは、まるでわたしを追い詰めるかのように、檻の中を軽くしていきます。


 もう一度前の女性を見ます。
 血は繋がっていないけれども、兄さんと呼ぶ、志貴さんに恋情を抱く女性。
 わたしはつい志貴さんとのことを話しました。
すると興味をもって、少し照れながらぶっきらぼうに聞いてくるのです。
 おかしいですよね。
 こんなに簡単に計略に乗るだなんて――。


   お・ば・か・さ・ん


そう言いたくなります。
 この人は本当に、本当に大好きなのでしょうね。
 だからこそ、簡単に計略にかかってしまう――いえ自ら飛び込んできてしまう。
 まるで灯の火に飛び込む蛾のよう。
自ら燃え尽き死んでしまうということがわかっているのに、それでも飛び込まずにいられない。
















 ――なんて愚かしくも切ないオンナという性。
















 でもこの人は「本気」
世間体も身分も何もかも棄てて、男に走ってしまいそうになる、可愛らしくも儚い『オンナ』。
 他の人が見たら、なんて愚かな――と嗤うかもしれない。
 でもいい。
 わたしには翡翠ちゃんと志貴様しかないのだから。
 だからわたしはこの人と戦う。
 この人の本気をわたしの本気で踏みにじる。
 それも徹底的に、完膚無きまでに。
 この人がどんなに志貴様に恋い焦がれても届かないのだと幾度でも見せつけてあげる。
 だから。
 わたしはこの人を縛り上げる。
 あなたは縛られて何もできないのだと――。
 わたしに縛られて言いなりだと――。
 教え込むために。



なんて可愛い人。
















「では」

この人の前に立つ。
 その長い黒髪は妖しくほつれ、女のわたしがみても色っぽい。
 だから命じる。嬲るために。教え込むために。

「ではまずは大きく股を開いてください」

目が動揺して視線がさまよう。
でもわたしはただ見据える。

「さぁ早く――秋葉様」

視線を動かさず、そっと囁く。
躯がびくんと震えると、秋葉様は座り込み、ゆっくりと脚を広げる。
襦袢の陰からゆっくりと恥毛が見え始める。
秋葉様の白い肌がうっすらと赤くそまり、羞恥に震えていた。
 唇を噛み、恥ずかしさを耐えている様は、私から見ても、なんて女らしいと思えるほどで。
 少しどきまぎしてしまっていて。
わたしは思わず秋葉様のオンナを見つめました。
 そこは薄い線がひとつ。
まだ花開いていません。
 でも襞は震え、歓喜にわなないているのがわかりました。
 すでに興奮しているのか、お豆はふくらんでいて包皮を押し上げています。
 わたしはその震える秋葉様を見て、背徳的な悦びを覚えます。
 奉仕すべき主人が、使用人に言われたまま打ち震える姿は――。
 このあられもない姿をみるだけで、昔覚えた唯一の感情が満たされていくようです。
 ゆっくりとそれは男を、牡を求めて花開いていきます。
 股を開くことによって、ゆっくりとオンナの香りが漂ってきます。
 飢えたいやらしい牝の匂い。
 その匂いがわたしをくらくらにさせます。
 わたしは思わず息をのんでいました。
 秋葉様のあそこを見るのは初めてではありません。
 でも毎回見るたびに見とれてしまいます。
 うっすらと花ひらき、蜜がとろりとこぼれてきます。
 赤い淫花がそこに咲いています。
 しかも誰もそこを汚したことはない。
 それだけでわたしはなぜかもっと嬲ってやりたくなります。
 わたしは槙久様、四季様と、苦しい思いをしてきたというのに。
 もっともっと嬲って、いじって、泣きわめきさせたくなります。

「もう濡れていますね」

とろりとおちる蜜がとてもいやらしく。
そしてなぜか、綺麗だと思いました。
秋葉様はいやがって首を幾度も振ります。
髪が乱れて、ふと秋葉様の香りがします。
でもそれはすぐ淫らなオンナの匂いに消されてしまい。
もっと嬲るのです。

「ふふふ、秋葉様」

わざとからかうようにいう。
こんなに恥ずかしい姿をしていても。
この人は気高く、凛々しい。
まるで百合のよう。
 清楚で誰にも汚されない。
 ふつふつと何かがわき起こってきます。
もっとこの人をなじりたい、嬲りたいと思うなにかが――。
でも、それでもこの人にはどうしても手が届かない。
どんなになじってもこの人を貶めることはできない。
虚ろなわたしにお似合いの虚ろな行為だけで。
 だからわたしは囁く。

「ではまずは自分をいじって下さい」

 すでに秋葉様の肌は真っ赤。
 こんなに淫らに羞恥に身もだえしていても。
 でも貶めることはできないのです。
 そうすると、秋葉様はご自身を慰め始めます。
 左手で襞を押さえ、右手で擦り上げる。
なんの技巧もない。
ただ感じたいから行う、自慰行為。
 でも、わたしはただその姿を見ているばかりで。
  こぼれ落ちるその滴を
  泣き叫ぶその嬌声を
  身悶えするその肢体を
  音をたてるその指先を
  真っ赤になったその淫花を
  わななくその唇を
  潤むその瞳を
ただ見ているばかりでした。
 それだけでわたしの息はあがり、腰の奥に熱い粘りを感じます。
 志貴様とは違ったこの愛おしさに、躯に震えが走ります。
 この人は快楽に溺れていく様でさえ美しく。
 汚れてしまった我が身にくらべてなんて美しいことなんでしょうか。
 そのまだ散らないオンナの美しさ、一人の男性を思う純粋な思いに
 わたしはくらくらします。
そしてこういう人が、
この世に、
目の前に、
仕える主人として
存在することに、
嫉妬し、
羨望し、
憎悪し、
――そして感動してしまうのです。


 秋葉様はすでに息も絶え絶えで。
 幾度となく喘ぎ声をあげ、
 何度も反り返っているというのに。
 まだ上り詰めることはできないようです。
この人を貶めたいと思うわたしが教えた背徳の悦楽に捕らわれてしまったらしく、その期待に打ち震えているのです。
 秋葉様の手をそっと取ると、

「だからこれがあるんですよ」

そしてわたしを荒縄を見せつけます。
一瞬秋葉様の目は大きくなり――そしてさらに熱く潤みます。
 その期待に満ちたオンナの視線はとてもいやらしくて。
 その視線を浴びてしまったわたしも潤んできてしまいます。
 わたしはこの人を縛り上げます。
 その縛るという行為に背徳的な、加虐的な悦びを覚えてしまいます。


   遠野の最後の一人である秋葉様を、この手で縛り上げる


 それだけで目眩がしそうです。
 気に病んでいられるその慎ましげな胸を縄で縛り上げ、その手を、首を、股を縛り上げるたびに
 躯に甘い疼きが走り抜けます。
 あまりにも甘い疼きのため、手が震えてきてしまうぐらい。

   遠野に縛られていたわたしが、遠野を縛り上げる

 復讐、なのかもしれません。
からっぽになった虚ろな檻がまだわたしの心の中にあり、そこがほんの少しだけ重くなる。
その重みが快楽となって、わたしの背筋を何度も何度も駆け抜けていくのです。

「似合っていますよ」

本当にそう思って声をかけました。
荒縄に縛られ、恥辱に震え、乱れたこの人は――なんて美しいのでしょう。
見惚れてしまいそうです。
でもわたしは後ろに回り込みます。
そして裾を持ち上げて、お尻を眺めます。
おしりは期待にふるえていて、いやらしく震えています。
いつからこうしてお尻をいじるようになったのでしょうか。
 このような背徳の場所をいじるだなんて――。
こんなに美しい秋葉様を貶めるために、わたしがそそのかしたのでしょうね。
 汚れた、あさましい姿を見たいために。
 でも――それでもこの人は堕ちない。
 どんなに恥辱にまみれたとしても、気高くて凛々しい。
 羨望を覚えてしまうほどに。
 だからわたしはもっと秋葉様を引き出すために、地に貶めるために、こうしておしりをそっとなであげて、後ろの窄まりを探します。
ふれると、一瞬緊張が走りますが、とろとろになったこの柔肌は吸い付くようで。
そのなで回す感覚にうっとりとしてしまいます。
 肛門をにローションを塗り込むたびに、嬌声を上げます。
 柔肌はまるで暖かいマシュマロのようで。
 とろとろと溶けていく様がはっきり感じられます。
こんな背徳的なところをいじられているというのに、こんなにもあさましい嬌声をあげて
 でもその声がわたしの脊髄を駆け抜けるたびに、もっともっと啼かせたくて、アヌスをぐちゃぐちゃになるまでいじります。
 肛門はふるえて、快楽をもとめてひくついています。

「もぅ秋葉様――こんなにひくつかせて」

 指をそっと差し込みます。
 入れようとするとひり出すように外へとおされるのですが、そのままぐいっと入れます。
 最初はきついのですが、いったん入ると、中は暖かくぬるぬるしていて。
 今度は逆に中に飲み込もうとするかのように蠕動します。
 まるで指先がとけていくような感じ、というのでしょうか。
 指をいれただけだというのに、わたしのオンナもわなないてしまいます。
主人を縛り上げ、そしてアナルに指を入れているわたしを思い描くだけで。
 それだけでイきそうになってしまいます。

「お願い……琥珀……お願い」

 この人はなんて愛らしくおねだりするのでしょうか。
 そんな声がもっと聞きたくて、もっと耳にしたくて。
 何度も抜き差しし、粘膜を擦り上げるのです。
 すると甘い鼻にかかった喘ぎが漏れはじめて。
 それにあわせてわたしも喘いでしまうのです。
 どろどろになってたわたしの「オンナ」が、虚ろな檻に満ちあふれ、こぼれようとしています。
とろとろになったわたしとドロドロになった秋葉様とが混じり合って、性感のスープになってしまったようで。
 わたしは一心不乱に出し入れし、また右や左に動かし、秋葉様を啼かせます。
 そしてわたしも啼くのです。
 性感に乱れなくふたりのオンナ。
 なんてあさましくいやらしいメスがふたり――いいえ二匹。
 いえ――わたし一匹。
 秋葉様はまだ堕ちてこない。
わたしのところまで降りてきてくれないのです。
こんなにも喘いでいて、こんなにもいやらしいというのに。
 わたしがこれほど手塩をかけて調教しているというのに。
 志貴さんのことを諦めない。
 まるでしなやかで獰猛な猫科の猛獣のよう――。
 なんて――美しい。

 わたしは羨望にかられて、指を抜き去ります。
すると、

「もっと……もっと……お願い……」

といっておしりをふってせがむのです。
わたしは嗤いました。
 これがこの人の正体。
そう自分で言い聞かせます。
 でもその美しい滑らかな曲線に。
 気に病んでいるその薄い胸が逆に中性的で、妬ましいほど。
 首筋から腰、そして足首までの曲線は息をのむほど美しくて。
 男でも女でもない――まるで完璧な「ヒト」を思わせて。
 その嗤いはどうしても虚ろで、自分で自分を嗤っているようでした。
 だから、わたしは引き抜くともっとあさましい姿が見たくて。
 快楽に身をよじり、喘ぎ乱れる姿が見たくて。
 用意しておいたバイブを取ると、えいっと一気に菊座を貫いたのです。

「どうですか、秋葉様?」

からかうように言う。
けれども答えられない。
涎も涙も垂れ流して、ただ首をふるばかり。
ただ快楽に溺れていく様が。
この人が溺れていく様に。
わたしも酔いしていく。
溺れてしまう。
溶けてしまう。
 バイブを強く弱く、浅く、深く、右に左に、動かしただただ快感が求めるままに嬲りました。
それだけでわたしにも官能のうねりが全身をかけぬけて。
目の前の人が乱れる様に
そのあさましい姿に
わたしも上り詰めようとしていくのです。
秋葉様の躯がおこりのように震え、達しているのだ、とわかると
それだけでわたしも達してしまいそうになる。
何度も頭が胡乱になっていく。
軽く達してしまう。
なんて――気持ちいい。
イってはいけないと
感じてはいけない、と思う。
 これは秋葉様の調教。
 志貴様へ近づかないようにするための戦い。
だというのに。
 わたしのオンナは秋葉様と同調していく。
 同調してしまう。

  こんなの――初めて。

その気持ちよさに何度もわたしは軽く気をやってしまう。
目の前であられもなく喘ぎ乱れる秋葉様を見て、何度でも――。
















「さぁ秋葉様」

気をやって溶けてしまっている秋葉様にそっと話しかける。
ぼおっとした焦点が定まらない視線でわたしを見る。
そうしてゆっくりと立ち上がる。
 その姿は気高く綺麗で――こんなにわたしが蹂躙しても、まだ見事に咲き誇っていた。
 それが――妬ましい。
 そして目隠しをする。
驚いた秋葉様はあたりを見ようときょろきょろする。

「……なに……これ……」

「目隠しですよ」
「目隠しって……」

目隠しされ、その拘束された姿に、わたしは心臓がどきりとしてしまう。
まだ乱れたままで、髪はほつれ――なんて色っぽいんでしょうか。
だから。
そんな秋葉様だから、そんな姿をもっともっと見たくて。
だから誘惑する。
もっと奥へと誘ってしまう。

「ふふふ、もっと淫らになりませんか、秋葉様」

秋葉様の細い喉が大きく動く。
そして、こくりと頷いた。

 その従順な――まるでわたしの方が主人のような恭順さに、加虐的な悦びを覚えてしまいます。

「じゃあこのままちょっと散歩しましょう……」

そして首輪をつける。
従属しているという印。
わたしのもの。
志貴さんとわたしの間に割り込むことができないことを教え込むために必要な印。
 そしてためしにぐいっとひっぱってみる。
よろめいてしまい、その貌にはびくついたおどおどとした表情が浮かぶ。
 それだけで――感じてしまう。

「……首輪なの」
「そうですよ、秋葉様」

 なんて可愛らしい。
つい笑ってしまいます。

「まるでワンちゃんのようですよ……いえ牝犬ですか」

その秋葉様を嬲る声に秘所が潤んでしまう。
なんて――なんて綺麗なんでしょう。

「さぁお散歩ですよ、秋葉様」

 どこまで堕ちるのか
 どこまで耐えられるのか
 どこまで気高く
 そしてどこまで凛々しくしていられるのか――。

わたしはそれを視たくて、
その恥辱にまみれた姿が見たくて、
でもそれを一切、視たくないようで、
ゾクゾクしてしまう。

そしてこの人に気づかれないように、想い人のところまで案内するのです。
 期待と不安と喜悦が入り交じった――歪んだ愛情とともに。

- Fin -
24rd. May. 2002 #30
あとがき

 これだけちょっと書かせていただきます。
 たぶん、琥珀の言っていること、やっていること、考えていること、したいこと、それらすべてが別の方を向いていて、メチャクチャだと思います。
 これはわざとそう書いておりますので。
 メイルで指摘する方がいますので、先回り(笑)ですとも、えぇ。

 あと、まだ(か)と(が)を書くかは、まだ「未定」です。
 これは要望があれば、というレベルなのですよ、ふふ

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