/一子

 抱きかかえられた。
自分の体重のことをおもって、躰が緊張するが、有間は笑いながら、わたしのポシェットから鍵を取り出しあけて、そのまま家へと連れて行ってくれる。
 目指すはわたしの部屋。
 わたしのベッド。
 つい今日きた下着はどうだったんだろう、なんてどうでもいいことを考えてしまう。
 でも――男に抱きしめられる感触は。
      男に躰を預けられる感触は。
 堪らなかった。






/志貴

 堪らなかった。
 俺は一子さんを今の衣装にふさわしいと思ってお姫様だっこをする。
 照れて横を向く彼女。
 両手と胸に彼女の重みと柔らかさを感じながら、ベッドへと連れて行った。
 そて彼女の部屋のベッドにそっと降ろす。
 まだ彼女はぷいと横を向いたまま。
 その恥じらいの様子がとても愛おしい。
 そして顔を近づける。
 すると気づいてこちらを向く。
 香水の甘い香り。
 化粧の粉の匂い。
 そして一子さんの臭い。
 一子さんはそっと目を閉じる。
 その熟れた唇に俺のを重ねた。





/一子

 男の固い唇。
 吐息さえも漏らすことができないようにぴったりと密着してくる。
 唇が熱をもっている。
 そして舌がはいってきた。
 軟体生物のようなぬるぬるとした有間の舌。
 わたしをそれを受け入れる。
 熱く湿ったそれはわたしの口を貪る。
 舌を吸い、歯茎を舐め、口蓋の粘膜をこする。
 やわやわと撫でてくる。
 そして有間の唾液。
 それを飲む。
 何度も飲みほす。嚥下する。
 それさえも気持ちよい。
 有間の舌が気持ちよかった。
 だから求めてしまう。
 口の中の有間の舌を交差させ、絡ませあい、互いに貪りあう。
 そんな行為に興奮と悦びを感じていた。
 甘い唾液。
 温かい舌。
 擦れる肌の感触。
 この熱く求め合っている感触。
 躰の芯からなにか熱くとろけたものが昇ってくるような、淫蕩な感覚。
 知らずに荒い吐息を漏らしていた。
 そのくらい、有間を求めていた。





/志貴

 一子さんの吐息。
 荒く、甘い吐息。
 くすぐったくも、男をそそってやまない吐息。
 そしていつもの一子さんの臭い。
 あの臭い。
 そのすべてを味わいたくて。
 一つ残らず味わいたくて。
 唇を離そうとはしなかった。
 そしてそのまま、舌で彼女の頬を舐める。
 そして首筋。襟元のペンダントを避けながら、見える鎖骨にチロチロと舌を這わせる。
 舌でてらてらとなっていくたびに。
 唇でちょっと吸うたびに。
 彼女は甘く身悶えて、吐息を漏らした。
 そのたびにずきりと下半身を刺激する電流が流れる。
 くらくらする感覚。
 貧血にも似た目眩。
 でも俺は彼女を貪っていた。
 彼女を抱きしめ口づけしているというのに。
 飢えていた。
 この柔らかい肌。
 この香り。
 この柔らかい肢体。
 この湿った肌触り。
 この柔らかい胸。
 俺は飢えばかり、覚えていた。





/一子

 脱いでいく。
 まるでストリッパーのよう。
 目の前の男の劣情をかき立てるように。

 そして脱がされていく。
 目の前の男に躰を預けて。
 わたしのすべてを晒すために。

 彼はわたしの乳房を揉む。
 乳首を抓み、舐め、咬むのだ。
 優しくわたしの胸を揉む。
 わたしにも乳首が勃ってきたことがわかる。
 痛いぐらい。
 そこを舐める。
 吸われる。
 そのたびに甘美な電流が躰を走る。
 神経のひとつひとつが弾けていく感触。
 他にも抱かれたことはあったけど、こんなのは初めてだった。
 なんて深く、甘い。
 有間に吸われているのだと思うと、躰が震えてしまう。
 快感が快楽を生み、快楽が悦楽を招く。
 ただ乳房を、おっぱいを吸われているというのに。
 ただそれだけというのに。
 頭がそれだけになっていく。
 そして唇は舌へ下がり、おへそを舐める。
 躰がよじれていく。
 こんなにも力強くよじれていくのに。
 中はどろどろ。
 いやらしいエキスでいっぱいのオンナ。
 指先は乳房だけではなく、脇の下、肋骨、鎖骨を撫でる。
 その柔らかいタッチに息ができない。
 全身の毛がたったよう。
 神経が快楽しか感じられない。
 ピリピリとした電気が表面を撫でていく。
 声が漏れる。
 甘くいやらしい声。
 わたしの声。
 なんて――やらしい。
 でもその声はたしかに有間を求めていて。
 有間の男を求めていて、切なく震えていた。
 有間でいっぱいになっていく。
 その黒縁の眼鏡。
 柔らかい瞳。
 その柔らかい顔の下に隠れたもう一人の有間。
 とても怖い有間。
 あのとき初めて知った、男の顔。
 有間は男だというのに。
 初めて知った、あの時。
 でも。
 その顔に、その荒々しい言葉、態度にこんなにも惹かれていく。
 乱れていく。胡乱になって、有間に依存してしまう。
 ただの情事だったのに、ただの肉欲だったのに。
 なのに、こんなにも。






/志貴

 一子さんの下着は役に立っていなかった。
 熱くとろけていて、ひくつき、俺を求めていた。
 そのてらてらとひかる色っぽい唇からは、卑猥かつ下品な言葉をつぶやく。
 有間がほしい、と。
 うつろな表情で。
 目を潤ませて、まぶたをわななかせて。
 接吻をする。
 煙草の臭いがした。
 一子さんの臭い、だった。
 彼女はいやらしく腰をひねり、せがんでいた。
 そしてなんの恥じらいもなく、俺のを掴む。
 その手触りに呻きを上げる。
 腺液で濡れた俺のを、淫らな言葉をもってこすりあげる。
 強くこすり、粘膜をそぎおとすかのように。
 血が集まってさらに固くなるのがわかる。
 くびれに指をからめ、鈴口をこする。
 そして幾度も猥褻な言葉で、俺を誘う。





/一子

 何時の間に有間はここまで女の扱いがうまくなったんだろう。

 ふと、有間に抱かれた見知らぬ女たちに嫉妬した。
 その痛みが、もっとわたしを溺れさせていく。
 とても淫らに。
 有間の組み敷かれて抱かれた女達を、今は忘れて欲しかった。
 ただわたしだけを見て欲しい。
 今この瞬間だけは、夢のような魔法の一時、なのだから。
 だからいくらでも自由になれた。
 いくらでも、卑猥な言葉がいえた。
 いくらでも淫らな痴態を晒すことができた。
 ただただ有間を欲しくて。
 だから、有間の愛撫に躰が蠢いてしまう。
 声が出てしまう。
 喘ぎ声をあげて、女の肉の悦びにひたってしまう。
 有間。
 有間。
 有間。
 有間が溢れてしまう。
 躰の中も、心の中も、魂の中さえもいっぱいになって溢れてしまう。
 その指先の柔らかいタッチ。
 はいずり回る濡れた舌先。
 甘く強い接吻。
 熱く固い逸物。
 いえ、おちんちん。
 わたしは叫んでいた。
 欲しい、有間のおちんちんが欲しい、と。
 どうにかなってしまいそうだった。
 いや――違う。
 どうにかなってしまってもいい。
 ただ、有間を感じたい。
 有間の熱い男を感じたくて、だから手を伸ばし、やけどしそうなほど熱く、脈打つ……おち……んち……ん……に触れた。
 こんなに熱くして。
 こんなに劣情を感じて。
 こんなに肉欲に従って。
 有間の男。
 有間の逸物。
 有間のおちん……ちん……。
 今ならなんでもできそうだった。
 有間に貫いてもらえるためならば、どんな卑猥なことも、淫猥なことも。
 有間の胸にある引きつった傷痕に口づけする。
 舌先でチロチロとなめて、ゆっくりとたどる。
 そして有間の乳首を舐める。
 こんなこと……したこともないのに。
 でも、わたしはできた。





/志貴

 乳首を甘噛みされて気持ちよかった。
 でもそれだけではダメで――。
 俺はようやくオンナをいじる。
 蜜であふれたそれに触れる。
 いやらしく指に絡んでくる粘膜。
 ちょっと撫でただけなのに、いやらしい臭いが立ち上ってくるよう。
 熱くとろけていた。
 そこに挿入したら、それだげていってしまいそうだった。
 それっくらい淫らに濡れていて。
 そっと指をいれる。
 粘膜が指をしごく。
 じんわりとした悦楽が躰を走る。
 暖かくヌルヌルしたものでこすられる性悦。
 俺は指を曲げて、粘膜をこする。
 一子さんは悲鳴を上げる。
 ざらざらとした箇所を探してあて、ぬるぬるした淫水をそこに塗り込むかのようにこする。
 そこの粘膜をこすりとるかのように動かす。
 とたん躰が朱色に染まる。
 綺麗な白い肌が赤く染まり、淫らにくねくね動いて。
 だからもっと動かし、こすりあげる。
 悲鳴にも似た熱くねっとりとした声をあげて、首をふり、躰をのけ反らせる。
 飛び散る汗さえ匂い立ちそうなほど。
 幾度となく痙攣がはしる。
 それて俺は――挿入した。





/一子

 有間が入ってきた。
 わたしの秘肉をわって入ってくる。
 胎内に熱い男を入れるこの感触。
 体の中まで許してしまう、という快楽。
 声にならない声をあげる。
 あげてしまう。
 ただ感嘆にも似た吐息が漏れていく。
 まだ入ってくる。
 ゆっくりとゆっくりとはいってきて。
 そのでっぱったところがわたしのオンナをこすり、けずって、入ってくる。
 まだ入ってくる。
 神経ひとつひとつに官能の炎が盛る。
 チロチロとしたものではなく、業火。
 全身が熱く灼かれる。
 でもまだ入ってくる。
 じんわりと炎にあぶられて、息さえできない。
 苦しいほど。
 こんなに入ってくる。
 有間のがわたしのすべてを引き出そうと入ってくる。
 おなかを突き上げられる感じ。
 でも苦しさではなく、ただの悦び。
 女として男を迎え入れる悦び。
 犯している。
 犯されている。
 一子という存在が、オンナのエキスに犯されていく。
 有間のオスによって、一子が犯されている。
 淫らに。
 そしてようやくとまる。
 こんなにもいっぱい。
 裂けたかのよう。
 このみちみちた感触をなんといえばいいのか――。
 オンナとしてオトコに貫かれた悦び。
 一子として有間に抱かれている悦び。
 いやらしい悦び。
 女の悦び。
 それに満ちていた。
 有間のはわたしのなにかを突き上げている。
 そのこすられる感触が、ビリビリとして。
 そうしたら引き抜かれる。
 粘膜を巻き込んでいく。
 すごい。
 その熱さが。
 その固さが。
 その長さが。
 こんなにもわたしを犯していく。
 わたしの理性は犯され、狂わされて、ただいやらしい牝の本能だけにされる。
 むき出しの本能だけ。
 そして入ってくる。
 出ていく。
 こすられ、えぐられ、蹂躙され、ただただわたしの躰をどろどろにしていく。
 有間を受け入れるため、どんどん柔らかくなっていく。
 こんなにも柔らかくなり、こんなにもどろどろになっていく。
 有間を受け入れて飲みほそうとする。
 そのたびになくなったはずの脊髄に白いものが走る。
 脳髄が弾ける。
 幾度も弾ける。
 本能さえも消えてしまう。
 真っ白。
 すべてが真っ白になる。
 今のわたしは……。
 いや、でも……。
 ……あぁ有間。
 ……すごい、おちんちんでいっぱい……。
 もっともっともっと!
 ……はうん、ぴちゃ、ぐちゅぐちゅ……
 ――……はぁ……
 駄目だ、有間。
 そんなの、汚い。
 ……あぁなのに……
 こんなに感じる。
 こんなにも感じちゃう……。
 くぐっと深く入ってくる。
 先でぐりぐりとされる。
 痺れる。
 わななく。
 悶える。
 苦しい。
 たまらない。
 蕩ける。
 有間の臭い。
 感触。
 熱い。
 どろどろに。
 いや……言えない……。
 有間……。
 ……お……おまんこ……が……いっぱい……。
 そして有間のが大きく震える。
 くぐっと大きくなる。
 わたしは脚をからめて、逃がさない。
 そしてそのまま。

 びしゃ
 
かけられる。
 何度も。
 かけられるたびにわななく。
 舌が出てしまう。
 涎をこぼし、涙を流してしまう。
 胎内が有間のエキスでいっぱい。
 粘つく白い液でいっぱい。
 暖かく広がっていく。
 感じきっているのに、それでも有間は動く。
 狂いそう。
 こんなに有間の液でいっぱいなのに。
 その液をこすりつけ、染みこむかのように、動かす。
 駄目。
 いやらしい淫水の音。
 ごぼっと隙間から熱い有間のがこぼれる感触。
 泡立ちこぼれていく、この感触。
 ――――――――――――――――――……有間……。






















/志貴

 次の日はふたりともあっさりしていた。
 いつもの、だらしない一子さん。
 ぼさぼさの髪を後ろで束ねていて、煙草をふかしている。
 あのドレスはなかった。
 あのぷるぷるとした唇も、イヤリングもペンダントも。
 すべてない。
 あたかも魔法だっかのよう。
 いつものように昼過ぎに起きて、出前を頼み、食事して、そして帰る。
 いつもの日常。
 いつもの光景。
 いつものまま。
 昨日はただすれ違っただけ。
 たぶん――そう。
 だからこそ、俺はいつものとおりに振る舞って、いつものとおりに帰宅する。
 それが……一子さんとの関係を壊さない方法だから。





/一子

 有間は帰った。
 わたしはいつものとおりに振る舞えただろうか?
 たぶん――そう。
 昨日は、ただの夢の一時。
 ただの魔法。
 ただの――劣情。
 一人っきりのオトコと一人っきりのオンナがただ寂しさを埋めただけ。
 ただ切なさを情欲で埋めただけ。
 そうに決まっているし、そうだ。
 そうなんだ。
 そう何度も心の中で繰り返す。

 ただの魔法なのさ、有間。

 青年となった彼の背中を思い浮かべながら、煙草に火をつける。
 煙草を吸うと、最初吸った時の、苦くむせるような味がした。気がした。

あとがき


 というわけで天戯さんへの攻撃です。
Dry?のかわいた感じ。そして一子さんは本当にドライなのか? に対しての続きとして仕上げています。
 こまかく志貴と一子さんのフェイズに切り替わって、とても楽しくかけました。
 こういうのも、ありだな、と思ったり(笑)
 意外と書きやすいんですよ。みせたいシーンを切り替えられるっていうのは。
 最初タイトルはDry? に対して Wett? でしたが、全体をとおしてみたらちがったので、今のに変えました。
 
それでは別のSSでお会いしましょうね。

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13rd. September. 2002 #63