七夜の大冒険(後編の4)(M:全員? 傾:シリアス?)


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1: Keis (2001/09/09 02:44:00)[keis28c at netscape.net]

−遠野家客室

 アルクエイドが無言で窓を開けた。

「・・・来た!」

 シエルも同時にその気配を感じていた。

 そしてほぼ同時に己が屋敷の敷地に沿って張った結界が破られるのを感じる。

 アルクエイドが窓から飛び出し、シエルは秋葉の部屋に結界を施した。

「まったくもう、志貴ったら何やってるのかしら!」

 アルクェイドはぶちぶちと愚痴を垂れながらも鋭い目で門の方向を睨んでいる。

 その時、門と屋敷を遮る木立が燃え上がった。

「おーおー、さすがはパイロキネシスト。」

 ひゅー♪、とアルクェイドは口笛を吹いて見せた。

「これだから無粋な輩は・・・」

 後ろから聞こえてきた声に振り返ると秋葉が窓から出てくる所だった。

「あれ、妹、起きたんだ。」

「いくらなんでもあんな殺気を浴びれば目も覚めます。」

 首の後ろをさすりながら秋葉は答えた。

 ぶちぶちと「兄さん、後でお仕置きです」とか呟いているのは軽く無視。

「もう、秋葉さんが外に出ちゃったら結界張った意味がないじゃないですか。」

 シエルも愚痴りながら外に出てきた。

 翡翠に当身を食らわし、気を失わせてから結界に放り込んだため出遅れたのである。

 秋葉はあっさりと聞き流すと、燃え上がる庭の木立を睨んだ。

 一瞬にして熱を略奪、消火する。

「うわ、妹って便利!」

「そうですね、山火事消火に役立ちそうです。」

 アルクェイドもシエルも軽口を叩いているが、油断無く構えている。

 アルクエイドが前方に飛び出てシエルが秋葉を横に突き飛ばす。

 秋葉が立っていたところを中心にして、空気が発火した。

「これはなかなか手強いですね。」

 シエルは目付きも鋭くそう呟いた。

 下手すると人体発火もあるだろう。

 体の内側から焼け死ぬなんて真っ平ゴメンだった。

 相手の姿が見えない上に気配すら察知出来ない今、シエルに出来る事は魔力の高まりを感じて発火地点を避ける事しかなかった。





−遠野家庭

 一方フォワードを受け持ったアルクェイドも戸惑っていた。

 ターゲットが見つからないのである。

 あれほどの力の持ち主の位置を感知できないなど初めての経験だった。

 もっとも戸惑ってはいるものの焦ってはいない。

 というのも秋葉をまず殺させてその隙をつくというのが彼女達の方針だからである。

「・・・それにしても志貴は何をしてるんだか・・・」





−遠野家離れ

「う・・・くぅ・・・」

 何故か頭が割れるように痛い。

「志貴さん、志貴さん!」

 そして慌てながら自分を呼ぶ声も聞こえる。

 ゆっくりと目を開けると目に入るのはヒビだらけの和室。

「うあ、め、眼鏡・・・」

「眼鏡ですか? はい、どうぞ。」

 自分の顔にそっと眼鏡がかけられるのを感じて、志貴は再びそっと目を開いた。

 そして思ったとおりの人物を発見する。

「や、おはよう、琥珀さん。」

「志貴さん、記憶がお戻りになりました?」

「え・・・、あ!」

 志貴は飛び起きた。

 目の前の琥珀は既に身支度を整えている。

「まずい! 琥珀さん、あれからどれくらい時間経ってる?」

「わたしが気付いた時に30分位経ってまして志貴さんは倒れていました。それからは一時間くらいですね。」

「くそっ!」

 志貴は毒づくと慌てて服を着始めた。

 その上で腰裏にコンバットナイフ、右脇にベレッタ、足首に予備のデリンジャー、左手首に投げナイフ、右手首に鋼糸をそれぞれセット。

「うわ、志貴さんって歩く武器庫みたいですねー。」

 何故か嬉しそうに笑いながらそう言う。

「・・・あれ、琥珀さん、なんか変わった?」

「え? どこがですか?」

「前より綺麗な顔して笑ってるよ。」

「・・・え?」

 ぽ、と琥珀は顔を赤らめた。

 こんなことを面と向って口にする辺り、志貴にはラテンの血が流れているのかもしれない。

「さて、記憶の事は取りあえず置いといて琥珀さんをまずは屋敷に送り届けないとね。もう敵も来てる。さ、行こう。」

 志貴は琥珀の手を取って立たせるとすたすたと歩き始めた。





−遠野家庭

 アルクェイドはついに軋間を発見した。

 見事なまでに紅い瞳は自分そっくりだった。

「やーっぱ、遠い親戚なのかな?」

 小さく呟くと、接近して仕掛けた。

 常識はずれなスピードで踏み込むと左右ワンツーから右ハイキック!

 アルクェイドはこの一年で志貴からある程度の戦術行動を教わっていた。

 志貴曰く、

「お前は自分の力に頼りすぎだ。技術をつければ俺如きに不覚を取る事は無くなる。」

 まだまだだったが、それでも前の力押し一辺倒の時よりは大分腕も上がっていた。

 そのお陰か、ワンツーを防いだ腕の合間からの軋間の目を見て、アルクェイドはハイキックの途中に軸足で横へ飛んだ。

 危うく発火を免れる。

 それでもお気に入りの白の上着が一部焦げてしまった。

 アルクェイドはそれを見て目付きを鋭くすると不敵に笑った。

「ふふ、少しは楽しめそうじゃない?」





−遠野家中庭

「どうやらアルクェイドが敵と接触したようですね。」

 秋葉の部屋の前から攻撃をかわしつつ中庭に来ていた二人。

 シエルはしばらく警戒するも敵からの攻撃が途切れたと確信してそう言った。

「大丈夫なんですか? アルクェイドさんは。」

 秋葉の問いにシエルは鼻で笑って答えた。

「あのあーぱー吸血鬼なんて殺しても死にません。志貴君が本気になれば昼には殺せるかもしれませんけど。」

「本気になれば、ね。」

 二人に声をかけたのは志貴だった。隣には琥珀がいる。

「志貴君!」

「兄さん。」

「先輩、秋葉、悪いけど話は後。アルクェイドを助けてくるから。琥珀さんを頼んだよ?」

 そう言って志貴は身を翻して走り去った。

「え・・・『先輩』って・・・!」

「兄さん、ひょっとして・・・」

「ええ、志貴さんは記憶を取り戻されました。」

 二人の脳裏に浮かんだ考えを琥珀が肯定した。

「一体どうやったんですか、琥珀さん?!」

 シエルが興奮して問いただすのに琥珀は莞爾と笑って答えた。

「わたしは感応者ですよ、シエル様。」

「・・・あ!」

 シエルが使う神聖療法は細胞を活性化させ、自己治癒速度を上げるもの。

 よって志貴のように断線した神経のような自ら治らないものは直せない。

 だが琥珀などの感応力はそれとは異なるのだ。

「その手があったんですね・・・って!」

「琥珀っ、あなた兄さんと、その・・・」

 シエルが何かに思い至ると同時に秋葉もそれに気付いた。

「はい、志貴さんにお情けを頂きました。」

「ああ・・・」

 シエルは予想通りの展開に思わず溜息をついた。

「琥珀、あなた!」

 秋葉は自分の思いを知っている琥珀に裏切られたように感じて怒り心頭。

 だが琥珀は短く尋ねた。

「では秋葉様は志貴さんがこのまま記憶を失ったままのほうが宜しかったのですか?」

 秋葉は黙り込んでしまった。

「まあ、とりあえずその件は一時置いておきましょう。琥珀さんと秋葉さんは部屋の中に入ってください。」

「私も戦えます!」

 秋葉の抗議にシエルは呆れ顔をした。

「素人が粋がらないで下さい。」

「なっ!」

「あなたには翡翠さんと琥珀さんを守る切り札という重要な役目があります。敵を倒すのは私たちプロに任せてください。」

 絶句する秋葉。

「秋葉様、今はシエル様の言う通りにしましょう。」

「・・・そうね、判ったわ。戻りましょう。」





−遠野家庭

 最早言葉を理解する事も出来ない獣と化した軋間胤臣とアルクエイドが激しい肉弾戦を繰り広げる中、志貴が到着した。

「よ、苦戦してるじゃないか、アルクェイド。」

「志貴っ、今まで一体何を・・・あれ、志貴、だよね?」

 軽い口調の志貴にアルクェイドは違和感を覚えた。

「ああ、俺は『遠野』志貴だよ。まずは奴を倒そう、話はそれからだ。」

「う、うん。」

 志貴が「遠野」と名乗った事に戸惑いつつ、言ってる事は正しいので目の前の敵に集中する。

「空想具現化は無理か?」

「ちょっとね、集中する間に狙われるわ。」

「よし、俺が突っかけるからその隙にやれ。」

「判った。」

 志貴は銃を構えて軋間を睨んだ。既に眼鏡は外している。

 嘗ての記憶が甦る。

 月の綺麗な晩、一族が滅亡したあの時、目にした紅赤朱。

「くぅ・・・」

 頭がずきりと痛んだ。

 その一瞬の隙

 はっとして志貴はベレッタを投げ捨てる。

 瞬時に燃え上がったそれが暴発する。

「くそっ!」

 短く毒づくと志貴は腰からナイフを引き抜いた。

「覚えているか、軋間。お前が殺し損ねた七夜の者だ。」

 そう言って軋間に踊りかかる。

 発火を警戒して直線的な移動を避け、相手の死角へ死角へと回り込みながら接近する。

 軋間も志貴を危険な敵と判断したのか、自分の周りを燃え上がらせ簡易的な結界を作り出す。

ぱっ

 志貴が炎の壁を割って飛び込むと同時にナイフを払う。

 軋間が左腕を上げてそれを受けると同時に、死線を切り裂きその腕を落とす。

 止めを刺そうとしたとき、志貴の右腕が燃え上がった。

「く・・・アルクェイド!」

 そう叫ぶと志貴は大きく後ろに跳び炎の中から出た。

 その瞬間、アルクェイドが炎ごとその中の空間を真空にする。

「・・・グ・・・ぐぎゃぁぁあああぁあああああぁあっぁっぁああ!!!」

 軋間が絶叫を上げ、一瞬にして消え去った。





「志貴、大丈夫?」

「ああ、よくやったな、アルクェイド。」

「うん、って志貴! その腕・・・」

「ああ、もうダメかもな。俺もこの稼業引退かな?」

 志貴は額に脂汗を浮かべながら弱弱しく笑いつつそんな冗談を飛ばした。

 志貴の右腕は完全に炭化し、ぼろぼろと崩れていた。

「今すぐシエルに直させるから待ってて!」

 そう言うとアルクェイドは志貴を抱え上げ、文字通り屋敷へ飛んで帰った。





−遠野家玄関

 ドアをぶち破るようにして(というか実際に蹴倒して)入ってきたアルクェイドに驚く一同。

 だが、彼女が抱える志貴の様子に綺麗さっぱりそんなことは脳裏から消え去った。

「兄さん!」

「志貴君!」

「志貴さん!」

「志貴様!」

 シエルが活を入れてようやく目覚めた翡翠が真っ先に志貴に駆け寄る。

「志貴様・・・!」

 涙を流しながら主人の名前を呼びつづける。

「シエル、さっさと志貴を治しなさい!」

 アルクエイドが怒鳴りつけるように言うが、シエルは首を振った。

「私には無理です。」

 その答えを聞いた瞬間、アルクェイドはシエルの胸倉を掴んで思いっきり壁に叩きつけた。

だんっ!

「シエル、泣き言は要らないわ。」

 壁にヒビが入る。恐らくシエルの肋骨にも。

「アルクェイド、私には治せないといっただけで、志貴君が助からないとは言っていません。」

「どういうこと?」

 アルクエイドが目を細めたまま聞き出す。シエルは苦しそうにしながら答える。

「志貴君の記憶を取り戻したように琥珀さんに手伝ってもらえば・・・」

「いえ、シエル様。これほどまでになりますとわたし一人ではちょっと・・・」

 琥珀が憂い顔で訂正を入れた。

「そんな・・・」

 それを聞いてシエルも焦り始める。

「翡翠。」

 秋葉が静かな声で呼びかけた。

 翡翠は涙でぐしょ濡れの顔を秋葉に向ける。

 すると彼女の目に深く腰を折り、翡翠に頭を下げる秋葉の姿が映った。

「お願い、翡翠。兄さんを助けてあげて。」

 翡翠は数秒躊躇うと琥珀を向いた。

「姉さん、二人で頑張れば志貴様は助かるんですか?」

「多分大丈夫だと思うわ、翡翠ちゃん。」

「では私もやります。志貴様のためになるのなら!」





−遠野家居間

 志貴を以前使っていた部屋まで連れて行き、琥珀と翡翠に任せた後、残りの三人は居間で待っていた。

 シエルがごそごそと台所を漁り、簡単なつまみを作ってなし崩しに飲んでいる。

 妙に三人とも不機嫌そうに飲んでいる辺り、自棄酒っぽい。

「あーあ。」

 アルクェイド愚痴る。

「今まで似非インド人と人間ミサイルランチャーがちょっかいかけて来るだけでも余計だったのにまた二人も・・・」

「あーぱー吸血鬼とブルーだけならまだしも・・・あの二人も可愛いですし。」

 シエルも愚痴る。

「折角兄さんが戻ってきて記憶が戻ったというのに泥棒猫を二匹も連れて、その上琥珀や翡翠まで・・・」

 秋葉も愚痴る。

「「「はぁ〜〜〜〜〜〜・・・」」」





−遠野家志貴の私室

「あ、あ、志貴様・・・ああぁああぁああああ!!」

「よかったねー、翡翠ちゃん。」





−遠野家居間

「それにしても長いですね。」

 ぼそっとシエルが言った。

 いいかげん三人とも酒が回ってきている。

 アルクェイドも普段の陽気な酔い方とは違って陰鬱だ。

「いつまでかかるのかな・・・」

「さあ・・・」

 秋葉もアンニュイな雰囲気を醸し出している。

「「「はぁ〜〜〜〜〜〜・・・」」」

 これだけ溜息をつけば三人とも幸せを逃しまくりだろう。





−遠野家志貴の私室

「あ、あ、志貴さん・・・ああぁああぁああああ!!」

 失神した翡翠の隣で琥珀が志貴と絡み合っていた。





−遠野家居間

「「お待たせしました。」」

 双子が入ってきた。

 中にいた三人がぎんっと睨みつけると・・・

 翡翠は未だに顔が赤らんだままだし、琥珀は妙に顔が艶々している。

「それで志貴は?」

 低い声でアルクエイドが尋ねた。

「もう大丈夫です、腕も完全に再生しました。」

 琥珀が答えると三人の雰囲気が僅かに柔らかくなる。

 それを逃さず琥珀が提案した。

「もう外も白んでまいりましたし、今日はお開きにしませんか? お昼頃になればきっと志貴さんも目を覚まされるでしょうし・・・」

「・・・そうですね。じゃあ、すみませんけどもう一部屋客室を貸してもらえますか?」

 シエルがそう答え、翡翠が用意を整えに行き、琥珀が皿やグラス、空き瓶などを片付ける。

「それでは私はお先に失礼します。アルクェイドさん、また明日。」

 秋葉も席を立った。

 アルクェイドだけがその場に残って、台所で立ち働く琥珀のほうを眺めていた。

 やがて洗い物が終わった琥珀がやってきた。

「あら、ブリュンスタッド様、どうなさったんですか?」

 しばらくじっと琥珀を見つめてからアルクェイドはぼそっと言った。

「・・・嘘吐き。」

「はい?」

「翡翠も、なんて嘘でしょう。」

「どういうことでしょう?」

 アルクェイドに責められても琥珀は何処吹く風と受け流した。

「本当は琥珀だけでも志貴は助けられたでしょう。例え力が足りなくてもある程度腕の形が出来れば後はシエルでも治せるはず。」

「あはー、私には判りません。」

 アルクェイドはそっと溜息をついた。

「志貴も『琥珀は一筋縄では行かない』って言ってたけど本当だったね。負けたわ。」

 琥珀は黙って笑みを深めるばかり。アルクェイドはまた明日と軽く挨拶して客間へ向った。

「翡翠ちゃんばっかり仲間はずれには出来ませんからねー。」

 琥珀はそう呟くと自室へ向った。





−その後

 その後志貴がどうしたのか?

 秋葉と愛を誓い合った事を思い出し。

 シエルに命救われており。

 アルクェイドはいきなり殺した責任があり。

 琥珀には記憶を取り戻させてもらい。

 翡翠には命を助けてもらった。

 五人の美女と褥を共にした責任をどう取るのか?

 志貴の心が休まる日は果たしてくるのか?

 それは彼らにしか判らない。


ふぃん



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後書き

初めまして、Keisと申します。
初めて月姫SSを書きました。
遠野家ルートでさっぱり出番の無い某ヒロインを救済するべく書いたこの話。
構想段階では秋葉エンド後の太陽エンドっぽい話、でした。
ところが箱を開けてみたらやっぱり猫の陰薄い(笑)
いつのまにやら琥珀フラグが立ってしまってハーレムエンドになってしまいました。
後半が前半の倍、というわけのわからん状態ですし。

しかし、取りあえずアルクェイドはいきなり殺し、カオスが中ボス(笑)で、ラストの戦闘前にHというフォーマットは踏めました。

所で初めてといえば、じうはちきんも初めてです。
やっぱ書いてて恥ずかしいものですね。あんまり濡れ場っぽくならないし。
夜中に勢いで書き上げました。読み返すと恥ずかしいです(汗)

拙いものですが、皆様に楽しんでいただけたら幸いです。
それでは。


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