七夜の大冒険(後編の1)(M:全員? 傾:シリアス?)


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1: Keis (2001/09/09 02:40:00)[keis28c at netscape.net]

−日本

「で、シエル。今回のターゲットは?」

 じゃれてくるアルクェイドを適当にあしらいながら志貴が尋ねた。

 ここは三咲町の繁華街にあるホテルの最上階、スイートの一室である。

 今回は魔眼や催眠誘導は使わずにちゃんと金を払って借りた。

 謎のアルクェイド資金からの出費である。

 ハンガリーで一緒になって直に日本への移動だったのでアルクェイドも入れて三人で部屋を取った。

 フロントで予約確認をした際、志貴が鬼畜のような目で見られたのは余談だ。

「それがですね・・・」

 何故かシエルは口篭もった。

 日本に来るまでも散々言い渋っていた。

「シエル−、いい加減白状しなさいよ。何、昔の男かなんかー?」

 アルクエイドが茶々を入れるがシエルは特に反応しない。

 何かよっぽどの事情があるらしい。

「シエル。」

 少し志貴の声が尖る。

 苛立ってきたらしい。

 シエルもそれを察して溜息をついた。

「今回のターゲットは志貴君もご存知の人物です。」

「俺が?」

「軋間胤臣、です。」

「ほお、軋間、か。」

「ねえねえ、誰それ?」

 志貴が感慨深げに呟くとアルクエイドが問いただす。

「ああ、俺が七夜という退魔の家系だとは言ったよな。」

「うん。」

「俺が七歳の時、遠野家と軋間家という日本の二大人外家系の当主が七夜を滅ぼした。」

「ふーん、じゃあ、一族の仇の片割れなんだ。」

「ま、シエルによると俺はその後、遠野家に引き取られていたらしいがな。」

「は、何それ?」

「偶々その当主の長男も四季って名前だったらしくて気紛れで拾われたらしい。」

「・・・」

「催眠暗示で洗脳されて、二年後に殺されかけて長男の影武者にされて戸籍ごと抹殺されたが。」

「何か志貴って遠野と軋間のおかげで人生裏街道まっしぐらって感じだね。」

「はは、まあな。でシエルによると、何故か知らんが俺はこの町で義妹の現遠野当主とちょっと同居したらしい。」

「それで?」

「で、その義妹と恋仲になってその子のために自殺して記憶喪失らしいが、詳しい事は知らん。」

「ええー、シエル、もったいぶらないで教えなさいよぉ。」

 そこで二人は今まで黙っていたシエルを見た。

 志貴もそろそろ詳しく教えてもいいだろう、と思っている。

 シエルは嫌そうな顔をしたが、諦めて事情を話すことにした。



 3年前、先代遠野当主の槙久が死んで秋葉が志貴を屋敷に呼び戻した事。

 秋葉は志貴に命を分けていたので異形の血を抑えられなくなっていた事。

 ロアが四季に取り付き街で血を吸っていた事。

 志貴と秋葉が結ばれた事。

 秋葉が四季に襲われた事。

 四季を倒したが秋葉は血が抑えられずに反転した事。



「それでその妹を助けるために自殺したんだ・・・」

 アルクェイドはちょっと複雑な顔。

 呆れと感動と嫉妬が入り混じっている。

 なんとなくシエルが話したがらなかった理由がわかったのだ。

「一族の敵との恋ねぇ、なんか『ロミオとジュリエット』みたいじゃない、それ。」

「さっき言ったろ、俺は洗脳されてたんだと。」

「あ、そっか・・・え、じゃあ何、志貴って実の妹だと思ってたのにしちゃったの?!」

「さあ・・・そこらへんはどうなんだ、シエル?」

「さすがに志貴君も近親相姦の趣味は無かったようです。自分は養子だと知ってましたよ。」

「ふむ・・・」

 志貴は何か考え込んだ。

「どうしたんですか、志貴君?」

「ん、まあ今はいい。それで軋間がどうしたって?」

「今代の当主である胤臣が反転したんです。それで人を殺して回ってるわけですが・・・」

「が?」

「軋間の一族は代々自分たちより異形の血が薄い遠野家が彼らの長である事に不満を抱いていたようです。」

「それで?」

「反転した後もそれだけは覚えているらしくて主ターゲットは遠野家現当主、志貴君の義妹の秋葉さんのようです。」






七夜の大冒険(後編)





 志貴はシエルの話を聞いて不思議そうな顔をした。

「何故俺達が日本に来なければならない? 人外同士、大いに殺しあって貰えばいい。」

 それを聞いてアルクエイドがけらけらと笑った。

「そーだね、志貴の仇が仲間割れしたからって知った事じゃないよね。」

「別に教会も彼らの戦いをとめるつもりはありません。」

 シエルも冷静に言った。

「ただ、生き残ったほうは倒したほうの血と力を吸い取って強大になると思われるのでそちらを倒すのが目的です。」

「なるほど。しかしさっきシエルはターゲットが軋間だと言っただろう?」

「はい。勝つのは恐らく軋間ですから。」

「ふーん、志貴の昔の女って大して強くないんだ?」

 アルクェイドはどこか嬉しそうにそう尋ねた。

「さあ、私は秋葉さんも軋間もよく知りません。あくまで教会の予測ですから。」

 彼女達の会話を聞きながら志貴は黙っていたがやがてニヤリと笑った。

「いい手がある。」

「え?」

「なになにー?」

「さっきも考えていた事なんだが、俺達はこれから遠野家に行こう。」

「ええー?」

「何故ですか?」

 志貴の提案に二人は不満を表明した。

 深い意味はない。昔の女がでしゃばるのを危惧しただけである。

「遠野の現当主は俺と深い仲だったんだろ? そこにつけいるんだ。」

「「?」」

「つまり、まずは親切めかして協力して軋間を殺る、そして背中からぐっさりと遠野も片付ければいい。」

「うわ、志貴極悪ー!」

 そう言いながらアルクェイドは笑っている。いい案だと思ったらしい。

 シエルはじっくりその案を考えた。

「・・・なかなか良さそうですね。その場合、志貴君の記憶の問題はどうしましょう?」

「ああ、そうだな。偽らないほうがいいんじゃないか? どうせ細かい事で食い違いが出るのは避けられない。」

「そうですね、じゃ、記憶が無いのはそのままってことで。」

「ねーねー、シエル、軋間って奴と妹のデータは無いの? 軋間が勝つって予測したんなら元になるデータがあるでしょ?」

「ええ、秋葉さんは『略奪』と『共融』、軋間は『灼熱』です。」

「つまり?」

「視界内の全ての物体から熱を奪う秋葉さんと、視界内の全てを発火させる軋間、です。」

「ああ、軋間ってパイロキネシストなんだ。」

「ええ、そうです。」

「なるほどな、寝込みを襲って家ごと燃やせばいいのか、確かに軋間が勝ちそうだ。」

 志貴の言葉にうんうんと頷く二人。

「ま、俺達が寝込みを教われるなんてことはありはしないからそれはいいだろう。遠野家には他に人が居るのか?」

「はい、使用人が二人居ます。琥珀と翡翠という双子のメイドですが、詳しいデータはありません。」

「メイドさんかぁ、ま、戦闘能力はないんじゃない?」

「かもしれませんが、油断は出来ません。昔志貴君から聞いた所では幼馴染だそうです。」

「そ。で、遠野の戦闘経験は?」

「ゼロです。」

「・・・は?」

 志貴は驚いてシエルを見た。

「ですから、秋葉さんは全く戦った事がありません。」

「あら、そりゃ論外だね。」

「ああ、死ぬな。」

 俗に「人一人切れば初段の腕前」と言う。

 軋間のほうは人を殺している。殺す事に躊躇いは無い。

 秋葉は戦った事すらない。相手にもならないだろう。

「さて、それじゃこれからどうしますか?」

 粗方話は終わったと判断し、シエルが今後の方針を相談する。

「そうだな、飯食ったら遠野家を訪問しようか。夜のほうが都合がいいだろう。」

「そうですね。」

「じゃ、行こー。何食べよっか・・・」

 食事をする必要が無い真祖が一番張り切って食べにいこうとするのに矛盾を感じながら志貴達は部屋を出た。





−遠野家門前

「ここが遠野のお屋敷です。」

 夕飯を食べた後、三人はのんびり歩いてここまでやってきた。

 目の前には長大な壁と重厚な門構え。

「なんつーか、ここが日本だってことを無視したような家だな。」

「うん、日本にしては大きいよねぇ。」

「昔からの大地主らしいですから。」

「なんとなく訪問者を威嚇してるな。」

「感じ悪いよねえ。」

 これから尋ねる家の前に突っ立って散々言いたい放題ケチをつける志貴とアルクェイド。

「さ、行きますよ。」

 シエルが場を纏めるとインターホンを押した。

 しばらく待ってから返事が帰って来た。

<はい?>

「遠野さんのお宅でしょうか?」

<さようですが?>

「夜分遅くに失礼します。当主の秋葉さんに用があって訪ねてきた者ですが。」

<どなた様でしょうか?>

「シエル、とお伝えください。」

<少々お待ちください。>

 しばらくの間。

<シエル様、只今門を開けますので玄関までいらっしゃってください。>

「ありがとうございます。」

うぃーん、がちゃっ

 電動ロックが重々しい音を立て、門は鍵が開いた。

「じゃ、感動のご対面と行きましょうか?」

 シエルが冗談半分そう言った。

「ああ、そうだな。」

 志貴も笑いながら答える。

 その為に監視カメラに映らないように気配を殺していたのだから。





−遠野家玄関

 三人が森と言っても良い庭を抜けて玄関に辿り着くと玄関を空けて誰かが待ち受けていた。

 使用人のどちらかだろう。

「いらっしゃいま・・・」

 三人に向けて笑いを浮かべて挨拶を述べようとした和服に割烹着姿の女性は途中で言葉を切った。

 志貴を凝視している。

 アルクェイドはニヤニヤと笑っているし、志貴も辛うじて笑いを堪えている。

「し・・・志貴さん?!」

 女性は叫ぶように呼びかけると志貴に向って駆け出そうとするが思いとどまる。

「あ、失礼しました。とりあえず中へどうぞ。」

 満面の笑みを浮かべると三人を急かす。

 どうやら何かいたずらを思いついたようだ。

「どうも。」

 シエルだけが答え、三人は中に入った。

 和服姿の女性−琥珀−の導きで居間へと向う。

 シエル達三人は鋭い目を辺りに配っている。

「秋葉さま、シエル様をお連れ致しました。」

 琥珀が呼びかける。

「ご苦労様、琥珀。おひさしぶりですね、シエルせ・・・!」

 食後のお茶を楽しんでいた女性−秋葉−が客向けの顔を見せながら戸口に顔を向け・・・固まった。

 秋葉の後ろに控えていたエプロンドレス姿の女性−翡翠−も同様である。

「兄さん?!」

「志貴さま?!」

 そして二人の口から同時に志貴への呼びかけが迸る。

 秋葉は飛び上がるように席を蹴立てて立ち上がると一瞬にして志貴に駆け寄りそのまま抱きついた。

「兄さん、兄さん、兄さん・・・!」

 感極まって涙を流しながら志貴の胸に顔を押し付け、壊れたレコードのように志貴を呼びつづける。

「志貴さま・・・!」

 翡翠も口元を手で覆いながらしゃくりあげるように立ったまま滂沱の涙を流す。

「志貴さん、必ず帰ってきていただけると信じていましたよ。」

 琥珀も微かに目を潤ませながら満面の笑みを浮かべてそう言った。

 シエルもアルクェイドも何も言わず、黙ってこれを見守っている。

 だが、良く見ればその顔に意地の悪い笑みが浮かんでいるのが判ったかもしれない。

 暫くして漸く秋葉が顔を上げて志貴に向って言った。

「お帰りなさい、兄さん!」

 志貴は秋葉を抱き返すでもなく、秋葉の顔を見ながら曖昧な笑みを浮かべるだけだ。

 激しい訓練で鍛えた志貴は今や完全に秋葉より頭一つ分背が高い。

 そして三年前より厚くなった胸板に顔を埋めながらやがて秋葉は不信感から顔を上げた。

 琥珀もその笑みはやや薄れ、翡翠もやや戸惑ったような顔をしている。

「兄さん? どうして私のことを抱き返してくれないんですか?」

 志貴はその顔をじっと見つめてからようやく口を開いた。

「離れてくれないか、遠野秋葉?」





−遠野家居間

「に、兄さん?」

 秋葉は一歩下がって不安そうな声を出した。

 そして漸く志貴と同行している二人の女性の存在に気が付いた。

「兄さん、どうしてそんなよそよそしい呼び方を・・・まさか!」

 ぱっと二人の女性を睨んだ。

「まさか、兄さん、浮気ですか?!」

 興奮のあまり髪が若干赤くなる。

「秋葉さま、落ち着いてください。」

 琥珀が冷静な声で割って入るが、秋葉は聞いてはいない。

「兄さん、答えてください!」

 志貴はそんな秋葉を冷静に観察するような眼差しで見ている。

「ふむ、さすがは遠野の当主だな。そう思わないか、シエル?」

「そうですね。」

「志貴ー、なんか妹って私の遠い親戚かも。」

「そうなのか、アルクェイド?」

「うん、妹も血を吸ってるし。」

「なっ?!」

 志貴が秋葉を無視して二人の女性と親しげに会話し始めたのに更に秋葉の血は滾ったが、アルクェイドの一言で一瞬で冷えた。

「な、何を言うんですか、あなたは。失礼な。わ、私は人の血を吸うだなんて・・・」

「そんなはずないですよねえ、秋葉さま。」

 口篭もり、殆ど自白しているような秋葉を遮るように琥珀がフォローを入れる。

 そして志貴を見ながら問うた。

「あなたは本当に志貴さまでしょうか?」

 志貴はその琥珀の問いに対してくすっと小さく笑った。

「遠野の当主よりよっぽど冷静で切れる使用人だな。君の問いへの答えはイエスでもありノーでもある。」

 「君」という琥珀への呼びかけに翡翠がぴくっと反応する。

「どういうことでしょうか?」

 琥珀が完全に対外的な笑顔を見せながら志貴へ問う。

「自己紹介しようか?」

「そうですね、ご存知だと思いますが、私はシエルです。」

「私はアルクェイド・ブリュンスタッド。」

「で、俺は『七夜』志貴だ。」





「な、な・・・よ・・・?」

 秋葉が呟く。

「にいさ、ん?」

「悪いが俺は君の兄、『遠野』志貴ではない。」

「「「!!」」」

 察してはいた、いたが・・・本人の口から言われるとやはり衝撃を受ける。

「そんな、こんなに何処から見ても兄さんなのに・・・」

 秋葉はぽろぽろと涙を零している。

 そこで志貴は更なる爆弾を投下した。

「ま、もっとも昔はそうだったらしいがな。」

「・・・どういうことでしょう?」

 琥珀がこの台詞に反応した。

「うん、君も察しているようだけど、3年前までは『遠野』志貴として兄をやっていたらしい。」

「・・・ひょっとして・・・」

 小さく呟いたのは翡翠。

 彼女に頷いて見せ、答えたのはシエルだった。

「ええ、志貴君は記憶喪失です。」

「そんな、何故今まで黙っていたんですか?! 私たちと一緒に暮らしていれば記憶も!!」

「残念ですが戻りません。」

 秋葉の激昂した台詞をシエルは冷静に断ち切った。

「志貴君は3年前、自分の死点を突き自殺しました。何とか蘇生しましたが器質的な障害により7歳以降の記憶を失っています。」

ひゅぅっ

 息を飲む音が静まり返った居間に響いた。

「そんな・・・」

 秋葉の顔が後悔に塗りつぶされる。

(私のせい、私のせいなの? 兄さんは私のせいで記憶すら失って・・・)

 そして琥珀が気付いてしまう。

「7歳以降、と言われましたね?」

「はい、そのとおりです。」

 シエルが答えた。

「ということは、志貴さんは本当に七夜で私たちのことは全く覚えていないんですか?」

「そうらしいな。」

 今度は志貴が直接答えた。

 全ての甘い期待を断ち切るかのように。

どさっ・・・

 秋葉が失神して倒れた。





 半時間後、秋葉は自室に寝かされ翡翠が看病しており、琥珀が三人の客にお茶を振舞っていた。

「おいしいですね。」

「あはー、どうもありがとうございます。」

 シエルが紅茶の味を誉めると琥珀は完全に普段どおりに笑って答えた。

 それを見てアルクェイドが感心したように目を開いた。

「凄いねー、琥珀って。もう完全に心を隠してるね。」

「そうですかぁ?」

 お褒めいただきありがとうございます、などと答える琥珀を見ながら志貴がぼそっと言った。

「・・・そうか?」

 琥珀の顔が一瞬ぎこちなくなり、シエルが志貴の顔を見た。

「どういうことですか?」

「アルクェイドは心を隠している、というが、俺はそうは思わん。」

「えー、なんでー?」

 アルクエイドが不満そうに聞いた。

「琥珀はさっきから全く感情を表わしていないってことだ。」

 居間に沈黙が降りた。

「さっき玄関で最初に会ったとき驚き、次いで少し喜んだ、そこまでは本物だな。だけどその後は全部作ってるよ。」

「どういうことでしょう? 志貴さん。」

 琥珀が笑みを消して尋ねた。

「周りに合わせて、考えて表情を作ってるって言ったんだよ。言わばプログラムに従って動く人形だな。」

「志貴君!」

 シエルが怒ったように声を上げる。

 しかし琥珀は黙って笑っているだけで特に反応を示さない。

「琥珀、翡翠もだが俺の幼馴染らしいな。」

「はい、そうです。」

「それはつまり俺が7歳から9歳の時にお前たちもこの家に居たと言う事だな?」

「はい。」

「お前たち、巫浄の分家筋だろう?」

 志貴の話はやたらとあちこち跳ぶので判りにくい。

「フジョウ?」

「なにそれ、志貴?」

「巫女の家系だよ。七夜の親戚みたいなものだ。」

「ふーん。」

「志貴さん、私たちは孤児ですのではっきりした事は知らないのです。」

「そうか。じゃあ聞くが、お前たちは『感応者』か?」

「・・・はい、そうです。凄いですねー、何で判ったんですか?」

「なんとなく、さ。」

「ね、カンノウシャって何?」

「任意の対象に自分の力を分け与えられる能力者だ。何か儀式は必要な方か?」

「はい、対象者との体液の交換が必要ですね、私たちの場合。」

 琥珀は笑みを顔に貼り付けたまま淡々と答えた。

「なるほどね。」

「なるほど。」

 志貴とシエルは納得したように頷いた。シエルは痛ましそうな顔で。

「え、二人とも何が判ったの?」

「体液の交換ってことは要はセックスだ。」

「・・・え?」

 アルクェイドはつい顔を赤らめた。

「つまりな、先代遠野家当主の・・・なんてったっけ?」

「槙久様です。」

「そうそう、その槙久は遠野の血に流れる異形の力に対抗するために琥珀と翡翠の力を使っていたんだよ。」

「それって・・・」

「ああ、9歳だかの子供を強姦し続けたんだよ。」

「・・・さいってー。」

 アルクェイドが吐き捨てるように言った。

「そんな経験をすれば感情を殺しても不思議は無いだろ?」

「・・・」

 重い沈黙。

「バレちゃいましたか。私が感応者というだけでそこまで判ったんですか?」

 琥珀が軽い口調でそんな事を言った。

「セックスが儀式とは予想していなかったが、まあ、な。」

 暫くの間。

「・・・遠野のモノが憎くは無いのか?」

「いいえ。」

「・・・そうか。人形はそんな感情も持たない、か。でも形態模写はするわけだ。」

「え?」

「シエルから3年前の話は大体聞いている。遠野四季を手引きしたのが居るはずだと思っていたんだ、琥珀だな。」

「はい。申し訳ありません、志貴さんを巻き込んでしまいました。」

 琥珀が頭を下げる。シエルもアルクェイドも二人の会話に入り込めない。

「ああ、俺の事は気にしないでいい。で、まだやる気はあるか?」

「何をですか?」

「遠野家への復讐ゲームだ。」

「・・・」

 琥珀は沈黙を保った。

「今も遠野秋葉から血を吸われているのだろう? 遠野の家から解放されたくは無いか?」

 それでも琥珀は黙っている。

 志貴は待った。

 やがて琥珀が口を開いた。

「少し、考えさせてください。」

「判った。」

 その時、居間の扉が開いた。

 秋葉が翡翠に支えられて立っていた。


続く


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