七夜の大冒険(前編の3)(M:全員? 傾:シリアス?)


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1: Keis (2001/09/08 02:36:00)[keis28c at netscape.net]

−現在

 そんなわけで、それ以降、志貴、シエル、アルクェイドの三角関係は続いていた。

 仕事で世界中飛び回る志貴達に対し、アルクェイドも独自に行動しつつも何故かいつも出先で遭遇する。

 結局の所、教会の仕事をするシエルと志貴は行動をともにし、協会側のアルクェイドもそれについてくる。

 三人一纏めで死徒ハンターをやっているようなものだった。

 志貴が特に教会に所属しているわけではない、相変わらずフリーランサーだった。

 これは志貴が教会と協会の争いに関わる面倒ごとを嫌ったためである。

 一年の間に志貴は二人と肉体関係も持っていた。

 健全な肉体をしたもの同士、そして戦闘で高ぶる血。

 先鞭をつけたのはシエルだった。

 お互い初めてと言うわけでもなし、誘いをかけたら勢いで、という奴だった。

 事後にシエルがアルクェイドに誇った所、特に肉体関係に重きをおいていない志貴は同様のアルクェイドとも関係を結んだ。

 もちろんアルクエイドがアプローチをかけたものだが、志貴が二人のバランスを取ろうとした、というのもある。

 案外、二人といるのを楽しんでいる節もある。

 遠野志貴の頃の倫理観を失った超絶倫人は、それでも戦闘以外、優柔不断な甲斐性なしっぷりは抜けていないようだった。

 案外、優柔不断が鬼畜にレベルアップしているのかもしれない。

 結局三人は至極ドライな関係を続けている。

 肉体関係もあるものの、それはあくまでセックスフレンド程度であり、結局は仲の良い三人組ということだった。

 女二人が顔を合わせるたびに殺しあう事、三人の攻撃力が半端でない事以外は実に普通だった。

「アルクェイド、確か昨日一日二人で草原で寝転がっていたと思うが。」

 志貴が疲れたように言った。

 実際その通りで、その後夜になってから三人其々死体狩りをした。

 今回の敵は能力自体たいしたこと無さそうだが、やたらと食い散らかした死体が多いのだ。

 恐らく昔二十七祖の誰かに噛まれたモノがようやく死徒になった、というところだろう。

 その後アルクエイドが何をしていたのかは謎だ。

 猫のように移り気な彼女の事だ、何か面白いものを見つけてどこかに行っていたのだろう。

「昨日は昨日、今日は今日。ダメだよ、志貴、過去に捕らわれてちゃ。未来を見ないとね。」

「未来を見ないとね、じゃありません! 志貴君は今日は私と一日過ごすんです!!」

「シエルおーぼー。志貴の意志はどこぉ?」

「この・・・あーぱー吸血鬼、本来なら必要の無い一日おきの権利を認めてあげたのに付けあがって!」

「ま、俺はどっちでもいいが、二人とも、宿を壊すなよ。拠点がなくなると仕事に差し支えるからな。」

「はぁい、判ったよ、志貴。」

「判りました、志貴君。じゃ、ちょっと出かけてきますから。」

「ん。」

 ちょっと出かけてきて二人が何をするのか想像に難くないが、志貴は無視して再び惰眠をむさぼる事にした。

 数時間後、何か不穏な気配を感じて志貴は目覚めた。

 何故かいつの間にベッドに入り込んで志貴の両脇を占領していたシエルとアルクェイドも同様である。

 窓の外。

 そこにはこちらをじっと見つめる蒼い鴉が一羽。

<ミツケタ>

 妙に歪んだ声で鴉が”喋った”。

 実際には脳裏に話し掛けている。

 鴉はそれだけ口にすると何処かへと飛び去った。

「・・・あれって使い魔、だよな。」

「ええ、そうね。」

「今まで相手にしてきたのは死体だけだったよな。」

「はい、そうですね。」

「・・・違う相手が割り込んできた?」

「そうみたいね。」

「昨日までの相手はそれほど力があるようにも見えなかったですからね。」

「・・・はあ。当てはあるか?」

「・・・多分私かな?」

「アルクェイド?」

「例の”ゲーム”よ。」

「ああ、アレね。誰が順番なんだろな。」

「あの使い魔の感じからすると・・・」

「”混沌”、ですね。」

「ええ。」

「ネロ・カオス、か。また七面倒なのが来たもんだ。オルトやエル・ナハト、アルトルージュに比べればマシだろうが・・・」

「「「・・・」」」

 志貴の言葉を最後に三人は黙り込んだ。

 死徒が真祖を喰らうという不老不死ゆえの退屈凌ぎのためにトラフィム・オーテンロッゼが考案したゲーム。

 自分以外の真祖を狩り尽くしたアルクェイドにとって迷惑極まりないものだった。

 もっとも自分も死徒狩りのために生きていたのだからおあいこかもしれないが。

 分けの判らない宇宙人のオルト。

 一対一なら最強のエル・ナハト。

 そしてブリュンスタッドの名とプライミッツ・マーダーを持つ黒い姫君、アルトルージュ。

 一瞬この三者が協力して襲ってくる事態を想像してしまい、シエルはプルプルと頭を振ってそれを追い払った。

 ちなみにシリアスな雰囲気を作り出しているが三人で小さいベッドに犇めき合っているのでしまらない事おびただしい。

「アルクェイドが奴の使い魔をごっそり空想具現化で消滅させて俺が止め、か。」

「そんな所だね。」

 アルクェイドと志貴のこんな会話を聞くとシエルは寂しい思いをしてしまう。

 非常識な人外と直死の魔眼の持ち主である志貴と比べて自分の非力さを感じてしまうからだ。

 ロアを討ってしまった現在、シエルは「死ねない」体ではない。

 第七聖典もある、ロアですら驚嘆した魔術もある。

 だが二人のような決定的な攻撃力に欠くのだ。

 厳しい戦いでは敵の足止めや怪我の治療と言った志貴のバックアップに専念するしかない。

 鉄甲作用と火葬式典を組み合わせた黒鍵といえども足止めにしかならないのだ、強力な死徒や化物相手には。

 並の死徒や死体共は纏めて薙ぎ払えるのだが・・・

 つまり今までは不死で無くなったシエルでも十分通用していたのだが、ネロのような二十七祖の一員が相手だと話が別だ。

 ネロはアルクェイドしか見ていない。

 死徒としてのプライドが人間を軽視・蔑視・無視させるのだ。

 第七司祭であるシエルこそ気にかけては居るだろうが、志貴はノーマークだ。

 なんと言っても志貴はこれまで相対してきた敵は完全に殲滅している。

 横のつながりの弱い吸血種の間で情報が伝わるはずも無いのだ。

 元々強力な死徒はそんなに数がいるわけでもないので、そんなに頻繁に遭遇するはずも無い。

 もしそうならとっくにアルクエイドが全滅させているだろう、八百年もあったのだから。

 アルクェイドは最早死徒狩りの為だけに生きているわけではないが、今回のような貴重な機会は逃さない。

 もう殺る気満々である。

(しょうがないですね、今回はバックアップに回りましょう。)

 シエルは小さく溜息をついた。





−その日の夜

 三人は一緒に夜の街角を歩いていた。

「今日はいい月だねー。」

「ああ。」

「そうですね。」

 見事なまでの満月だった。

 当然アルクェイドの力は想像を絶して強大なものとなっているが、ネロも実力を発揮できる晩を選んだのだろう。

 小さな公園のやや奥まった所のベンチに三人で座り、しばし月光浴を楽しむ。

 シエルとアルクェイドが軽い口喧嘩なども交えながら楽しくお喋り。

 戦いの前とは思えない長閑な光景だった。

「ずーっと、こうやっていられたら楽しいのにね・・・」

「ええ。」

「・・・」

 アルクェイドの台詞を最後に沈黙が辺りを覆った。

「今宵はいい月だな、姫君。お待たせしたかな?」

「別にぃ。」

 黒いコートを羽織った痩身の男が現れた。

 シエルが昼の内に仕掛けておいた大規模結界で公園ごと周囲から隔離した。

 これで何も知らない一般人を巻き込む事も無く、大規模戦闘が警察を呼ぶ事も無い。

「ふん、教会の犬か。」

「・・・」

 結界に気付き嘲るような口調。シエルは鋭い目付きで睨んだままそれを無視した。

「なんとか間に合って幸運だったな、姫君。」

「そうね、お互い、この方が楽しいわね。」

 ネロのコートの袖口、裾、足元から使い魔が続々と生まれる。

 犬、鷲、鹿、虎、豹、犀、牛、熊、鰐、象・・・

 忽ち辺りは動物で満たされた。

「それでは始めようか、姫君。」

 ネロの言葉と共に動物たちが一斉に蠢きだす。だが・・・

「ふん。」

 アルクェイドは口の端を歪めて嘲笑った。

「カオス、少しは真面目にやりなさいよ、これじゃ興醒めだわ。」

 そう言って、腕を一振り。

 大量に視界を埋めていた使い魔達の三分の一が一瞬にして消滅する。

「こんなのが六百やそこらいたところで何の意味もないわ。本気出しなさいよ。」

「くっ・・・、ならば見せてやろう。」

 一瞬悔しそうに顔をゆがめたネロは、出し惜しみしていた幻獣たちを一斉に差し向ける。

 だがそれさえも。

 一瞬で。

 消え去った。

「空想具現化か!」

 一瞬にして消滅した使い魔たちの痕跡で辺りの地面は真っ黒だった。

「何よ、これで終わり? 大したことないわね。」

 満月の晩のアルクェイド、正に怖いものなし。

「・・・ふ、いつまで余裕を見せていられるかな?」

 だが、敵も然る者、ニヤリと笑った。

 途端に、アルクェイドが落とし穴に落ちたように一気に姿を消す。

「な!?」

「ふはははは、貴様が葬ったのは私の使い魔などではない、皆私の一部なのだ。」

 ネロが楽しそうに哄笑をあげる。

「つまり、お前は我が内に、”獣王の巣”に自分から入り込んだのだよ!」

 アルクエイドの形をした真っ黒の物体が蠢くのを見つめる。

「せいぜい足掻くがいい。ゆっくりと姫君を取り込んでやる。」

トス・・・

 楽しげに語るネロの背中に軽い衝撃。

「・・・? なんだ、お前は。」

 今まで気付きもしなかった人間が一人、ナイフを持って彼の後ろに立っている。

「お前、今、何をした・・・?」

 その蒼く冴え渡る目を見ながらネロは尋ねる。

 分からない事があると、不機嫌になる。

 探求者のサガか。

 自分が足元から灰になっているにもかかわらずそちらを優先した。

「あなたが馬鹿にして見もしなかったその人間はね、カオス?」

 いつの間に多重積層結界である獣王の巣から脱出したのか、アルクェイドが立っていた。

 最早下半身が消失したネロがそちらを振り向く。

「かつて一瞬で私を殺したのよ。」

「な、に・・・!?」

 あの真祖の姫君を一瞬で殺せる人間だと?

 油断していたのは、自分、だったのか・・・?

 最後に思い浮かんだのはそんな疑問。

 そしてネロ・カオスは完全に消滅した。





 その後、三人は宿に向って歩いていた。

 公園にも然したる被害も無く、単に結界を解除してきただけである。

「それにしても凄いねえ、志貴。あの混沌を一撃よ?」

「そうですね。一体どうやったんですか?」

「どうやったも何もいつもどおりさ。死点を見たら確かに数百あったが、極点を見極めて突いただけさ。」

 志貴は何でもないかのように言う。

「それにあいつは戦いに関して全くの素人だ。油断して周囲の警戒もしていない。そんな奴を倒すなんて寝てても出来るさ。」

((そんなことができるのはあんただけ。))

 一斉にシエルとアルクェイドは心の中で突っ込みを入れた。





 翌日、ネロ相手に何もできなかったシエルが鬱憤を晴らすように元々追っていた死徒を浄化した。

 ヴァチカンに任務完了の報告を入れたところ、至急日本に飛ぶように指示が出る。

 こうしてシエルと志貴は再び三咲町に足を踏み入れることになった。


後編へ



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中書き

初めまして、Keisと申します。
サイズ制限のため分割しましたが、ここまでが前編となっています。




志貴:「トオノブルー参上!」
琥珀:「トオノアンバー参上っ!」

 妙に楽しそうな志貴と琥珀。

秋葉:「ト、トオノレッド参上・・・」
翡翠:「・・・トオノジェイド、参上します。」

 恥ずかしそうに秋葉と翡翠。

琥珀:「ダメですよー、二人とも。こう言うのはノリと勢いです。」
翡翠:「姉さん・・・」

 ここで人外ズ登場。

アルクェイド:「何々、なにやってるの、志貴ー!」
シエル:「あーぱーなあなたは知らないでしょうが、これは由緒正しい戦隊モノのお約束です。」
アルクェイド:「ふーん、じゃあ、私は?」
志貴:「やっぱアルクェイドはホワイトだろう。」
アルクェイド:「そっか、じゃあ・・・トオノホワイト参上っ!」

 凄く楽しそうなアルクェイド。

シエル:「遠野君、そうすると私はなんになるんですか?」
志貴:「先輩は絶対イエロー。」
シエル:「? どうしてですか?」
志貴:「いや、これもお約束でしょ、カレー好きのイエローって。」

・・・・・・・・・続けっ!(笑)


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