いつものように。
by 夏葵
懐かしい夢を見たような気がした。
わたしは誰かの背中をいつものように追いかけていた。
あれは・・・。
私はいつものように同じ時間に目を覚ました。
ゆっくりと起きあがりカーテンからこぼれる光に目を向けた。
その時になって初めて私は頬をつたうものに気付いた。
まずはいつもの服装に。恥ずかしくない格好をしているだろうか。
姿見に映る私はいつものようにお辞儀をする。
もう姉さんは起きただろうか。
私はいつものように仕事を始めた。
まだ朝の眠りから覚めていないこの館をひとつひとつ起こしてゆく。
そしてゆっくりと私はあの部屋へ向かう。
コン、コン・・・。
私はいつものように扉をノックする。
もちろん返事はない。
この部屋には誰もいないのだから。
私はそれでもいつものように静かに扉を開ける。
「失礼いたします。」
あの人に向かって恭しく頭を下げる。これで今日が始まる。
私はまたいつものように静かにベッドの枕元へ近づく。
いまだ眠りの淵にあるはずのあの人の顔をじっと見つめる。
その寝顔は氷の彫刻の様。まだ起きる気配はない。
私はあの人の寝顔を最初に見たとき、息が止まりそうになった。
血の気の薄いその顔は青白く、まるで死んでいるように見えたから。
僅かに生気を感じさせてくれたのは、接吻するほどに近づけた顔にかかった寝息だけ。
私は決してあの人には触れない。
触れたら砕けてしまいそうな気がするから。
だからいつも、声をかけ続ける。私の声で髪を撫で、私の声で揺り起こす。私の声でおはようの・・・。
私はあの人ほど眠りの深い人を見たことがない。
身動きひとつせず、世界との関わりを絶つ。
魂すら吸い込んでしまいそうな深い深い眠りについていると私はいつもそう感じる。
私はいつものようにあの人に朝を告げる。声は掠れていないだろうか。
「おはようございます」
あの人がこの屋敷にいらしてから始まった私にとってとても、とても大切で神聖な儀式。
そうして私は待つ。あの人が眠りの園から戻ってくるのを。
私は枕元を離れ、出窓の方に向かう。静かにカーテンを開け朝の光を部屋に満たす。
レースの隙間から零れる光は優しく私を照らしてくれる。
私は軽く微笑んで朝陽に感謝する。
あの人が目を覚ますときにいつも明るい陽射しをありがとうと。
それも大切な私の儀式。
いつものように。
いつものように。
あの人は必ず戻ってくる。
ここがあの人の帰ってくる場所だから。
だからいつものように。
毎日シーツを取り替え。
毎日着替えを持ってくる。
毎日掃除をして。
毎日見回りもする。
そう、いつものように。
いつでも戻ってこられるように。
私は軽く俯いた後、振り返る。誰も寝ていないベッドに向かって。
あの人が見たがっていた私の精一杯の笑顔と共に。いつものように。
「おはようございます。志貴さま」
はじめまして。夏葵です。
なんだかぱっと思いついたのをそのまま書いてしまいました。
かなり変なところがあるような気がしますが、そこは勢いということで・・・。
投稿するのは初めてですが、次回があればどうぞ宜しく。