喩え


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1: N2 (2001/09/02 20:11:00)[ccd79310 at nyc.odn.ne.jp]

それはとても静かな夜だった。
一片のカケラもない満月。
そんな月が優しく俺を包んでくれる。
そんな気持ちにさせてくれる月を観客に、いつものように見渡す限りの草原という
舞台に横たわっていた。
ただ、いつもと違う点が一つ。
今日は最初から出演者が2人という事だ。
俺とシエル。
柔らかい月光の中、2人の出演者は話をしていた。
とりとめもない雑談。
出会ってからの事や真祖の姫君の事、家族の事・・・・・・・・。
そんな話をしていた。


不意に話が途切れる。
訪れる沈黙。
されどもその沈黙すら心地よく感じる。
シエルといるとそんな気持ちにすらさせてくれる。
「遠野くん。以前、こういった状況でブルーと出会ったのですよね?」
シエルからの突然の問い。
以前、シエルには話した事がある。
先生との出会い、出会った事の意味、出会った事への感謝を。
「ああ、そうだよ。2度目はこういった感じの時だった。
だからかな。こういった月を見ると先生を思い出す事があるんだ。」
あの別れの時の優しく微笑んだ先生の顔が俺の心に浮かび上がる。
「そうなんですか。思い出されるって、よほど強く印象に残っているんですね。」
「印象に残っているっていうより、先生は俺にとって大事な人でしたからね。」
「大事な人・・・・ですか。なんか妬けちゃいますね。」
そう言ってシエルは微笑んだ。
「別にそういうのじゃないんだけどな。」
「それじゃあどんな存在なんですか?」
俺はわずかな時間だが、考える。先生のことを。
「そうだな・・・・・・俺にとって先生は月みたいな存在じゃないのかな。」
「月・・・・・・ですか?」
「そう、月なんだ。小さい時、苦しんでいた俺を助けてくれた人だから。」
人差し指を頬に当て、一瞬考える顔を見せるシエル。
だが、すぐに納得したような顔を浮かべ、
「なるほど。苦しみという闇を照らしてくれた明るい月・・・・・ですね。」
「そうなんだ。先生はそういった存在だよ、俺にとっては。」
あの日、まっすぐに生きなさいと言ってくれた事。
それが俺にはどれだけ大事だっただろうか。
先生に出会えなければ、遠野志貴という人間は歴史に名を残すような殺人鬼に
なっていたかもしれない。卓越した殺人鬼に。
シエルとの関係もこんな風ではなかっただろうと思う。
「ブルーが羨ましいです。遠野くんの心に強く残っているのですから。」
月明かりを受けている頬に手を当て、シエルは再び微笑みを浮かべる。
そして、再びの問い。
「それでは、私は何なんですか?」
一瞬、その微笑みが意地悪く見えてしまう。
だが、答えは決まっていた。
「先輩は、太陽みたい人ですよ。一緒にロアという夜を終わらせた人だから。」
「そう・・・ですか。」
先輩の顔に寂しさが浮かぶ。その答えに不満なのだろう。
だけどもちろんそれだけではない。シエルという存在は。
だからこう言う。
「それに先輩は俺に幸せという明るい光を、暖かさを、くれる人だよ。それは俺にはかけがえのない
大切なモノなんだ。先輩という太陽がいてくれるから俺は生きているんだ。」
ぱあっとシエルの顔が明るくなる。さながら本物の太陽の様に。
そして、シエルが俺に抱きついてくる。その暖かさも太陽の様に。
「もうっ!そんなキザなこと言うんだから。嬉しくなっちゃうじゃないですか。」
そう言って静かに目を閉じる。
そんなシエルの唇に俺は・・・・・・・・・。




そして、月は消え、太陽が昇る。


あとがきです。

初めまして、NANと言います。
「月姫」をやって生まれて初めてSSなるものを書きました。
正直いって恥ずかしいです(汗
このSSは月蝕を参考に書きました。一人よがりな文章ですが、
大目に見てください(汗
それでは。


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