Magichans Night 惨劇編


メッセージ一覧

1: ミラージュ (2001/08/21 22:26:00)[kagami at cablenet.ne.jp]


「いい夜ね・・・・」











夜空に燦然と月が輝く









夜明けが近いことを示す赤い月










その下に彼女はいた











それ自体が輝いてるかの錯覚すら覚える黄金の髪












流血を思わせる真紅の瞳











涼やかな秋風をその身に受け純白の外套がはためく













穏やかな微笑みを薄く浮かべながら心地よさそうに風に身を委ねる











とその時






「ちょっとアルクウェイド!なにをボッーとしてるの!?」






突如吸い込まれそうな夜の静寂を雑音混じりの声がうち消す






「さっきから惚けてて!さっさと行きなさい!」





声の先は女性の外套の中から聞こえてくる





恐らくは無線機か何かだろう









金色は少し不機嫌な顔をした後一息の間を置きこう答えた















「わかってる、あんまりにも月が綺麗だったものだから」















「・・・・・月を見るのもいいですがなるだけさっさと終わらせてよ」











そして通信が途絶える












残ったのは木々を揺すぶる秋風と純白の外套








                              一陣















                             風が吹く














白い外套を羽織った金色は月を見上げた















「ああ・・・本当に今夜は月が綺麗ね」

























「Magichans Night 惨劇編 」













ある日三咲町のとあるアパートに一人の男が入居した




この何処か不気味な影を持つ青年に住人達は余り接触しようとしなかった



接触しようにも彼は夜にしか外に出なかったのだ




まるで日の光を忌み嫌い恐れるかのように



そして彼が入居してから一週間で他の入居者達が次々と姿を消した







一人・・・・・・また一人と







そしてついにある日その日が来た


管理人が異臭がするとの上の階の人間から苦情を受けて彼の部屋に行ったときだった



管理人は見た




真っ赤な血を滴らせながら行方不明のはずの隣人の首にかじりつく彼の姿を!






命からがら逃げた管理人はすぐさまアパートに人殺しがいると通報した


そしてすぐさま駆けつけた警官が彼の部屋の扉を開き


















惨劇の扉が開いた
























「なんだこれは!」


映されるビデオの内容を目の当たりに三咲町警察の署長は実に平凡な声を上げた


吸血殺人事件の緊急対策所では犯人が逃げた公園を映したビデオが上映されていた


そこに映っていた物は見た者ほとんどが署長と同じ叫びを上げるだろう内容だった







首から大量の血を流す警官が公園の中を蠢いている







警官達は一様に濁った灰色の目と腐敗した体をさらけ出している







そしてそこらじゅうに他の警官の物と思われるバラバラの肉片







「いったいこれは何だって言うんだ!」


再び署長が叫びを上げる



警察署の警官達は黙ったままだった


叫んでばかりで喉が痛いのに気付いた彼が机のコーヒーに手を伸ばそうとしたとき




「あれは吸血鬼です」





ほっそりとした若い女性の声が署内に響いた


机の前に集まった一同は皆一様にして場違いなセリフを発した方向に振り返った


長い黒髪を棚引かせかっちりとしたスーツに身を包んだつり目がちの美女だった



皆の意識が自分に集まっていることを確認して彼女は言った


「自己紹介が遅れたわね、私が国際超常犯罪対策室から派遣されてきた派遣員よ」


彼女の雰囲気に圧倒されていたのかしばらく口を利かなかった署長が口を開く



「・・・・あなたがMagichansからの派遣員の蒼崎青子?」


挑発の美女青子が眉をひそめる

「その名前で呼ばないで、私の事はブルーと呼んで頂戴」

「すでに通達が行ってる通り今回の事件は全て私たちが指揮します

あなた達は後はゆっくりコーヒーでも飲んでピザのデリバリーでも取りなさい」


「事件はあなた達に一任します・・・ですが一つ聞きたいことが・・・・」


「何かしら?」



その場にいた全員が一番最初に聞こうとしたこと、それは







「吸血鬼とはいったいなんだ?」


ブルーはいかにも説明するのが面倒だという面もちで言った


「吸血鬼といったら血を吸うあれに決まってるでしょう」



署内が一斉にざわめく、納得したような者、馬鹿馬鹿しいとした面もちの者もいた

署長は手にしたコーヒーに口を付けもせず反論した

「吸血鬼って・・・そんな物がいるはずないだろう!」

「それがいるのよ、あなた達木っ端役人が知らないだけでね」


反論し続けようとする署長を無視してブルーは話しを続ける


「世界中の行方不明者ってのは山ほどいるのよ、

そしてそのうちの何割かが吸血鬼とかの化け物によるもの

あなた達木っ端役人達が化け物の存在を知らないのも

私たちMagichansが化け物を片っ端から殺してるからよ」


「すでにうちの隊員を向かわせてるわ、対吸血鬼用のエキスパートをね」



・・・・・・・・静寂を破り署長が言う

「・・・その隊員ってのは大丈夫なのか?」


ブルーは薄く笑って言う


「あいつなら大丈夫よ・・・・・・あいつは」


















「対吸血鬼なら誰よりもエキスパートよ」














弓塚さつきは走っていた


息を切らしながら走っていた


どうして!どうしてこんなことになったの!?


頭の中は一杯だった


肺が潰れそうだった


彼女がその場に居合わせたのは運が悪いとしか言いようがなかった







弓塚さつきには中学の頃から思いを寄せている少年がいた


思いを寄せてからクラス替えの度に同じクラスになってひそかに喜んでいた


彼が私立の進学校に行くと知って成績がこれといって秀でたわけでもない彼女は


連日の徹夜を重ねてやっとの思いで同じ学校に進学した


涙が出るほど嬉しかったのをまだ覚えている




高校に入学してからもさつきは彼と話すことはなかった


元々彼はさつきに関心がなかったようで中学が同じだったことも忘れていたらしい


さつきはそのことを残念に思ったが


彼のことを見ているだけで良いと思うところがあったので話しかけることはなかった


だがある日から彼に親しい上級生の友人が出来た知った


彼女はほがらかでよく笑い

頼りがいのありそうな行動力のある女性だった

校内でもとりわけ人気が高い女性だというのもクラスの友人から聞いた

さつきも上級生の彼女がが彼と一緒に食事をしてるのを何度か見たことがあった







彼女が自分の位置づけに危機を感じた初めての瞬間だった






翌日から彼女は彼に話しかけるようになった


最初の頃こそ少しあがったものの少しづつうち解けていって


そのうち四人で映画を見に行くと言うことになった日に彼女はリップを塗っていった


そしてその日偶々彼の親友のおかげで鈍感な彼がリップに気付いたものだから


彼女はそれから毎日何らかのおしゃれをして学校に行った


そして今日ブティックに寄った帰りに彼女は公園の脇を通り


血塗れの警官に出くわしてしまった










ガッ!


公園の煉瓦につまづいて転ぶ


膝からは血が滲んでいる

もうイヤだった


今夜は彼女の好きなシチューを食べて家族で談笑してるはずだった



彼に見せるアクセサリーの見栄えを確かめてた頃なのに



さっきから泣いてばかりの彼女の頬を新しい涙が流れた



「鬼ごっこは終わりか」




嬉々とした声が耳元で聞こえた


ハッと気付いたときにはもう組み敷かれていた


「ずいぶんと逃げ回ってくれたな?だがそれももう終わりだ」




逃げようとするが途轍もない力で押さえつけられていてかなわない


ふとポケットに手を入れる


彼は普段肌身離さずナイフを大事に持ち歩いているのをマネして


お守り代わりに持っていたペーパーナイフが手に触れた


彼と初めて一緒に帰った日だった


偶然を装って彼のことを待ち


自分の家と正反対の彼の家の方に向かって


夕焼けの道を一緒に歩いて彼に約束して貰った


ピンチになったら私のこと守ってね、と





彼が守ってくれるような気がした


考える間もなくナイフを取り男の胸に突き立てた


ペーパーナイフといえ覆い被さってきた男の自重で柄の部分以外は完全に刺さった


一瞬力が弱まった





「無駄だ、吸血鬼はこんなもんじゃ死なない」


胸にナイフを突き刺したままニヤリと笑った


「いい加減手間をとらせるな小娘」



血塗れの警官達に両手両足を押さえつけられる


「お前もあいつ等と同じになれ、同じ死者として俺の一部になるんだよ」


男が顔を近づけてくる


今まで以上に必死で逃げようとした


男の顔がもう目の前まで近づいていた



(助けて・・・・君!!!!)


ザクリ・・・・・と


牙が突き立つのが分かった


血が流れていくのがわかる


血が流れ込んでくるのが分かる


全身の血が毒に変わってしまったような激痛が


体を支配した



痛い痛い痛い痛い痛い苦しい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い助けて痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い死にたくない痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い死にたく痛い痛い痛い痛い





「イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」



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