直死と未来視(仮題)前編


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1: 嶺梅 (2001/06/28 23:01:00)[mineume at lycos.ne.jp]

直死の憂鬱、未来視の微笑み



序章



あぁ、どうしていつもこんなことに巻きこまれるんだろう?

わたしは精一杯走りながらそんなことを考えていた。

さっきまではちょっといい雰囲気だったのに

(相手の人はそんなこと思ってはいないだろうけど。)

はぁ、はぁ、はぁ・・・。

過度の運動で息が苦しい。

出来れば立ち止まって、ゆっくり休みたい。

休みたいよ・・・。

だけどそんなことはできない。

そんなことは判っている。

なにせわたしこと瀬尾晶はおかしな奴に追いまわされているからだ。

憧れの人、遠野志貴さんに手をひかれながら・・・・。

嬉しいのやら哀しいのやら・・・・・・。

わたしは苦しくてよく回らない頭で事の発端を思い出した・・・。





第1章「浅上女学院中等部校舎内において」



来た・・・。

「それ」は不意にわたしにやってくる。

目の前が暗くなる感覚。

そして浮かび上がってくる映像。



眼鏡をはずした男の人。


ナイフを手に持って立ち尽している。


普段の軽装。


薄暗い林


足元には・・・


バラバラになった人間の手足らしきもの・・・。


男の顔。


そして


蒼い瞳。


見るものをひきつけるような、


それでいて全てを拒絶するような、


蒼い、蒼い瞳・・・。





「志貴さん!?」

わたしは思わず声をあげた。

それほどの衝撃だった。

わたしの「瞳」はおかしな物が見える。

いわゆる「未来」というものが・・・。

だけどそれは「確定した未来」というものではなく、

どうやら「限りなく正しい過去からの推測」らしい。

つまりはわたしの行動次第で「未来」は変えられると言うことだ。

と、年末に会った男の人は言っていた。

その人と知り合ったのもこの瞳の力のおかげだった。

もっともそのおかげでちょっとした騒動に巻き込まれたのだけれど・・・。

ま、そのおかげで遠野志貴さんという憧れの人に出会えたのだからよしとしよう(ぽっ)。

もっとも志貴さんはわたしのこと、可愛い妹分(そのくらいに思ってくれているといいなぁ)としか

思ってないだろうけど。

何より志貴さんの妹である遠野先輩が、最近やけにわたしに冷たいことが気になる・・・。

ははは、まさかね・・・。

ま、それはとにかくとして・・・。

だけどその志貴さんがどうして・・・。

どうして人殺しを・・・?

あれはたしかにばらばらの人間だった。

ばらばらの人間なんて見たことはないが、確かに人間だった・・・。

そして志貴さんの瞳。

蒼い瞳。

あれを見たのは過去一回だけ。

わたしが志貴さんに助けられたとき・・・。

確かあの時、志貴さんは・・・。

わたしは深く考え込もうとしたが、ふと気がついてあたりを見渡した。

確かわたしは学校の廊下を歩いていて・・・。

と言うことは・・・?

ギギギギギとブリキ人形のようにしてあたりを見渡せば、

あぁ・・・。

周囲の冷たい視線・・・。

そしてひそひそ声。

い、痛い。

空気が痛いよ・・・。

「あははははは・・・。失礼しました〜。」

わたしは真っ赤になりながら小走りでその場を後にした。

うぅ〜。恥ずかしいよう・・・。



教室に戻るとわたしは授業もうわのそらでさっきのことを考えていた。

あれはどう言うことだろう?

志貴さんがナイフを持っていて、その足元にはばらばらの人間だった「もの」らしきものが

散乱していました。

これだけ考えれば、考えたくはないけど、志貴さんが人殺しをした・・・。

そう考えられなくもない。

だけどわたしはあの志貴さんが人殺しをするとは考えられない。

だけどなぁ・・・。

「あの時」は確かにナイフで人を切ったけど、別に怪我もなかったし・・・。

昏睡はしてたけどね。相手の人。

ん?ナイフ・・・。

バラバラの人・・・。

わたしはあることに気が付いた。

志貴さんはナイフを持っていた。

だけど、ナイフなんかで人間がバラバラに出来るわけない。

知り合いでそう言うことに詳しいひとがいっていた。

何処からでそんな人に出会ったかは乙女の秘密で言えないが、多分信頼できる情報だと思う。

それこそあんなにバラバラにするなんてこと不可能だ。

すると、志貴さんは殺人なんかしてなくて、

何かの事件に巻き込まれてあの場所に居たと言ったほうが納得がいく。

うん。

そうに決まっている。

わたしは自分の推理にしばし感動した。

凄いじゃない、わたし。

あの志貴さんが人殺しなんかする訳ないもの。

そう考えると少しは気が楽になった。

とにかく明日遠野の屋敷に行って、志貴さんにこのことを知らせないと。

幸い明日は日曜日。

学校もない。

寮の外出許可ももらえるだろう。

わたしはちょっと日曜の外出が多いけど、なんとか大丈夫なはずだ。

それに志貴さんにも久しぶりに会えるし。

わたしの「未来視」は大体一両日中に起きることが多い。

明日なら大丈夫なはずだ。

そう思うとわたしはようやく黒板へ注意を向けた。

うわっ。

なんか先生が睨んでるような気がするけど・・・。

気にしないことにしよう・・・。

ともかく全ては明日だ。






第1.5章「彼の渇望」



彼は眠っていた。


彼は眠っている。


だが、彼は求めていた。




血。
赤い血。
純粋な血。
処女の血。



彼には血が必要だった。

彼を支配しているのはカワキ。

カワク、カワク、カワク、カワク、カワク・・・。

喉の奥に広がる、いや、全身を支配するのは血へのカワキ。

「ソレ」を手に入れることが出来るのであれば、

このカワキをイヤスガタメなら。



彼は目を覚ました。





主のためではなく、ただ、自らのカワキをイヤスガタメに。




ソレはじゆういし。




たとえ本能に支配されていようと。

そして、彼は動き出す。

天には今だ明るい輝きがあったが、

このカワキをイヤスガタメなら、

「ヒカリ」など、自らを焼く「ヒカリ」などガマンデキル・・・。

そして彼は街に出た。

匂いがする。

ニオイだ・・・。

処女のニオイ。

そして、不思議なニオイ・・・。

エモノ。

あれはエモノ。

ウマソウダ。

彼は動かない体を無理やり動かして、エモノの後を追い始めた。




彼は活動している。




彼は活動をはじめた。






自らのカワキを癒すために・・・。







第2章 「遠野の屋敷は・・・」




次の日の朝。

わたしは寮の外出許可をもらい、一路、遠野の屋敷へ向かった。

久しぶりに出る街並みにちょっとうきうきしつつ、

それより、志貴さんに会えるということに期待に胸膨らませてわたしは街に出た。

例えあんな「未来」が見えたとしても、好きな人に会えるという嬉しさはある。

う〜ん、こんな格好でよかったかなぁ?

なんて服装を気にしながら(昨日ちょっと気合を入れて選んだ)

あたしは街中を歩いていった。

もしかしてデートに誘われたりして・・・。

いや、でも、志貴さんは事件に巻き込まれるかもしれないんだし、そんなこと・・・。

でも、誘われたら嬉しいなぁ。

そして・・・(きゃっ)。

なんてちょっと暴走気味になるわたしを周りの人はどんな顔をしてみていたんだろう?

ははは・・・。

はぁ・・・。

わたしの失敗はこの時、志貴さんがただ単に人が殺された現場に居合わせてしまうだけだと思っていたことだ。

よく考えれば、それだってたいしたことだろうけど、

志貴さんにはそれを大した物じゃないことに考えさせる雰囲気があった。

志貴さんなら何とかしてくれる。

志貴さんなら大丈夫だ。

そう思うわたしは若干危機感というものが麻痺していたらしい。

わたしはその事をこの後、強く実感するはめになった。







遠野の屋敷は相変わらず、威圧感のある門構えであたしを迎えてくれた。

何回かこの屋敷に来たことがあるけれど、この雰囲気だけはなれないものがある。

その雰囲気に萎縮しつつも、わたしは意を決して呼び鈴を押した。

いつもなら、メイドで、明るい感じの琥珀さんか、

落ち着いた感じの翡翠さんの声が聞こえてくるはずだ。

この二人は双子らしいが、ものの見事に性格が違う。

だけど今日は、

「はい、どちら様ですか・・・。」

ドキンッ。

ししししし・・・志貴さん!

ドアごしに聞こえてきたのは志貴さんの声だった。

ど、どうして・・・?

いつもはあの二人のどちらかなのに。

完全に虚をつかれたわたしは完全にうろたえていた。

あぁ、あたしはこの声にとても弱い・・・。

なんというか、



すごく・・・・いい声。




「もしもし?どちらさまですか・・・?」

呼び鈴を押したのに返事をしない相手を訝しがったのか、志貴さんはもう一度声をかけてきた。

その声にはっとしたわたしは、

「あ、あの、瀬尾です。瀬尾晶ですけど、志貴さんですか?」

上ずった声でそう答えた。

うわ〜、恥ずかしいよう・・・。

「ん?晶ちゃん?」

そう言うとドアが開き、志貴さんが顔を出してくれた。

「今日はどうしたんだい?秋葉に用事かな?」

そう言うと志貴さんはわたしの目をまっすぐに見つめた。

「あ、い、いえ、違うんです。今日は志貴さんに・・・。」

わたしはどぎまぎしながらそう答えた。

志貴さんに見つめられるといつもこうだ。

胸がきゅ−ッと苦しくなって、でも、いい気分・・・。

志貴さんはにっこり笑って頷いてくれた。

「そうなのかい?じゃあ、ちょっと中に入って。応接間でいいだろ?」

「は、はい。」

わたしはちょっと緊張しつつも志貴さんの言葉に従った。

「そう言えば今日は琥珀さんや翡翠さんはどうしたんですか?」

「今日は秋葉の御供で二人とも居ないんだ。夜になる前には帰ってくるって言ってたけどね。」

そんな会話をしながら、わたしたちは応接間へ向かった。

今からあんな話をするなんて・・・。

そう思うとわたしの気分はちょっと沈んでしまったが、

気を取り直しつつ志貴さんの後をついて行った。

まぁ、これから志貴さんとお話できると言うことにはかわりはない。

そんなことを思いつつ・・・。





「晶ちゃんはコーヒーがいいかい?それとも紅茶?」

応接間にわたしを案内すると志貴さんはそう尋ねてきた。

「い、いえ、お構いなく。」

わたしは恐縮しつつ、返事を返す。

今のわたしは借りてきた猫のようにちっちゃくなっていることだろう。

いわばコギツネが身を丸めている感じ。

「ははは。そんな緊張しないで。くつろいでくれていいからさ。今は秋葉も居ないし、

 あいつの相手は大変だろう?秋葉の兄としてあいつを慕ってくれる後輩にはおもてなしを

 しないとね。」

そんなわたしを見かねたのか志貴さんはそんな言葉をかけてくれた。

「そんなことありませんよ。遠野先輩ほどみんなの尊敬を集めている人はいらっしゃいません。」

わたしは本当にそう思った。

遠野先輩はわたしの学校で知らぬ人はいないというほどの有名人だ。

あんなにみんなの尊敬と同じに畏怖を集めている人はいないだろう。

最近ちょっとわたしに厳しいところはあるけれど。

「そうかい?嘘でも晶ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいね。」

志貴さんは笑いながらそう答えた。

「もう、本当ですよ。」

わたしはちょっと頬を膨らませて志貴さんに抗議した。

「ゴメン、ゴメン。それはそうと晶ちゃんは確か紅茶でいいはずだよね。

 前にうちに来た時もそうだった。ちょっと待ってて。」

「は、はい・・・。ありがとうございます。」

わたしはちょっと感動しつつ、嬉しさをかみ締めていた。

だって志貴さんがわたしの好みを覚えていてくれた。

わたしのことを見ててくれたんだ・・・。

ちょっと、いや、結構嬉しかった。

わたしの勘違いかもしれないけど、でも、うれしかった。

わたしは台所の方へ歩いていく志貴さんの背中を見つめながら、ささやかな幸せををかみ締めていた・・・。




「さて、本題に入ろうか。」






中書き

どうもはじめまして。
嶺梅と申します。
月姫ではじめてのSSを書かせていただきました。
こんなの間違ってるよ!
とか、
全然ダメじゃん
とか
感想くださると嬉しいです。
瀬尾晶ちゃんらぶなので、シエル先輩を抜かすよう頑張ります。
それでは・・・。





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