DARK HERO 第五十三話「成長」
僕の雄叫びに振り返った一番近い鼻にピアスをした男に体重を乗せた肘を叩きつける。
「ぴ・・・ぎぃ!?」
ゴキャリと鈍い音を立てて一番後ろに居た男の鼻が陥没する。
顔面にめり込んだ肘の隙間からはポタポタと血が滴り、生暖かい感触が肌に張り付く。
その感触に顔を顰めながら残りの二人を睨む。
初撃で倒した男は鼻が潰れた痛みに転がりまわっていて、もう戦意なんて無いだろうと予測し放置する。
「なっ!?テメェ!」
桜の服にかけていた手を外し殴りかかってくる二人に、僕も応戦しようと拳を作るが―――――
「ッラァ!!」
体に力が入らず、軽く殴り飛ばされ倒れこむ。
ジンジンと鼻が痺れ、視界が滲む。
ぽたぽたと垂れる鼻血に、やっと顔を殴られたんだと認識して立ち上がろうとする。
だが、ガッと背中を踏みつけられて立ち上がることも出来ず、力が入らない両手足は無様に地面を掻く。
「あらら・・・お兄ちゃんじゃないですか♪」
グリグリと僕の背中を踏みながらニヤケた声をだす二人組み。
その声がたまらなく不快で必死で足掻くが、力が抜け切った体は奴らの体重に抵抗する事が出来ない。
その様が余程滑稽なのか、奴らは声を上げてゲラゲラと下品に笑う。
「どうしてくれんの?コイツの鼻を・・・さ!」
「がっ・・・!」
踏みつけられたまま脇を蹴り上げられる。
押さえつけられている為、衝撃が逃げ場を無くしアバラを軽々と破壊する。
クソ、アバラがやられた・・・!!
「ほらほら、さっきまでの勢いはどうしたんですかぁ?」
そう言いながら髪の毛を掴んで頭を持ち上げる。
そしてそのまま――――
「ブッ!」
顔面から地面に叩きつけられた。
拙い・・・・意識が・・・・。
ここで気を失ったら桜が・・・・!!
畜生・・・負け犬め・・・・動け・・・よ・・・
ライダー視点
桜を見つけた時には既にシンジは気絶していた。
状況から察するに、信じ難い事だがサクラを助けようとしたらしい。
だが、今はシンジの事はどうでもいい。
私はサーヴァント。
主を守る存在なのだ。
「おい、起きろよ」
と、シンジが倒したであろう男を起こそうとする二人の背後に実体化する。
―――――下衆め。
畜生にも劣るその劣情に汚れた目をサクラに向けるな。
「・・・・あ?」
「ぎう!?」
手加減などしずに背後から叩きのめす。
彼らは恐らく何があったのかも理解できていないだろう。
顔を押さえて蹲っていた男も異常に気付いたのか、手をどかそうとするがもう遅い。
「っ・・・・!?」
男が私を目視する前に頭を踏み抜いて黙らせる。
三人とも死んではいないだろう。
殺す価値すらない。
「ライダー?」
唐突に声をかけられて慌てて振り向くと、サクラが身を起こしてこっちを見ていた。
状況が掴めていないのか、シンジや下衆共を見回しきょとんとしている。
「に、兄さん!?どうしたの!?」
倒れているシンジに気がついたサクラが、慌てて駆け寄ろうとするが体に力が入らないのかそのまま倒れこんでしまう。
見ていられなくなり慌てて抱き起こすが、桜の体からは力強さが感じられない。
まさか・・・・ここまで・・・。
心が絶望感に覆われるが、それを桜に悟れる訳にはいかない。
「私が来た時にはシンジは既に気絶してました。恐らくサクラを守ったのでしょう」
信じ難い事ですが、と付け加えて状況を説明する。
語りながらも彼女の服装を観察して、更に絶望した。
この服の穴はゲイボルクにやられた形跡だろう。
つまりサクラはやはり―――――
「帰宅します。背中に捕まってください」
現在はサクラを誤魔化すために右腕を魔力で形成している。
それでも実体は無いに等しい煙の様な物なので、当然サクラを抱きかかえる事は出来ない。
それに、シンジも放置しておく訳にはいけないだろう。
私としては別に構わないのだが、恐らくサクラがソレを許さない。
「ライダー・・・・・衛宮先輩の家に連れて行って」
シンジを荷物のように抱え、サクラが背中にしがみ付いたのを確認して駆け出そうとした直後にサクラがボソリと呟いた。
それは拙い。
恐らくリンやキャスターは気付いている。
そして彼女達はサクラを連れて行けば必ず殺すだろう。
だが―――――
「命令よ。最後の令呪を使ったっていいのよ?」
令呪を出されれば引くしかなかった。
いや、正直に白状すれば希望を抱いていた。
キャスターならばどうにかしてくれるかもしれない――――――そんな愚かな希望を。
それに、恐らくシロウはサクラを守るだろう。
彼はそういう人間だ。
いざとなればこの身に代えてもサクラは逃がす。
だから今は、この希望に縋り付こう。
そう思いながら夜の闇を、シロウの家を目指して駆け抜けた。
つづく
なんか中弛み気味ですが、そろそろ新展開を差し込む予定です。
ついでに言いますと、ゴールデンウィーク中は更新できないかも知れまぬ・・・・。
・・・・・え?いや、ハイ、スイマセン、またツーリングです。
お誘いを断れませんでした。
真に申し訳ない。