「教会に案内してほしい」
今俺の後ろについてきている少年が駅前でお願いしてきたのは唐突だった。
何でも誰にでもやさしそうなお人よしっぽかったから、
ということだけど喜んでいいのか悪いのかわからない
そして仕方なくというか案内することになってから数分、
俺は先ほどからどうしても気になっていたことをいまさら聞くことにする。
「ところで君、名前は?」
「お兄さん人に名前聞くときは自分から名乗れって教わらなかった?
まあいいや、俺の名前は『言峰』、名前は秘密、いろいろあって言いたくないんだ。」
「――――っ!」
しばし絶句、そういわれてみれば面影が無きにしも非ず・・・かもしれない
それにしてもあの似非神父の子供か?普通でびっくりしたぞ
「ねえお兄さん名前は?・・・ってははーん、あんた綺礼の知り合いだろ
あの変態野郎にどうしてこんな愛らしく賢そうな子供が!って顔してるもん」
「ああ悪い、俺の名前は衛宮士郎、言峰とはちょっとした知り合いでね」
「ふーん、なーんだあんたもちょっとおかしいのか、
綺礼なんかとと付き合う人間にろくなやつはいないし
って今のギル兄ちゃんには秘密な、小遣いもらえなくなっちゃうから」
「ギル兄ちゃん?」
「え?綺礼と知り合いなのに知らないの?ギル兄ちゃん、綺礼なんかと違って超いいひと
この前あったときなんていっしょにおもちゃやめぐりしたらたくさん買いすぎて宅急便で送らなくちゃいけなくなってさ
あ、そっかギル兄ちゃんのことは秘密だったんだ、兄ちゃん今のこと秘密にしといて」
いつのまにか隣に並んだ少年は楽しそうに俺が命がけで戦った敵
ギルガメッシュとの思い出を話している。
『雑種』俺のことをそう常に呼び捨てにしつづけたあいつも案外子供には甘かったらしい
そして言峰、少年は自分の父親をけして『お父さん』とは呼ばない
口からでてくるのは彼への文句ばかり『変態』『最低』『あの野郎』
言葉は代わるがどれも言峰をよくは思っていないのが伝わってきた。
そして―――とうとう教会に、今はすでに新しい人間の管理する教会に俺たちはたどり着いた。
「じゃあ俺は」
そういって立ち去ろうとすると
「まあ待ちなって、多分俺をここまでつれてきたっていえば綺礼もお茶くらいは出してくれるだろうから
どうせ暇なんでしょ、」
少年からは引き止める声、そして気が付けば俺の袖口をつかむ手
その手は、先ほどまで粋がっていた少年の手としてはやっぱり年相応の子供の手をしていた。
だからかもしれない、
「わかったよ。」
何気なくそう答えてしまったのは
「やった。綺礼と下手したら二人きりって言うのはいやだったからさ、助かるよ」
少年は笑顔で振り返ると礼拝堂の扉を開く、彼の目的の人物が迎え入れることのないその扉を
「綺礼、きてやったぞってあれ?」
そしてその代わりに迎え入れるのは年老いた気のよさそうな老人
「こんにちは、えっと」
老人は少し驚いた顔で少年を見つめそれから俺を見つめなおし
「衛宮くんにそこの子供は」
「あ、はい彼は言峰の」
「ああそうか、それで何か御用かな」
言い終える前に察してくれたらしい、さてどうしたものか
そう思っていると
「ははは、お尋ねのところ悪いけど言峰、いや綺礼なら今はいなくてね」
「えー、ま、いっか、じゃあギル兄ちゃんは?」
「ふむ、彼もいないな」
「じゃあどこいってるの?」
「残念なことに今日はもう帰ってこないのだが・・・」
「そっか―――――――そっかぁ、じゃあ仕方ないよな、
せっかくたまにはあいつにも親らしいことさせてやろうと思ったのに
不出来な親を持つと子供は大変だよな、じゃあこれ綺礼が帰ってきたら渡しておいて
あいつこういうの渡さないとすっげぇ怒るからさ」
そして少年が取り出したのは『授業参観のお知らせ』そう書いてある一枚のわら半紙
それだけ渡すと
「じゃ兄ちゃん、いこっか」
少年は俺の手を引いて歩き出した。
そして手を引かれるままにたどり着いたのは教会の隣にある墓地
彼は無造作に「綺礼から許可はもらってるから」と花壇の花を引き抜くとひとつの墓に備える
『KOTOMINE』そうかかれた墓は彼いわく彼がもの心つく前に亡くなった母親のお墓だという
「うちのじいさんいわく綺礼にはもったいないくらいのいい人らしかったけど・・・
俺に言わせれば言峰と結婚する時点で相当の変人だよ、きっと俺も」
そしてその墓に「二つ」の花が供えられる
「ねえお兄ちゃん、綺礼、もういないんだろ、正直に答えてよ」
振り返った顔は先ほどまでとは打って変わって真剣そのもの、すべてを受け入れる覚悟をした目だった、だから
「ああ、言峰綺礼は死んだ。」
「やっぱりそっか、うんらしくないなとは思ったんだ、
毎週俺に手紙よこす綺礼がぱったりと何もよこさなくなるからさ
ふーん、綺礼のやつ死んでたのか、ってことはきっとギル兄ちゃんもだよな、
何だかんだであの二人気があってて一蓮托生って感じだったし」
「綺礼さ、自分からは絶対何かきっかけがないと俺に会おうとしないの
『私はおまえを不幸にすることしかできない』っていってさ
でもたまにあうとやっぱり性格悪くてさ、俺が目の前で怪我しても痛がってる俺を見て笑ってるの
それに俺の名前、嫌がらせとしか思えない名前なんだぜ
だけどそれでもやっぱり俺の父親なんだ。覚えてるんだ昔母さんに似て体の弱かった俺が死にかけて入院したとき
綺礼がなんかよくわからないことして助けてくれたこと
いつもそうだけどあいつ俺がたまに御礼言っても『私にはこれぐらいしかできないからな』っていって・・・」
それ以上は言葉にならなかった、いや聞き取れなかったといったほうが正しい
少年は声にならなくてもそれでも言峰との思い出を俺に語りつづける
正直に言えば彼の言葉は既に理解できない、それでもいいと思った。
大事な記憶は彼さえ覚えていればいいことだし、
彼の言いたいことをそばで感じてあげることこそ、俺にとっては大事なことだと思ったから
「にいちゃん、ありがと、恥ずかしいとこ見せちゃったけど」
泣き止んだ顔は最初あったときよりも明るく―――それはたぶん心からの笑顔だったのだろう
そんなときだった。綺礼の後継の老人が俺たちの元にやってきて
「悪いが立ち聞きさせてもらったよ。その代わりといってはなんだがこのアルバムをあげよう
他に私物らしきものがない、あいつのほぼ唯一とも言える形見だ。
私が持っていても仕方がないが君には意味があるだろう」
そしてそれだけ手渡すと、
「では失礼、仕事があるのでね、来客は歓迎なのだがあまりお構いできなくて申し訳ない」
そういって背を向けた老人の背中は埃まみれだった。
多分彼はあれでも必死に急いで言峰の遺品を探し回ったに違いない
俺はその背中にきょとんとした少年の代わりに頭を下げて礼をした。
「じゃあ兄ちゃんありがとう、」
駅までの帰り道、俺たちの間に会話はなかった。いや必要なかったというのが正しいだろう
「じゃあ気をつけて」
俺は少年に背を向けて歩き出す
「あ、待って、これもう俺は要らない、暗記しちゃったしこれは兄ちゃんにあげるよ
きっと兄ちゃんがもってた方がいいし、次はちゃんと衛宮士郎って名前で呼べるようになってるから、またね」
ぽんと少年は、最後まで名前を言おうとしなかった少年は封筒詰の便箋を俺に手渡すと改札の奥に去っていく
そして家に帰ってきて机の上でその手紙を開く
『綺麗へ
まずは形式通り元気かと問えばいいのかいまだによくわからない
今回も用件のみ伝える
私はこれから答えを出しにいくつもりだ。
幸福を幸福を感じない間違った存在である自分が存在を許されるかの答えを知るために
答えを出すものもその前にある障害も申し分ない
相手は万人の正義の味方を目指すと自称する衛宮士郎という青年
答えももうすぐそこまできている。
私は答えを求めるだろう、彼は正義のためにそれを阻むだろう、お互いに命をかけて
生きる意味をそこだけに求める私とそれを阻むことに生きる意味を見出す彼
なにぶん難しい内容なので理解できないとは思うが
仮に敗れるとしても、なぜだろうか私は敗れることを望んでいるのかもしれないが
ただひとつ私と同じ響きの名を持つおまえは幸せをつかめるように願う
言峰綺礼』
「ことみねきれい・・・か」
どちらの「きれい」なのかつぶやきの答えが出ないまま
俺は虎の呼ぶままに台所へと歩き出した。
俺は歩く、誰かの呼び声に答えるため、そして答えを求めるために(FIN)
あとがき・・・こちらに書き込ませていただくのは初です。はじめまして
なにやら色々問題が起きているこの時期に投稿するのは勇気が要りますが
批判の多いこの時期こそ逆にチャンスだと思うのですよ。
僕みたいな下手糞がうまくなろうと思ったら
他者からの批判的意見はやっぱり参考になりますし、
人様に見せようと思ったら批判が怖くて書き込めないでは困るわけです。
というわけでもし奇特にも感想くださる方いましたら問題点等遠慮なく指摘お願いします。
ま、そういうわけで、またお会いできる機会がありましたら