君を忘れない 勿忘草 M:セイバー 傾:シリアス? H:無し 短編


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1: 神薙祐樹 (2004/04/28 01:07:55)[kamisato262 at hotmail.com]


注意。セイバーEND後です。Mはセイバーだけど、ほとんど出てきません(爆)













 君を忘れない  勿忘草




聖杯戦争と呼ばれる7人の魔術師と7騎のサーヴァントによる殺し合いが終わって3ヶ月あまりが経つ。未だにその傷跡は癒えてはいないが、徐々にその忌まわしい記憶も人々の中から消え去ろうとしていた。だが一人の青年、衛宮士郎からは永遠に消える事はない。 
「衛宮」

ある放課後、士郎は友人の柳洞一成から声を掛けられた。いや、それ自体は別に大した事ではないのだが、ただその時だけは一成の様子が変だった。

「どうした、一成? また学校の備品の修理か?」

どうせいつもの備品修理だろうと思った士郎は、そう声を掛ける。この衛宮士郎、学校の中では便利屋まがいの事をしている。なので、稀に一成から備品修理の依頼をされる。士郎自身、物を直すと言う行為自体を楽しんでいるので苦にはならない。
「いや、今日は時間はあるか? 少し話をしたいのだが」

「? あぁ、別にバイトも入ってないし、良いけど」

そうか、と頷く一成。まったくもって分からない。一体何を言いたいのか、士郎には検討もつかない。 
「では生徒会室に行こう。あそこならば邪魔は入らん」

「先に行っててくれ。遠坂に一言言っとかないと」

遠坂と言う言葉を聞いた一成はむ、と眉を顰める。
「衛宮。貴様、まだあの女狐と関わっておるのか。いい加減に目を覚ませ。あ奴は魔性の女よ」

「何度も言ってるけど、遠坂はそんな奴じゃないって。そりゃまぁ、人をからかうのが好きな奴だけど……」

後半は少し小声で喋る。遠坂凛。士郎と同じく、聖杯戦争の参加者。アーチャーの元マスターであり、今は士郎の魔術の師匠である。学校では優等生の皮を被ってはいるが、その実体は士郎曰く、あかいあくまとの事。

「それだけ十分だ。まったく、遠坂め。衛宮を陥れて何を企んでおるのやら」

「企むって……」

苦笑する。しかし何かしら企んではいそうだな、と思ったのは士郎だけの秘密だ。

「じゃあ、遠坂に言ってくるから」

「うむ。くれぐれも気を付けろ」

喝、等と言いながら一成は生徒会室に方向に歩いていく。士郎は凛に会いに行くために3−B教室へと向かう。と、廊下の奥から目的の人物が現れた。

「あ、遠坂」

「士郎。丁度良かったわ。一緒に帰りましょ」

周りに誰もいない事を確認し、地の顔に戻る。3年になっても学校での擬態は続けているようだ。

「いや、今日はちょっと用事が出来たから1人で帰ってくれ」

「なに? もしかして、後輩の女の子から呼び出し喰らって告白とか?」

きしし、と邪悪な笑みを零す凛。あかいあくまモード発動である。しかし、何処と無く不機嫌さが滲み出ている。無論、歩く鈍感の異名を持つ士郎は微塵にも気付かない。

「いや、何か一成が話があるらしい。だから今日は一緒に帰れない」

「柳洞君が?」

不思議そうな顔の凛。一成と士郎が良く一緒にいるのは周知の事実だが、態々呼び出して話し合う事はあまりない。

「そう……。分かったわ、じゃあ夕食時に会いましょう」

「すまん。藤ねえと桜にも言っといてくれ」

聖杯戦争後、何故か凛は衛宮邸の夕食に毎日現れる。いや、もう既に半居候状態だ。それを不思議に思った士郎は、一度凛に聞いた。曰く、

「別にどうでもいいでしょ。強いて言うならあんたの料理が美味しいからと、……あんた
をあいつみたいにしない為よ」

だそうだ。『あいつ』と言うのが分からなかった士郎だったが、聞くと凛があかいあくまになりそうで止めた。その時、凛の顔が赤く染まっていたのに士郎は気付かなかったが。

「じゃあね」

「あぁ」

凛と別れ、生徒会室へと向かう。が、士郎は遠坂凛と言う人物を甘く見ていた。彼女が素直に言う事を聞く人か? 否、NOだ。

「…」

こっそりと士郎の後をつける凛。その姿は正にストーカーそのもの。しかし、そんな事関
係ない。認めよう。遠坂凛は、衛宮士郎に恋している。そりゃもう完膚なきまでに。

「まさか、私も惚れちゃうなんてね〜…」

別段、衛宮士郎が美形という訳でもない。強いて言うならば、彼の優しい心に惚れたと言うべきだ。恐らく、友人の――いや、我が妹の桜もそんな彼の心を見て好きになってしまったのだろう。目下、最大のライバルだ。

「おーい、一成。来たぞ〜」

士郎が生徒会室へと入る。これ以上は進入できない。凛は魔力を聴覚に集め、強化する。これで中の会話は聞こえるだろう。凛は生徒会室のすぐ横にある空き教室に入り、壁に耳を押し当てた……。

「で、何だよ。話って?」

出された粗茶を呑みながら、士郎は問う。

「……衛宮。この3ヵ月の間に何があった?」

「? なんでさ?」

「どうにも最近の衛宮は元気が無いように見えてな」

「いつも通りだぞ? 俺」

一成はそんな士郎を見て、少し辛くなった。多分、衛宮士郎は自分では気付いていないのだ。自分の“変化”に。

「衛宮、お前は昔から何処か危うい奴であったが、最近はそれに拍車をかけておる」

「一成まで遠坂と同じ事言うんだな……。俺ってそんなにふらふらしてるか?」

「あの女狐と同じと言うのは気に入らんが……、別段衛宮がふらふらしている訳ではない。何と言うか、完成したパズルのピースが1つはずれてしまった感じがするのだ」

その言葉に、士郎はますます不思議な顔をする。実際、一成の言葉は見事に的を射ていた。だが、士郎には分からなかったらしい。

「で、結局何が言いたいんだ?」

「……では聞こう。衛宮、セイバーさんはどうした?」

「………故郷のブリテンに帰ったよ」

セイバーと言う言葉を聞いた士郎は一瞬顔を歪めたが、すぐに笑顔で答えを言った。それを見て一成は、「やはり、そうか」と心で呟く。

「衛宮。お前、セイバーさんの事が好きだったんだろう?」

「あぁ。好きだ。俺はセイバーを愛してる」

そう、躊躇いも無く士郎は言い切った。

「ならば、何故引き止めなかった? 好きな人と共にありたいと思うのは当然の理だろう」

「……彼女には帰るべき場所がある。それを無理に引き止める事は出来ないさ」

目を逸らし、呟く。

「衛宮、お前はそれで平気なのか?」

「本音を言えば、悲しい。セイバーに会いたい。セイバーの声を聞きたい。セイバーを抱きしめたい」

「ならば……」

「でも、そんなんじゃ駄目だ。言ったろ? 俺は『正義の味方』になるんだって。泣き言は言えないさ」

そうして、1度言葉を切り――

「それに、未練なんてきっと無いさ。いつか声も、姿も、どんな奴だったかも忘れるかもしれない。けど、俺はセイバーって言う1人の女の子を好きになった。それだけで十分さ」

本当に何の影も無い、綺麗な笑顔を見せた。一成はそれを見て、「あぁ、衛宮は本当に強い男だ」と小さく呟いた。

「そうか……。すまん、要らぬお節介だったようだな」

「そうでもないさ。ありがとう一成。お前が親友で良かった」

そう言われ、一成は赤面する。

「世辞はよせ。俺こそ、お前が友人で良かったと心から思う」

喝、とそう言い残し一成は生徒会室を後にした。



「たくっ、やっぱりセイバーが1番の強敵ね……」

口調は苦々しいが、表情は嬉しそうだ。

「安心なさい、セイバー。士郎はちゃんとあなたを愛してるわよ」

教室の窓から赤くなり始めた空を見上げ、凛は呟く。そこには、静かに微笑むセイバーの姿が凛には見えた気がした。ただ、そのすぐ横には士郎が作ったと思しきご飯が置いてあるのは本当に気のせいだと凛は思いたい。


「ただいまー」

「あ、お帰り〜シロウ。もう遅いわよ〜、桜がご飯作っちゃったわ」

「そうか。桜には悪い事をしたな」

「それは無いわね。桜、シロウより先にご飯を作る事に生き甲斐を感じてるから」

家に帰ると、聖杯戦争時バーサーカーのマスターだったイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが士郎を迎えた。イリヤの愛称で呼ばれる彼女は、今は藤村大河の家に居候している。

「遠坂は?」

「リンならまだ帰ってないわよ」

そりゃそうだろう。彼女は士郎と同じ場所にいたのだから。

「ただいま」

「おかえりなさい、リン。遅かったわね」

「ちょっと途中で綾子と会ってね」

実の所、士郎と一成の会話を盗み聞きしていたのだがそんな事を微塵にも感じさせない。見事な擬態である。

「じゃあ、俺は着替えてくるから」

「えぇ。桜〜、食器並べるの手伝うわ〜!」

お願いしますー、と居間から声が聞こえる。こらー、私の仕事を取るなーとイリヤが凛の後を追いかける。それを見届け、士郎は自室へと向かう。

「ふぅ」

制服から私服に着替え、一息をつく。

「……アルトリア」

セイバーの真名を呟く。アルトリア・ペンドラゴン。それがアーサー王になる前のセイバーの本当の名だ。

「俺は正義の味方になれるのか……?」                                                         
何も無い虚空を見つめ、思いを馳せる。そこに映し出されるのは凛のサーヴァントだったアーチャー。気に食わない奴だったが、あいつの強さは憧れる物があった。あいつが振るった2振りの剣、干将・莫耶。

「俺にあいつぐらいの強さがあったら……」
                          カ リ バ ー ン   エク
寝転がり、目を閉じる。浮かび上がるのは数々の宝具。『勝利すべき黄金の剣』、『約束

 スカリバー     ゲイ・ボルク    カラドボルグ   グラム
された勝利の剣』、『刺し穿つ死棘の槍』、『偽・螺旋剣』、『太陽剣』、そして……

  アヴァロン
『全て遠き理想郷』。

「……」

目を開ける。そこには見慣れた自室の天井。

「投……」

「シロウ〜!! ご飯冷めるわよ〜!」

「……あぁ! 今行く!」     

頭の中の解析図を消し、立ち上がる。居間からは美味しそうな匂いが漂ってくる。きっと士郎の姉代わりの藤村大河も食卓につき、今か今かと食事の開始を待ちわびているだろう。

「…言うなら今日しかないか」

聖杯戦争が終わってからずっと考えてきた事を今日みんなに言おう。そう士郎は決意する。

「士郎、遅いわよ」

「先輩、ご飯冷めちゃいますよ」

「レディを待たせるなんて紳士として駄目よシロウ」

「おそ〜い! お姉ちゃんの待たせるなんて許さないんだからぁ!」

凛、桜、イリヤ、大河。士郎の家族。護るべき大切な人達。みんなを護る為に、士郎は正義の味方への1歩を踏み出す。

「みんな、話があるんだ」

                                     終わり




後書き

どうだったでしょうか? セイバーEND後の士郎の心境を描いてみたんですが、駄目ですかね……。やっぱり、文章は難しいと感じる今日のこの頃。さて、士郎の話ですが、もちろん、正義の味方になる為に旅に出ようとします。これまた定石通りみんな反対しますよね。でも、ここぞと言う時に士郎は絶対に譲らないと思うんです。だから、きっとみんが反対し続けても、旅に出るでしょうね。さて、もし機会があればこれの続きを書こうと思うんですが、それは今の所未定です。では、今回はこの辺で。

                                   神薙祐樹


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