(51)
俺は公園に入った。
明らかに空気が違う。
常人でもこの空気では入って来ないだろう。
重く、深く、暗く、公園に設置されている電灯ではこの暗闇を消せない。
だが、今はそんな事を考えている訳にはいかない。
先ほど助けてくれた<死神>は強い。
間違いなく。
だからと言っていつまでも任せる気はない。
彼女をあんな風にしてしまったのは俺が原因なのだから。
でも、今だけは邪魔してほしくなかった。
奴は一年前と同じ場所に居た。
背が低くなり子供の姿をしている。
だが、奴である事に変わりはない。
その後に一つの影が倒れている。
アルクェイドだ。
メガネを外す。
<視た>。
アルクェイドには夜に死というものが存在しないはずだ。
だが、今の彼女にはそれがはっきりと視えた。
俺は、狂いそうになった。
「久しぶりだな、そして始めまして<志貴>。」
ネロの声も口調は変わっている。
まあ、関係ない。
「ああ、まさか子供になってるとはな。」
取り合えずアルクェイドの生死が確認できた。
だから、俺はこいつを・・・。
「さて、リベンジといこうか、志貴。」
俺は七ツ夜の刃を出した。
バッ、コートから飛び出て来る無数の影。
あの時と何ら変わらない攻撃。
俺は<視た>。
最初の来たのは大きな角を持った牛。
その次にはトラやら鷹やら色々。
とにかく色々なやつが出てきた。
牛は、頭のてっぺんから右脇腹を、トラは左脇腹から背中を、鷹は口ばしの先端から腹の真ん中まで、それぞれ切った。
シャッ、スッ、ザンッ
とにかく視て切った。
下らない、あの時となんら変わらない攻撃。
取り合えず10匹程殺した。
「やはり・・・<直死の魔眼>という事か。あんたの方が化け物染みてる気がするよ。」
距離はざっと10m。一度跳べば何とかなりそうな距離。
だが、下手にそんな事をすれば奴の<使い魔>にやられてしまう。
本当はネロは<使い魔>を持ってないらしいが、
そんな事はどうでもいい。
コツ、コツ
ゆっくりと奴の元へ向かう。
「なるほど、姫君と違いちゃんと考えているようだな。しかし、所詮は人間。最後は我ら超越種が勝つ。」
ダッ
向こうが跳んで来た。
構える。
そして、奴の・・・!。
「くっ。」
思わず引いた。
だが、<それ>は追いかけて来る。
キッ
刀とナイフがぶつかる音。
向こうの方が長さが有る。
キンッ
そしてもう一度刀が来る。
今度は違う刀。
(不味い!)
そう思った。
こちらはナイフが一本。
向こうは普通の長さの刀が二本。
そしてこの速さ。
これは・・・。
ダッ
後に跳ねる。
だが、それでは足りない。
追撃がすぐに来た。
ブンッ
振られる二つの刃物。
今度は二つの刀を振り下ろしたのだ。
ただそれだけ。
それを横に移動して避ければいい・・・はずだった。
<七夜>が警告した。
決してそれをするなと。
ダッ
もう一度後に跳んだ。
すると、今度は追って来なかった。
「なるほどな。流石に横へは来ないか・・・。」
バッ
ネロはコートから黒犬を一匹出した。下手に近づけばあれに喰われる。
「だが、そのままでは姫君は助けられないな。」
その通り。
これでは意味が無い。
それにこちらは体力が無限にある訳ではない。
だから早く何とかしないといけない。
今お互いの距離はざっと15m。
俺は奴に接近しないと殺せない。
向こうは何かしらの方法が有る。
結局俺は対象に触れないと何もできない。
おそらく、このままでは負ける。
この間は向こうから近づいて来てくれたが今回はそうはいかない様だ。
「さて、それでは・・・姫君を喰らえ。」
「なっ。」
瞬間横に居た黒犬がアルクェイドの方へ向かった。
「くっ。」
俺はそいつを殺そうと跳んだ。
そして、気がついた。
「・・・愚かだな。」
サッ
そんな音がした後俺は倒れた。少し勢いで前に行った。
「がはっ。」
ネロが左手に持っていた刀が俺の左肩から右脇腹までを切り裂いた。
切断はされていないが、血が、地面、に、流れて、いた。
ピチャ、刀から血が垂れる音。
ネロは少し離れた所にいる。
俺の眼を気にしているのだろう。
だが、そんな事はどうでも良かった。
「ヤ・・・メ、ロ・・・。」
黒犬はまだアルクェイドに喰らいついていなかった。
アルクェイドの目の前で止まってこちらの様子を見ている。
要は囮。それ以外なんでも無かった。
「アル・・・クェイ・・・ド、アル・・・。」
俺は必死に呼びかけた。
あいつはとんでもなく強い。
こんな事では死ぬはずが無い。だから呼べば・・・。
「無駄だ、姫君は眠らせた。世界の供給を絶たれ弱りきった<真祖>などには俺の術でも十分に効く。」
あいつが、いつも笑っていてくれた、いつも無邪気に傍にいたアルクェイドが、こんな事で・・・。
「・・・何故だ?。何がお前ら二人をそこまで動かす。お前は奴に<恋>でもしているというのか?。馬鹿な、私はわからなかった。だが俺はわかる。お前が<退魔>だと。」
五月蝿い、うるさい、ウルサイ。
「<魔>を狩る血が流れる貴様が何故<魔>にそこまで・・・いや姫君も・・・。」
黙れ、だまれ、ダマレ。
「お前が・・・。」
ネロを見る。
「お前何かに、アルクェイドの何がわかる?。」
俺は体を起こして立ち上がった。
血がたくさん流れている。
「・・・知っているさ。姫君は<死徒>を狩る道具。それ以外何者でない事もな。」
「違ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーう。」
俺は大声で言った。
「アルクェイドは道具じゃない。あいつは、笑って、怒って、喜んで、泣いて、ちゃんとした思いを持っている。」
その言葉にネロは言い返してきた。
「そんな訳があるか。<愛>やら<感情>やらは周りがあって始めてできる物。生まれた時から道具でしかない姫君にそんな物は存在しない。」
血が流れる。
だが、俺は言い返した。
「そんな物知るか。」
「何だと。」
ネロはますます理解できていないようだ。
「アルクェイドがどんな環境で生きてきたなんて知らない。でもな、今のアルクェイドは笑ってくれてる。色んな無駄な事をして楽しんでいてくれている。俺はそんなこいつが好きだ。お前何かに、お前何かに、そんな事は、言わせない。」
俺はナイフを右手に持った。
「俺は、アルクェイドを守る。」
実は、理解していた。
だが、頭が、知識が、否定していた。
あの<真祖の姫君 アルクェイド・ブリュンスタッド>がこの人間<志貴>を呼んでいた時点で。
それでも信じる訳にはいかなかった。
自らの持っている<知識>を否定する事になるからだ。
だが、所詮これは<フォアブロ・ロワイン>の物。
<蛇神時矢>の<知識>は最早理解していた。
ならばどうする?
引く?
我が恨みは
本当に
恨んでいる?
無理をするのか?
俺には
下らない
良心なんて物が
存在している
先代<ネロ・カオス>は何も考えずに
コロス
下らない
はずだが、大切
俺は
そう、思う
「弱ったな、それでは姫君はお前が好き。それを取り込めば・・・。」
「何?。」
まあ、実際そうなのだ。こんな姫君を取り込んでも、絶対苦労する。
「戻れ。」
ザッ、ザッ、ザッ、俺は次々に出した分身を戻した。
「お前、何を?。」
志貴はわかっていないようだ。
「お前の魔眼も欲しいが、姫君と一緒に取り込むと問題が有りそうだ。」
そして、俺は志貴に背を向けた。
「なっ。」
コツ、コツ、コツ、コツ、答える気も無いので無言で歩く。
「おいっ、ネロ、何を・・・。」
はあ〜、うざい。前を向いたまま言った。
「お姫様を助けに来た勇者様のくさ〜いセリフを聞いた悪者は逃げる。ただそれだけだよ。」
後で今頃気づいたのか震える<勇者様>を見ずに俺は公園を後にした。
「・・・。」
ぽつん、と取り残される俺。
・・・沈黙。
・・・沈黙。
・・・沈黙。
そして、思い出す。
「アルクェイド?。」
その場に駆け寄る。
「スースー。」
「・・・えっ。」
寝てやがる。
くそー、気持ちよさそうに・・・。
こっちはかなりヤバイ傷を負ってるのに、ああ、腹立つ。
「くそっ、早くあの二人の所に戻らないといけないのに・・・。」
アルクェイドの顔を軽く叩く。
「おいっ、アルクェイド、おいっ。」
「フニャ・・・。」
揺する。
「おいっ。」
「あ・・・志、貴?・・・おはよう・・・。」
良かった、これで・・・あれ、体が・・・眠く。
「う〜ん、あれここは・・・公園・・・?、志貴・・・ちょっと、し・・・。」
今度は俺が倒れる番だった。
暗い部屋に立つ彼。
ふと、床にしゃがんで何か取った。
それは指輪だった。
ほこりを被っていたが拭けばすぐに何とかなった。
「母親の形見・・・てやつか。」
それ以外に何もないと知ると彼は外にでた。
以外と広い庭。
しかしほとんど手入れされていない。
雑草が伸び放題だった。
「そう言えば、墓参りは行ったけどこっちのお供えは全然してないな・・・。」
当然だ。
俺は前当主の暗示で記憶を忘れた事に<なって>いる。
トラックに跳ねられた事になっている。
俺は奇跡的に助かった事になっている。
スッ
彼は草むらに腰を下ろした。
さすがに寝る訳にはいかないのだろうが・・・。
「昔、こうして寝たっけ。でもここは寝るには抵抗あるな・・・。」
それは思い出。彼がまだ何も知らなかった時の、記憶。
風の流れは何を知ったのか。
草のざわめきは何を感じたのか。
夜を照らす半月は何を見たのか。
さあ、夜はまだ始まったばかり。
今度は彼らと彼女らの話だ。
(52)
対峙するは二つの影。
この二人の戦いもまた終わる。
爪を伸ばし、黒い手と腕が私に向かって来る。
ザンッ
私はそれを切断した。
「うぐぅぅぅ・・・。」
敵は後退する。
それと同時に斬ったはずの腕が敵へ戻っていく。
<悪魔>と称される者のほとんどには再生能力が存在する。
だから何度切断しても意味が無い、という訳では無い。
再生にもそれなりに力を使う。
まあ、当たり前と言えばその通りだ。どんな存在にも限りが有る。
ギロッ
敵はまた睨んでくる。
しかし、跳びかかっては来ない。
何度も戦っているうちに無闇に近づく事が得策でないとわかったようだ。
「その程度か?。先程までの威勢はどうした?」
「くっ。」
歯軋りをしている。
彼女に足りない物、それは<経験>だ。
力を持とうが、武器を使おうが、<経験>の無い者のは無意味。
<知識>として知ってい様が、それを<経験>しなければ何の役にも立たない。
それが私と彼女の絶対的な違い。
常に戦いに身を置く私。
復讐のために力を得た彼女。
この差はどんな事があっても埋まるはずは無かった。
「さて、だいぶ力を失った様だな。」
私は刀を腰に構えた。
居合い、と称されるこの構え。
だが私には鞘がない。
<心具>、それが私の刀の正体。故にそんな者は存在しない。
「な、何のツもりよ・・・。」
敵の口調が少しずつ戻ってきていた。
先程は怒りに身を任せ半ば暴走の状態だったが、今は十分に抑えられている。
やはり素質は有る。
ここで殺すには惜しいかもしれない。
だが、それでも・・・。
「どうした、来ないのか?、やはりお前は何も出来ないガキだな。」
「うるさい、私には力が有る。貴女より、強いっ。」
そう言うと敵は翼を使い空に飛んだ。
そして電柱を超えた辺りで止まり、こちらに急降下してきた。
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
腕を大きく開いてこちらに来る。
そして響き渡る声。
まあ、結界があるから誰にも聞かれる心配はない。
迫り来る凶器。
バカのような一直線の攻撃。
常人では受けれてばまず助からない破壊の腕。
「それだけ、愚か。」
私は鞘があるかの様な形で刀を振るった。
居合い、これは人間が考えたものでも有るが、実際<死神>は遥か昔から使っていた。
だからその剣閃はすばらしい物。
基本的にこれは相手が寄って来た時に使用する。
この状況は正に最高のタイミングだった。
ザンッ
一閃する刀。それで敵の肉体は腹の辺りを中心に真っ二つになった。
「ウ・・・ソッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
それは彼女が発した声。
ドォォッン、急降下の勢いでそのまま壁にぶつかった。
ゆっくりと振り向く。
「わかったか、これがお前の実力。<悪魔>を喰らったお前の末路。」
見れば下半身は壁に激突したまま。
上半身は何とか地べたに移動してこちらを見ている。
「い・・や、イ・・・ヤ・・・い・・・ヤ、嫌、嫌だよ・・・こんな、終わり方・・・。」
そこには少女しか居なかった。
たった一つの歯車の狂いがここにこの少女を作り出した。
だが、私は彼女を殺す。
それが復讐心に囚われた彼女を救う唯一の手段。
「不幸な異端者よ、安らかに眠れ。」
ボーーー
彼女の周りに炎が燃え上がる。
「ア、アーーーーーーーーーー、イ、ヤ、熱い、アツ・・・・・・・・・イ、オネエ、チャン、オネエちゃん、助・ケ・てーーーーーーーーーー。」
そして、それが終わりとなる・・・はずだった。
それは、夢か、幻か、そこには一人の女性が立っていた。
私は熱くて、苦しくて、死にたくなって、でも、死にたくなかった。
そんな時、私は見た。
あの人を、私が一番大好きなあの人の顔を。
「お姉ちゃん?。」
「・・・。」
その人は何も言わない。
ただ、笑っていた
。手を伸ばせば届きそうな所に居る。
触りたい。
私は体を動かした。
スッ
避ける様にお姉ちゃんは一歩下がった。
「待って、お姉ちゃん・・・。」
もう一度寄る。
また下がった。
「何で?。」
「・・・。」
何も言わずに笑っている。
ああ、そうか、これは追いかけっこなんだ。
追わなくちゃ。
あれ?、足が無い・・・ああ、くっつけよう。
「何だと?。」
どこからか声がするけど気にしない。
よし、下半身が治った。
「馬鹿な、私の炎が・・・。」
よーし、お姉ちゃん、捕まえるよ。
ガシッ
今度は腰に抱きつけた。捕まえた。
「お姉ちゃ〜〜ん、捕まえた〜〜。」
「・・・。」
にっこり、と笑ってお姉ちゃんは私のおでこに<よしよし>をしてくれた。
「!、お前は、死んでいるのか。」
声が聞こえる。でも、こっちが大切。
「・・・えっ、お姉ちゃん?、何が言いたいの?。」
「・・・。」
お姉ちゃんは私の頭に手を乗せてこんな気持ちを伝えてきた。
(私の分も生きて。)
スカッ
そう言った後、私はお姉ちゃんに触れなくなった。
薄くなるお姉ちゃんの体。
「えっ、えっ、お、お、お姉ちゃん?、ねえ、ねえってばーーーーーーー。」
私は涙を流しながらお姉ちゃんに触ろうとした。でも、触れなかった。
「嫌だよ・・・折角会えたのに・・・ねえ・・・オネエチャン・・・。」
そして、辺りが夜に戻る。
もうそこには私の姉も炎も無くなっていた。
(私の分も生きて。)
漫画や小説で使われそうな言葉。
なのに今の私にはとても重い言葉。
「・・・お姉ちゃん。」
それは、何だったのか私はわからない。
でも、一つ決めた。
私は生きる。
絶対に、生き延びてやる。
私はまたあの<死神>を見た。
向こうは驚いている様だった。
「えーと、私の<業火死海>が消されたのは、奴にまだ力が有った。今のは・・・死者が、冥府よりリンクした・・・いや、それなら私に知らせ・・・ああそうか。」
<死神>は辺りを見回した。
「ここか、この<三咲町>か。この場が、いや・・・冥府の干渉・・・だが、ここは色々・・・ここは奴らが三人も・・・心象具現化?、タタリ?、いや、ワラキヤ・・・ではなく、やはり冥府?。」
理解できない様だ。
でも、私には関係無い。
今がチャンス、逃げる。
バッ、翼を広げ空に飛ぶ。
「はっ、おのれ逃がすか。」
向こうは壁に跳び乗り、ジャンプした。
追撃してくる<死神>。
でも、私は使った。始めてだったけど。
「はっ。」
「なっ。」
右手の甲と左手の手のひらを合わせて<死神>に向けた。
そして念じる。
何か出ろ、と。
で、出た。
ボォッ
何か黒い光線が<死神>に直撃した。
「お、おのれーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
バランスを崩し下に落ちる。
「やったー。」
空中でガッツポーズ。
でも、これ以上はしない。
絶対負けるのはこっちだから。
私は空中でバランスを崩して落ちた。
今まで彼女は<呪法>をまるで使っていなかった。
あの様子だと始めて使った様だ。
まったく、とんでもない奴。
だが・・・。
「燃えろ。」
私は発動した。
再び彼女は燃え上がった。悲鳴が聞こえる。
それでも、
逃がしてしまった。
スッ、トンッ
私は地面に着地した。ここは公園。
もう一度上を見る。やはり居ない。
「引き際がわかった様だな。」
だが、これで終わらせる気はない。
理由はどうあれ<死神>は<悪魔>の<現世干渉>を見過ごせない。
「しかし、何故かな。」
少しほっとしているのは。
気配が有った。
私はその場に向かった。声が聞こえる。
「志貴、ねえ、しき、ねえってばー、志貴ーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
それは美しい女性。
だが今はそんな事より大事な事があった。
「志貴っ、起きてよっ。」
そして、私は再び彼と再会した。
コツ、コツ
暗い道で彼はゆっくり歩いていた。
「・・・俺って、損したよな。」
自分の分身を幾つか失っている彼は闇夜に向かって言った。
「はあ〜、何でこんな感情が残ってるんだよ、本当に・・・。」
肉体が存在しない彼が<溜息>をついていた。
そして、坂が目の前にあった。
「確かこの上が<遠野家本家>だったよな。」
彼は上ろうかどうしようか迷っていた。
「ふむ、分身は失礼。今の時間行くのも失礼かな?。はあ〜、って言うかどうやって<隆一>の家の場所聞こうかな。」
彼は一人で何か言っていた。
「あーあー、こんな事になるなら詳しく隆一に聞いとくんだった。聞き忘れちゃったんだよな〜。」
かつて<無者>を倒した時、彼は肝心な<今宮隆一がどこに住んでいる>を完全に忘れていた。
姫君の一件が駄目になったので、他に用があるとすれば彼に会いに行く事だけだった。
「少し挨拶したら、この国を出ようと思ってたんだけど・・・それがな・・・。」
しかし、世間は狭かった。
自分の目的の人物が居る所に、隆一の<本家>があるのだから。
かつて彼は、<遠野家>の復讐しようとしていた。
だが、今の彼にはもうどうでも良くなっていた。
「・・・やっぱ、何か聞きにくいな・・・。」
彼はその場に立ち尽くしていた。
(53)
コツ、コツ
夜の世界に足音が響く。
「はあー、時間かかったなあー。」
「ギー。」
黒いコートを羽織った少年と中年のサラリーマンと言った感じの男性を後に従えながら歩いていた。
「やれやれ<ギー>か、どうしてこれしか言えないんだ?。」
そんな事を言った所で答える人は居ない。
いや、彼は何故そうなのかちゃんと知っている。
「はっ、一人事なんて僕らしくないな〜。」
「・・・。」
彼はただ一人で喋っている。後ろの付き人は何も言わずについて来る。
「・・・にしても、僕はいつ<魂の喰らい方>を知ったんだっけ?。う〜ん、思い出せないなあ。」
そう、思いだせない事だらけ。
一種の記憶喪失状態かもしれない。
どうしても、肝心な事を忘れている気がするのだ。
それが、何なのかわからない。
だから余計混乱している。
「まあいっか。体も戻ったし、これで戦えるな。後の奴は囮ぐらいの役割しか出来ないだろうな。まあ、<兵鬼>はそのために有るんだし〜。」
笑みを浮かべながら彼は<遠野家>に向かった。
カチカチ
時計の音が聞こえる。
<遠野家>の居間は静まり返っていた。
この家の主である秋葉は今にも外に出てしまいそうな衝動を何とか抑えていた。
もし、自分がこの屋敷を出れば大切な使用人を危険に晒す事のなる。
いや、もはや家族と言って良いだろう。
最もその気持ちはこの居間にいる他の二人と同じだった。
・・・沈黙。
・・・沈黙。
・・・沈黙。
?。
?。
?。
<他の二人?>。
という事は・・・一人足りない。
自身と向き合う形で座っているシエル先輩。
彼女は顔を下に向けじっと動かないでいる。
その場所から少し下がった所で直立している翡翠。
彼女も目を瞑りながらじっとしている。
二人共、ただ待つしかない。
隆一がいつ襲撃してくるかわからないからだ。
それとも自らの兄が帰って来るのが早いかもしれない。
そうだ、そうに決まっている。
何も無かったかの様にあの笑みを浮かべきっと帰って来てくれるはずなのだ・・・。
「そうじゃないわ。」
その言葉にシエルと翡翠は反応した。
「秋葉様、何か?。」
「琥珀はどうしたの?。」
「えっ、姉さんならトイレ行くと・・・あっ。」
遅い、遅すぎる。いくらなんでも・・・。
「翡翠っ?。」
「は、はい。」
「私も行きます。」
全員が居間を出ようとした・・・その時だった。
ウィィィィィーーーーーーーーーーンンンンンンッーーーーー。
「「「・・・。」」」
何だろう、この恐ろしい空気を破壊、いや無に返そうとする音は・・・。
スーーーーーーーーー
何かが居間に近づいて来た。
「「「・・・。」」」
三人とも何故か動きたくなかった。
「コンバンワ、ミナサン、ソレト、ハジメマシテ。」
<それ>は居間に入ってきた。
その姿は・・・メイド服を着ている女性・・・て言うか。
「ねーーーーーーーーーーーーーーーーーえさん。」
「あは〜、駄目ですよ翡翠ちゃん、そんな大声出しちゃ。」
後から入って来た琥珀は・・・何故か近寄りたくなかった。
その時、私の頭に言葉が流れて来た。
ああー気がつかなかった
こんやはこんなにも
つきが、きれいだー
ちなみに、公園で何度も言ったが今日は<半月>である。
さて、こんなシリアスをぶち壊す<遠野家>と違い、こちらは真面目である。
まあ、彼も呆れてはいるが・・・。
「・・・<遠野家>はいつからあんなお笑い一家に・・・。」
かなりショックを受けているネロ・・・時矢であった。
実は坂の下から分身を一匹だけ送ったのだ。以外と小心者である。
「・・・さて、どうしたものか。・・・やはり友達を名乗って・・・だが、向こうは仮にも<異端者>でもそれなりに名の知れた・・・あーあー・・・どうするかなー。」
坂の下でウロウロと挙動不審する彼。
やっぱり、小心者かもしれない。
「うん?。」
その時、彼は後ろから気配を感じた。
そしてそれは、こちらに向かって来る。
何と凶々しい雰囲気は・・・<魔>。
彼は、そちらに体を向けた。
対するこちらも気配を感じていた。
「ギー。」
「んっ?。」
思わず立ち止まる連れ。
どうやら本能的に逃げ腰であった。
「・・・。」
「ギ・・・。」
意思の無い人形が怯えていた。
・・・気に入らない。
「先に行け。」
「・・・ギ。」
震えながら歩き出す。
今更死を恐れている。
だが、彼にはどうでもよかった。
この<兵鬼>は所詮彼にとっては暇つぶし。
だからこいつがどうなろうと知った事ではなかった。
10mぐらい差が開いた。
そしてゆっくりと彼はまた歩き始めた。
そして、次第に自分の<兵鬼>が見えなくなってきた時だった。
ガリッ、ボリッ
前から何かが何かを喰らう音がした。
近づく。
喰われたのはさっきの<兵鬼>。
喰らったのは三匹の黒い犬。
彼は笑みを浮かべた。
「へえー、おもしろそうな奴らだな。お前が親玉だな?。」
距離は50mはあった。
それでも、お互いはちゃんと認識し合っていた。
タンッタンッタンッ
三匹の黒い犬はその親玉の元へ向かった。
そしてコートの中に入っていった。
「・・・。」
そいつはじっとこちらを見ていた。
街灯が有っても夜。
だが、彼らにはあまり関係が無かった。
背は自分と同じぐらい。
それどころか自分と同じ黒いコートを着ている。
<魔>とは言え<黒>の服をお互い着るのは何か気に障る。
・・・それに、何か、他の事で気になった。
コツコツ、ゆっくりと近づいた。
互いに観察し合う。
そして、気がついた。
こいつの体には<点>しか無いと。
「・・・。」
「・・・。」
少しずつ縮まる距離。
自らが歩く音のみが響き渡る。
「・・・。」
「・・・。」
そして、距離が10mぐらいになった。
会話は向こうからきた。
「お前は誰だ?。」
「・・・随分と直球で来るな〜。・・・まあ、良いか<隆一>だけど、御宅は?。」
こう言うのはこちらから名乗るのに限る。
「・・・<時矢>だ。」
「ト・・・キ・・・ヤ・・・?。」
何だこの名前・・・何だ?、頭がイタイ・・・。
僕は右手を頭に当てた。
「えーと、どっかで・・・。」
「違うな、お前は<隆一>じゃない。」
「はっ?。」
何を言っているんだコイツハ・・・ボクガ・・・。
「何でお前が僕を知ってるんだ・・・っけ?。」
ワカラナイ、ナニカオカシイ・・・。
「・・・<蛇神時矢>は<今宮隆一>を知っている。」
「ヘビガミ、トキヤ?、イマミヤ、リュウイチ?。」
アアアア、アタマガ、クルウウウウ。
僕は両手で頭を抑えた。
「もう一度言う、お前は<今宮隆一>じゃない。<蛇神時矢>が言うんだ。間違いない。」
「アーアーアーアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああ。」
アタマガ、アタマガ、アタマガ、アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーターーーーーーーーーーーーーーーーマーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
大声を上げて奴に突進する。
そして・・・。
ドゴッ、僕は何かに串刺しにされた。
「ガハッ・・・。」
それは、黒い鹿。立派な角に僕の腹は貫かれていた。
ああ、黒い、
それは血?
違う<線>と<点>
それは・・・
僕の
究極の
最凶の
魔
眼
だよ
忘 れ
た
の
?
僕は
「<邪皇>。」
「むっ。」
ザンッ、腹を貫いていた鹿の首を持っていた短刀で切断した。
(54)
<直死の魔眼>。
森羅万象、この世の全て、生きていれば神さえも殺せる魔眼。
あまりにも「」に通じた力として誰もが恐れる物。
持つ者は死を理解出来る。
そして、力を欲すれば誰もが欲する物。
彼もまた・・・。
死んだ。
間違い無く死んだ。
もっとも俺の分身に過ぎない。
それは、<志貴>という奴と同じ力。
蒼い眼。
畏怖、恐怖、絶望、それらを感じさせる絶対的な眼。
私は、これに敗れた。
「驚いたな。」
「はあ、はあ、はあ・・・。」
今俺は街灯の上に居る。
先ほど<蛇の娘>がやっていた事でも有る。
攻撃の後、俺は咄嗟に跳んだ。
応戦しても良いが、一年前の様になる可能性が有ったからだ。
臆病風に吹かれたか?、と言われればそうかもしれない。
恐れが無いと言えば嘘になる。
否定はしない。
見下す様に睨む。
「その短刀は・・・どうした?。」
「は、はははっ、ヒーヒー。」
空笑いをしながら左手で頭を抑えている。
どうやら、向こうも錯乱しているようだ。
まあ、隆一がそう簡単に死ぬ訳が無い。
あいつは、どんな事があっても生き延びる執着心を持っている。
・・・って言うか、実力で地獄から這い出て来そうなくらい、ある意味恐ろしい男なのだ。
「・・・まあ、良いか。ここでお前は死ぬ。その得物は持ち主に返してもらうぞ。」
バッ、コートを広げ二十匹程のカラスを向かわせる。
「はあ、はあーーーーーーーーーーーーー。」
ダンッ、奴は後ろに跳んだ。一歩で20mは跳んでいる。
まあ、この世界では当たり前の話。
容赦無くカラスの群れを向かわせる。
・・・まあ、これは囮なのだが。
俺は下りた。
「「「「「ガーーー。」」」」」
カラス達が襲いかかる。
ザンッ、ザンッ、ザンッ、右手に持った奴の短刀が我が分身を殺していく。
ブンッ、俺は投げた。
「!っ。」
それは無者と戦った時入手した円状の飛び道具。
<チャクラム>というらしいがこれは直径が大人の背ぐらいの大きさである。
異常なまでの大きさではあるが、以外と使える。
ギンッ、それを横から思いっきり弾く奴。
しかし、その弾いた事により出来た隙は正に好機と言えた。
一歩で十分だった。
<北羅>を出す。
それで、奴の首は跳ぶはずだった。
ギィッ
それは刀と刀がぶつかる音。
本来、刀という物は斬るためにある。
<斬る>、いかにこれを強くするか。
自然と刀身は細からず太からずと微妙な状態になる。
だが、物質としての<硬度>はどうしても落ちる。
テレビの時代劇でやっている様な激しい刀同士のぶつかりは起きない。
すれば、必ず折れる。
例え折れなかったとしても<鉄と鉄>がぶつかるのだから刃こぼれは避けられない。
だが、この戦いは異端者同士の戦い。
かなりの力が有っても、そう簡単には折れない。
ズッ
奴が離した短刀が道に突き刺さった。
今の奴は刀を手にしている。
しかも、刃の長さが2mは有る。
<長刀>という物だ。
子供の姿をしながらこれ程の<長刀>を使えるとは、正直驚いた。
そんな様子に気がついたのか、奴は顔に笑みを浮かべた。
蒼い眼を輝かせながら笑うその姿は・・・あの<志貴>とはまるで違う存在だった。
ギッ、弾いて後退する。
お互い刀を一本ずつ持っている。
どうやらこちらはもう一本使った方がいいかもしれない。
スッ、体から<逆鱗>を出す。
公園と同じ体勢で迎え撃つ。
「あーあー、クククッ。」
「何が・・・おかしい?。」
戦いの最中笑っているこいつはやはり危険だった。
「久しぶりだよ、何だか知らないけど久しぶりだ。ああ、でも・・・。」
奴は<長刀>を右手に持って言った。
「まだ、忘れている。何か、まずそれを思い出す。だから・・・サヨナラ。」
「!。」
ザンッ、奴が道路に<長刀>を刺す。
ピキッ、ピキピキピキ・・・、すぐに地面中にひびが入った。
「くっ。」
グシャッッッッ、<死んだ>影響で地面、正しく言えばコンクリートが山の様に盛り上がる。
ダンッ、仕方なくこちらも後退した。
そこにはもう誰も居ない。
有るのは舗装されていた道路の残骸。それと道路に面していた住宅の壁が崩壊している。
「やってくれたな。ここに長居するのは止した方が良さそうだな。」
辺りの家が騒がしくなる。
「ガー。」
「ん?、おお、有ったか。」
カラスがくわえている短刀を仕舞う。これでここに居る必要は無くなった。
「・・・まあ、隆一が探しているか知らないが、要らなければ貰うだけだな。」
バサッ、残った分身を戻し俺はこの場を立ち去った。
スーーーーーーーーーーーーーーーー、ローラーを足に着けた人型が坂を下る。
ジー、その姿は・・・怪しい、って言うか人に見えない。
そして、ここは<遠野家>の屋敷のとある場所。
「・・・あはー、<ニューメカ翡翠ちゃん>の調子は良好〜。」
「「「・・・。」」」
とんでもなくデカイモニターにむらがう四人の乙女。
「琥珀、あなたいつの間にこんな部屋を・・・。」
「聞きたいですか?。」
「・・・遠慮するわ。」
はあ〜、と溜息をつくこの屋敷の責任者。
「姉さん・・・やっぱり酷いです。」
「えー、こんなに強い翡翠ちゃんなのに〜。」
「自分にしてくださいっ!!!」
本当にその通りである。
「まあまあ、これで外がわかるんですし、何かあっても機械が壊れるだけなんですから・・・。」
となだめる、この中で一番実戦慣れしている人。
あの後翡翠の激怒があったが、<志貴様>の安否が心配なので結局折れた。
<ニューメカ翡翠ちゃん>を残すという手もあったが、メカでは不測の事態に対応出来ないのと自分らが出た時に入れ違いになるのを恐れたためだ。
まあ、策士琥珀はちゃんと計算していたのだろうが。
「さーて、もうすぐ坂を下りられるますね。異常は無いですか?。」
「ピピ・・・イジョウ、アリマセン。」
メカからくる映像と音を見ながら琥珀は考えた。
(このまま行けると良いんですがね・・・志貴さん、無事でいてください。)
結局、彼女も恋する女である事を忘れてはいけない。
その時だった。
ズガンッッッ、大きな音が聞こえた。
「ピーピー、イジョウハッケン。イイカガイタシマスカ?。」
バッ、とマイクを取る琥珀。
「そちらから何かわかりますか?。」
全員が見つめるなか、返信があった。
「サーモグラフィ、シヨウ・・・ザンネンデス。コチラカラカクニンデキマセン。」
秋葉がマイクを奪った。
「ちょっと、だったらもっと近くに行って確認しな・・・。」
バッ、マイクを奪い返す琥珀。
「作戦中止、直ちに帰還。以上。」
「リョウカイシマシタ、キカンシマス。」
ウーーー、方向転換し、屋敷に戻るメカ。
「琥珀っ、どういうつもりなの?。」
「秋葉様落ち着いてくださいっ。」
琥珀が怒鳴りつける様に言った。
「<ニューメカ翡翠ちゃん>は確かに私のふざけで作った部分が有ります。それでも、下手に一般人に見せる訳に行きません。あれ以上行かせれば、もしかしたら戦う事になるかもしれません。良いですか、あの大きな物音で人が集まっているんです。もし、あそこで・・・。」
その言葉に押し黙る秋葉。
「はあー、結局状況はわからない・・・ですか。」
と、部屋の時計を見るシエル。
「8時半、私が<ネロ・カオス>を見たのが7時過ぎ。・・・それなのに何の連絡も無い・・・ですか。」
再び溜息をつくシエル。
重い空気がその場を支配した。
夜の公園。
三つの影が有った。
「志貴、し・・・き・・・。」
志貴を膝に乗せながらアルクェイドは泣いていた。
その横では、少女が志貴の体に手を当て何か言っていた。
「現世、内なる力。冥府、外なる力。暦に流れ、生する者へ。滅び、生誕、惑わす妖へ抗う恩得を。」
そう言うと、志貴の体から黒い靄が出て行った。
「ねえ、助かるの?、志貴は・・・ねえ・・・。」
「今やっている、貴女は呼びかけろ。そうすれば彼の意識を呼べる確率が増るはず。」
客観的に見れば、逆の方が当てはまる。
まあ、アルクェイドの動いた時間より華連の方が長いため間違っていないと言えば間違っていない。
「志貴、志貴。起きて〜。」
彼女は恐れている。
彼が居ない世界を。
いずれこの生活には終わりが来る。
その終焉が自らの戦いに巻き込まれての事となれば、それは・・・。
「志貴っ。」
「・・・よし、後は・・・ふむ、時間が掛かり過ぎたが・・・何とかなるか・・・。」
華連は立ち上がった。
「姫君、もう動かしてもいい。」
「ほ・・・本当?。」
それは、安堵した様子だった。
「だが、傷を塞ぎ切れてはいない。あくまで<妖刀>の妖気を抜いただけ、近くに手当ての出来る者は居ないのか?。」「えーと、うん居る。」「運ぼう。」
と言って華連は志貴を持ち上げた。
・・・俗に言う<お姫様だっこ>で。
「ちょっと、私が・・・うっ。」
思わず顔をしかめる。
やはりさっきの戦いの傷が癒えていない。
「そう言う事だ。今回は特例として最後まで付き合う。さあ、案内しろ。」
そして、彼女は知る事になる。志貴と隆一の関係を・・・。
(55)
この街は幾つ者異端者が現れ、そして散っていった。
そう言った事からこの辺りは何か因縁の様な物が有るのかもしれない。
彼らがここに居るのも・・・。
夜道を歩きながら彼は夜空を見上げた。
「月・・・か。」
彼にとって月は崇める存在。
しかし、彼はそんな事はしなかった。
「白き荒野、全てが死に絶えた世界、我ら<死徒>には相応しい灯火だな。」
その月も今宵は半月。残念ながら完全ではない。彼の様に。
「もし満月なら、姫君もあの結界に気づいただろうな。。」
真祖を倒す手段。
簡単に説明がつく。
問題は実行する事。
説明、世界の供給を断ち切れば良い。
実行、世界の供給を断ち切れば良い。
それは<世界>という我らには到底勝てない存在を利用する手段。
それには、<真祖>と同じく<世界と繋がる者>が必要だった。
だからこそ<四大精霊>を使った。
・・・まあ、精霊が揃えば供給を止められる訳ではない。
結界を張り、地域を限定、そして姫君に行く力を全て遮断しなければいけない。
ゆっくりでは気づかれる。
あくまで<不意>をつく。
何と狡猾で汚いやり方か・・・。
だが、そうでもしなければ勝てはしない。
「だが、この有り様か・・・。俺は結局何がしたいんだろうな・・・。」
復讐、それが彼・・・<蛇神時矢>であり<ネロ・カオス>が生まれた理由。
彼は、意味を求めていた。
「はーーはーー、あー・・・ここだ。」
ここは路地裏。
この街で最も汚れた場所。
彼は奥に向かった。
途中、警察が張ったテープがあったが、彼は無視した。
スッ、彼は壁を背にし<長刀>を手にした。
「はーはー、<線>・・・これが・・・このおかしな・・・原因だ。」
それは音も無く、<長刀>とは思えない軽さで切られた。
彼が何者か・・・彼がそこに居たのは・・・それは力・・・彼は・・・。
「アー、何て素敵な日。今宵は半月か。残念。満月ならもっと感じがでるのに〜。」
彼は高々と手を空に掲げた。
「おお、太古より人を魅了し、狂わせ、夜を照らす邪な月よ、あなたは何を見ているのですか?。」
狂う様に彼は舞う。
手を広げながら・・・ダンスをするかの様に。
「ああああ、素晴らしい、死んだはずの僕が、<邪皇>の僕があの二人に殺され・・・ハッハッハッ、こんな気分は本当に久しぶりだ。」
グシュ、そう言いながら彼は何かを踏んだ。
「ああ、すみません、踏んづけてしまいました〜。うれしくて・・・う〜ん本当に失礼を・・・。」
そう言いながら彼はまた<それ>を踏んだ。
「あらら、またやってしまいましたね・・・何か言ってくださいよ〜、お巡りさ〜ん。・・・市民を守るのが仕事でしょう?。ああ、もう、魂無いからって、動かないなんてねえ?。そうだ。」
彼は<それ>に手を当てた。
「動ける様に・・・な〜れ〜・・・ほら、動ける〜〜〜。」
ガタッ、<それ>は立ち上がって路地裏を去った。
「それじゃお仕事がんばって〜〜〜、夜はまだ長いですよ〜〜〜、頑張って徘徊してくださ〜い。」
そう言うと彼は空を見上げた。
「う〜ん、こんな隙間じゃ、すぐにお月見出来なくなるな〜。・・・うん?。あっ・・・素肌が出てる・・・ああ、服のサイズが小さいな・・・良し、新調しよう。」
彼・・・<閻魔武忌>の背は2mは有る長身。ネロ・カオスより大きいのだ。
快楽、彼が今求めている者。
この街には彼にとっての玩具が沢山あった。
表現すると・・・何か降って来た・・・かな?。
「何だ・・・赤い、朱い、紅い・・・炎?。」
バサッ、こちらに向かって来る。・・・人型だった。
「う・・・助けるしかないか・・・。」
タッ、トッ、タンッ、軽い足取りで彼は跳んだ。
「!。」
向こうはそれに気づいて・・・構えた。
「くっ。」
ブンッ、と降られる高速の腕。
それを空中で体をひねりながら避ける。
そして・・・左腕で首を掴んだ。
「・・・は・・・な。」「あつっ・・・地面?!。」
炎の高熱が体に伝わったが・・・無視して・・・着陸態勢に入った。
バサッ、地面まであと5mという時、<それ>が翼を広げた。
「わっ。」
振り落とされそうになったが・・・翼は一度動いただけで終わった。
どうやらそれが限界だったらしい。
・・・まあ、勢いが無くなったので良かったが。
「よっ。」
ダッ
最後はお姫様抱っこの形で着地。
炎は消えた。
翼を広げた時に消えたのだ。
何かしたのかもしれない。
<それ>は気絶していた。
・・・はて?、あまり火傷の後が無い・・・まあ、こんな姿してれば・・・何か漫画に出てきそうな<悪魔>の格好だな。
「コイツ???。」
(おい、まさか)
(マチガイナイ、カナリノ、イタンシャ)
(弓塚・・・だよおいっ)
(フム、ダレカニ、ヤラレタヨウダナ)
<弓塚絵理>、同じ<三咲中学校>の一年生。
・・・この子は普通だと思ってたのに。
(・・・まさか異端者とは・・・)
(カクスノガ、ウマイナ、オレデサエキヅカナカッタ)
取り合えず<視た>ところ・・・<線>も<点>もしっかり視えた。
「はあ〜、取り合えず安心。」
弓塚をそのまま草むらに横たえるのもあれ何で、取り合えず家に連れて行く。
そこは居間、まあ何も無いが彼・・・<今宮隆一>が住んで居た時は確かに居間だった。
「・・・ここでいっか。」
少し汚れていたが・・・虫だらけ・・・ていうか害虫とその死骸だらけの草むらよりは良いだろう。
「そこに座った俺って・・・。」
と、一人で言いながら弓塚を横たえた。
まだ、起きそうに無い。
「しょうがない、待つか・・・そう言えば・・・。」
と言って外に出た。
外、と言っても<道路>のほうである。
「誰も・・・よし、居ないな。」
あんな火の人型がここにくれば誰か来るだろう。
でも、騒いでいない所を見ると・・・運が良かった様だ。
「さて・・・待つか、あっ。」
ふと、夜空を見上げれば・・・そこには月。残念。満月ならもっと雰囲気が出るのだが・・・。
「・・・炎・・・赤・・・月・・・そう言えば。」
弓塚が来た時の紅が思いだされる。
そして、自らの瞳の色も思い出した。
「紅い月・・・不思議だな・・・何か、俺にはそう見える。」
紅い月、決してあるはずのない月の色。
だけど、俺は見たことが有る気がする。
遠い、昔。
(56)
<番外編・〜青子先生の特別補習その2>
ここは、主人公<遠野志貴>の通う学校に似た場所。
正門に一人の少年。身長は130程しかなく、腰まで届きそうな青い長髪が印象的だ。
彼が、ここに来るのは二度目だった。
「・・・何故・・・また、補習を・・・。」
と、言いながらも教室に向かう彼・・・無者であった。出番がここしか無い弱みである。
教室には、一人の女性。こちらも赤い長髪が印象的である。
「遅いっ、先生を待たせるなんて良い度胸ね。」「い、いえっ・・・。」
と言いながら辺りを見回すと・・・二人きりとわかった。
「先生・・・今日は?。」「ええっ、タイマンよ〜。」
彼女・・・蒼崎青子は笑いながら言った。
「・・・何故に・・・タイマン?。」
と言いながら教卓の正面の一番前の席に座る。
「簡単よ、一人は復活して、もう一人は私が気に入らないから。」
ああ、年齢を聞いたから・・・とは決して言わない。
「では、補習を行う理由は何ですか?。」「簡単よ、本作品の設定の説明が必要とアドバイスされたからよ。」
と言いながら遠い目をする青子。
「私は・・・出てないのよね・・・。」「・・・ううっ、武忌さんは復活したのに・・・。」
お互い悲しい事情があった。
「大丈夫よ。」「えっ?。」「あなたも復活の可能性があるわ。」「ほ、本当ですか?。」
うわ、すごく喜んでいる。
「ええっ、作者が<メルブラの隠しキャラの弓塚さつき>を出したら、その記念にやるって。」「わーい・・・ってそんなのかなり低いじゃないですかっ。」
注意、<あるキャラ>を使っていると低確率で出現するらしいが、作者は一度も見ていない。
「・・・さあ、始めるわよ。」「ま、また無視?。」
注意、作品がよく理解できていたり、読んだらおもしろくなくなると思う方は<戻る>をクリックしてください。
また、今回は二人きりなのでセリフに頭文字はありません。
「さて、今回は合計56話になる
<最強の魔眼>
<法を守る者、法を破る者>
<漆黒の月>
<死月談話>
<そして物語は・・・>
<番外編・全ての支配者、全ての根源<蒼崎青子>お姉様の特別補習>
<真夏の終わりに・・・>
<死姫の遺産>
<死月と邪月と紅月>
に出てくる、<作者のオリジナル>の紹介ね。
今回は<用語>などの紹介をするわ。これがないと<人名>の紹介がうまくいかなくなるからね。」
「・・・あれ?、一つ・・・おかいしなタイトルが・・・。」
ギロッ。
「す、すばらしい、説明です。青子先生。」「・・・よし。」
ああ、僕は後どれくらい生きて(作品では死んでる)られるんだろう・・・。
「さ〜て、まずはここまでの時代背景を見ましょうか?。」
「・・・いつの間に・・・教科書が・・・。」
今回は武忌が居ない。
「え〜と、月姫が<西暦2000年>の話だから、<メルブラ><歌月十夜>の年、<西暦2001年>ですね。」
「あら?、どこから2000と判断したの?。」
「シエルルートの<茶道室の戦い>の後の<遠野志貴>の夢の中の<凱旋門のシーン>の辺りから
1、シエル・・・エレイシアは1976年生まれ。(歌月十夜で5月3日)
2、16歳にロアが覚醒。
と明記されていて、<月姫本編>ではそれが<8年前の出来事>とされてますから
1976+16+8=2000
まあ、色々な他のSSでシエルさんが<2?才>になってますから知ってる人は多いと思いますけど・・・。」
「ええ、その通り。ちなみにこの作品の現在の季節は<9月>とされてるわ。・・・彼、受験生なのよね。」
「それじゃあ次は<用語>。そうね・・・、<魔の三大勢力>について答えてみて。」
「はい、<魔の三大勢力>
<死徒27祖>
<8魔道星>
<邪皇14帝>
の事を言います。<27祖>は本編ではまだあまり明かされてませんが、、吸血鬼の集団とされますね。
<8魔道星><邪皇14帝>は作者のオリジナルです。
<8魔道星>、<8星>とも称されますが、まだ作品では関わっていません。
ただ、<協会>とは敵対関係です。
<邪皇14帝>、これは<鬼>の<邪皇>と称される中でも最強と言われる集団です。」
「では、<邪皇>の説明をして。」
「鬼には大きく分けて二つの名称があります。
<邪鬼>と<邪皇>です。
この二つは一般的に<魂を喰らえるか>の違いがあります。
<邪鬼>は人肉しか喰らう事が出来ません。
<邪皇>は魂を喰らう事ができます。
人の魂は霊子の率がかなり高く、それを喰らう事ができれば<鬼>自身の力も強くなります。
ただ、<邪鬼>の中にも実力がある者はいるので<邪鬼>が<邪皇>に劣る訳ではありません。
まあ、全体的に、<邪皇>が強いのでそう思われるのは当たり前なんですが。
後、<邪鬼>もそれなりにがんばれば<邪皇>に成れます。成り方は多種多様ですが。
ちなみに、僕も<邪皇>だったんです。しかも<14帝>クラスって言われたんですよ。すごいでしょう?。」
「・・・でも、死んだわね。」
「うっ・・・。」
「では、<兵鬼>は何なのかしら?。」
「<兵鬼>・・・そうですね<死者>と似ています。まあ、<死者>は<血を吸われた>なんですが<兵鬼>は<魂を喰われた>なんです。
魂を喰らわれても<肉体>は問題ありません。だからそれに親が少し力を与えれば<死者>の様に<忠実なしもべ>が出来ます。
まあ、<邪鬼>は魂を喰らう技術が無いのでもてませんが。
それと、定期的に<人肉>を喰わせないといけないんですが、<皇>を名乗ってるんですから<しもべ>ぐらい居ないと・・・。」
「それだけかしら?。」
「えーと・・・ああ、<兵鬼>はもう<魔>に属するんです。だから<親>が何らかの原因で死んで支配が無くなると<負のエネルギー>が集まって<邪鬼>になります。
ここまでいくと人格が生まれます。ベースは生前の脳になりますが基本的に凶暴になりますね。」
「良い感じよ、そう言えば<鬼>はどうやったら生まれるのかしら?。」
「<鬼>、天災や戦争で死んだ人、或いは人達の怨念から生まれます。それ以外に<精霊><幻種><死神>等が<堕ちる>事でも成ります。
まあ、このレベルだと最初から<邪皇>に成りますがね。」
「<死神>はどういう物なのかしら?。」
「えーと、<死神>は魂の管理者、冥府の代行者とも言われますが、要は<魂の循環>を守るのが仕事ですね。
仕事として死人をあの世に導くのが仕事ですが<魂の循環>を乱すものには容赦なく攻撃します。
だから魂を喰らう<邪皇>と喰らう可能性がある<邪鬼>とは常に戦ってきました。
彼らは当然不老不死を詠う<死徒>も把握してます。ですがこれらは<自らの努力で手に入れた物>と判断されるため実際は把握してるだけです。
まあ、<生死の法則>に背いてはいますがそれら全てを狩る訳ではなく、あくまで<乱すもの>しか相手にしません。
ですから<現世>との関わり合いが少なく<協会><教会>の接触も稀にしかありません。」
「<あの世>に導いた後はどうするのかしら?。」
「そこからは<冥界の裁判官>の仕事です。<閻魔大王>や<アヌビス>が有名ですが実際は1000を超えます。
これらが死人相手に天国か地獄かを判断します。この辺りはよく知られてますがね。」
「全ての魂がそうなるのかしら?。」
「はい?・・・え〜と〜・・・ああ、いえっ、実は<転生者>は違います。
彼らは<生前の努力>で<転生術>を得ました。だから<死神>は裁けません。
正式な<記憶を持ったままの転生>も有りますが多くの審議を受けなければなりません。
まあ、こういう人達は生前に<転生術>を得られなかっただけなんですがね。」
「なかなか良い解答ね。」
「えーと、<鬼>の説明は良しとして・・・<狩人>はどうかしら?。」
「<狩人>ですか?・・・これはまだほとんど語られてませんね・・・あえて言うなら<協会><教会>とに対抗する組織の名称なんですが、これが原因で<協会>はあまり動けず<神無月千鶴>を<三咲町>に送ったんです。」
「<魔喰い>は?。」
「これは<闇の封印場所>の<魔界>に住む<悪魔>を喰らった者の事です。
大体のやり方は禁断の儀式である<魂を代償に願いを叶える>で呼び出した<悪魔>との契約を翻す事ですね。
まあ、これは<悪魔>が裏切って来る事があるので違反が向こうにある場合があります。
本作では<弓塚絵理>がこれになってますね。
にしても、主人公は<弓塚さつき>の葬式に行ってないように思われますね。
まず、家の場所を知りません。しかも彼女が死んだ後四季さんや秋葉さんとのいざこざがあります。
後、<弓塚さつき>は本編で<路地裏で大量の血>が発見されたと琥珀さんが言ってますから葬式は有ったと作者は考えています。
まあ、琥珀さんが嘘をついた可能性も無いとは言い切れませんが。」
「・・・まあ、余分な説明があったけど・・・良しとするわ。」
「大体こんな所ね。」
「えっ、まだ色々・・・例えば<今宮家>や<蛇神家>の関係や・・・。」
「まあ、その辺りは<人物の説明>でするわ。今回は<説明の土台>が必要だっただけ出し、<固有結界>の名称もその時で十分。
とにかく今回はここで切る。あんまり書くと混乱するし。」
「・・・はい、それでは今日はこれで終わりという事ですか。」
「ええっ、それでは、また。」
教室を出て行く先生を見ながら僕は溜息をついた。
「せめて、回想ぐらいは出たいよな・・・。」
(57)
<番外編・〜青子先生の特別補習その3>
「ああ、気がつかなかった、こんやはこんなにも、つきが、きれいだ。」
と、一人怪しく呟く彼・・・無者だった。
「それは志貴のセリフッ。」
「いたっ。」
バコッ、鉄拳を受ける無者。
「だって、こんな夜に呼び出されて・・・いえ、何でもありません。」
そう言うと、無者は前を見た。
「まあいいわ、さあ、始めるわよ。」
<注意>今回も二人なので頭文字はありません。
「今回はオリキャラの説明ね。」
青子はくるりとこちらを見た。
「何故、私に出番が無いのかしら?、無者君?。」
怖かった、地下室のメロディーが聞こえるくらい、怖い顔だった。(笑顔ではある)
「せ、先生・・・今回の主旨が・・・変わってます。」
彼が本当に<邪皇>か疑いたくなる。
「・・・ええ、そうね、ごめんなさい。さて、まずは・・・。」
教卓に置いた本からページを選ぶ青子。
「<今宮隆一>ね。さあ、彼について言ってみなさい。」
「はい、
<今宮隆一>
現在14才、<三咲中学校>の2年生、前まで<鳳凰中学校>に居ましたが暴力事件を起こして転校。
父親は3代前の遠野家当主の子供から始まった<今宮家>前当主<春牙>。母親は先代<槙久>の妹<楓>。
<柚良>という妹も居ましたが、彼が小学校3年生の<誕生日の時>3人とも殺されています。
何か苦しんでいる人が居ると同情や良心の呵責で助けようとする傾向あります。
基本的に冷静に行動しましが、怒りが頂点に達すると周りが見えなくなってしまうのが短所。
幼い頃<遠野四季>達と遊んだ事があり、その時の経験が性格に影響しています。
能力として<命を視る>ことができますが、これは<遠野家>の能力ではなく、彼自身の能力はまだ明かされていません。
それと<遠野家>では<槙久により記憶が変えられている>事になっていますが実際は全て思い出しています。
でも、<志貴と四季>が入れ替わっている事にまったく気づいていません。
後、隆一は生きる事に異常なまでに執着していますが、死んだら「そうか死んだのか」とあきらめやすい所があります。
要は起きてしまったらしょうがない、という<成る様に成るさ>があります。
こんな所ですかね。」
「ええ、大体そんな所ね。後、彼にはもう一つ人格のような物がある事を忘れてはいけないわ。
でもこれは<シオン>の様な分割思考に似たものだから深く考える必要はないわ。」
「次はあなたが大嫌いな・・・。」
「嫌です。」
「答えなさい。」
「嫌っ。」
プイッ、と首を右に向ける無者。珍しく逆らった。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・はあ〜、まあ、これぐらいは良いか。」
「<蛇神時矢>
隆一が小学校3年生の時に転校して来て、隆一君と仲良くなったのが彼。
でも彼は<遠野家>に滅ぼされた<蛇神家>の末裔で、関わり合いの深い<今宮家>に近づいたのが本当の理由。
まあ、一緒に居る内にその気は無くなったそうよ。
でも、隆一君の誕生日の日、彼の兄<蛇神烈矢>が隆一の家族を殺害してしまったの。
その時<烈矢>は<魔眼を開いた隆一>君に殺されたんだけど、それを罪に思って姿を消したの。
そして数年後、日本中を放浪する彼は一人の<邪皇>に出会った。
それが・・・あなたね、無者君。」
「・・・。」
「二人は戦ったわ。でも所詮、時矢君には相手が悪く何とか逃げ延びたけど、その時もう彼の体は駄目だった。
その時、今度は<死徒>に出会ったの。分身だけど、<混沌>と出会ったの。
そして二つは合体して新たなる<ネロ・カオス>が誕生した。
その後、無者君、今度はあなたが殺されそうになった。あなたは逃げて新しい領土を見つけた。
その時だった、<協会の刺客>と隆一君が現れたのは。
かくして、あなたは倒され、二人は再会した。まあ、お互い仲は良かったからすぐにわかりあえたみたいだけど。
それと、彼の<混沌>は少し変わっているわ。
まず、本編で言っていた<乱れた系統>がうまく掴める様になったの。時矢君は素質があったようね。
後、戦い方に剣術を混ぜているわ。刀は<混沌>の中に常に入っているの。
と言うより、<四次元ポケット>状態ね。一応<世界>だから問題は無いわ。
ざっと、こんな所ね。」
「ううっ、奴さえ居なければ・・・。」
「次は<閻魔武忌>よ、じゃあ答えて。」
「は〜い、
<閻魔武忌>
<閻魔大王>を筆頭とする<閻魔家>一族の一人。<閻魔大王>以外は全て<死神>の仕事をしています。
昔、<転生者、ミハイル・ロア・バルダムヨォン>と邂逅した事で<完全な不老不死>を求めて<死神>から<鬼>へと堕ちたんです。
以後、<邪皇14帝>とまで恐れられる様になった武忌さんでしたが、完全のためには<転生術>が必要とロアを探しました。
でも、<遠野家>に転生した事しかわからず、しらみつぶし探しましたが見つからず、ついに隆一に接触する事に。
まあその時、武忌さんの妹さんと隆一のコンビに殺されてしまいましたが、何と驚き復活しました。
方法はまだ明かされてませんが、<歌月十夜の黎明>と似た様な理由だと思われます。
能力として<直死の魔眼>を持っています。さすがは元<死神>。
武器は刃だけで2mは有る刀。これは<心具>という<死神>特有の武器です。
性格は一言で言えば快楽主義者。自分が楽しめれば何でも良いという御方。
強い奴と戦うのが好き。後、復讐されるのも好き。憎しみこそ力だと思っているからです。
まあ、それで一回負けたんですが。」
「まあ、そんな所ね。油断大敵、これが敗因。後はパーフェクトの実力者。まあ<完全な不老不死>を求めているはずなのに快楽が優先になってしまっているけど。」
「次は<弓塚絵理>よ。」
「はい、
<弓塚絵理>
弓塚さつきの妹。姉を殺したのが志貴だとわかっており、悪魔と禁断の儀式をしようとしましたが裏切られた。
でも、勝った。勝って<魔喰い>となって志貴に復讐しようとしたが失敗。
現在は、隆一に保護してもらっています・・・ああそうか、だからここが<夜>なんだ・・・。」
「やっと気がついた?、そう、話はまだ完結してないもの。
それと絵理ちゃんは隆一君と同じ<三咲中学校>の1年生。お互い面識はあるわ。
後、復讐に隆一君を利用しようとしたけど、武忌君が出て来て失敗したわ。」
「さて、この四人の接点は?。」
「え〜と、<月姫本編>の<死徒四人衆>と関わり合いが有る、ですか?。」
「そうよくわかってるじゃない、それじゃあ次は<閻魔華連><神無月千鶴>を続けて言ってみなさい。」
「<閻魔華連>
武忌さんの妹で隆一と同い年。武忌を倒すのに隆一と協力し合った仲。
まあ、実際はバラバラに行動だったらしいですけど。
炎の<固有結界>の<業火死海>を持っていて、<心具>は刀、長さは普通。
自分に厳しくしている性格だけど、実際はやさしいらしい。
<神無月千鶴>
僕の討伐に来た<協会>の人間。
まあ、この僕の力でほとんど隆一に頼る事になってましたね。
武器として投降用の細い銀の棒を使う。
それぞれに術が掛かっていていますが、本作では<爆発>しか出ていません。
<退魔>の名門<神無月>の最後の末裔ですが、非情に成り切れず、自らの地位に低さに悩んでいます。
余談ですが<神無月>をここまで滅ぼしたのは武忌さんです。
こんな所ですね。何気に武忌さんと隆一が関わってますね。」
「ええ、そう言う事ね。」
「後は、あなた。」
「はいっっっっ、来た来た来た〜。
<無者>
その姿は「カット。」
「・・・はい?。」
「詳しくは<死月談話>を読んでね〜。」
「へえー・・・・・・何でーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
「カット、カット、カットカットカットカットカットカットォォォ・・・何てね。」
「何故・・・ワラキヤ・・・。」
「あなた・・・調子に乗りすぎ〜、それと時矢君を無視した罰。」
「そ、そんなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
「さて、大体こんな所ね。」
「・・・まだ、サブキャラが居ますよ。」
「そうね、でも、これ以上は読者が覚えられないでしょう?。だからここでカット。」
「何で、ワラキヤの夜。」
「それでは皆さん、また。」
教室に残る無者。
ここで一言。
「差別だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
以上、悪役の最後でした。
(58)
かつては賑やかだった家も、今は二人しか居ない。
この二人は別に住んでいる訳ではなく、あくまで仮宿としているだけ。
すぐに居なくなるだろう。
それは、突然起きた。
いや、起きたと言う程強い物では無い。
「あっ。」
目の前で寝ている弓塚が起きたのでは無い。
俺自身に起きた。
例えるなら・・・何かが切れたと言うべきだろう。
体が、何かとの繋がりを無くした。
それは何かはわからない。
だが、楽になった気がした。
「・・・何だ?。」
それは、あの時から感じていた違和感。
あの時、そう、昨日俺はおかしな感覚を持った。
それはただの夢、人を喰らう、ただの夢。
(イヤ、チガウ)
その夜、俺は外に出た。
(ソウ、アッタ、アイツハ、イタ)
そこら辺があいまいだが・・・。
(オレハ、ホドウキョウ、ノ、ウエニトンダ)
(それで?)
(ヤツハイタ、デ、タタカッタ)
(・・・で?)
(バショガ、ワルカッタ)
(・・・。)
(・・・スマン、コチラガ、オトサレタ)
とまあ、こういう事。
俺は意識がハッキリしてなかったが<オレ>はちゃんと起きていた。
(要は半分、<俺の部分>が眠ってたから、ちゃんと動けなかったのね)
(・・・。)
我ながら、馬鹿な事をしたものだ。
厄介なのは<俺>も<オレ>も同じだという事。
決して二重人格ではない。
まあ、今はそんな事はどうでも良いか。
「さて、どうするかな?。」
横で寝ている弓塚を見ながら嘆いた。
この繋がりが切れた感覚が、果たして喜ぶべきか、それとも・・・。
「これで・・・終わり・・・とはいかないだろうな。」
とにかく、ここを動く訳にはいかない。
まあ、弓塚が来なくても動けないのだ。
何故?。
・・・まあ、話せば・・・長くはならないかもしれないが・・・短くも無い・・・かな?。
「透っ。」
その掛け声と共に二人は姿を消した。
「えっ、ちょっと、どこに?。」
「慌てるな姫君。まだここに居る。」
アルクェイドは二人が居た場所を見る。
「嘘・・・あなた・・・透明化できる魔術が使えるの?。」
「私は<死神>だ。人に見られてはいけないは当たり前であろう。」
呆れたような声。
まあ、<真祖の姫君>が一人の男にここまで執着している時点で十分呆れていた。
一体、何をどうしたらここまで・・・。
「この者・・・志貴であったか?、殺したくなくば早く案内しろっ。」
「う、うん、わかった。」
ダッ、思い切り跳ぶアルクェイド。
「・・・はあ〜、人目を気にしないのか?。まだ9時前だというのに・・・。」
ダッ、そう言いながら華連は志貴を運んだ。
別に、屋敷の大きさに驚いてはいない。
冥界ならさらに大きな屋敷が幾らでもある。
それは、違和感。確か、姫君はこいつを治療出来る奴が居る場所に案内したはず。
なのに・・・。
「何故・・・ここは・・・<遠野家>ではないか・・・。」
華連は門の前に立ちながら呆然としていた。
「・・・いや、魔と退魔が組む事は・・・珍しい事では・・・無いな。」
そう思いながらも、まさかよりにもよってこれから行こうとしていた場所とは・・・運命か、宿命か。
「・・・まさかな、<ラプラスの悪魔>を・・・今更・・・な。」
タンッ、そう言いながら華連は跳んだ。
ガシャァァッッンン・・・、突如居間の窓ガラスが割れた。
私達は振り向く・・・暇が無かった。
「シエルッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
ガシッ、とシエル先輩の服の襟を掴むアルクェイドさん。
「ア、アルクェイド?。」
「志貴が・・・シキが・・・早く・・・。」
その言葉に、私達は言葉を失った。
「・・・はて?、姫君はどこに?。」
迷った・・・えーと・・・そうだ、光の有る方向へ・・・。
ガサッ、草むらが揺れる音。
「ムッ、誰だ。」
「ニャンッ。」
それは、ネコだった。
「落ち着きなさいアルクェイドッ、と、遠野君は、どこに?。」
一番最初に平常心を取り戻したシエル先輩が言った。
「そうです、兄さんは?。」
私は大声で言った。
「あっ、えーとえーと、ちょっと・・・あれ?。」
キョロキョロと、辺りを見回すアルクェイドさん。
「ちょっと、どこに行ったの?。」
声を上げながらアルクェイドさんは言った。
「何をしてるのですかアルクェイドッ?。」
ポンッ、そんな音の後、そこには少女が立っていた。
「・・・そうか、解っ。」
私は姿を現した。
(!、し、しきっ)
すぐに抱きついてきた。なるほど、中々忠実な<使い魔>だ。
「ここに、この者の肉体の治療が出来る者が居ると聞いて来たのだが?。」
志貴の<使い魔>はこう返して来た。
(居る、こっちに・・・)
「案内しろ、大丈夫、お前の主人は死なない。」
「えーと、だから、私はネロとの戦いでここに来るまでしか力が残ってなくて・・・。」
「そんな事はどうでも良いんですっ。兄さんはどこにいるのですか?。」
普段なら考えられないくらいの大声で言った。
「志貴・・・様・・・。」
ガクッ、とその場に倒れこむ翡翠。
「翡翠ちゃん。」
それを慰める琥珀。
「アルクェイド・・・貴女まさか、通りがかった誰かに運んでもらったのですか・・・。」「えーと、うんっ。」
バシンッ、シエル先輩の手がアルクェイドさんの頬を叩いた。
「えっ。」
シエル先輩は常に<黒鍵>を投げつけたり、何かしらの品を使っていた。
だが、今は素手で叩いた。
それは・・・本当に・・・。
「シ・・・エ・・・ル・・・?。」
泣いていた、先輩は・・・泣いていた。
「貴女は・・・遠野君が・・・<直死の魔眼>を・・・持っている事を・・・忘れたのですか?。」
<直死の魔眼>、その目に映る全てを殺せる最凶の魔眼。
「彼は・・・下手すれば世界中の組織が狙う物を、持ってるんですよ?、それなのに・・・会ったばかりの人なんかに・・・。」
その言葉にアルクェイドさんは座り込んだ。
「う・・・そ・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・随分な言い方だな。」
バッ、全員が声のする方、さっきアルクェイドさんが入ってきた窓を見た。
「あっ。」
「姫君、早く手当てを・・・。」
声の主は・・・まだ子供だった。
赤い髪に赤い着物。
まさに<赤>が印象だった。
そして、その腕に兄さんが。
「に、兄さんっ。」
「志貴様っ。」
「志貴さんっ。」
私達は兄さんの元へ向かった。
ヒュッ、だが、その少女は私達の上を軽々しく跳び越えた。
「・・・悪いな、治療を優先したい。姫君、誰が・・・。」
「シエルッ。」
「わかってます。」
兄さんをソファーに乗せると、先輩は訳のわからない治療を始めた。
おそらく、<教会>のやり方だろう。
敵対関係ではあるが、今はとてもありがたかった。
「・・・さて、お主。」
「えっ?。」
その少女は私に対しこう言った。
「何故異端者のお主がこの者を兄と呼んだ?。」
「なっ・・・。」
それは、私が兄さんと・・・いや、兄さんに<七夜>の血を知っている、という事だった。
「答えろ、もしこの者を操っているなら・・・。」
「違うっっっっ。」
私はまた大声で言った。
「兄さんは、兄さんは・・・。」
「やめていただけませんか。」
「何っ?。」
その声は琥珀だった。
「志貴さんを助けていただいたのは感謝します。でも、これは私達の問題です。貴女が口を挟むべきではないのでは?。」
「・・・。」
沈黙が場を支配した。
(しき・・・)
気づけば、<レン>が兄さんの目の前に居た。
「・・・確かに・・・私が入る問題では・・・無い。」
そう言うと、少女は兄さんの元へ向かった。
「どうだ?、<教会>の技術で何とかなりそうか?。」
「ええ、思ったより傷に害がありません。これならすぐに・・・。」
その言葉に、私はどっと疲れが出た。
「・・・そうか、ならば・・・良かったな<使い魔>。お前の主は無事だ。」
コクンッ、と頷くレン。
どうやらこの少女は兄さんをどうかしようという意思は無いようだった。
「兄さん。」
「志貴様。」
「志貴さん。」
「志貴。」
全員が兄さんの周りに集まった。
兄さんは、何か心地良さそうに眠っていた。
「ふむ、<使い魔>よ、主に何か<夢>でも見せるが良い。そうだな、心が洗われる平和な夢を・・・。」
コクン、と頷くレンだった。
さて、その頃。
「はあー、まさか<死神>まで居るとはね・・・。」
ビルの屋上から誰かが言った。
「不味いわね・・・早く組織を立て直さないといけないのに・・・。」
その声の主は女性。
何か焦っている様な感じだった。
「へえー、<死神>が居ると何か問題有るのかな〜〜〜。」
「!っ。」
女性の後ろには黒い服を着た長身の男が居た。
「あ、貴方・・・い、いつの間に・・・。」
かなり焦っている様だ。
それは、彼女の全てが言っているのだ。
「やれやれ、君の体は警戒信号出しまくってるようだね〜。う〜ん、こんな麗しき姫を怯えさせる何て・・・僕は何と罪深い。」
頭に被った黒いシルクハットの帽子を触りながら言った。
「ここ・・・何かあったでしょ?、何と無くわかる。誰かが死んだ。かなりの・・・<祖>が。君、知ってる?。」
「え、ええ。」
彼女はそう言いながら後の手で何かを書いた。
「この<シュラインビル>はついこの間<死徒27祖の13位、タタリ・ワラキヤの夜>が死んだ場所。知ってるでしょう?。」
彼女はとにかく指を動かした。
「へー、知らなかった〜。」
「えっ。」
本当に知らなそうにいう人物に彼女は戸惑った。
「そうか・・・<27祖>に欠番が出たのか。ねえ、他にこの街で何か変わった事は?、僕まだ目覚めて日が浅いんだ〜。」
笑みを浮かべながら聞いてくる。
「そ、そうなの。実はね・・・死ねっ。」
バッ、手を出す。そこから何かが這い出てきた。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッッッッッッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
それはグニョグニョしたゼリー状の物。
色は青く、光る目玉が二つ有り、ちゃんと手が生えている。
まあ、その手の数は十本は有った。
「へえー、こいつは<幻種>。人間に仕えるとは、レベルが落ちたな。」
ザンッ、いつの間にか手にした<長刀>でそれは真っ二つに斬られた。
「あらら、居ない・・・逃げたのね。」
グショグショ、二つの塊が動く。その二つは共の丸い球状になっていた。
「ははっ、再生出来なくて困ってるんだ〜。しかしね、<幻種>が人間に仕えるとは・・・うん?、何か言いたいの?。」
彼はしゃがんでその物体に触った。
「ふむふむ・・・う〜ん、でも・・・はいっ?・・・へえー・・・なるほどねえ。」
彼はまた笑みを浮かべた。
「やってくれるね、人間・・・しかし・・・まさか<祖>が三人もこの地で・・・ありがとう、いい情報を。う〜ん、そうだ〜。」
下でうごめいている物体に彼は手を当てた。
「組織を・・・ちょちょいの・・・ちょいっ、はい再生〜。」
グニャンッ、そんな音の後、再びそれは融合した。
「オーオー。」
「ははっ、良いって、でも<殺した>部分は再生できないから気をつけてね、バイバイ〜。」
そう言うとその<幻種>は姿を消した。
「う〜ん良いね〜、あいつも<堕ちる>かな?、まあ、僕には関係無いし〜、しかし・・・。」
彼は夜空を見上げながら言った。
「<狩人>、まさかそんな物が僕の居ない間にね・・・。ハハハッ、<アカシャの蛇>も死んじゃったみたいだし、しばらくこれで楽しむか。」
彼・・・<閻魔武忌>は笑いながら言った。
(59)
さて、何故俺が<遠野家>の戻れないのかと言うと・・・要は歩けないのである。
この家は<三咲町>の隣にある<南社木市>にある。
歩けば何とかなる距離ではあるが・・・、街を下手に歩くと不味いのだ。
「あっ。」
気がつけば、俺はトラックの荷台の乗っていた。
「・・・何で?。」
(ホドウキョウカラ、オチタンダ)
・・・ちょっと待て。
(何でこんな夜遅くに・・・)
(カンジタンダ)
(何を・・・)
(サッキノヤツヲ)
(・・・で?)
(・・・スマン、オマエガ、オキルノヲ、マツベキダッタ)
はあ〜、どうやら俺は自分の動きに統一性という物が欠けてるらしい。
トラックは大きめの何と言うか・・・そう、引越しの時に出てきそうなやつだ。
俺は長方体の上にそのまま乗っていた・・・っていうか掴んでないと危ない。
「くそっ、よく今まで落ちなかったな・・・。」
(ソリャア、オレガ、ガンバッタカラ・・・)
(・・・おいっ)
だったら早く起こして欲しかった。
とにかく不味い。
まず、この速さでは下りられそうにない。
超越種だろうがさすがにこの早さでは大怪我をする。
(シヌ、コトハナイ)
次に、信号に止まらない・・・って言うか信号が、少なくなっている。
おまけに、道路は空いていた。
「俺って・・・不幸?。」
(ヤット、キガツイタカ?)
誰のせいだよ。
とまあ、俺自身に言ってもしょうがないので、取り合えず止まるのを待つ。
ウォォォォォ・・・、トラックと風を切る音が混ざり合う。
まあ、生きてるという証拠だろう。
(しかし、俺が<血>に飲み込まれるとは・・・)
そう、俺が街を徘徊した理由がそれしか無い。
(イヤ、チガウ)
(他に何か有るか?)
(ソレハ、ワカラナイ、ダガ)
(何?)
(<アレ>ヲ、オレハシッテイル)
(・・・)
奴は・・・一体・・・誰だ。あえて・・・わかる事は・・・。
(俺に似ている)
(オレニニテイル)
ウゥゥゥ・・・、あっ、速度が遅くなった。
(よし、やっと・・・)
(イヤ、マテ)
そこは工場地帯だった。そして止まる。
(えっ?)
(ナニカ、オカシイ)
(何だ、ここ?)
(ケハイヲ、カンジル)
何か、不吉な予感がした。
カン、カン、カン、カン、鉄の階段を下りる様な音が聞こえる。
ガチャ、トラックの運転席側のドアが開く。
コツ、どうやら運転手が下りる音。こちらからは顔が見えない。
「・・・予定を20分も遅れたぞ。」
「すまない、どこに運べば良い?。」
何だか・・・メチャメチャ怪しい取引現場?。
(・・・まさか)
(テレビノヨウナ、テンカイニ、ナルワケガ・・・)
と思いながらも、今までの経験上、否定出来ないのが悲しい。
「あそこだ。」
「わかった。」
そう言うとまたドアが閉まる音。
(はっ、今の内に逃げないと・・・)
(ムリダ・・・)
下を見たとき・・・そこには水溜りが有った。
(やべ・・・気づかれる)
(・・・マズイナ、アマリ、ナガクトブト、ミラレルカノウセイガ・・・)
後から思えば、ここで全力疾走すれば逃げられたかもしれない。
何故なら、俺の<血>なら人並み以上の早さで逃げられる。
見られても、そんなに早く走れる人間が居る訳無い、と思われるはずだった。
ドウゥゥゥ・・・、向かった先は工場の中だった。
(おいおいおいおいっ、こんなベタな展開は勘弁してくれよ・・・)
(オイッ、マサカホントウニ・・・)
<遠野隆一>も半ば呆れていた。
キィィ、工場の中心で止まる。
製鉄工場と言えば良いのだろうか?、とにかく・・・テレビで出てきそうなドラム缶やら積荷やら、それを運ぶ機械やら・・・。
(<あ○ない刑事>で使われそうな所だな・・・)
(コレデ、ケンジュウヲ、モッタフタリガデレバ・・・)
ガチャ、再びドアが開く。
「おい、遅いぞ。」
それは後から聞こえてきた。
「すみません。」
「まったく、<山木組>はちゃんと荷物も運べないのか?。」
そこには数人の男達。
「まあ、良いじゃないか。早く取引をするぞ。」
ガチャガチャ、荷台の後のドアが開かれる。・・・まだ、気づかれてはいない。
(・・・どうしようかな?)
(アアアア、ナンカ、コンナテンカイヲ・・・)
神様・・・俺何か悪い事しました?。(オレハ、イタンシャ)
ガサゴソガソ・・・ドッドッ、何かを外に出す音。
うん?、それに混じって何か声が聞こえる。
「やれやれ。」
「うん?、何だ?。」
さっき、「すみません。」と「取引をするぞ。」と言った二人だ。
「いえね、この<南社木市>の<警察署長>さんが<薬>の売買を行ってるとはね・・・。」
・・・ちょっと、待て。
今何って言った。
「・・・まあ、それを言うな。世の中生きるには、それなりになあ?。」「はは、わかってますよ。」
(ふざけやがって、こいつ・・・)
(マア、ケイサツヲ、イマサラ、シンヨウスルキハナイガ・・・)
こんな三文小説にでてきそうな展開なんて忘れて俺は怒った。
(くっ、でも殴る訳には・・・)
(サテ、ドウスルカ・・・)
って言うか、今までよく気づかれなかったものである。
「おいっ、誰だそこに居るのは!。」
(あっ、ばれた)
(アッ、ダレカイル)
それは少しこのトラックより高い位置にある場所。どうやら見張りの様だ。
「なにっ?。」
「どこだ?。」
「そこです。」
ああ、結局こうなるのね。
ドォォォンッ
それは別の方から聞こえた。
「あーーーーーーーーー。」
男の一人が撃たれた・・・えっ?。
「逃がすなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
「くそっ。」
ダダダダダダダッ・・・、誰かが走る音。
(・・・良かった、人違いか)
(・・・ダイジョウブカ、アイツ?)
さて、当然こんな事が起きれば・・・。
「追えーーーーーーーーーー。」
「はいっ。」
と、こうなる。
(よし、人が居なくなった今なら・・・)
(デモ、コノママニゲテイイノカナ?)
スッ、下には三人。どうやらさっきの<署長>さんは居ないらしい。
「くそ・・・。」
「<サツ>か?。」
「わからねえ・・・とにかく積荷を移してくれ。」
・・・そして下りた。
「「「なっ。」」」
<視る>、そして<点>を殴る。
「ガッ。」
「ゴッ。」
まずは手前に居た二人。
「な、何だテメェーーーーーーーーーーーーーーー。」
着ているコートに手を入れた・・・が、遅い。
「あがっ。」
そして全員気絶した。
「ま、<点>を殴っただけだし死なないだろう。」
積荷が気になるが今は逃げるのが最優先。
タンッ、軽い足取りで跳んだ。
バンッ、ドンッ、本当に刑事ドラマみたいになってきた。
(・・・大丈夫かな、さっきの人・・・。)
(タシカニ・・・)
さっきの人がどういう人かは知らない。
もしかしたら似たような家業の人で、対立する組織を見張っていた何て事は十分考えられた。
(・・・でも、本当に警察の人だったら・・・)
(マア、オレタチガ、ハイッテイイセカイデハナイ)
結局俺は・・・音のする方に向かってしまった。
(あーあー、何て俺は馬鹿なんだ・・・)
(・・・キヅイテルナラ、ヤメロヨナ・・・)
何故だろう、別に俺は正義のヒーローに成りたい訳では無い。
う〜ん、人に聞かれたら・・・同情?良心の呵責?・・・ああ、それが一番良い表現だ。
とにかく、俺は馬鹿だった。
「居たぞーーーーーーーーーーー。」
「撃て撃てぇぇっ。」
バンッバンッ、そんな音が聞こえた。
(近い?)
(シカタナイ・・・ツキアオウ)
そこは工場の横に有る・・・車置き場・・・えっ?。
(ああ、スクラップ工場か・・・)
(ソンナコトハ、ドウデモイイ)
何処だ?、一体?。
ガシャアアッッッン、近くの車が倒れた。
「なっ。」
「あ・・・くっ。」
それは、血だらけの男の人。
「・・・君・・・何で・・・早く・・・逃げろ。」
・・・目でわかる。この人は敵じゃない。
ザッ、その人に近づく。
「しっかりしてください。」
「早く・・・逃げろ・・・。」
駄目だった。肺の辺りを中心に弾が当たっている。
それにこの血の量。
「・・・あっ。」
血を見て思わず言った。
「何を・・・している・・・早く。」
この人は・・・もう、知っていた。
「・・・あなた・・・警察の方ですか?。」
「・・・だとしたら?。」
・・・さあ。あえて言うなら、
「何か言い残す事は?。」
「・・・君は・・・怖く・・・。」
俺は、少し笑って見せた。
「俺・・・家族を殺された事が有ります。だから、有る程度は平気です。」
「・・・。」
俺みたいな殺人犯がこの人の最後を看取る事になるとは・・・。
「・・・私は・・・確かに・・・警官・・・だが・・・この、事件は・・・。」
「さっき、聞きました。<署長>って。」
伊達に本やテレビは見ていない。
・・・まあ、現実に体験するとは思わなかったが。
「・・・。」
その人はズボンに手をやって、何かを出した。
「頼む・・・ココの・・・警察は・・・・・・他に・・・。」
俺はそれを掴んだ。
「大丈夫です。これでもサスペンス物はよく見ます。」
「す・・・ま・・・な・・・。」
そして、その人は息絶えた。
「オイッ! 小僧、そこで何をしてる?。」
ああ、何てうるさい奴だ。
「うるさい。」
「あんだと?。」
「ああ、お前みたいなクズと話すのは不愉快だ。」
「テメェッ。」
そいつは持っていた銃をこちらに向けて・・・までだった。
「がっ。」
腹に向かって思いっきりのパンチ。
こいつ等は遅すぎる。
「おいっ、何が・・・。」
「うん?、お前そこで何をしている?。」
不味いな・・・ここは・・・逃げる。
名前さえ知らないあの人は、名前さえ知らない俺を信じてくれた。
だから、余計重要だ。
俺はあの人の願いに答えないといけない。
これは下らない正義の心かな?。
まあ、それならそれで良い。
これは俺が決めた事。誰にも指図される気は無い。
後少しで出られる、という所で男が一人立っていた。
「小僧、動くな。」
この声はさっきの<署長>。なるほど、先回りとは中々連携が取れている。
でも、止まる気は無い。
「!っ。」
バンッ、と撃つ音。しかし、<サイレンサー>無しでやるとは・・・。
正直失望した。
タンッ、俺は高く跳んだ。
「なっ・・・。」
下手に応戦して蜂の巣になる気は無い。
が、蹴りの一発でも喰らわしておく。
何と無く、そうしたかった。
「ギャァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
俺は走った。とにかく走った。
少し服が血で汚れたために目立つが・・・今は走る。
(どこに?)
(ドコヘ?)
(考えろ・・・)
(オレハ・・・ココノチリヲ・・・)
(あっ)
(タシカ・・・ソウ・・・コノサキニ)
それは、小学校3年生の時の記憶。
(学校)
(ジドウハンバイキ)
(本屋)
(ゲームセンター)
そして・・・。
(家)
(イエ)
「はあ、はあ、はあ。」
そこは、間違い無く存在した。
<槙久>様に記憶は消された。
だが、思い出した。ここは・・・。
「あはっ・・・随分遅くなったな、帰って来るの・・・。」
その時、丁度朝日が昇って来ていた。
俺は・・・何故か泣いていた。
と、言うのがここまでの道のりである。
はっきり言ってかなり省いて説明した。
言っておくが<工場>から<家>までそれなりに距離があった。
まあ、とにかく大変だった。
その後、俺は家に入ったは良いが・・・寝てしまった。
玄関を開けた途端・・・どっと疲れが出たのだ。
それでも、居間まで来て何とか寝た。
でも・・・まさか・・・。
「15時間も寝るとはな・・・。」
何故わかるか?、それはあの人に貰ったこのデジタルカメラである。
「最近はすごいね・・・こんなカメラが有るなんて・・・。」
確かこれは撮影をしてそれを保存し、後でパソコンを通してプリントする物のはず。
当然、時計機能も付いている。
しかし、起きたら日の光が無いのには驚いた。
「・・・寝すぎ・・・だよな。」
疲れが溜まっていたせいか、さっき言った<繋がり>のせいか、それとも・・・。
「やっと、帰って来れたこの家の魔力・・・かな?。」
まあとにかく、朝までは動かないでおこう。
弓塚も居る。それにこれを他の・・・いや、<遠野家>の持っていった方が良い。
「さて、取り合えず、待つか。」
そう、それしか出来ない。
まさか、俺が<反転>した事になっていたり、<武忌>が復活していたり、他の皆が<三咲町>に集まっているとは・・・今の俺にわかるはずもなかった。
(60)
彼にとっての誤算。
それは部下の動きに気づかなかった事。
<警察署長>と言った所で彼には我慢ならなかった。
彼は一流大学を卒業し、このままエリートとして出世していった。
だが彼はミスを犯した。
ある事件の犯人を取り逃がしたのだ。
この時から、彼の人生は狂った。
全てが・・・。
「す、すみません。」
震える声で彼は言った。
「・・・やれやれ、使えないな。」
そこは署長室。
まあ、彼が署長にはとても見えなかったが。
「こ、この埋め合わせは必ず・・・だから・・・。」
「組織の仕事を貴様に頼んだのは失敗だったかな?。」
彼は床に手をついた。
「お、お許しを・・・。」
もう一人の話相手は言った。
「組織を立て直さないといけないこの時期に・・・まあ、良い。そのガキは見つからないのか?。」
ピクッ、と彼は震えた。
「あ、あの・・・その。」
「・・・もう良い、それは我々で何とかしよう。<薬>はちゃんと手に入ったのだな?。」
「は、はい。抜かりなく。」
スッ、その男は立ち上がった。
「これ以上の失敗は許さない。・・・はあ〜、私が担当で良かったな。<姉様>なら殺されていたぞ。」
バタンッ
ドアが閉まる音。
コツ、コツ、コツ、コツ
ゆっくりと廊下を歩く音。
「・・・居るのか?。」
ダダッ、男の目の前に二つの影。
「奴の記憶からどんなガキか探ったのだろう?。早く見つけて殺せ。」
「「はっ。」」
ザッ、二つの影は立ち去った。
「しかし、やり難い。<結界>を張ればすぐに見つかるというのに・・・<隣町>にあんな奴らが居てはな・・・。」
男は暗闇へと姿を消した。
夜道を歩く。
・・・彼は考えていた。
「あいつが・・・隆一に似ていたのは・・・偶然?。いや、違う。そうなると・・・本物は?。」
彼・・・時矢でありネロはかなり悩んでいた。
「う〜ん、あいつが行きそうな場所・・・知らないな。」
そう言いながら時矢は歩く。
「・・・確かこの先は高校があったな。」
彼にとってはどうでもいい記憶だった。・・・記憶。
「記憶?・・・記憶・・・記憶・・・そうか、俺は前にこの近くに住んでいたな。」
それは思いだしたくない過去。
「・・・俺は、どう償ったら・・・うん?。」
彼は歩くのを止めた。
「そうか、確か<今宮家>・・・もしかして・・・。」
彼は外に出して探さしていたカラスの一羽に命令を出した。
「いや、まだ結論を出すのは早い。」
それに目的地は隣の町。
こんな夜にそこに行くとは思えなかった。
だが、これが実は正解だったのである。
静かだった。
車の通る音さえ無い。
静かな場所。
光は夜空の月と道路の街灯ぐらいの物だ。
それでも俺には十分だった。
俺は目が良いから。
そしてこの闇が怖くないから。
「・・・不思議だな。闇夜を怖がらないなんて。」
人は闇を恐れ光を灯した。
いや、そこに巣くう異形の者にこそ恐れたのかもしれない。
だが、人が作る光ではそれらは倒せない。
我々は常に生きてきた。
「俺も・・・その一つ・・・か。」
「うっ。」
目の前で寝ていた弓塚が声をあげた。
「おい。」
俺は弓塚の顔を見た。
「ううううう・・・。」
徐々に目が開いていく。
「・・・。」
「・・・。」
目が合った。
「おい、大丈・・・。」
「ガーーーーーーーーーーーーーーー。」
ブンッ、突如腕が振られた。
「くっ。」
何とか避ける。
「ウーー、ウーーウーー、殺す、コロス・・・コロスコロスコロスコロスコロスッッッッッッーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
バサッ、黒い翼が広がり跳びかかって来る弓塚。
「よ、よせっっっ。」
ブンッ、弓塚の右腕が俺の目の前を通る。
が、何とか避ける。
その勢いで弓塚は壁にぶつかった。
ガシャ、だが、すぐに立ち上がる。
「生きる生きるいきるいきるイキルイキルッッッッッッ・・・。」
その目を見た。
「ゆ、み、づ、か・・・。」
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
それは恐怖していた。
ああ、何だ。この子はただ怖がってるだけだ。
目の前に有る全てが信られずにただ闇雲に、だけど生き抜こうとする、そんな目。
(何だ、可愛いじゃん)
(マルデ、コドモダナ。アア、マダコドモダッタナ、オレタチ)
今度は左腕。
直進して来る腕を避ける。
まあ、あまり避けてもいないかな。
気がつけば、俺は弓塚の真正面に立っていた。
距離は10cmも無かった。
「!っ。」
当然、勢いに乗った弓塚の体がぶつかる。
でも、もう遅い。
俺はそれを抱きしめた。
「!!!!!!!!!!!!?????????????っっっっっっっっっ。」
訳がわからず戸惑う弓塚。
まあ、こうでもしないと止まりそうにないからな・・・。
「アーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
ギュシュ、グシュ
弓塚の両腕が俺の背中を引っ掻く。
「ツッゥゥ。」
それでも強く抱きしめる。
ギシュ、グシュ、ズッ、グッ、ガッ・・・ギッ・・・・・・グザッ・・・・・・・・・・・・ズッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・スッ
散々暴れたが、時間が経つにつれて無くなった。
ピチャ、ピチャ
ああ背中の傷から血が流れてる。
ピチャ
ピチャピチャ
ピチャピチャピチャ
・・・あれ?、何かおかしい?。
「う、ううっ。」
俺の血の流れる音以外に何かが流れ落ちる音。
「あ、あう、ああああっ。」
それは液体が流れる音と共に聞こえてきた。
「うあ、グスッ、あ、あ、あうううっ。」「・・・。」
弓塚が泣いていた。
それは、始めて、見せてくれた・・・。
素顔だったかもしれなかった
「はて?、どうしたんです<姉様>?。」
「・・・あ、貴方・・・、何してるのよ。」
そこは広い部屋。
「いえ、それなりに仕事を・・・姉様?、何か困ったことでも?。」
彼女は立ち上がった。
「ええ、どうやらさらに不味い奴が現れたわ・・・。」
「・・・そうですか。まあ我ら<狩人>には敵が多いですからね。」
彼はクルリと背を向けた。
「まあ、何とかなりますよ。<薬>も揃いましたし。」
「・・・<薬>は完成したの?。」
彼女は焦りながら聞いた。
「いえいえ、まだ材料が揃っただけです。」
「は、早くしなさい。我々には時間が・・・。」
彼はもう一度彼女の方に向いた。
「いけませんね、焦っては事を仕損じます。ご心配なさらずに。<姫君>と<直死の魔眼>が揃えば我ら<狩人>の理想郷は完成したも同然。ふふ、見ていてください。必ずやこの世界を我らの理想郷にしてみせますよ。」
彼は部屋から出て行った。
「おのれ・・・。」
彼女は嘆いた。
「おのれ・・・<姫君>と<直死の魔眼>を手に入れるが私達の命令だったのに。こんな極東に居た我らが希望とは・・・。」
そうして夜は更けていく。