(21)
タッタッタッ。二つの歩く足音がゆっくり近づいて来る。
俺は無理して起き上がった。
見えた。そこにいたのはさっき逃げた二人。
・・・何か変だ。
「いやー、見事な戦いだった。先ほどはすまなかった。心から謝るよ」
日神という奴が頭を下げた。
・・・まあ当然といえば当然だ。
「ごめんなさい。私も謝ります」
隣にいた千鶴のほうも頭を下げた。
・・・確かにさっきのあれは酷い。
「・・・確かに死ぬとこだったけど・・・何か・・・態度が変わりすぎてません?」
二人とも頭を上げた。日神が言う。
「ふむ、まあ我々も今回はその、非があると判断したんですよ」
「はい。これは心から反省してるんです」
・・・ふ〜む・・・なるほど。
「ところで、お二人は誰でどんな人なんですか?。この<鳳来山>への登山者じゃないですよね?」
すると、二人は顔を難しそうにした。
千鶴が言う。
「私の名前は千鶴、こっちは日神、私たちは先ほどの・・・化け物を退治しに来た<協会>の者です」
なるほど、なるほど、・・・で、
「<協会>って何?」
「はい、本当は<魔術協会>と言って魔術などの研究や保護、管理をするところであり、退魔の仕事をする所です」
なるほど、そう言う組織ならわかりやすい。
・・・と言う事は。
「じゃあ、仕事を取っちゃったんだ。ゴメン」
あまり動きたくないので軽く頭を下げて戻す。
「いえ、そんな事はありません。こちらの手間も省きましたし」
慌てている。
「そう言ってくれるとうれしいよ。あ、じゃあさ」
「はい?」「実は道がわからないんだ、教えてくれない?」
二人揃って驚いた顔をした。
・・・何か・・・恥ずかしい。
「はい、案内します」
「うむ、それぐらいはしよう」
「じゃあお願いします」
話がまとまった。
では・・・。
「いっつーーー・・・」
胸を押さえる。
「あ、大丈夫ですか」
千鶴が目の前に来た。
「ああ・・・大丈夫。だから・・・」
目の前にいた彼女の・・・
首に小太刀を刺した。
「かはっ」
それが彼女の最後の言葉。
彼女は倒れた。
「千・・・鶴?。・・・・・・・・き、君いいいいい一体ーーーーーーーーーー」
奴を見る。
「日神は、不意打ちをしてくる。なんでここに来るとき何もしなかったのか?。異端というだけで殺そうとする奴が?。なんでゆっくり歩いてきた?。ここは<鳳凰山>だ。何でさっきまで<日神さん>と呼んでいたのに呼び捨てだ?。何で<協会>という組織を何も知らない俺にあっさり教える?」
意見を言う度に奴が慌ててきた。
「そ、それは・・・」
「それに、もし<本物なら>こんな事すれば口より手が動くはずだ。・・・もうやめようぜ」
それが・・・決定打だった。
スッ、そんな音がして目の前から消えた。
日神も千鶴も。
変わりに周りが霧で囲まれていた。
・・・そして段々晴れてきた。
そこは倒した後疲れて休んでいた所だった。
・・・まあ幻覚の時もほとんど動いていなかったが。
トンッ、誰かが地面に降りた。
距離は前方10mぐらいの所。
・・・どうやらこいつが本当の敵らしい。
「やっぱり、付け焼き刃の知識じゃ無理があったね〜」
男の声だが、子供っぽい・・・じゃなくて背格好は本当に子供だった。
背は130ぐらいしかない
黒いコートを着ている。
髪は青で少しながい。
・・・そういえば武忌も黒服だったな。
「でも、よく解いたよ。不完全な幻覚だったとはいえ、<違和感がないように感じる幻覚>が僕の固有結界なんだよ。やっぱりすごいよ」
別に褒められてもうれしくはない。
「二人は?」
見捨てられたとはいえ気になる。
「ああ、二人にもそれぞれ同じ事をしてるよ」
だと思った。おそらく最初のチャクラムを避けた辺りから始まっていたのだろう。
「あの女は?」
「ああ、ただの遊び道具」
やっぱり・・・
「どいう事だ?」
「ここに閉じ込めてね、色々苦しませたんだ。時々姿を現して、僕を憎むようにさせたり、狂わせて遊んだただの馬鹿さ」
こいつは・・・
「あれは<邪鬼>か?」
「うん、<兵鬼>から<邪鬼>になった奴だよ」
本当に・・・
「<兵鬼>が<邪鬼>に?」
「知らないんだ。<兵鬼>は魂を抜かれた空っぽだから、<親>が死んだりして支配がなくなると、その中に負の力が入って<邪鬼>になるんだよ」
腹が立つやろうだ。
(22)
不味い、そう思った時、私は彼を見捨てて・・・いや忘れて跳んだ。
とにかく必死だった。
離れなければ、そう思い無我夢中だった。
今回の標的はかなり狡猾で策略家と聞いている。
実力は<14帝>クラスと言われているが所属はしていない。
そのため、攻撃に対し応戦するには十分な警戒が必要なのだ。
さっきのタイミングは正に最悪と言える。
以上の事から日神さんと離脱を選択した。
と、言っても瞬時の行動だったので、はぐれてしまったが。
そして気が付いた。
彼を見捨てた事を。
私の影縛りで逃げられなかっただろう。
私は、私は、私は・・・
「自分を責めるな、千鶴」
「ええ、お父さんの言うとおりですよ」
振り向いた。
そこには・・・
「千鶴、大きくなったな」
「私達はずっとあなたを見ていましたよ」
死んだはずの・・・
シャキッ、武器を出す。
「騙されない。・・・幻覚は私には通じない」
二人のいる地面に投げた。
私の武器、一見それは先の尖った棒にしか見えない。
例えるなら<鉛筆>と言って良い。
長さは30cm程しかない。
だが、これは<銀>でできている。
そして一本ずつにそれぞれ術を掛けてある。
使い方は指で挟み投げると簡単な物。
そして今投げた八本には爆発の術が掛けてある。
それほど強くは無いが生身なら上半身は覚悟した方がいい。
ドドドンッ、そんな音と一緒に跳んだ。
これは標的が得意とする幻覚の固有結界<混夢乱世>。
結界内にいれば対象の触れたくない過去を具現化させる厄介な結界だ。
正し、これは術者が<相手の位置>を正確に把握しなければいけないという条件がある。
そのため私達は結界内に入っても位置がばれないよう、気配を消していた。
これにより、向こうには<侵入者>という情報は伝わるが他の事は伝わらない。
ようするに私に発動したという事は位置がばれた、という事になる。
・・・まあいずれはこうなっただろうが。
木の枝の上に乗る。
とにかく、こちらは向こうの位置がわからない。
何とかして標的の位置を・・・
「よし、この子の名前は千鶴にしよう」
「あら、あなたにしては良い名前ね」
下からだった。
・・・投げる、位置を変える。
跳ぶ、跳ぶ、タッ、地面に足を着く、走る。
目の前に・・・
「見てあなた、千鶴が立ちましたよ」
「おお、千鶴、わたしのかわいい娘よ〜、すばらしい」
「まったく、親バカなんだから」
投げる、右に方向転換して走る、跳ぶ、走る・・・
「また、仕事なの?」
「しかたあるまい、それが我ら・・・」
投げる、爆発音、走る、
「早く、早く行けーーーーーーーーーーーーーーー」
「駄目、あなたーーーーーーーーーーーー」
「お父さん。」
それは、小さい頃の私・・・投げる、跳ぶ、
「千鶴、ここにいるのよ。ちょっとお父さんを見てくるね」
「お母さん」
駄目、だめ、ダメ・・・
「すぐ帰ってくるからね」
「行かないで「お母さんーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」」
私はその場に座りこんだ。
「うん?」
今悲鳴が聞こえたような気がする。
・・・気のせいかな?。
「それにしても」
奴が言う。
スッ
「えっ」
消えた。
奴は・・・
「そ〜れ〜見〜せ〜て〜」
後ろ。振り向いて小太刀を・・・バシッ。
「がっ」
上から頭への直接攻撃。
倒れた。
武器をとられる。
「う〜ん。ずいぶん形の変わった短刀だな〜。でもそれだけだ」
上、どうやら木の上にいるようだ。
ボキッ、なんて音がしたが・・・無視して起き上がる。
上を見る。
高さ10mほど離れた木の上で奴は俺の小太刀を観察している。
「この悪ガキーーー、返せよ」
あまり喋りたくないが、大声で言った。
「悪ガキ・・・失礼な。僕には<無者>ていう立派な名前があるぞ。しかも君よりは年上だ」
どうやら背の小ささを気にしているようだ。
だが、今はそんな事はどうでもいい。
「とにかく、俺の小太刀返せ」
奴・・・無者を睨む。
「へん、こんな物・・・って、小太刀?。これが?。フッハハハッ」
いきなり笑いだした。
「な、何がおかしい」
「ねえ、君本当にそう思っているの?」
すごく、馬鹿にしているようだ。
「いいかい?。<小太刀>っていうのは大体ニ尺以下・・・つまり約60,6cm以下の事を言うんだ。確かにこれは小さいけどこれは一尺・・・約30,3cmもない。これはざっと・・・約25cmぐらいだ。こんな物は<小太刀>なんて呼ばれない。そうだな・・・<短刀>といった方が良い。でも、これはずいぶん適当だな」
し、知らなかった。
てっきりこれが小太刀だと思っていた。
「ふ〜ん。これは・・・<太刀>じゃなくて、<打刀(うちがたな)>の折れた奴をそのまま<柄>を付けた奴だ。・・・めちゃくちゃだなあ、ふ〜ん斬り味はなかなか・・・なるほど、折れたからリサイクルした訳か。君、全然知らなかったんだ?」
馬鹿にされたが、今まで気かなかった自分に非がある。
「そんな適当奴だったのか」
「そうだよ。っていうか知らなすぎ。まあいい。ところで・・・」
サッ。俺の小太・・・短刀で木を斬った。もちろん木が切り倒される事はないが。
「いいねえーーー。で、これどこで手に入れたんだ?」
どうやら・・・
「どこでもいいだろう?」
返す気は・・・
「そう?。まあいいか・・・」
ないようだ。
暗い森、一人の男が立っている。
「馬鹿な」
震えた声で・・・
「何故、あいつが・・・」
嘆いた。
「・・・行かねばなるまい」
そして、彼は漆黒の森へと入っていく。
(23)
「何だと・・・馬鹿な・・・混沌が・・・」
彼はある方向に目を移した。
そして・・・その隙を隆一がのがすはずはない。
足に力を、体に負担をかけないように、正確に、そして大胆に、走る、跳ぶ。
タン、ダッ、ダッ、そして、視る。が・・・。
「なっ、このっ」
フィッ。無者が短刀を投げる。
パシッ、両手で挟んで取る。
その隙に無者は飛んで姿を消す。
ヒュッ、スィ、トンッ
体操選手並の宙返りで地面に足を着けた。どうやら無事・・・。
「ゴフッ」
血を吐いた。
どうやら本当に不味くなってきた。
早く病院に行かないといけない。
いや・・・もう手遅れかもしれない。
さっきから動く度に骨が何かに刺さっていく。
それに、こんな所に病院がある訳がない。
地面に座る。
「華連の時は何とかなったんだけどな」
あれは運が良いとしか言いようがない。
たしかに、さっき会った二人もいわゆる裏社会の人間だが漫画のような世界でもない限り治す事はできないだろう。
仮に治せたとしても、二人に治す気がなければいけない。
その前に会わないといけない。
この暗い・・・いや暗黒の森から探し出すなんて事が可能だろうか。
「・・・そう言えば・・・さっき・・・声が聞こえたな」
漫画などなら居る、と相場は決まっているが現実では・・・・・・・・・・・・・・行く。
立ち上がる。
方向は・・・。
「えっと、確か・・・こっちだな」
確信は持てないが、行くとしよう。
まあ、死んだらそれまで、運が悪いと諦めよう。
会う前に内出血死ぬかもしれないが、なんて一人でツッコミながら歩き出した。
ガシャ、ダンッ、ダンッ
木の上を跳びながら行く。彼は焦っていた。
「くそ、もうばれたのか。ここなら見つからないと思ったのに」
彼は追われていた。
元々この世界はいつ殺されるかわからないのだ。
そのため、常に何らかの対抗策を講じる必要がある。
それでも、自分に誰が有害で誰が無害かは自然とわかってくるものだ。
そう、今回の敵は何の音沙汰もなく現れた。
いや・・・奴がこちらを殺そうとするのは予測がついた。
だが、<奴>がこちらを襲うのは予想外なのだ。
元々恨まれるのには慣れていた。
いや、それ以上に快楽さえ感じていた。
しかし、それは向こうが弱者だった時だった。
もし、向こうが・・・。
「くっ、どうする。こちらは奴に対しての情報が少なすぎる。そもそも、手持ちで殺・・・いや、滅ぼせるか?。くそっ、<兵鬼>を全部差し向けても・・・待てよ」
止まる。彼は策略家だ。常に周りを見て行動をする。
「あるじゃないか情報源。そうだ、奴らを使おう。もう操れるはずだ。頭数はある。ついでに、さっきのうるさい奴も利用だ」
彼の顔に笑みが浮かぶ。
「しかし・・・何で奴は過去が具現化されない?。過去を恐れていない奴なんているのか?。・・そうか体験していないのかもな。そうでなければ・・・まあいい、今度こそ僕は勝つ」
彼は別方向へ向かう。
が、止まった。
「・・・あいつ、何で・・・不味い、そいつは洗脳があまい、ぐっ、一人でも解けたら、くっ、間に合うか?。」
彼は自分の結界内で一度でも認識した存在を見失う事はない。
だからこそ、彼は急いだ。
自分だけでは<奴>に勝てない事を知っているから
歩く。
向こうは気づいていないがすでに監視を付けている。
だから、他へ行く。
もちろん逃がす気はない。
単にこちらを優先するべき、と判断したからだ。
奴は確かに頭が切れる。
だが、勘違いをしている。
固有結界だ。
<死徒27祖>はほとんどが固有結界を持っている。
だが、それが決して<絶対領域>でない事も認識している。
だが、奴はそれを認識しきれていない。
自分のように術が掛かりにくい者は認識しているが、結界内ならこちらが有利だと思っている。
確かにそうだ。
だが全てに有利という訳ではない。
これこそ奴の傲慢さからの弱点だ。
もっとも、私もそうであったが。
だが、俺は違う。
そして・・・。
「今度こそ、逃がさん」
誰に言う訳でもなく言った。
「はあ、はあ、ゴフッ」
また、吐いた。袖で口を拭く。
息がどんどん荒くなっていく。
辺りは霧が出て来た。
これが奴の幻覚の効果なのか、それとも本当の霧なのか、できれば前者のほうが良い。
無者は二人にも同じ事をしたと言った。
あの幻覚が終わった時も霧がでていた。
だから、霧があれば・・・。
「近い・・・かな?」
ようは自分は命乞いに行くのだ。
まったく情けない。
だからまだ居候・・・気配?。
「は、はははははははっはははははっはははははっはヒヒヒヒヒヒヒヒヒッヒっかっかきっきヒィッィッ」
男の声・・・日神・・・だな。
霧で姿は見えないが、自分から見て右にいるようだ。
どうやら・・・負けたという事か。これでは千鶴も
「いーーーーーーーーーーーーーーーーやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
大きな声だ。・・・まだ戦っているようだ。
方角は・・・直進方向。
ダッ、走る。
もう動いてはいけないだろうが、無視した。何というか・・・女がピンチの時俺はカッコ良く決めるタイプらしい。
走る、走る、走る・・・・・・・・・・・・・・・いた。
そこは霧の中でも最も濃い。
そこで蹲り、震える彼女。声がする。振り向く。
「お、か、あ、さ、ん、、、お、と、お、さ、ん、、、」
そこに広がる景色は・・・無残な死体を揺すり続ける小さな女の子。
その後ろで・・・
「これで、<神無月>は終わりだな」
顔を歪め笑う黒い、黒い、黒黒黒のののの・・・、あいつは・・・。
「ぶ・・・武、忌?」
それが・・・彼女の・・・過去。
全てわかった。彼女は、千鶴も・・・。
「武忌ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
俺は怒鳴りながら奴を斬った。
気が付くと消えた。
どうやら、幻覚に俺が割り込んだ事で消えたようだ。
しかし、こんな所で。
彼女も武忌の・・・。
おそらく千鶴を生かしたのも、華連と同じ理由だろう。
もし、もし千鶴が<協会>とやらに入ったのが、彼女の生きる理由が復讐だったとしたら、俺はどうしたらいいんだろうか。
「ハハハッ、どうやら奴と俺は・・・」
徹底的に争う仲のようだ。
まあ、向こうは死んでいるから、今更殺す事はできない。
・・・て、うんな事考えている時じゃない。
「おい、しっかりしろ」
蹲る千鶴の元へ行く。
「あああああ、お、か、あ・・ん・お、と、お、さ・・・・・行、、、か」
こいう時は・・・殴る・・・じゃなくて叩く。
バチンッ。千鶴の頭を引っ叩く。
「ああ行かな・・・。」
バチンッ、バチンッ・・・かなり罪の意識が有ったが、叩いた。
と、千鶴がいきなり立ち上がった。でも、目が・・・。
「はは、はひはいああああはははははははははっは」
何所かへ行こうとする。
・・・よし、やるか。
千鶴をこちらに引き寄せ、パンッ、・・・思いっきり頬を左手で叩いた。
・・・ふらついている。
短刀をズボンに挟む。
バチンッ・・・今度は両手で千鶴の顔を挟んだ。
「おいっ。戻って来い」
顔は女優の命、というがこいつは違う。
まあ、かな〜り罪悪感がある。
「・・・・・・・・・あっ」
どうやら正気に戻ったようだ。
顔から手を外す。・・・沈黙。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
で、気が付いた。
お互いかなり近くに顔がある。
で、一歩下がる。
・・・不味い。
今までで一番不味い。
「その・・・大丈夫?」
顔を逸らす。
「え、は、はい・・・その大丈夫です。ちょっと顔が痛いですけど」
と言うと彼女は顔を抑えた。
「その、ごめん」
素直に頭を下げ・・・。
「いえ、助け・・・あの?」
「ゴボフッ」
血を吐く。
倒れた。
どうやら・・・今度は、マジで・・・。
「あっ、しっかりしてください」
俺を揺する彼女。
「ははは、立場が、逆・・・」
「喋らないで・・・あっ」
その時、彼女・・・千鶴の顔からわかった。
もう、
どうしようもない事に・・・。
(24)
ふと気が付いた。
夜空には唯一の光が・・・月が輝いている。
今日は満月、夜の住人には最高の日。
そう、まるで生きているかのように活動する真昼の太陽。
そう、まるで死んでいるかのように静止した深夜の満月。
今、大地を照らすのは、死の月光。
スッ、サッ、トゥッ、彼女・・・千鶴が指を振りながら何か俺の体にしている。
多分手当てだろう。
だが、顔を見ればわかる。
もうどうしようも無い事が・・・。
「・・・もういいよ、大分良くなった」
上半身を起き上がらせる。
が、すぐに押し戻された。
「無理しないでください。お願いですから・・・」
その顔は泣いていた。
どうやら、余程悪いらしい。
・・・あっ、そうか・・・。
「そう?。じゃあじっとしてるよ」
そう言って、笑ってみせる。
こうなったのは彼女が俺を動けなくしたから、と思っているのだろう。
だが、実際は俺が動き回ったからだ。
(オイ)
運が悪かっただけ。
(ハ〜、オマエハ、ホントウノバカダ)
(まあいいじゃないか、どうせ人間はいつか死ぬんだから)
(ダカラッテナ、アマスギルゾ)
どうやらかなり反感を持ってるようだ。
(トウゼンダ)
まっ、こいつとは同じ存在のはずなのに考えがあった例がほとんどないが。
(アタリマエダ、オマエノカンガエハ、オカシイ)
(でもさ)
(・・・ナンダ?)
(あの事は言った方がいいよな)
(・・・アア)
久しぶりに意見があった。
「あのさ」
「あ、あんまり喋らないでください」
「・・・君の幻覚・・・いや、過去を見たんだけど」
彼女は悲しそうな顔をより一層強めた。
「あいつ、君の両親を殺した奴の話なんだけど」
彼女は驚いた顔をした後、
「彼はもういません」
「えっ」
驚いた。彼女は・・・。
「もう、3年も前に死んだと聞いています」
知っていたのか。
「じゃあ何で<協会>に入ったままなんだ?」
<協会>と聞いて彼女は驚いて聞いた。
「何故<協会>を・・・まさか」
「いや、俺はそっちの世界の住人じゃない。俺の方の幻覚で君とパートナー使われたんだ。その時説明された」
だが、それでも彼女は納得していないようだ。
「変ですね、この力は基本的に標的の過去を利用するのですが」
「だろうね」
そう、俺の場合だけ違うようだ。
「まあ、俺の場合、後悔している過去がないからだろうな」
そう言って笑ってみせた。
嘘だ。
俺は・・・守れなかった。
「でさ、あいつがどうやって死んだか知ってるの?」
今度はこちらが聞く。
「いえ、ただ、その、えーと、他の人にとしか・・・」
なるほど、どうやら<死神>の事言えないでいるのかもしれない。
「武忌がどうして死んだか知りたい?」
彼女はまた驚いている。
「どうして」
「何で名前を知ってるかって?。簡単だ、その場に俺も居たんだ」
そう、なんたる巡り合わせ。
これこそ運命と言うのだろう。
「別に聞きたくないなら話さない。ま、俺ももうすぐお迎えが来そうだから話そうと思っただけだし。聞くか聞かないかは自分で決めてくれ」
そう言って彼女の言葉を待つ。
・・・沈黙。
そして・・・。
「私が」
「えっ」
「私がまだ<協会>に身を置いているのは強くなるためなんです」
その声はとてもしっかりしていた。
「もう、あんな悲しみを増やしたくないから、人を餌としか思っていない彼らを、私は許さない」
一見弱そうに見えるが、いや本当は弱いのかもしれないが、彼女の目は決して曇ってはいなかった。
「教えてください。知りたいんです。あいつが本当に死んだのかを」
さて、長い話になるが、どこから話すか・・・。
一応、奴と会った辺りから、かなり掻い摘んで話した。
途中、俺の能力についても話す事になったが。
「<直死の魔眼>ではないんですね?」
「ああ、俺は多分命って奴を視てるんだ」
まあ、どうして視えるようになったかは、言わなかった。
俺自身よくわからないが。
そうしてどのくらい時間が経っただろう。
話が終わった。
再び起こる沈黙。
そして、先に破ったのは俺だった。
「俺の名前」
「えっ」
「まだ、言ってなかったね。今宮隆一。これが俺の名前だ」
そして彼女も言う。
「私の名前は、神無月千鶴。変ですね、お互いの過去は話したのに名前すら名乗ってなかったなんて。隆一君」
始めて彼女・・・千鶴は笑った。
「ハハハッ。そう言えばそうだな。千鶴さ〜ん」
「いえ、呼び捨てで構いません」
「そう?。じゃ、俺も呼び捨てで良いよ」
「いえ、それは・・・」
何か言いにくそうだ。
「ハハハッ、いいじゃないですか〜、どう呼ぼうが」
今日始めて俺は心から笑えた
さて、いよいよ、駄目なようだ。
「ごふっ」
また、吐いた。
「りゅ、隆一君」
どうやらここで、さよならのようだ。
「ハハッ、美人に看取られるのも悪くないな〜」
最後の空元気だ。
「そんな事は、そんな事・・・」
ない、と言えないのだろう。はあ〜、女の子泣かせるなんてな〜。
(ツミビト、ダナ)
「ごめんなさい、私に肉体の内部を修復できる力があれば・・・」
別に千鶴のせいではない。俺がもう少しちゃんとしていれば良かったのだ。
(ソウダ)
(・・・何か腹立つ言い方だな)
(アアソウダ、オマエハオオバカダ)
(し、失礼な)
(バカダ、バカダ、オオバカダ、オマエハホントウノ、バカダ)
(あのな俺はお前って言ったのはお前だぞ)
(アアソウダ、デモ、オマエハバカダ)
・・・だんだん腹が立ってきた。
(フン、オマエハナニモワカッテイナイ)
(何だと、お前それ以上言うと・・・)
(コノアイダ、ミタイニ<ヒテイ>カ?)
(・・・何が言いたい)
(オマエ、ナンデソイツヲタスケタ?)
何故?。
それは・・・。
(ジブンガ、タスカリタイカラ?。・・・チガウダロウ)
俺は・・・。
(アノトキ、オマエハカノジョニ、ココロカラ、イキテホシイ、トオモッタダロウ?)
確かに俺は・・・いや、助けに来たんじゃなくて自分が・・・。
(ソレハ、ドウジョウカ)
そうだ、俺は彼女に、千鶴に同情していたのだろう。
・・・違う。それは何かが違う。
(ルイハ、トモヲヨブ。ドウジョウモアッタ、イキタイトモオモッタ、ダガソレダケカ?。イヤチガウ)
俺は・・・。
(フツウハコレガ<アイジョウ>ダトイウダロウガ、ソレハチガウ)
どうやら、俺は・・・。
(タダ、コワレテホシクナイカラ)
まだ・・・。
(タダ、ジブントオナジニナッテホシクナイカラ)
生きようという気持ちが強いらしい。
(ナンダカンダイッテモナ)
諦めがワルインダ。俺ハ・・・
何とか起き上がった。
俺同士の会話は実際は数秒も経ってはいないだろう。
「隆一、君」
「ああ、大丈夫、あいにく往生際はかなり悪いんだ」
起き上がる。
千鶴が止めようとしたが断った。
「まだいける。だから、大丈夫」
そして・・・闇へ語りかける。
「出て来い」
スッ
そこには奴・・・無者がいた。
「まさか、まだ生きてるとは・・・」
何故か知らないが、向こうは焦っているようだ。
・・・まあどうでもいいが。
「無者、あなたを・・・」
千鶴が戦おうとしたが止める。
「まだだ」
「えっ」
「・・・どうやら敵は他にもいる」
千鶴も気づいたようだ。
周りが囲まれている事に。
「へー、結界を利用してうまく隠したんだけど」
さて・・・どうするか。
(25)
「何だと・・・」
彼はこれでもそれなりの修羅場をくぐってきた。
そんな彼でさえ絶望を感じていた。
<混沌>、この世界にいれば自然と<奴>の話は聞く。
だが、正確に把握できる訳ではない。
もっともする必要が無かった。
そもそも活動拠点が違う。
目的があっても<混沌>は自分に来るはずは無かった。
だが、<奴>はこちらを標的に定めた。
だから今すぐに情報が必要なのだ。
そう思い<協会>の犬、日神という奴から情報を聞き出した。
そこから得た情報。
1、<混沌>の狙いは<真祖の姫君 アルクェイド・ブリュンスタッド>
2、<混沌>は666の獣の因子からなる
3、<混沌>は<教会>より抹殺不可能の指定をうけている
4、<混沌>は<真祖の姫君>に滅ぼされた(<教会>の第7位、弓の確認有り)
以上が<混沌>の大まかな情報だ。
では、<奴>は<混沌>では無いというのか。
いや、そんなはずは無い。
あれは間違い無く<死徒27祖>の実力のある<混沌>だ。
なら考えられるのは一つ、姫君が打ち損じた、という事だ。
あの地上最強の生物兵器が、だ。
「・・・勝てる訳が無い」
絶望、と言う言葉を始めて味わった。
そう、あの時この場を早々に立ち去れば良かったのだ。
倒せると思い込みこの場に戻って来たのが間違いだ。
今更逃げるには遅すぎる。
<混沌>程の<奴>が策を講じていないはずはない。
兵力をどれ程集めても勝てる訳が無い。
そもそも滅ぼせるかどうか。
<混沌>を倒すには一撃で全ての<因子>を破壊せねばいけない。
そう・・・そんな力が・・・。
「・・・・・・・・・・・待てよ。」
さっきの、あのうるさい奴、僕の玩具を刺しただけで殺した。
奴が持っていた短刀のは何の細工も無かった。
・・・となれば奴自身に何かあるはずだ。
そもそも、僕は日神ではなくもう一人の千鶴という奴の元へ向かっていた。
しかし、二人の接触が早かったため情報入手を先にした。
もし奴に<混沌>を滅ぼせる可能性があるなら利用するしかない。
「どこだ・・・よし、あそこだな」
まだ死ぬ気はない。
僕はもっと遊びたいから・・・。
奴らの周りには<兵鬼>を見張らせていた。
だから、奴らの話を聞く事ができた。
そして、また驚いた。
奴が<武忌>の一件に関わっていた事に。
そして奴の能力。
これなら・・・。
さらにいい事に奴は死に掛けていた。
ほしいのは奴の肉体なのだ。
死んだら<兵鬼>にすればいい。
・・・まだ。
・・・まだ。
・・・まだ死なない。
僕が来た時、やっと奴は死にそうになった。
早く、早く、だが・・・奴は起き上がった。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
計画変更。
標的の名前は、隆一。
頭部以外の攻撃は構わない。
さあ、早く・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
死ね
(26)
ザッザッザッ、無数の足音。
周りは完全に囲まれているらしい。
<らしい>というのは集団の姿が不自然な霧で見えないからだ。
「驚きましたね。この<固有結界>は対象の過去を具現化するだけだと思っていました」
千鶴が少し焦っているようだ。
無理もない。
たった二人で・・・いや、彼女は一人のつもりで戦おうとしているからだ。
「千鶴さん、俺もいる事忘れないでくださいよーー」
軽い感じで言う。
これは嘘ではない。
確かに上半身のほとんどの骨がいかれている。
だが俺も異端者、そう簡単に死ぬほど柔じゃない。
「いえ、ここは・・・」
「いいから、後ろ頼むね」
「・・・わかりました」
そう言うと千鶴は俺の後ろについて、背中合わせになる。
はっきり言って千鶴に無者の相手は難しい。
恐らく<固有結界>という奴で負ける。
希望があるとすれば俺に託す事。
俺の魔眼、体力、鬼の血、これが一番効率が良い。
「君達とはもう少し遊んでいたかった。・・・だが残念な事に僕にも事情があってね。だから・・・早く死ね」
突如、周りが暗くなる。何も見えない、正に暗闇の中。
「なっ」
「これは一体?」
不味い、何も・・・ガシッ。
「えっ」
「きゃっ」
足だ、足に・・・手だ、無数の・・・足に沢山・・・くっ、動かない。
その時何かが語りかけた。
「千鶴、大丈夫お母さんはすぐ戻って来るからね」
「あ、あ、あ・・・いや、いや、ち・・・違うこれは幻覚・・・」
不味い。どちらも、向こうはさっきのをまた見せている。
このままではまた・・・。
「それじゃ、行ってくるね」
「駄目、ダ・・・」
「おい、しっかりしろ、そいつはお前の母親じゃない」
しかし言葉は返って来ない。
ドサッ、どうやら蹲ったようだ。
・・・くそ、一体・・・待てよ。
そして目を閉じる。
思い出せ、思い出せ、こんな時こそ冷静に・・・これは<幻覚>だ。
これは、こんな物は、この場に・・・
存在しない。
目を開ける。・・・良し見えた。ダッ、それが奴らの跳ぶ音。どうやらかなり近づいていたようだ。
視る。そして斬るのは<線>だ。
「ハッ!」
そシて、視界がカワル
振る、とにかく、振る。
前後左右斜め全てを斬る。
シャッ、スッ、サッ、シィッ、スッ、サッ、キッ、シャッ、シィッ、サッ、スィッ、
聞こえる音は風を通る短刀の音のみ。
視える物は<線>と<点>のみ。
サッ、シュッ、シャッ、スッ、スィッ、サッ、スッ、シュッ、サッ、シャッ、スッ、
聞こえる音は風を通る短刀の音のみ。
視える物は<線>と<点>のみ。
―――――それは暗黒の暗闇と変わラない世界
―――――違ウのは・・・違う存在がアる、という事だケ
―――――そレが何でアルかはわかラナイ
―――――ダカラ
―――――ムサベツニ
―――――ソレモ、キッタ
「あ、が、ばがな。」
声がする。声?。声とはナンダッケ?。
ああ、オトだ。
イマノおレにはヒツヨウなイ存在。
「あ、ひ、ヒヒヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィィーーーーーーーーーーー」
あ、ニゲル。キラないと、あレ?。何デ斬るンダロウ?。
オモイダセナイ。
思イダセナイ。
思いダセナイ。
思いだセナイ。
思いだせナイ。
思いだせナイ。
思いだせなイ。
思いだせない。
あ、思い出した。
俺はこいつが許せないんだ。
彼女を・・・神無月千鶴を苦しめたこいつを。
何でそんなに許せない?。
さあ、それは俺にもわからない。
「ひっ、来るな来るな来るなーーーーーーーーーーーーーーーーー」
仰向けで左手で胸の<線>を押さえながら右手と両足で地面を無者は這うように逃げる。
「・・・・・・・」
話す気にもなれない。
さっきまでの威勢はどこにいったのだろうか?。
しかし、残念だ。
俺の命を視る魔眼は相手の命を狩る事はできる。
だが、<命を狩る>=<死>ではない。
だから、こいつはまだ生きている。
さっきの着物の女は肉体的、精神的にかなり弱っていたので一撃で死んだ。
まあ、弱っているぶん<線>と<点>の少なくやりにくかったが。
とにかく、俺の最初の攻撃で死ぬ奴は余程弱っている奴限定だ。
そして今のこいつは・・・。
「なめるなよ、僕は僕はこんなところで死ぬわけがないんだーーーーーーーーーー」
ボウウウウウウ
炎だ。
いつの間にか炎が俺の周りに、いや包むように現れた。
どウせ、幻覚ダロウ?
歩く、奴の姿は炎に包まれて・・・いや、<視える>。
スッ、炎の外に出た。
いや、炎が消えたのかもしれない。
まあ関係ない。
歩く。
歩く、歩く、走れないのが残念、跳べないのが残念。
まあ、医者に診せたら歩かせてももらえないだろう。
そして、また無者を視る。
距離は・・・15mぐらい先の地べたに寝そべっている。
「何で?何で?何で?なんで効かない?。熱いんだぞ、焼けるんだぞ、・・・手が、無数の手がお前を押さえる」
サッ、本当に出た。
さっきと同じように。
でも・・・。
これモ存在シナい
掴んだ。
でもすり抜けた。
消えた。
歩く。
「何で?何で?何でえ?」
こイつは何モわかってイナい。
「嘘だ、うそだ、ウソダ、闇だ、暗闇だ、暗黒の、漆黒の世界だーーーーーーーーーーーーーー」
また、辺りが闇となり何も見えない。
いや、<視えた>。
そして、闇が消える。
歩く。
あと・・・。
「そんな、そんなあ、怖くないのか?恐怖を感じないのか?。恐怖は迷いを生むのにのにのにのにににーーーーーーーーーーー」
10m。
「あ、あ、あ、あ、あ、そ、そうだ、記憶よ、出ろ、家族だ、友人なんでもいい、出ろ、はははっ、記憶通りじゃない、でも殺すんだ。加工だ。死ぬんだ」
家族?。
ああ、なら加工する必要が無い。
それは彼の予想を遥かに超えるものだった。
三つの生首、男、刺された隆一。ハッピバースデイ・・・隆一・・・誕生日祝い・・・柚良ちゃんを・・・。
「えっ、何で?。僕はこんな事・・・まさか」
わかったようだ。これは現実に起きた事だと。
「嘘だ、こんな、こんな過去が・・・出ない?忘れた?記憶喪失者?いや・・・違う、何で何で何で何で何で何で?」
恐怖、絶望、それは、<混沌>より・・・。
「わからない、わからない、わからない、何で、何で、何で?、嘘、わからない、何で」
あと5m。
「あああああああああああああああああ何で??????????????????」
逃げる、逃げる、逃げる、彼にはそれしかない。
他はどうでも良いのだ。
今、奴は<混沌>に追われている事も、対抗策が必要な事も、逃げ道が無い事も。
全て忘れて逃げた。
それは<動物本能>とも言える。
―――――未知なるものへの恐怖
―――――理解できぬものへの恐怖
―――――だが、結果は変わらない
―――――何故なら・・・
スッ、スッ、スッ、サッ、サッ、サササササササササッ、シャンッ、サーーーーーーーーーーー。
「えっ?」
思わず声をあげた。
今、無者は必死に立ち上がり歩くような速さで走るように逃げていた。
このままだと逃がすかもしれない、と思った矢先、
無者の体が上半身と下半身に綺麗に分かれた。
分かれた原因、飛んで来たのだ。
巨大なチャクラムが・・・
これは、さっきの着物女が使っていた奴に似ていた・・・というよりその物かもしれない。
「・・・・・・・・」
ガサッ、どうやら・・・まだ生きている。
さて、どうした物か?。
このまま前に進んで無者に止めを刺すか。
それとも、今の攻撃を警戒して様子を見るか。
ドドッ、ドドッ、ドドッドドドドドッ、何か来る、見た。
で・・・。
黒い馬、黒い犬・・・狼?、黒いカラス・・・だけじゃなく鷹やフクロウがこちらに・・・正確には無者に・・・襲い掛かった。
「あっひっ」
そんな声がした気がしたがすぐに他の音に消えた。
バリッ、ボリッ、ゴリッ、なんか嫌な音だ。
そして、音がしなくなるとそいつらは再び元の方向へ向かって走り出した(一部飛んでいるが)。
で、見えなくなった。
「・・・・・・・・・。」
沈黙。
最後は以外に呆気無かった。
足音が近づいてくる。
今度は人間だ。
他に思い当たる奴は日神ぐらいだがあいつは狂っていたから違うだろう。
「誰だ?」
大声で闇へ叫んだ・・・が。
「ゴフッ」
ドサッ
その場に跪く。
どうやらまたヤバイようだ。
「く・・・そっ・・・」
ダメだ、今度はめまいが・・・。
近づく足音、そして姿が・・・見えた。
その姿は・・・
見覚えが・・・ある
(27)
彼は深く暗い森を歩く。
ここはもう敵の領内。
だが、彼には何の変化もない。
ふと、彼が歩みを止める。
そして嘆く。
「不味いな」
それは彼に伝わった情報。
標的、そして一人の人間の行動が交わりそうなのだ。
だが、下手に援護はできない。
いくら自身の分身とは言え、この幻覚の術には対抗しきれない。
この<固有結界>には目くらましの効果があるからだ。
両者を見失う訳にはいけないのだ。
そして、標的が人間に近づいている。
どうやら、何か企んでいるようだ。
「行かねば」
そうして、森を進む・・・はずだった。
ヒュッ、何かが飛んで来た。
スッ、念のため避ける。
元々この肉体には<避ける>という行為自体していなかった。
そう私自身の、その必要の無さ、その驕り、そして詰めの甘さ、これがあの者への敗因に繋がった。
だから、右へ体を避ける。
何かが通り過ぎる。・
・・くだらない。
「退魔の武器か」
どういう物かは知らないが下級な魔には効くのだろう。
だが・・・俺には効かない。
標的はこれを障害物として時間を稼ぐつもりなのだろうが、下らなすぎる。
「行け」
コートから二匹の犬を出し相手をさせた。
バリッ、ボリッ、噛み付く音、一人仕留めた。
そう・・・。
「投げたのは貴様か?」
上から襲い掛かってきた者に言った。
さっきの一人は囮、こちらが本物。
奴は持っている斧で私の首を薙ぎ払った。
奴の目、それは正気ではない。
だが、<兵鬼>でもない。
恐らく退魔の武器を持たせるためにしなかったのだろうが・・・関係が無い。
落ちる首、だがそれはすぐに黒い塊になった。
そして首がまた生える。
目の前にいるこいつはまた、首を落とそうとした。
「下らん」
コートから刀を一本出す。
そして、上から下へ振る。
ただそれだけ。
そしてこいつは左右対称に分かれた。
普通、刀一本で人を真っ二つにできるわけが無い。
だが、今更<普通>など求めてもしょうがない。
再びコートを開き今度は鮫を出す。
バリッ、一口だった。
「哀れな」
昔の彼はこんな事は言わないはずだ。
だが、彼は確かに言った。
それは、彼には人の心という生ぬるい物がまだ存在しているからだろう。
「さて、急がねば」
再び歩み続ける。
その時、再び情報が来る。
先に放った分身からだ。
今度は少し先に何か奇妙な物が落ちているようだ。
「・・・使える・・・か?」
丁度進行方向に近い、分身に持ってこさせることにする。
そして、以外に早く使用する事になった。
新たな情報、それに俺は驚愕した。
何とあの人間(混血だけど)が・・・隆一が無者を追い詰めているのだ。
しかし、隆一は無者に止めを刺す程の力は残っていなさそうだった。
だが、現に決着はつきそうなのだ。
しかし、これでは俺がここに来た意味がなくなる。
私は構わない。
だが、俺には大問題だ。
だから、監視にまわしていた分身で止めを刺そうとした。
しかし、それは叶わなかった。
その理由は俺自身よくわかった。
恐怖したのだ。
その場にいる全てが。
紅蓮のごとき真紅の瞳に・・・
だから、俺自身で手を下した。
この、巨大な円状の武器、名までは知らないが良く役に立った。
何故あの場にあったか知らないが、戦利品として貰い受けるとしよう。
そして、俺は消えるつもりだった。それが俺の罪だから・・・。
妙な気配を感じたのだ。
そう、まるで誰かが死ぬような感じが。
様子を見るだけにするつもりだった。
なのに何故か分身を使わず自らの足で向かった。
そして気が付いた。
彼が・・・隆一が今にも死にそうな事に。
訳がわからなかった。
でも俺はうれしかった。
やっと、会えたから。
だから・・・呼んだ。
「久しぶりだな、時矢・・・」
そして、俺は闇へと落ちた。
(28)
暗い、暗い、暗い、闇、闇、闇、黒、黒、黒・・・
周りニ何がアるノかすらワからナイ。
「死んだのか?」
何も見えない。
何も音がしない。
(死んだな・・・)
(ソレハ、ドウカナ?)
どこから聞こえるのか知らないが<遠野隆一>の声が聞こえる。
(どうしてそう思う?)
(サア、<カン>ダナ)
(へえー、<勘>ねー)
(トキニハ<カン>モヒツヨウダ)
(なるほど、確かに・・・)
(サテ、ハナシハコレグライニシテ<ミロ>)
(<ミロ>って・・・<見ろ>じゃなくて<視ろ>って事か?)
(ソウダ)
なるほど、ここが死の世界なら<線>や<点>がないはず・・・えっ?。
(何言ってるんだ?。俺が<視てる>のは生物の命だけだ、世界なんて視える訳ないだろ)
(・・・。)
黙っている。
・・・まあ、やってみるか。
視た。
・・・何て言うか・・・視える所は一面だが、視えない所はまるでない。
良い表現は・・・そう、俺から視て上が<線>や<点>が視え、下が何も視えない、と言った感じだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あっ、わかった。
要するに、ここは<この世とあの世の境>という奴だろう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「てっ、じゃあどうするんだよ」
大声で叫んだ。
「まったく、見ておれんな」
「えっ」
後ろを振り向く。そこには、・・・あの子・・・。
「か、か、華連ちゃん?」
「・・・<ちゃん>はいらん。呼び捨てでいい」
何と言うか、何でここに???????????????。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
「隆一・・・私は<死神>だぞ」
納得。
「悪い、何かそう思えなくて」
「・・・。」
あっ、何か拗ねてる。
・・・ちょっと可愛いかも・・・じゃない。
「いやだってさ、どう見ても普通の女の子にしか見えないんだよ」
そうだ。
あれからまた成長しているが急激に変わったとも思えない。
・・・ちなみに背は俺の方が高いが。
「え、ええいっ!そ、そんな事はどうでもいい」
と言って目を逸らした。
あれ?、何か顔を赤くしている。
照れてるのか?。
やっぱり女の子だな。
「と、ともかくだ、隆一の思った通りここは<この世とあの世の狭間>だ。だから、隆一の魔眼なら・・・わかるか?」
どうやら調子を取り戻したようだ。
「ああ、俺があの世に行く事が決定したって事だろう?。で、迎えに来てくれた訳か。まあいいか、それなりに楽な人生だったし」
実際はとんでもない人生だったが・・・この際忘れる。
(・・・オイオイ)
「はあ〜、隆一、何もわかってないのか。お前はまだ死なない」
「えっ」
これは、驚きだ。
っていうか、どういう事だ?。
「はあ〜。あのなあ隆一、ここは<狭間>と言っただろう。ようするにまだ死んではいない。まだ、引き返せる。それぐらいわかってもらいたいな」
・・・なるほど、確かにそうだ。
そうだよな、こんな所で死ぬのも何か情けない。
・・・あれ?。
「なあ」
「何だ?」「質問が三つあるんだけど」
「ああ、言ってみろ」
どちらを最初に・・・まずこっちかな。
「何で俺の魔眼を知ってるんだ?。」
そう、あの時も今もその話はしていない。
「簡単だ。私は<死神>、死を司る神、死の管理者、冥府の代行者、と色々言えるが<死>に関して我々より関わり合いの強い奴はそうはいない。逆にこれは<命>に対しても係わり合いが有る、という事になる」
わかったような、わからないような・・・。
「あー、えー、要するに<死>に関わるため<命>も理解している、という事だ。だから、隆一の魔眼も感じとれた。・・・最も最初は武忌の方に関心が強く気づかなかったが・・・」
・・・要は、一つわかればその逆もわかるという事・・・かな?。
「まあ、わかった気がするよ」
「・・・そうか?。まあ隆一がそう言うならそれでいいが」
何か腑に落ちないらしいが話を進める。
「で、二つ目、何でここに来てくれた訳?」
「何?」
「いや、だから、何でこう・・・都合よく来てくれたのかな、と思ってさ」
そう言うと、また華連は目を逸らした。
「なっ、べっ、別に、ただこの間の借りを少しでも返そうとしただけだ」
何を言いにくそうにしているんだろうか。
・・・まあいいか。
(・・・ボクネンジン)
(うんっ?。何か言ったか?)
(イヤ)
(そう、気のせいか)
(・・・)
「そう、じゃあこれで貸し借りなし、だな」
笑いながら言った。
「な、何を言っているッ!まだ全然足りない!!! こ、こ、このままでは私の気がすまない!!!」
何か、怒っているようだ。
女の子は・・・よくわからない。
「まあ・・・そう思うなら別にいいけど・・・あっ、三つ目、俺の魔眼で何がわかる訳?」
そう、いまひとつわからない。
「要するに、ここは<狭間>、<この世とあの世>、<生者の世界と死者の世界>のだ。隆一の魔眼なら<生者の世界>が理解できるはずだろう?」
ああ、簡単な事だ。
「確かに、上に<線>や<点>は視えるけど、下は何も視えない」
すると、華連は睨むような目で聞いてきた。
「<線>?、<点>?、何の事だ?」
まあ、視えない奴にはわからないだろう・・・何か・・・何で睨むんだ?。
「あ、ああ、よくはわからないんだけど<命>って奴を<線>と<点>で視てる・・・いや、認識しているかな?」
何と言えばいいのかよくわからないが・・・。
「・・・そうか、お前は<世界の命>さえ奪う訳か。」
何か物騒な事を言った。
「どういう事だ?」
「言った通りだ」
よく・・・わからない。
「・・・隆一、あの時・・・私の<固有結界>をお前はどうした?」
・・・どうしたって、・・・あっ、あれ、え。
「あっ」
思い出した。
「そういう事だ」
そう、あの時は変に思わなかったけど、俺は華連の・・・<業火死海>という<結界>の中、<線>と<点>を視つけ、そして突いた。
その時、武忌は俺が<死を視ている>と勘違いしていたようだが。
「世界の命・・・か。」
考えてみるとこれはとんでもない話だ。
俺は今まで<生物の命>しか視れないと思っていたが、どうやらそれだけでは収まらないようだ。
「<直死の魔眼>が<物の死>を視ているなら、隆一の<命を視るの魔眼>は<物の命>を視ている、という事だろう」
う〜ん、難しい。
「えーと、物の<命と死>の違いって事だよね?」
「そうだ。わかりやすく言えば、<物の死>は物質結合で一番脆い場所、<物の命>は物質結合で一番大事な場所、と言えばわかりやすい」
ああ、やっとわかった。
「なるほど、よくわかった。しかし、俺の魔眼ってそんなにすごかったのか」
「まあ、そう・・・来た・・・か」
華連が上を視た。
「えっ、何が・・・うっ」
目の前が急に・・・ぐらついて・・・きた。
「・・・どうやら、戻れるらしい」
華連が寂しそうに言った。
「なっ、くっ、あ、俺は・・・まだ」
「良いではないか。生きられるのだ。それにこの様子では、また会えるだろう」
・・・確かに俺も・・・。
「そんな、気がする」
そう、死のうが生きようが華連には会えるだろう。
<死神>は本当に便利だな。
「さて、お別れだ。また、会おう、隆一」
意識・・・が・・・消える・・・。
「ああ、じゃ・ま・た・な・・・」
そして、また暗闇に戻った。
ぐちゅ、ぐちょ、なんて音がする。
・・・嫌な予感。
そして、目を開けた。
「・・・」
「・・・」
時矢と目が合う。
どうやら、俺は仰向けで寝かされている。
向こうは立ちながら何かしていた。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
で、最初に破ったのは俺だった。
「・・・えーと、この音・・・何?」
普通は再開を喜ぶのかもしれないが、頭が働かない。
「・・・ああ、お前の傷を治しているんだ」
起き上がる。
で、体を見た。
何か上半身が黒いゼリーみたいなものになっている。
「と、時矢君?。こ、これは・・・」
一応、体の形のはなっている。
・・・でも、何か気持ち悪い。
「ああ、上半身がほとんど駄目でな、そうして肉体組織から復元させている。心配するな時間が経てば元通りだ」
良かった。どうやらまだ普通の学生?生活は続けられそうだ。
「そう、ありがとう」
「気にするな、どうせなら<真祖の姫君>感謝すべきだ」
誰だそれ。
「いや、今の言葉は忘れてくれ。・・・では、さらばだ」
と言って森に消えようとしている。
・・・ちょっと待て。
「おいっ、やっと会えたのにどこ行く気だ」
立ち上がって時矢の腕を掴む。
・・・いや、掴もうとした。
ズッズッ、何て音がして手が飲み込まれかけた。
バンッ、弾かれる。
わからない、何でこんな事が・・・。
「俺に・・・近づ・・・」
「何だ今のは、説明しろ、ていうかどうしてココに居る?」
向こうが何か言う前にこちらが聞く。
時矢が振り向いた。
「どうして俺に関わる?」
・・・さあ、それは・・・いや、
「異端者」
「・・・何?」
「異端者の事、腹割って話せるのお前だけだしね」
そうして、笑う。
「今までの事は、とりあえず無視。お互いの身の上話をしよう」
「おまえ・何を・・・」
右手を突き出し時矢が喋るのを止める。
「もう、俺の事は裏切らないでくれ。そして、お前の事聞かせてくれ、そして俺の事聞いてくれ。お前にしか話せないことがあるんだ」
そう、俺にとってこいつは今でも親友兼ライバルなんだ。
向こうがどう思っていても。
そして、この話は終結を迎える・・・
(29)
俺は自分について本音で喋った事はほとんど無い。
家族は皆殺された。
親戚に心から喋れる人もいない。
俺が本音で喋れたのは彼だけだろう。
俺は自分について本音で話した事はほとんど無い。
家族は皆好き勝手に死んでいった。
他に血縁なんて知らない。
俺が本音で話せたのは彼だけだろう。
この邂逅は何を示すのだろうか?
さて、いざ話すと言っても何を言えば言いのだろうか?。
とりあえず、お互いの隣の木に寄り掛かった。
3mぐらい離れている。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
何か、最近沈黙する時が多い気がする。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
でも何故だろう、こんなに落ち着いていられるのは・・・。
沈黙。
沈黙。
沈黙。
今は12月、今日は比較的暖かいが、それでも寒いのに変わりはなかった。
気まずいが心地よい、という変な空気の中、体に異変が起きた。
「あっ」
「どうした?」
心配そうに時矢が聞いてきた。
「いや、体が元に戻った・・・」
「そうか・・・付け焼き刃だが、何とかなったか」
ちょっと待て。
「何だよ、その<付け焼き刃>って」
「あ、ああ、その、まあいいじゃないか生きてるんだし」
と言って顔を逸らした。
「ヘイ・マイフレンド、その適当な所は良くないぞ」
「と、とにかく何とかなったんだ」
どうやら、お互い何も変わってないのかもしれない。
「どうして・・・」
「えっ」
「どうして俺がこんな体でここにいるか聞かないんだ?」
そう、それは聞きたい気がしてはいたが・・・。
「聞きにくくてね。でも、話したくないなら聞かない」
無理して聞きたくはなかった。
「・・・では、話す」
「えっ?」
「何だ?。聞きたくないか?」
「い、いや聞くよ。」
気にならない訳じゃないから、と付け加えた。
「あの日、俺は逃げた。もう、隆一に会う事も無いと思っていた。まあ、生活費は親の財産が家にあったから、当分は暮らせていけた。それでもたった9歳のガキが家を借りられる訳がないからな、全国を旅しながら生活していたんだ。色々苦労もあったが、奇跡的か異端の血のおかげか最近までは生き延びていた」
そこで話を区切った。
「そんな時、俺は無者に会ってしまった。運が悪いとしか言いようがなかった。散々奴の<固有結界>で遊ばれてな、俺はボロボロだった。そんな時、奴が気まぐれで俺を外に出した。もちろん、それで済む訳が無い。ちゃんと<兵鬼>に追い駆けさせた。おそらく<兵鬼>どもに殺させて楽しもうとしたんだろうが俺は逃げ切った。まあ、体中血だらけで再起不能レベルだったけどな。逃げたのは良かったがそこまで、俺は力尽いて倒れた。その時だった」
時矢がこちらを振り向く。
「<混沌>の分身達に会えたのは」
「<混沌>の分身?」
そう言えば、無者が言っていたような・・・。
「<死徒27祖>というのを知っているか?」
「えーと、どっかで・・・あっ、もしかして<魔の三大勢力>とかいうのの一つ?」
武忌が似たような事を言っていた気がした。
「そうだ、<混沌>は<死徒27祖>の<10位 ネロ・カオス>の事だ。先代ネロ・カオスは<真祖の姫君>との抗争に敗れた。だが・・・」
ビュン、何て音でコートの中を見せた。
「あっ」
「・・・そう、これが今の私の体で俺の体、私は確かに死んだ。だが、<俺>と融合して再びこの乱世を彷徨っている」
そこには黒い空間しかない。
だが、確かに中に何かいる。
<混沌>というのがやっと理解できた。
「その中どうなっている訳?」
「ほう」
時矢がニヤリと笑った。
・・・何か違う人が入っている気がする。
「これを見て恐怖しないのか」
「まあね、何か好奇心の方が強い年頃なんで・・・」
不思議と恐怖感は無かった。
・・・俺もどこか壊れてるのかもしれない。
「これはいくつもの<生物の命>の因子の集合体だ。今は200ぐらいだが、先代の時は666もの命の世界であふれていた」「へえー」
要するに今の時矢は色んな生物の集合体なわけか。
・・・視れるかな?。
「ちょっと失礼」
と言って、視た。
「ほう、その目は・・・」
だが、そんな声は聞こえなかった。
1,2,5,10、20、50、100、150・・・。
<点>だ、それしかない。集合体というのは本当なようだ。
視るのをやめる。
「すげー」
こんなのは始めてだ。
何か感動した。
「そうか、凄いか」
何かうれしそうにしている。
「ああ、でもさ」
「何だ?」
「<死徒>って<吸血鬼>だよな?」
「・・・隆一、お前が何を言いたいかはわかる。」
そう、本当に吸血鬼かあやしい。
「私は吸血鬼を超えた存在だ。だから<死徒>に区別されるのはおかしい。そもそも、俺を分類しようとするのが間違いだ。・・・まあ、他が何て言おうが私も俺も関係ないが」
よくわかった。
でも・・・。
「さっきから<俺>と<私>って出てるけど何で?。」
「さっきも言ったがこの体は集合体だ、だから意思があるものが集まるとこのように分かれる事がある。まあ、私にとっては瑣末な事だがね。ところでだ・・・」
時矢が少し近づいてじっとこちらを見る。
「その<真紅の瞳>は何だ?」
「えっ、<真紅の瞳>?」
何の事だろうか?。
「・・・気づいていないのか?」
「えっ、いや、俺の目は黒だけど・・・」
何を言ってるんだろうか。
「確かに少し前、<真紅の瞳>であった。その時何かしていたのではないか?」
・・・少し前、少し前・・・<視た>事かな?。・・・視る。
「それだ」
「えっ、俺の目赤いの?」
残念だ。鏡が無い。
「はあ〜、鏡があればわかるのに・・・」
「・・・使え」
と言って時矢は体から小さく丸い鏡を出した。
「あ、ありがとう」
鏡を、<視た>ままで見る。
「・・・本当だ、そうか知らなかった」
「・・・気づけよな」
呆れているようだ。鏡を返した。・・・ところで。
「なあ」
「何だ?」「何で鏡なんて持ってるんだ?」
「ああ、あればあるで使えるかもしれないからな、現に今も役に立ったし」
と言って鏡を黒いコートの中にしまった。
・・・なぜだろう、<四次元ポケット>になってる気がした。
「・・・今失礼な事考えなかったか?」
「・・・別に」
今度はこちらが顔を逸らす。
「<命を視る目>か」
「まあね」
一応俺の能力について話した。
視え始めたのが事件の時からだという事も。
「・・・すまない」
「いや、時矢のせいじゃない。まあ、生きてるだけありがたいと思うよ。・・・まあ、腹は痛かったけど。」
そう、時矢の兄<烈矢>の刀の傷は治すのに二ヶ月かかったらしい。
・・・よく覚えてはいないが。
「妖刀<北羅>は相手の傷の治りを遅くするからな、異端者でも時間がかかる」
と言うと、今度は刀を出した。
・・・って。
「おいっ、それ」
<北羅>だった。
「ああ、あれからずっと持っていた。・・・あんなんでも兄だからな、形見だと思っている」
そして、しまった。
「これは俺の罪だ。だから・・・」
そして、俺をじっと見る。
「隆一に対する償いはする」
・・・どうやら、引く気はないようだ。
「じゃさ」「
何だ?」
「お互いずっと<親友兼ライバル>でいこう」
時矢が驚いた顔をした。
「それが、お前の罪の償い方、そして・・・」
時矢を見る。
「時矢の兄を殺した俺の償いだ」
「隆一・・・」
俺に罪は無い、何て考えはおかしい。
俺にも償えない罪ぐらいある。だから・・・。
そして、別れが訪れる
「はあ〜、もう行くのか?」
時矢に聞く。
「ああ、今度は<私>の決着をつけないといけないんでね」
手伝おうか聞こうと思ったが、やめた。
おそらく、俺が入ってはいけないのだろう。
そんな気がする。
「死ぬなよ」
それが俺が言える言葉だった。
「ああ。・・・いい時間だった。じゃあな」
「おう、色々ありがとう。じゃあな、また」
そして、再開は終わった。
この出会いが後にまた一波乱起こすが、今はだれも知らない。
あいつに会えて本当に良かった。
何か、心の中がスッキリ・・・あれ?。
「何か・・・忘れてる・・・よな?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<千鶴>
「おい、大丈夫か?」
現場に戻ると、千鶴は蹲ったままだった。
「おい、しっかり・・・。」
「スースー」
「・・・寝るなよ」
無者が死んだ事で解放されたのだろうが悪夢を忘れられる訳が無い。
おそらく、防衛本能で気絶したのだろう・・・ていうか寝たんだな。
「・・・」
「スースー」
「・・・」
「スースー」
どうやら、このままおぶって下山した方が良さそうだ・・・
(30)
<そして物語は・・・>
「その色々・・・ありがとうございました」
と、頭を下げられた。
「・・・いいよ別に、それよりこれからどうする訳?」
ここは、山道の入り口。夜なので他には誰もいない。
下山していた時、俺はある物を見つけた。
斧だ。
まさか、と思って拾おうとした時、千鶴が起きた。
それが日神の物である、と断定された。恐らくもう・・・。
そして沈黙の中下山した。
「まだ、退魔ってやつを続ける訳?」
「はい、それが今の私がするべき事だと思ってます」
「そう・・・」
もっと楽に生きろよ、と言いたかったが、俺に相手の人生に口を出す資格は無いと思うのでやめた。
「困ったら・・・」
「はい?」
「何かあれば協力するよ。っていうか辛くなったら会いにきなよ。・・・それしか出来ないから」
何て自分勝手なのだろうか。
俺には彼女を助ける力も知恵も無い。
それでもこんな事を言うなんて・・・。
「はい、ありがとうございます。・・・でも私は・・・」
「とにかく、またな」
俺は笑ってみせた。
これしか俺にはできないから。
・・・千鶴も笑ってくれた。
「そうですね。それでは・・・また」
そして彼女・・・千鶴は森へと消えていった。
それから俺は駅に向かった。何故なら帰るためだ。<車>で。
気づいた人も居ると思うが、俺は監視される立場なのだ。
屋敷、学校、友達の家、街中、と常に見張りがいる。
だが、こちらもそのまま引き下がる気は無い。
プライベートは確保したかった。
で、その時の状況に適応した方法で逃げまくった。
今回もだ。
まあ、手口は簡単。
まず自分の荷物の中に発信機が無いか調べる。
次に町を歩く。
(特に人込みが多い所)
次に大きい建物などに入る。
で、そこから出る荷物にまぎれる。
(カンタンカ?コレ。)
そして・・・。
まあ、後は想像に任せる。
今回もこれを応用した手口で逃げた。
しかし、迂闊にも追跡者を一人だけ許してしまった。
まあ、別にいいやと思ってそのまま山に登ったのだ。
そしてこれだ。
恐らくもう捜索隊が出てるだろう。
世間体を考え隠密裏だろうが。
で、言った通りそのまま帰路についた。
「何を考えてるんですか。まったくいつもいつも・・・・・・・・」
さすがに今日は怒られた。
と、言っても屋敷の使用人長の<原切>さんだが・・・。
久我峰の人は俺とあまり関わろうとしないのだ。
(斗波さんはよくわからないけど・・)
で、必然的にこうなる。
原切さんは50歳を超えながらも未だに現役のおばさんだ。
着物が似合う。
まあ、叱る人も人生には必要だと思う。
でも・・・。
「大体いつもだらしが無い・・・これでは・・・とにかく・・・」
それから俺は丸々3時間話を聞いていないといけなかったのはさすがにつらかった。
でその後、当分外出禁止(学校関係は除く)が言い渡された。
年が明けて1月、久我峰家の行事は俺には関係が無いので、暇つぶしに屋敷の骨董品や絵画を見て暇を潰していた。
これが結構面白かった。
なんせここは一応金持ちの家なのだ。探せば色々ある。
・・・まあ、裏ルートで入手した物もあったがいいとしよう。
・・・でも。
ルーブルにあるはずの<モナ=○ザ>があったのは何故だろう。
(しかも、隠し部屋に・・・)
2月、バレンタイン・デーで学校中が緊迫状態だった。
ちなみに義理チョコなら10個ほど貰った。
(・・・ホントウニ<ギリ>カ?)
3月、ホワイト・デーなのでお返しをしといた。
でも、皆悲しそうにしていたのは何故だろう?。
(オカエシノシナヲ、ゼンブモチナガラ、ガッコウヂュウアルケバ、ソウナルダロウ)
その後、学校中の男子に睨まれた。何故だろうか?。
(アンダケ、ミセマワリ、オンナヲナカセレバ、ソウナルッテ)
4月、2年になりクラス編成、まあメンバーが変わってもそれなりなんとかなった。
5月、やはりクラスにグループが出来た。
男は三つ、女は四つぐらいになった。
俺は特定というのは無く、個人同士で付き合った。
ある意味中立と言えた。
でも、女の子の中で一人だけ仲間はずれがいた。
・・・まあ、俺はほとんど関わる事は無かった。
6月、いじめが起きた。
まあ、どこの学校でもよくある事だ。
しかし、厄介なのは男と女では<いじめ>というのがまるで違うという事だ。
男は集団暴力がほとんどだ、でも女は集団無視だったり暴力だったり色々でやりにくいのだ。
それに、いじめは本人が強くならないと根本的な解決にならない。
だから、無闇に「やめろ」と言えばいい訳ではない。
ある日、その女生徒が担任に相談しているのを見た。
何とか解決してくれればいいが。
7月、夏休みを控えたある日、その女生徒の鞄が滅茶苦茶にされた。
さすがに俺は片付けるのを手伝った。
で、先生はどうしたか聞いた。
泣きながらも職員会議で話をしてくれると言い、校長先生も聞いてくれたそうだ。
その後で友達から聞いたがこれが一度や二度ではないらしい。
それにもっと酷い事になっているようだ。
教師は何をしているのか。
次の日、俺は担任にこの事を聞いた。
しかし、「いじめはない」なんて言葉が返ってきた。
俺は色々言ったが無視された。
さすがに殴りたくなったがなんとか耐えた。
しかし、その現場を彼女に見られた。
そして・・・。
その次の日、彼女は・・・・・・・・・・学校の屋上から・・・・・・・・・・・飛び降りた・・・・・・・・。
幸い、下に木が有り死ぬ事はなかった。
だが、意識不明で入院だった。
当然マスコミが騒いだ。
名門私立中学での自殺未遂、これで話題は十分だった。
その時だ、自分の力の無さが本当に嫌になった。
だからこの言葉に・・・切れた。
それは、体育館で全校生徒の前で校長先生<様>が言った。
ちなみに男だ。
「えー、悲しい事が起きました。みなさん、いじめは・・・」
ここは・・・良かった。
「みなさん、いじめを無くすには本人が強くならないといけない。でも中には強くなれない人がいる。そんな時のために我々教師がいるんです」
どういう・・・事だ?。
「何かあれば周りにいる皆さんが何とかしないといけない。それでも駄目なら我々に相談してください」
それじゃまるで・・・。
「我々は皆さん全員を見てるんですから。」
その場にいる生徒は当然そんな言葉は信じていない。
伝わるものなのだ。
学校の先生全員が皆このいじめを見て見ぬ振りをしていた事に。
だから、だろうか。
普通はこれで話が終わり皆退室する・・・だが。
気づけば俺は校長先生<様>がいる壇上に向かっていた。
途中一人の俺の担任の先生<様>が止めに入ったが・・・殴った。
ゴッ、腹に一発。
今の俺は<鬼>の力を抑える事しかできない。
さすがに最後の一線は超えなかった。
ダッ、ダッ、ダッ、壇上の階段を上る。
さすがに向こうも気が付いた。
「き、君、失礼だろ。これについての話なら後で・・・」
何か言ってるが・・・聞こえなかった。
スッ、ドッ、右ストレートを腹に。
<鬼>の力は使っていない・・・はずだが・・・勢いで壇上から落ちた。
バダンッドゴドゴ・・・。
落ちた。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「こ、校長ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
それぞれ五月蝿い声がした。
ダダダダダダダダダッ、教員がこちらに来る。
ある者は校長先生<様>に、ある者は俺を押さえに。
だが、捕まる気は無かった。
校長先生<様>がいた所には大きな教壇みたいな物が有った。
俺はそれを持ち上げた。
「わっわわ、よよよせーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「や、やめろーーーーーーーーーーーー」
それを下に・・・投げる。
「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「避けろーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「いやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
ドオオオオオオオオオガアアアアアアアアンンンンンンンン
・・・なんて音がした。
とりあえず人には当たらなかった。
そして・・・。
「うるせーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
俺は大声で叫んだ。
生徒も教師も全員動くのをやめる。
「皆知ってただろうがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」
そう、これが俺の一番言いたかった事だった。
その後は、よく覚えていない。
話によれば俺はそのまま帰ったらしい。
当然、久我峰家では問題になった。
だが、無視した。
もう、あの学校に行く気は無い。
何もかもが嫌になった。
・・・そんな時だった。
8月、それは物置でいつものように倉庫で色々あさっていた時だ。
「隆一様」
振り向くと原切さんがいた。
「え、あ、どうも」
頭を下げる。
あれから、この人とはほとんど話していなかった。
「まったく、主人が頭を下げてどうするんですか」
笑いながら言った。
「あの・・・何か?」
怒られるような事はしていない。
まあ、<あれ>を除けばだが。
「立った今、あなた様の処遇が決まりました」
そうか、やっぱり俺は施設にでも戻されるのかもしれない。
あの学校行くよりは良いが。
「で、俺どうなるんですか?」
心の準備は出来ている。
どんな事になっても・・・。
「・・家に一任されました」
「えっ。」
よく聞こえなかった。
「ですから、本家の<遠野家>に隆一様の身は一任されました」
それは、どういう事だ?。
「それって・・・」
「どうぞ、お幸せに。当主の秋葉様はすばらしい方だと聞いています」
その後は早かった気がした。
荷物をまとめ<遠野家>に送る。
まあ、そんなにあるわけではないが。
そして・・・遂に出発の時が来た。
「それじゃ、お世話になりました」
門で送ってくれた人にお辞儀した。
そして、一斉に・・・
「「「「「「それではお元気で、いってらしゃいませ」」」」」」
原切さんを筆頭にほとんどの使用人が見送ってくれた。
「皆さん、色々ありがとうございました」
そして、俺は<遠野家>に向かった。
ちなみに迷惑を掛けたくなかったので一人で行く。お金や迷う心配はない。
果たしてこれからどうなるのか、俺には見当がつかない。
夏の強い日差しが終わりを告げ始めた8月の事だった・・・。
「はあ〜、とうとう、行ってしまったわね」
「そうですね〜」
それは屋敷にいるほとんどの人が思っている事だった。
「何かよ〜」
「何だ?」
「もう、俺達の作った飯食ってくれないんだよな〜」
「・・・ああ」
料理人達もだ。
「さみしな〜」
「何かね〜」
「騒動が無いよね〜」
「うんっ」
使用人達もだ。
「ほっほっ」
「どうされました?」
「いえね、子供が一人居なくなっただけでも違和感が有りましてね」
「・・・」
主までもが、だ。
「やれやれ」
原切さんである。
彼女も長い年月でこれほど騒がしい・・・訳ではなかったが、こう言った雰囲気は無かった。
「皆気が抜けちまって・・・本当に不思議だね、あの子は」
だが、彼が居なくても時は流れる。
「さてと、ここは一つ皆に気合を入れてやらないとね」
それが彼女の仕事なのだ。
そうして、話は<遠野家>へと移る。