(11)
何故だ、何故奴と奴が会話をしている。
知り合いなのか?。
あの者は先刻私が間違って殺そうとした者。
奴は<兵鬼>ではない。
それともお互い他の接点があるのか?。
・・・どちらでもよい。
関係あろうがなかろうが私は奴を殺す。
うん?。
・・・やはり初対面か。
いや、奴の方は・・・。
・・・無理だ。
奴を避けてあの<邪皇>は殺せない。
奴には悪いがこのまま使う。
私の<固有結界>を。
まただ。これで何回目だろう。
気配を感じられなかったのは。
俺は後ろを振り向いた。
そこは・・・赤。
紅、朱、赤、血?。
いや違う・・・。
これは火、炎、火炎、俺に向かって来る。
例えるなら数百匹の炎の蛇が一斉に、そう前後左右に上から襲い掛かってきた。
本当は一秒もないだろう。
だが俺にはゆっくりと時間が流れていた。
頭は一つの事しか理解していない。
<赤>
ソウだマエニモおナジコとがあった。
いつだ?。
イツダ?。
イツだ?。
どこで?。
ドコデ?。
どこデ?。
・・・・・・・・・家・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・部屋・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・小3・・・・・・・・暑い・・・・・・・・雨・・・・・・・・・・多い・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・赤は血だ。やっと思い出した。・・・・・・・・
ああ火がメノマエダ。
死、死、死?。
死ぬノカ?。
<生きろ>
ああソウか、俺ハイキナイトいけないんだ。
でも・・・
これは誰の言葉だっけ?。
かわす。
避ける。
そして<視る>。
視えた。
<線>の中にある<点>。
以外と大きい<点>が地面にある。
距離は5m。
一回飛べばいい。
しかし、その周りの火が強い。
あれ?。あっ・・・。
赤が、赤が、赤が周りに・・・。
気づけば、右腕が焼け始めた。
もう考えるのはやめだ。
俺は飛んだ。
そして<点>を燃える右腕で刺すように殴った。
ズッと音がした。
グガッと後ろから音がした。
ほとんど同じタイミングだった。
あれ?。
なんで後ろから?。
最初は俺だけど次のは?。
「驚いたね。そこにも<死の点>があったのかい? まあ<固有結界>だし複数あってもおかしくないか。」
辺り一面が黒くなった。
火は消えた。
だが一番消えてほしかった奴は消えていない。
ふと見上げると、さっきの女の子が名前は・・・ああ、あいつの妹だから<閻魔華連>が呆然とこちらを見ながら立っていた。
「馬鹿な・・・<業火死海>が消され・・・いや殺されるなんて。何故、何故殺せる?。何故殺せる?」
華連という子は壊れたように同じ言葉を繰り返している。
「う〜ん。実にいい<固有結界>だ。強くなったね〜。でも僕を倒せるほどじゃないね〜」
心底楽しそうに笑っている。
ああ、そうかこいつ<烈矢>に似てるんだ。
だから余計こいつが気に入らないんだ。
華連が喋るのをやめた。
「そうか。<直死の魔眼>か。・・・驚いた。歴代の<死神>でも片手で数えるほどしかいないというのに。いや、貴様は<邪皇>だったな。」
どうやらこの子は芯が強いらしい。
「しかし、これほどの魔眼を持つ者が二人もそろっているとはな。貴様がこの者に興味を持つ理由がよくわかった」
というとこの子は俺を見た。
ってちょっと待て。
「何だよその<直死の魔眼>って、俺は知らないぞ」
俺は焼け焦げあまり動かせない右腕を左手でさわりながら立った。
「俺はちょっと<鬼>の血は流れてるが魔眼なんて大層な物は持ってない。ふつう・・・じゃないけど人間だ」
「隆一く〜ん、それは違うよ〜」
武忌が楽しそうに話かけてきた。
「それに華連ちゃんも少し違う。僕は彼が魔眼を持ってるなんて今始めて知ったんだよ〜〜〜」
華連が睨みつける。
「馬鹿な、では何故貴様はこの者に会いに来た」
「え〜〜、僕は彼が僕の<兵鬼>を殺したから会いに来ただけだよ。しかも彼、本能しかない<兵鬼>を睨んだだけで怯えさせたんだ。すごいだろ?」
ああ、そういえばそんなことも・・・って何故知ってる?。
「・・・あっ、言い忘れたけど<兵鬼>の見た事は全て親、つまり僕に伝わるからね〜」
こちらの考えを見透かしたようだ。
やっぱり俺はこいつが嫌いだ。
「それだけではあるまい」
「え〜。どうしてそう思うの?」
奴は心底不思議そうにしている。
「何故この者の歳が私と同じだとしっている?」
奴が笑うのをやめた。
「そんな事、言ったけ」
冷たい冷酷な声だ。
やっと真面目になったようだ。
いや最初から真面目だったかもしれない。
「私に会ったか聞いたときに、この者と同い年の、と言っていたではないか」
あっ、言ってたな。ところで君はいつからいたんだ?。
「・・・華連、魂はとてもおいしい。君もどうだい?」
「ふざけるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
夜の森中に声が響いた。
「そう、やっぱりね。うん、実は<蛇>を探していてね」
「なに?」
蛇・・・あ、時矢・・・は関係ないか。
「馬鹿な、この者が<アカシャの蛇>だと?。そんなはずは・・・」
俺のことをじっと見ている。
「うん、実は遠野っていう一族に転生した事はわかったんだけどね。誰なのか片っ端から調べてるんだけど見つからないんだ。本家も分家もほとんど探した。けどいない。で、彼に行き着いた訳なんだけど・・・」
武忌もこちらを見る。
「<兵鬼>と戦わせたり、裏社会の説明をしても無反応、彼じゃないともう他に転生したかそれともまだ他にいるのか、まあ僕と同じ<直死の魔眼>を持った人に会えたし収穫はあったね」
奴がうれしそうにしている。
「俺はそんな物は持ってない」
奴を睨んだ。
「<線>と<点>が見えるだろう。それがこの能力さ。これはね<物の死ぬ場所>さ。ここに何か通せばその部分は死ぬ。君もさっきしたんだろ。よくは見えなかったけど」
確かに見える。
だが・・・
「でも僕には<点>はおろか<線>さえない。」
「えっ?」
思わず声をあげた。なぜなら・・・
「なるほど、自身の死も見えるのか。そして自分に死があるか確認し、<生きる事のみ集中した体>を創りあげたのか」
華連が忌々しそうに言った。
でも・・・
「<完全な不老不死>を得たのだろう?。なぜ<蛇>を探す?」
「<完全>じゃない。これでもそう例えば<真祖の姫君>の<空想具現化>では死ぬだろう。他にもある。だからほしいんだ。<蛇>の転生術がね」
・・・結局、その<アカシャの蛇>とやらがいなければ俺はこんな目にあわなかった、と言う事か。
奴が後ろに振り向いた。
「はい残念」
ズシャッ、と斬る音がした。
「くっ」
華連が悔しそうにしている。
「う〜ん、後ろに炎を残していたのはいいけど、手が古いね」
蛇のように長い炎が襲ったが<線>を斬られたらしく、すぐに消えた。
どうやら会話中に用意していたらしい。
奴はいつの間にか刀を持っていた。
「あっ、隆一君は知らなかったね。これは<心具>って言って<死神>の<心を具現化>した武器でね、<死神>によって武器が違うんだ。便利だよ〜、折れても心が強ければ再生するんだ。僕達二人は何故か同じ刀なんだ。気が合うのかな〜?」
「ふざけるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
華連が奴に突っ込んだ。刀同士が火花を散らす。
「腕はいいけどまだまだだね」
奴が下から上に刀を振った途端、華連は弾かれた。
「くっ」
「その様子じゃ上の指示じゃないな。勝手に来たんだろ?。そんなに僕に会いたかったかい?。それにしても上も僕の実力をよくわかってる。さすが・・・」
「死ね」
炎が再び奴を襲う。
・・・何見てるんだ俺は。
俺も・・・。
サッと炎を斬る音がした。
奴がこちらを向く。
「ごめんね隆一君。2対1もいいんだけどそれじゃ冷静になれず殺しちゃうかもしれない。どうしても二人ほしいからね。だから・・・やれ」
後ろから足音がする。
かなりの数どうやらこいつらを相手しないといけないらしい。
(12)
楽しい。
うれしい。
この憎しみに満ちた目、おそらく必死に強くなろうとしたのだろう。
そうだ、憎しみこそ生きる者全てに力を与える。
さあ、憎め、憎悪こそ僕が君に望んだものだ。
もっとだ、もっと楽しませろ。
そして絶望を味わえ。
感情を極限まで高めた魂は本当の美食となる。
もう一人は火傷で残念ながらあまり戦えないだろう。
だがこれほどの目を持っている。
僕の手持ちでも最強の<兵鬼>になるだろう。
魂もおいしそうだ。
しかし、<遠野>という一族は本当にすばらしい。
特に本家にいた奴らは最高だった。
これほど<鬼>の血を色濃く残しているのは今時珍しい。
だが、まだ狩らない。
楽しみはとっておかないと。
特にあの志貴という長男とたしか軋間とかいう奴らだ。
僕が見たところ長男は退魔だ。
何故天敵を長男にしているか知らないが素質は確かにある。
本家の奴より血がさらに、いやあれはもう<鬼>といっていいだろうが、あの男もすばらしい。
どちらもいずれ狩るか使役しよう。
やはり、<蛇>を優先したい。
<完全>になるには<転生術>がどうしても必要だ。
それでも目の前に快楽の道具があればどうしてもそっちに移ってしまう。
悪い癖だ。
さて、隆一君は雑魚に任せゆっくりとこの子の憎しみを味わおう。
そう、この子の、この子、この、こ、
こいつさえイナケレバ・・・
辺り一面黒こげだ。まあ夜であまり目立たないが。
だがとにかくまずい。
こちらはあの子が協力してくれるかわからない。
いや、あの子・・・華連には俺なんて忘れさられてるだろう。
それに向こうだけでも大変なのだ。
怪我人をかばう余裕はない。
女の子に守ってもらうのもいやだ。
この火傷も夜中にうろついていたせいだと思うことにしよう。
(・・・イイノカ?)
(良いの!!!)
自分にそう言い聞かせて現状を把握する。
まず奴は手持ちが20〜30と言っていた。
その一団はまだ焼けてない森の中を歩いている。
焼け野原は大体半径20mの円状になっている。
それ以外は焼けた後も火も残っていない。
おそらく<結界>というやつで広がらなかったのだろう。
問題はここで戦うか、森で戦うかだ。
さっき焼け野原と言ったが木が三本ほど少し焼けたが残っている。
うち一本は俺が記憶を取り戻した所にあり、他の二本もこの木の2〜3m後ろにある。
ようは小さな正三角形になっている。
技が不完全で消されたためだろう、ちゃんと形を残している。
敵が見渡せるここで戦うか、視界の少ない森で気配を探りながら・・・って俺は気配を探るのを何度も失敗している。
そうなると・・・この三本の木を使いながら火傷した右腕をどうかしないといけない。
どうするか。ゲームやテレビだと森なんだが、この場合は・・・。
1、定番、森で。
2、見渡せるこの焼け野原。
3、向こうが来る前に武忌を倒す。
4、とにかく敵前逃亡。
5、素直に仲間になる。
ふざけてる。
フザケテル。
俺はなんて奴だ。
4、逃げるだと?。
5、仲間になるだと?。
俺がなんであんな奴にそんなことしないといけない。
(カテルカナ?)
(勝ってやる)
(アイテガツヨスギル)
(勝って生き延びる)
(ムリダ、ヤメタホウガイイ)
(うるさい黙れ<遠野隆一>)
(オレハオマエダ<今宮隆一>)
そうこいつは俺だ。
でも俺はあの子を助けたい。
おそらく偽善だろう。
が、俺自身も奴の存在が根底から許せない。
いや、これが本当に奴を、武忌を殺したい理由だ。
(カチメガナイゾ)
(おそらくこの世に<完全>や<絶対>なんてない)
(ソレトコレトハハナシガ・・・)
(勝手に言ってな<遠野>)
(ヨセ、オレハ<本能>ダ。ジブンニウソヲツクノカ?)
理性とは本能を覆うもの。
この世界で本能のままの人間は一握りしかいない。
いや、一握りもいるかどうか、人間には少しでも理性ぐらい存在する。
よほど特殊、例えば<反転衝動>などはあてはまるかもしれないがすぐに他の者に消される。
理性は本能があるから存在できる。
では、理性が本能を否定したらどうなるか。
それは自分に嘘をつくことになる。
と、普通は思われる。
しかし、それでは理性が自分ではないことになる。
理性は自分が作った物。
これが自分でないと否定できるのか。
そもそも自分のしっている本能も理性ではないのだろうか。
喜び、悲しみ、楽しみ、苦しみ、愛、憎悪、希望、絶望、
これらを本能で感じていると皆思う。
しかし、これは全て成長の過程で手に入れる物ではないだろうか。
得た物を本能というのだろうか。
本能とは生まれた時点で持っている物だ。
自我と理性がないのにそれがなんなのかわかるはずがない。
ではもし全て成長で手に入れた物とすると、それを消すことはできるのか。
人は物事を忘れ去るということはなく、脳細胞があれば単に思い出せないだけだと言う。
だが、もし壊れていたら、なにかが壊れていたら、忘れ去る・・・消去できるかもしれない。
考えている間に一団が来てしまった。
ここでやるしかない。
右腕が全部火傷している。
しかし動かせないわけじゃない。
後ろは静まりかえっている。
二人共お互いの動きを見極めているようだ。
しばらくほうっておく。
そして・・・視る。
さっき倒した<兵鬼>は素手だったが、こいつらは刀や棒、斧や・・・ボロボロのスーツを着た奴は小太刀みたいなものを持っている。
ヤクザでもやってたのかもしれない。
ほとんど体が大きい大人の形をしている。
40〜60の目玉がこちらを見ている。
残った三本の木が風でざわめいた。
これが合図だ・・・。
(13)
こいつは自分を<本能>と言った。しかし俺にはただの恐怖にしか思えない。
まあいい。どうせ逃げられない。
(ニゲロ、カテナイ、シニタクナイ。)
これが俺の本性なのか?。だがいま考えている<俺>は戦おうとしている。
<鬼>の力を使う。反転しないように。
自分でも驚く速さで奴らに向かって走りだした。向こうも手持ちの武器を構え立ちはだかる。
距離は10mはあたっがニ歩で十分。目の前に視えた<点>をついた。
左手の一指し指と中指だけで糸が切れた人形のようにそいつは倒れた。
その後ろにいた三人が刀、斧、大きな金槌を振り落としてきた。
応戦してもいいがこちらは素手、しかも右手はうまく使えない。
ひとまず木のある所に退く。しかし・・・。
「なっ。」
一歩下がった時、後ろに二人周り込んでいるのに気が付いた。どうやら俺を包囲しようとしてたらしい。
二つの刀が俺を襲った。
左に跳んでそれを交わす。が、左にも一人斧を持った奴がいた。
でもこちらの方が速い。貫く、抜く、その上を跳ぶ。また崩れ落ちた。
どうやら俺への包囲網は着々と進みつつあるらしい。
敵を褒めるのも癪にさわるが、なかなか統率性がある。・・・統率?。
俺は思いっきりジャンプして木の前に立ち、木の一番上の先端近くまで登り顔を出した。
自分が化け物の血をひくと改めて思い知った。
だが、今はそんな事を気にしている余裕はない。
「確か・・・そう本能しかないって奴は・・・統率?。」
下を見ながら口に出して頭を整理する。奴らは俺の登った木を切り倒そうと集まってきた。
「武忌がいちいち指示・・・いや・・・うん?・・・奴か。」
その中で一人だけ馬鹿正直に前方約5メートル所で木に近づこうとしない奴がいる。
あの子が・・・そう、華連が・・・<兵鬼の親玉>と言っていた。
下を見ると全員で囲んで木を・・・いや離れて立ってる奴もいるが前に切り倒そうとしている。
全員で触れる程面積は広くない。
「・・・馬鹿だよな。」
俺は跳んだ。
気づいたと思うが、前方に親玉がいるのに前に切り倒すのはおかしい。
三本の木は三角形の形で立っているためどこに倒しても・・・まあ二本のある場所と後ろで戦ってる二人の場所以外はどこでもいいはずだ。
つまり前の奴は偽者。
この木の下で木の倒れない場所にいる奴こそ・・・
・・・の訳がない。
さっきも言ったがこの三本の木は少し焼けてるがほとんど大丈夫だ。
この木に登ったからと言って隣の木に乗り移らないとは限らない。
この月しかない夜に木から出た顔が見える訳がない。
なのに奴らは正確にこの木を切り落とそうとしている。
ようは親玉は俺が正確に見える位置にいる。
それは、まあこの暗闇ですごく目がいいやつか、なんか道具を使う以外ではとても近い場所しかない。
武忌が<兵鬼>は管理は面倒だが一応持っているという感じだった。
そんな奴らに近代的な道具を与えるだろうか。武器は持たせてるが銃や火薬類はない。
あれば木を切り倒すのに使うはずだ。
そんな奴らに特殊な目を与えるだろうか。
もし居たら何故俺にぶつけなかった。
<アカシャの蛇>かどうか探るにはその方が都合がいい。
それに武忌をふくめてこいつらは<吸血鬼>なんかじゃないから太陽があっても動けるだろう。
夜しか動けない奴は目が進化するだろうが、こいつらは違う。
全部仮説にすぎない。
だがこれが正しいと思う。なぜなら・・・
「気配を探れないと安心してこんな近くに居るんだもんな」
そいつは一人で隣の木の上に登っていた。
さっきのヤクザだ。
どうせ偽者を置いたから問題ないと思ったのだろう。
それとも俺が気配を探るのが苦手と武忌から伝えられたのかもしれない。
・・・だがどうでもいい事。
視た。
「ギッ」
怯えたようにも見えたが、気づけば奴は下に向かっていた。
まるで人形のように落ちた。
あれも人として動いていた時があっただろう。
だが俺はなんとも思わず殺した。
「俺も狂い始めたな」
そう恐怖を否定した時点で俺の中のなにかが、いや昼間からおかしくなったからその時かもしれない。
あとは簡単。
指導者がいなくなった時点で奴らは右往左往していた。
木の切り倒しも途中で終わった。
と言っても初めてニ〜三分で俺が動いたから切り倒せなくて当然だ。
統率のなく、知性がほとんどない奴らを俺は数分で終わらせた。
しかし・・・
「こいつら<線>と<点>が少なすぎだよな〜。」
少なく細い<線>、小さい<点>、これを狙うには刃物のほうがいい。
武忌を倒すにはこれを使うしかない。
周りには刀や斧はあるが俺は使ったことがない。
どうやら俺は身軽に跳ねたり飛んだりするタイプだ。
こいうのは逆に制限されそうだ。
ここで思い出した。
「ナイフ・・・じゃなくて小太刀って奴持ってたな。」
さっきいた木の真下に行く。あった。
持つところは10cmぐらいで刃は15cmといったところだ。
自分の服の布を破り、それを使って右手に小太刀を巻きつけた。
右腕は火傷してるが動かない訳ではない。
動かすと痛みがあるがそんな事は言ってられない。
これで両腕が使える。
そして二人の所に向かう。
そこは森の中。
何故かと言えば二人は森に入ったからだ。
あの子も馬鹿ではない。
勝ち目が奇襲しかない事を知っている。
ふと腹を見ると傷から血が出ていた。
まあ、あまり関係ない。
服は奴らの血を浴びて赤服になっている。
目立ちすぎて奇襲にむかない気がする。
やはり俺は正面きって戦うほうがいい。
俺は木と木を渡りながら二人を探した。
音がした気がした。
前だ。
急ごう。
(ナゼ?)
(助けたいから)
(アノコハオレヲ・・・)
(・・・)
(ニゲロ
(・・・)
(ニゲロ、ニゲロ)
(・・・)
(ニゲロ、ニゲロ、ニゲロ)
(・・・)
(ニゲローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー)
(・・・)
うざい、うるさい、俺は引く気はない。
だから無視した。
これは自分に嘘をついてるのか?。
なんであの子を助ける必要がある?。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(ああそうか)
やっとわかった。
(あの目だ)
俺は嫌なんだ。
憎しみに満ちたあの目が・・・
(あの子には笑った目が似合うからだ)
(14)
(あの子には笑っていてほしい)
(ナゼ?)
(わからない。いや・・・)
・・・・・・・似てるからかな?
深い森、しかしここは庭なのだ。
俺は親に連れられここに来た。
難しい話のわからない俺はここを探検していた。
妹の柚良はまだ赤ちゃんなので<使用人>と言う人が見ている。
俺は暇だった。
「おい」
いきなり上から声・・・上?。
「おまえ、誰だ?」
その人は俺より少し背が高く、着物を着ていた。
しかもかなり・・・と言っても俺から見ればだが、高い木の枝から俺を見下ろしていた。
わかった。
この人は<シキ様>だ。
「今宮隆一です」
俺は敬語を使う。
「ああ、おまえか今来てる親戚って。おれは遠野シキだ」
サッ。シキ様が飛び降りた。
「ええっ」
驚いた。
そのころの俺は自分の血について知識がなかったので死んだんじゃないかと思った。
まあ、この歳で人の死が理解できていたかあやしいが。
トスッ、無事着地。
俺はただ呆気にとられた。
「どうだすごいだろ」
「は、はいシキ様」
そう言ったらシキ様は急に顔をしかめた。
「様はいらねえよ。呼び捨てでいい」
そいうと俺の腕を引っ張って歩きだした。
「え、あの、どこに?」
「おう、ちょうど人がほしかったんだ」
そいうと俺は少し開かれた所に連れてこられた。
「アキハ、ヒスイ、新しくメンバーが入るぞーーー」
大声でシキ様が叫んだ。
がさがさ、森から二人の女の子が出てきた。
一人は妹のアキハ様だろう。
もう一人はわからない。
「あ、あの・・・隆一です」
ぎこちなく答えた。
「私はアキハ、こっちはヒスイよろしくね」
「よろしくーー」
やさしい言葉だった。
「は、はい、アキハ様、ヒスイ様よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀した。
「様はいらないわ」
「様はいらないよ」
二人の声が重なる。
さて、じゃあなんて呼べばいいのだろうか。
話合いの末、「さん」に決まった。
それからは<遠野家代々伝わる正式な鬼ごっこ>で遊んだ。
はっきり言って運動能力が三人とはかなり違い、かなり苦戦したがそれなりに楽しめた。
宝物だったビー玉をあっさり捕られたが・・・
遊んでいる内に夕方になった。
屋敷に戻る。
その時・・・。
「あっ」
屋敷の窓から俺らを見下ろす目に気が付いた。
なんだか除け者にしてしまったようだ。
「隆一、なにしてる?」
シキさんがこっちに来る。
「いや・・・あの人、あれ?」
見るともういない。
「ああ、コハクだろ?。親父の世話してるからあんまり俺らと遊べないんだ。ほら行くぞ、夕ご飯だぞ」
そう言うと、シキさんは屋敷に入っていた。
でもなんとなくわかった。
シキさんはコハクさんを誘いたがってる事に。
夕食はなんだか味気なかった。
礼儀作法にうるさく何かするたびにその場にいる全員に見られた・・・というより睨まれた。
人は<使用人>と言う人達、槙久様、シキさん、アキハさん、父、母、柚良に俺とかなりいたが静かに食べるため、いてもいなくても変わらなかった。
その後、今日はもう遅いので泊まることになった。
もっともまだ他に話す事があるらしいが。
夜、俺は借りた部屋で寝むれずにいた。
横では柚良が眠っている。
両親はまだ槙久様と話があるらしく部屋に来ていない。
「・・・トイレ」
俺はトイレに行く事にした。
はっきり言って、かなり我慢していた。
どうしても夜この屋敷を歩きたくなかったが、ついに行く決意をした。
ダンッ。タッ。ダンッ。ガチャ。思ったより早くトイレにいけた。
・・・というよりなにげに<鬼の力>を使っていたりする。
気づいていないのでかなり性質が悪い。
トイレから出るとまた暗闇が広がっていた。
もう一度走らないといけないが・・・気が進まない。
さっきのように追い詰められていないからだ。
「おう、何してる?」
ビクッ。心臓が止まるかと思った。
この声はシキさんだ。
声のした方を振り向いた。
「ちょ、ちょっとトイレをすましたところです」
声が少し震えていた。
「ふ−ん。」
そういいながら「いつまでいるんだ?」という目線だ。
どうやら怖がってるのに気づいているらしい。
「まあいい、ちょっと付き合え」
また腕を引っ張られた。
なんとなく素直について行ってしまう。
玄関から外に出る。今日はきれいな満月がある。
お互い無言で歩く。
さっき連れてこられた森の広場についた。
シキさんが腕を放してくれた。
そのあとシキさんが草の上に寝そべった。
「おまえもやってみろよ。気持ちいいぜ」
少し迷ったが俺もここで寝ることにした。
お互い夜空に浮かぶ満月を見ていた。
「外で寝るのも悪くないだろ」
「はい、気持ちいいです」
シキさんがこっちを見る。
「その敬語やめないか?」
「いいじゃないですか、自分がどんな風にしゃべろうが」
「へえー、なにげに口答えしやがって、おまえ何歳だよ?」
うれしそうにしている。
「三歳です」
「あーそう・・・なに!?」
驚いて起き上がるシキさん。
「嘘だろ?」
「本当です」
「・・・。」
「・・・。」
そして沈黙する二人。
バタッ、シキさんがまた寝た。
「随分と大人びた三歳だ」
「よく言われます」
そしてまた沈黙。
何故シキさんは俺を誘ったのか?。
おそらく寂しかったのだろう。
屋敷には俺以外の小さい男の子はいない。
女の子はこうして肩を並べるのは嫌がる。
だから俺が連れて来られたのだろう。
ここちよい風が肌を通り抜ける。
今は夏、風をひく心配はない。
そして沈黙が破られた。
「なあ」
「なんですか?」
「アキハとはどおうまく付き合えばいいと思う?」
それは俺にしか話せない質問だろう。
ヒスイさんはアキハさんに伝えてしまうかもしれない。
シキさんとアキハさん、この二人がすれ違っていることには気が付いていた。
「シキさんはアキハさんをどう思ってるんですか?」
「大事な妹だ。もしあいつを苦しめる奴がいたら俺はそいつを・・・」
これで十分だ。
まあ俺みたいなガキがこんな事を考えるのもおかしいが。
「いいんじゃないんですか、このままで?」
「・・・どういう意味だ?」
シキさんが起き上がる。
「そうやって大事に思ってればいつか伝わりますよ」
そうして俺も起き上がる。
「それじゃ屋敷に戻りましょう」
「・・・ああ」
どうやら話した事で少しすっきりしたようだ。
シキさんが俺に相談したのはやっぱり同じ妹を持っているのもあっただろう。
この言葉は自分にも言っていたかもしれない。
なぜなら俺と柚良もうまくいくかわからないからだ。
まあこの時は自分でさえ気づいていなかった。
俺もシキさんと同じように、妹を苦しめる奴がいれば・・・。
そして、俺は俺は俺俺俺おおおおおおおおおおおおお・・・・・・・・・・・
守りきれなかった。
だからだ。
あの子を、華連を柚良と重ねているのだ。
俺はもっと柚良と母さんと父さんといたかった。
笑いたかった。
でも、もう皆笑えない。
だから変わりにあの子には笑っていてほしい。
そう、これは自分勝手な夢なんだ。
結局俺は自分勝手だ。
だが・・・それでも・・・。
そこは、あの森の広場に似ていた。
ただ違うのは・・・兄と妹が殺しあっているということだ。
今俺は5m上の太い木の枝に乗っている。
今の二人の状況。
ようするに武忌が左手で華連の体を首を掴んで持ち上げ、右手に持った刀で腹や胸を刺したり抜いたりしていた。
華連はボロボロになり、苦しみながらも、体をほとんど動かせずにいた。
よく見ると武忌はシルクハットをかぶっておらず、腰までとどく長髪が露出している。
燃やされたのかもしれない。
そして俺はそこに向かって跳んだ。
結果的に良い方向に進んだ。俺はそのままタックルした。
そして武忌は10mぐらいさきまで吹っ飛んだ。
こっちの加速とむこうのバランスの悪さが功を奏した。
武忌が吹き飛ぶ拍子に華連はうまい具合に開放された。
華連の所にいく。
「しっかりしろ。大丈夫か?」
そうは見えないが言ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・な・・・・・ぜ・・・・・・・こ・・・・・・・こ・・・・・・・・・・・・・・・に?」
もう喋る事もできそうにない。
「さあね」
そういうと俺は武忌のほうを向く。
奴はゆっくりと立ち上がった。
(15)
永遠とも思える漆黒の闇を照らす唯一の光は月。
この月の下で二人の男は対峙する。
奴・・・武忌はいままでにない殺気をぶつけながら俺を見ている。
「一体どういうつもりだい?。せっかく人がいい気分でいたのに」
どうやら本気でくるようだ。
「そう?。普通目の前で女の子が危険な目に遭っていたら助けると思うけど。それにあんた「人が」っていうけど人じゃないんじゃないの?」
武忌は顔をしかめた。
「ああそうだね。でもねお互いの復讐を邪魔されて気分がいい奴なんていないだろ?」
武忌はきれいな青い目でこちらを視る。それは・・・心奪われる目だった。
「お互い?」
聞き返す。
「うん。実は僕が<死神>だった事はもうわかってるだろう。でもね、なかなか出世できなくてね。そんな時、華連が生まれたんだ。みーんな華連しか見なくなった。わかるんだこの子は立派な<死神>になるって」
少し奴は悲しそうにしたがすぐに元の冷徹な顔に戻った。
「長男は何の取り柄もない駄目な奴、そんな風に呼ばれてきたんだ。親までそんな風にしてきた。そんな時に生まれたこの子がしかも<最高種>の素質を持ってるとくれば僕はもうほとんどいらない存在にされた」
なるほど、でも・・・。
「それはあんたの思い過ごしだったんじゃ・・・」
「いや、違う。」
始めて憎しみが出てきた。
「本人達が言ったのさ、「家は華連にかける」ってね」
武忌は笑い始めた。
「ははははははーーーーーーーーわかるか?。生まれて僅かの小娘にも劣る判断をされたんだ。いままでやりたくもない雑用して、ご立派な<死神>様なろうとしたのに、もっと使える奴が生まれたらサヨナラだ」
それは・・・その姿は・・・。
「僕には試してみたい事があった。夢という奴かな。だが親に言った途端あやうく殺されかけた。なんせ<死神>の中でも最強と言われる<閻魔>一族の分家。夢なんて持つことは硬く禁止されてたからな」
もう・・・止めようのない・・・。
「ヒヒヒヒヒヒーーーーーそうだその時今まで、いままで、イママデーーーーーーーーーー散々抑えてきた・・・そう最後の一族としてのプライドまで踏みにじりやがった奴らは、奴らだけはーーーーーーーーーーー」
本当の狂気。
「後は簡単だ。あのムカツク親二人の魂いただいておさらばよ。かわいい妹が俺を憎むように・・・」
「・・・だまれ・・・外道」
奴が笑うのをやめた。
それは・・・。
「自分の能力の低さ棚に上げて、復讐だ?。夢だ?。結局おまえがその程度だっただけだろう」
純粋な怒り。
「おまえみたいな奴は本当に腹が立つ」
奴に殺されたであろう数え切れない人へのと、たった一人で自分の兄を殺しにきた哀れな女への自分ができる唯一の行為。
大切な家族を守れなかった自分への唯一の償い。
「おまえだけは俺が殺す」
その時、俺の中でうるさく喚いていた<本能>とやらが消えた。いや、何となく崩れていったの方が正しい。
そしてスイッチが切り替わる。
「正気かい?。僕に死はない」
なにか言ってるが答える気はない。視る。
「まあ例え視えたとしても攻撃させないけどね。君も愚かだね。僕を怒らせるなんて・・・馬鹿だよ。使役しようかと思ったけどやめだ。完全に殺す」
そいうと奴は跳びかかってきた。
10mという距離は武忌にとって十分間合いだろう。
ここは避けるのが普通だ。
だが・・・二足分後ろに歩く。
ブンッ。こちらから見て右上から左下まで斜めに振られる刀。
それを左腕で受ける。
「なっ」
奴の声。当然左腕・・・肘から手までだが飛ぶ。
こうして残るは火傷した右腕のみ。
小太刀を持たせているからといって不利になったのは事実。
しかし・・・。
ザッ。奴に詰め寄る。これが上手く働いた。
そして・・・。
左腕の<線>をなぞった。
そしてもう一つ。肘から下がなくても体は血液を流す。
つまり斬られた箇所を顔に向けると・・・。
「ガッギャーーーーーーーーーーーーーーーーー」
奴は悲鳴をあげる。
そして、動かす事のできる右腕だけで刀を闇雲に振った。
だが遅い。
俺は思いっきり地面を蹴る。
そして奴と7m程距離を離す。
斬られはしなかった。
その代わり右手の小太刀を固定していた布がとれた。
武忌が動くのをやめる。
さすがに落ち着いたようだ。
いや、そう見えるだけだろう。
「何故だ。何故切られた部分がなくなる?。違う動かない。いやなななななななななな、なに・・・した、何を・・・」
跳んだ。これで・・・。
「来るなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
闇雲に振るわれる刀。
突っ込んだ。
そう、とても無謀なことだ。
気づけば腹の左だりから刀が通った。
この動作、この時刀が俺の体を通る事で、刀は動きが制限される。
トスッ
<点>のある所に小太刀を投げる。
投げたといってもほんの数cm。
布が切れていたのが幸いした。
こいつは・・・せっかくの眼も剣術も使えなかった。
はっきりいって馬鹿だと思う。
なにかで読んだけど<自分の能力を使いこなせない奴程愚かな奴はいない>だそうだ。
まあ、左手に下半身を失った奴が言うセリフじゃないが・・・。
「ごふっ」
「なっ」
驚いた。
まだこいつは・・・。
「貴様、貴様、きさ、きさききききききき、い・・・・く」
まずいもう俺は・・・
ザシュッ、斬る音がした。
そして・・・
「燃え尽きろ」
それが終わりの音。
(16)
最初にこいつ・・・隆一?とか言う奴に会った時、私はこの者を殺そうとした。
その次もだ。
だが死んではいない。
それどころか私を助けた。
いや、この者にも戦う理由はあったのだろう。
だが私を助けた。
そう私を無視すればもっと楽に戦えただろう。
私を助けさえしなければ。
私を助けた。
(何故?)
私を生かした。
(なぜ?)
私を救った。
(ナゼ?)
わからない。
ワカラナイ。
わからない。
ワカラナイ。
隆一という奴と目があった。
・・・それは視る者を畏怖させる、
紅の瞳
笑みを浮かべ、そして瞳が閉じられた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふざけている。
勝手に助け自己満足、そして死ぬ。
そんな事は認めない。
元々ここへは独断で来た。
それなりに処分は受けるだろう。ならば・・・。
暗い森。今俺が見える物はそれしかない。
死んだのか?。
・・・にしては物がよく見える。
あ、体が、元に・・・。
「どうやら目が覚めたようだな。」
「なっ。」
声がした方を向く。あの子・・・華連と目があった。
・・・なんか怒ってるように見える。
ありがちと言えば有りそうな事だ。
まあ、漫画やゲームやテレビなどではよく有る話だ。
・・・こんなにあっさり起きていいのだろうか?。
1、良くない。問い詰める。
2、別にいい。御礼を言う。
速攻で2、を選択。
「ありがとね」
こういう時は楽に答えたほうが良い・・・はず・・・だ。
ギロッ
・・・睨まれた。
武忌より・・・怖い。
「何故私を助けた?」
やっぱりそうきたか。
「う〜ん。良心の呵責かな?」
軽く答える。
スッ、首筋に刀を突きつけられた。
「同情などで私を助けたのか?」
かなりお怒りのご様子だ。
「俺の勝手だろ」
笑いながら言った。
そして・・・沈黙。
スッ。刀が消えた。
なるほど、<心具>とは出し入れ自由、便利だ。
「理解・・・不能だ」
そう言うと華連は後ろを向き歩き出した。
・・・てちょっと待て。
「おおい、俺の体大丈夫なのか?」
これはとても重要な事だ。華連が止まる。
「問題ない・・・はずだ」
さりげな〜く自信なさそうに言った。・・・おい。
「あのさ、はっきりしてくれない?」
俺は立ち上がった。
華連がこちらを向く。
「・・・要するに・・・<死神>には・・・現世の肉体を直す術はない」
おいおいおいおいおいおいおい・・・・・・・・・・・・・。
「あ、案ずるな、もちろん直せない訳でない。ようするに・・・何か・・・そう補強に使える物体があれば・・・その・・・」
なんかとても言いにくそうにしている。
話し方はギコチないがこういう姿は少し可愛いと思ってしまった。
・・・・・・待てよ。
<補強に使える物体>って・・・華連は<死神>だから肉体の仕組みが違うだろう。
残念な気もするが(何でだよ)無理なはずだ。
・・・他といえば・・・。
「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
言い忘れていたが<兵鬼>の体は倒したあと塵になって消えていた。
・・・見当がついた。
「武忌?」
「すまぬ。他に手ごろな物がなかった」
はあ〜、と俺は溜息をついた。
しかしあんな奴の肉体が使われていると思うと何だか・・・まあ生きてるし良しとしよう。
「燃やし尽くしてなかったんだ」
「そうだ、さすがに<生きる事にのみ集中した体>だったのでな」
まあなくなってたら俺は生きていなかっただろう。
「心配な事っていうのは・・・」
「<反転衝動>と言えばわかるか?」
なるほど、鬼の影響が心配なわけか。
「大丈夫だろそれぐらい」
と笑いながら答えた。
「・・・私も、そう、思いたい」
そう言うと華連はまた歩き出した。これで本当にさよならだ・・・ちょっと待て。
「ちょっと待てよ。俺の記憶とか操作しなくていいのか?。」
また止まる。
また振り向く。
「無駄だ。おまえが起きるまでに色々試したが・・・効いてないだろう?」
「確かに」
なにが原因か知らないが俺には耐性がついたようだ。
今まで色々あったおかげだろう。
「・・・俺さ」
「うん?」
「今宮隆一って言うんだ」
これが最後の会話。華連は一瞬驚いて・・・少し笑った。
「私は閻魔華連。ではさらばだ。人間」
そして華連は森へと消えた。
その時光が射し込んできた。
長い夜がやっと終わる。
ザッ、ザッ、土を掘り返す。
あの後もう一度この木のある・・・記憶を取り戻したこの場所に来た。
驚いた事にこの場所は、簡単に言えば<復元>されていた。
焼け野原も切り倒されそうだった木も。
<死神>という奴は戦った痕跡を消すのがうまいようだ。
ここに来てピッタリ2年施設で生活した。
ようはここに来て2年たった記念として取りに来た。
間違いはない。
ちゃんと施設の人に教えてもらった。
「お、あった」
それはあの時使った小太刀。
ようは戦利品。
錆びないように服の布に包んでここに埋めておいた。
なんせ持ち帰っても取り上げられるだけだ。
「夢じゃない」
そう華連に会ったのは夢ではない。
何故覚えていようとするのか?
さあ、それは・・・俺にもわからない。
「さて、戻るか」
俺は歩きだす。
ああ、そうそうあの後、施設の人達にばれないようにこっそり入り込んで服を着替えるのに成功した。
赤色となった服は台所でばれないように燃やした。
偽装工作として冷蔵庫にあるもので料理を作った。
以外とおいしかった。才能はあると自負してる。
そして施設の人に発見され・・・まあ色々あってうやむやになった。
だから問題はない。脱走癖が付いた事を除けば。
・・・そして半年が経った。
2月、世間は節分やバレンタインデーなど騒がしいが、ここにはそんなものは関係ない。
しかし、進展というかあたりまえだが・・・やっとここを出ることになった。
でも・・・俺はそんなにやばそうに見られたのだろうか?。
と疑問に思いながら門の前の車へ向かう。
ちなみに・・・連絡方法は・・・手紙1枚で済まされた。
なんか愛想つかされたようだ。
行き先は、お世話になる所は・・・・・・・・・<久我峰>と言った。
今俺は12歳になる・・・
(17)
<漆黒の月(M:ネロ・カオス)>
「そうか私を殺すのか、人間」
これは
「まさか、な」
私の
「おまえが、私の死か」
最後の言葉
私は確かに死んだ。
無限に生き続ける不老など所詮まがい物。
だが・・・矛盾がおきた。
確かに私は死んだ。
だが<私>という存在は<666>からなる。
私が死んだ時、その全てがその場に居た訳ではなかった。
何という執念、いや往生際が悪いと言うのであろう。
だが所詮本体無き分身が集まった所で元に戻る事など叶わない。
だが俺はここにいる
俺は確かに存在している。
さて、行くとしよう。
全ては復讐のため。
全ては償いのため。
全ては・・・
俺が何故生きているのか知るために。
(18)
<13>という数字は不吉らしい。
地方によっては聖なる数字とされているらしいが。
だが、俺にとっては不吉な数字だ。
家族を失った日にち。
俺の今の年齢。
そして、今日は12月13日だ。
施設から久我峰家に移ったのは今から10ヶ月前。
13歳となった俺は中学生だ。
ちなみに私立なので試験をしたが合格した。
学業は問題ない。
施設では特別に専属教師がいたからだ。
でも、そんなのつけるなら施設から出してほしかった。
まあいい。特例として小学生をやらずにすんだからだ。
何故久我峰家にお世話になったか?。
詳しい事は知らない。
考えられるのは、俺が<反転>したかわからないからだろう。
あの日、槙久様がきた時、生きていたのは俺だけだ。
異端者を殺したのは俺と思われても仕方が無い。
異端者とはいえ9歳のガキが、他の異端者を殺すのはかなり無理がある。
<反転>したと思われても不思議ではない。
普通、異端の血をひく者が<反転>するのは成人してからだが特例はあるだろう。
でも、俺が殺される事はなかった。
自分の大切な妹の息子というのも有ったんだろうが、<反転>仕切ってないと判断されたのかもしれない。
ようは施設に容れられたのは<反転>しているか調べるためだった、と俺は考えている。
ここに連れて来られたのも、一応俺を殺せる人のいる所にしておきたかった、という事だろう。
しかし、わからない。
施設に容れられ続けたのは厄介者扱いだったとしよう。
呼ばれたのも、俺の脱走癖で手に負えなかったからとしよう。
何故、本家ではなく分家の久我峰家なのだろうか?。
本家のほうが問題が起きたとき、対処しやすいはずだ。
なにか、俺が本家来たら問題があるのだろうか?。
例えば、なにか<見られたら問題が有る物>でもあるのだろうか?
・・・おそらくこれが理由かもしれない。俺は好奇心旺盛だ。
それを知っていて俺が屋敷の探検でもするのでは、と思ったのかもしれない。
まあ実際そうしただろう。
よくお分かりだ。
まあこちらは気楽な学生生活を送る事にする。
友達もそれなりにできた。
部活もしている。
山岳部だ。
何故選んだか。
簡単だ。
体力は有るし、長いこと施設にいたせいか森や山が好きになったからだ。
ただ・・・<山>というものは決して侮れない。
特に俺の場合変な生物に関わる事がある。
あえて説明しない。
まあ今の所体験してはいない。
・・・それでも念のため戦利品の小太刀は持っていく。
もちろん学校へは持っていかない。
家の人たちにもばれないように、うま〜く隠している。
家・・・そう、久我峰の家は・・・一言で言うなら・・・某漫画の花○くんの家・・・というか馬鹿でかい洋式の屋敷だ。
メイドやら執事やらかなりいる。
俺は屋敷の二階の一室を使わしてもらってる。
不満は、そう礼儀作法はよしとする。
部屋に勝手に付けられた監視カメラと盗聴器は解除した。
厄介なのは知らぬ間にこれらが復活している事で常に水面下で争っている。
しかし、暗い施設よりはマシだ。
問題は・・・そうあの人が帰ってきた事だ。
<遠野槙久、死去>これが始まりだった。
まあこれはショックと言えばそうだが、悲しいという訳でもない。
それでも葬儀には行こうとした。
だが本家から「来なくていい」の一言で行く気がなくなった。
義理の気持ちだったし、来られてまずいなら行かないほうがいい。
問題はあの人だ。
なんでも現当主の秋葉さんがあの人を追い出したからだ。
ちなみに<アキハ>が<秋葉>というのは最近知った。
その時まで<明羽>とか<亜紀波>だと思っていた。
この際それはいい。
(イイノカ?)
(・・・いいんだよ)
もうわかっただろう。
久我峰・・・
「ほっほっ、久我峰斗波ですよ」
ビクッ。靴ひもを結んでいた手が震えた。
・・・また・・・気づかなかった。
いや・・・この人は別だ。
後ろを向く。
「こ、これは斗波さん。おはようございます。あの今のは?」
震えながら言う。
「いえ、ただ何となく言っただけです。それでは気をつけて。いってらしゃい」
そう言うと斗波さんは廊下を歩いていった。
以外に足が速い。
しばらく動けなかった。
「あの・・・隆一様?。お時間が・・・」
そばで見送ろうとしてくれていた若いメイドさんが言った。
「あ・・・はい・・・そう・・・ですね。」
ぎこちなく答え、靴ひもを結ぶ。
「それでは行ってきます」
ドアに手をかける。
「隆一様」
「はい?」
呼び止められた。
振り向く。
「斗波様は特別です。・・・それではお気を付けて」
ペコリ、お辞儀されたのでもう一度あいさつをして外に出た。
その通り、あの人は特別だ。
・・・一度あの人の部屋に入れてもらった事がある。そこは・・・
昔会った秋葉さんに似た女の人の写真がたくさん・・・
これ以上は言いたくない。
本当はカメラを貸して貰おうと思ったが、逃げた。
もちろん、悪い気はしていたがお小遣いはあった。
1ヶ月に1000円だ。
中1にはこれでも多い。
しかし、立派なカメラを貸して貰える、とあの部屋にいったのが運の尽き。
カメラを持つのに抵抗を感じてしまった。
ちなみに後で気づいたが、あの写真は、秋葉さんに似たではなく本人かもしれない。
そんな事があってか・・・何と言うか・・・馬が合わない事に気づいた。
合いたくもないが。
一緒にいたくないので外出も多い。
今日は山に一人で行く。
今日は試験休みなのだ。
久我峰の人には<山に行く>としか言ってない。
なんせ<山>=<部活>=<同伴者在り>と思っているからこれですむ。
嘘は言ってない。罪悪感は0。
こうして俺は電車で1時間ほど行った<鳳凰山>という上級者むけの山に着いた。
俺以外の登山者は見なかった。
<鬼>の力が有るので問題はない・・・はず・・・だった。
かなり登った所で問題が起きた。
歩くというより這う感じで斜めの所を移動した。
杭があったのでそれを掴みながら行った。
下手に力を使うと足場が崩れたり、バランスを悪くして落ちる可能性があった。
山や崖に突き刺さる杭は以外と頑丈・・・のはずだった。
もう、わかるだろう。
今は夜だ。左腕のデジタル時計を見る。
これは自分で買った物だ。
時刻は6時を過ぎた所。
どれぐらいか知らないが10〜20mぐらい落ちただろう。
だがこれだけなら何とかなった。
川というか、ものすごいベタなオチで下が激流だった。
何とか陸に上がり、念のため持っていたライターで集めた枝に火を点け服を乾かした。
服は軽いジャンパーの下に紺色の長袖とジーパンにTシャツとトランクスだけだった。
今日は暖かいほうだったからだ。完全ではないが大分乾いた。
完璧にできなかったのはやはり今が12月で服を長時間脱いでいられなかったからだ。
まあ、<鬼>の血のおかげか風邪はひいた事が無い。
とにかく来た道・・・川沿いを行こうとした。
しかし、俺はそうするより登山口と思われる方向に向かった方がいいと思い、森に入っていった。
・・・自信はあったが俺は山をなめていた。
こうして漫画などでよ〜くある<道に迷う>を堪能している。
「さて、どうするか」
ふと、前にもこんな森で迷った事があった。
・・・また襲われる事は・・・ないと言い切れないのが悲しい。
漫画など架空の話のような事を俺は何度も体験した。
だから注意をはらわないといけない。
ふと、気配を感じた。
ガサガサ、草が揺れた。
振り向く。
それは・・・
女の子だった。
向こうは驚いた顔をしている。
助かったー、と思うと同時に<襲われる>という事も感じたがすぐに違うと判断した。
理由は彼女が人間で殺気を出していないからだ。
何故女の子がここに?、というのは・・・無視した。
(・・・オイ)
「こんばんわ。」
気楽に笑いながら挨拶した。
「え、あ、こんばんわ」
言った。
その時この出会いが厄介事になると気づいてしまった。
(19)
12月ともなれば夜は早い。
だが、彼にはそんな事はどうでもいい事だった。
深く暗い森を歩く者がいた。
彼はもはや人とは言えない存在だ。
夜空にはそれは見事な満月が輝く。
太古よりその光は見る者全てを狂わせ、力を与えてきた。
しかし彼はそんな物には興味がないようだ。
この光は彼に、いや彼らに力を与えるはずなのに。
男の歩みが止まる。
そこには何もないように見える。
しかし・・・。
「ほう、結界とはな」
誰に語るでもなく言った。
「下手にこれ以上入れば気づかれるという事か」
そう言うと彼は体から夜と同じ色の鳥を十数は出した。
「行け」
そう言うと鳥は夜空へと飛んで行った。
「さて、二度は逃がさん」
再び長い夜が始まる。
今目の前にいる彼女は一見一般人に見える。
もちろん今もそうとしか見えない。
だが、こんな所に俺と同い年ぐらいの女の子がいるのはどうもおかしい。
彼女は黒い髪で腰まで届きそうな長髪をゴムか紐で髪を一本に結わえている。
服は膝まで届く黄土色のロングコートの下に白い長袖とねずみ色の長ズボンだ。
背は俺とほとんど変わらない。
歳は俺より同じか、少し上くらいかだろう。
華連とは違った魅力がある。
・・・・・・・・・・・・・・・・何となく、この間と展開が似ている。
・・・一応、下手に関わらないようにしよう。
さて何か話さないと。
「あ、あのさ」
「え、はい、何でしょう?」
今の彼女を表現するなら・・・そう・・・か弱い子狐みたいな感じだ。
しかし、直感だが化け狐にもなりそうだ。
「道に迷ったんだけど、抜け道知らないかな?」
素性はこの際無視する。
あっさり教えてくれるかわからないが、ここから消えてほしいと思ってるなら教えてくれるかもしれない。
「・・・え〜その〜出口は・・・」
何か困っているようだ。
じっと視てくる。
やはり・・・うんっ?。
「出口?、抜け道じゃなくて?」
言ってから<しまった>と気づいた。
明らかに今気づいてはいけない事に気づいた。
彼女は困ったような顔を下に向けた。
その時、今度は向かって右からまた気配を感じた。
どうやら彼女もだ。振り向く。
キラッ、何かが飛んで・・・ヤバイ。
ダンッ、思いっきり後ろに地面を蹴った。
ドスッ、今居た場所に何かが刺さる。
トンッ、そんな音がして目の前に影がいた。
右手に何か・・・来る。
もう一度後ろに跳んで攻撃を避ける。
これでも武忌と戦ったり、俺専属の部隊と戦ってきた。
だから、昔よりは鍛えている。
トンッ、後ろから地面に何かが突き刺さる音。
振り向く・・・どころか体が動かない。
とにかく不味い。
そして後ろから声がした。
「日神さん、この人はただの一般人です」
さっきに彼女だった。
「そんな訳がないだろう、千鶴。異端者の時点でおかしいだろう」
襲ってきたのはどうやら男らしい。
でも・・・。
「失礼な。そりゃ<鬼>の血が流れてますけど、おかしいなんて。好きでこんなの手に入れたわけじゃありません」
それは本心だ。
さて、俺はどうなるのだろうか?。
(20)
森・・・と言っても今は12月、木の枝には一枚の葉すらない。
地面には多少草が枯れずに残っている。
そこには人影らしき姿が木を背に座っている。
一人だ。
周りに生き物は存在していない。
代わりに何かの肉の塊が散らばっている。
「はー、はー、はー」
今日は比較的暖かい方だが、この者の息はとても激しい。
どうやら食事がまだ足りないようだ。
「もう少し、もう少しだ、あの黒コート、ヒーヒーヒッヒッヒッヒ、私は、死なぬ、今度は、殺す」
そう言うとその者は立ち上がり、どこかへ歩きだした。
「ヒッヒッヒッ。我が領域に犬が二匹か。ほう迷い猫一匹か。おもしろい、殺せるものなら殺してもらおうか」
その者は再び高らかに笑った。
さて、今の状況を説明しよう。
俺は動けない。
で、二人は何か言い争っている。
「異端とは言え無益な殺生は慎むべきです」
「黙れ、異端であること事態が罪なのだ。そこを退け」
千鶴という彼女は今俺の前に立って、何故か知らないが庇ってくれている。
・・・でも。
「とにかく、今は標的に集中するべきです」
「そいつは標的の仲間だ。殺す必要があるに決まってるだろう」
「彼は本当に関係有りません。」
・・・庇うならこれを解いてほしい。
「黙れ小娘、貴様のような見習いが上に逆らう権利などない。この事は帰って上層部に伝える。さあ、退け。退かぬなら・・・」
右手に持っている・・・斧を上に上げた。
そのまま殺すと言う意味だろう。
「ダメです。私の目の前で無益な殺生はさせません」
こちらも退かないようだ。
・・・さてどうしたものか。
「命令違反の上、この俺に対する反逆罪だな」
かなり・・・怒っている。
どうやら・・・気配?・・・他の意味で不味い。
「来るぞ」
「えっ」
「何だ?」
二人がこちらを向いた。
「だから、何か来たぞ」
「「・・・・・・・・はっ」」
スッ、スッ、スッ
何かが近づいて・・・
ヒュッ、ヒュッ、ザン、ザン、ザン、ゴウゴウゴウゴウブンッ
不味い今俺は・・・。
ダンッ、二人はその場を退いた。
・・・俺をほったらかして。
「こんのーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。」
ビギッ。ボキッ。バギッ。ガギィィィィィィィ。
なんて音がしながら腰を曲げ、頭を膝まで下げた。
下半身はまだ動かない。
スパッ、ブーーーーーーーーーーーンッ
なんて音がして<それ>が通りすぎた。
「あっ」
忘れていた。
俺は鞄を背負っていた事に。
さっきの<スパッ>で二つに切られた。
中身が地面に落ちた。
・・・まあ中身は軽い食事と水筒に地図と布で包んだは小太刀ぐらいなのでほっとく。
・・・沈黙。
スーーーースーースースー・・・ドンッドンッバンッガシャラッドスン
・・・何本か木が倒れた。
「くーーーー痛ってーーーあっ」
バタッ、倒れた。
あれほど動かなかった体が嘘のように動く。
でも上半身がかなり痛い。
おそらくかなりの数の骨が折れただろう。
生きてるのが不思議なぐらいに。
「はあ、はあ、くそっ」
無理やり起き上がる。
先程居た場所を見てみると、その場所の真後ろに何か刺さっている。
・・・わかった。
「忍者か?、あいつ」
ようするに影に刺して動きを止める奴で、上半身を曲げたため影が無くなり開放された、という事だろう。
「ふざけやがって」
あの千鶴と言う奴も、日神という奴も、今攻撃してきた奴もみんなふざけてやがる。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まあいい)
(ナニ?)
(こんな所を夜間にうろついていた俺にも問題がある)
(チョットマテッッッ!)
(まあ運が悪いと思ってあきらめよう)
(アノナ!ドウミテモ、ムコウノセイダゾ!!!)
(うるさいよ。遠野隆一)
(ワカッ・・・・・・ルカヨ。オマエナ、ヒトガイイトオリコシテ、バカナダケダゾ!!!)
(・・・・・・・・・・・・・さて、敵はどんな奴かな?)
(マタムシカヨ!!!)
そうこうする内に、足音が近づいてきた。
どうやら一人。さっきの二人は姿が見えない。
近くにいるとは思うのだが。
段々姿が・・・。
「えっ」
その姿は人の形をしていた。
しかもボロボロだが赤い着物を着た女だ。
身長は大体170前後。
体格は中肉中背という感じだ。
手には・・・さっき飛んできた・・・女の背ぐらいの直径を持つ輪・・・ゲームで見た事がある<チャクラム>という奴だろう。
問題はこの人の目だ。
例えるなら・・・腹ペコのライオンだ。
こんな目をしている人に着物は似合わない。
・・・何か・・・先が読めた。
「ま、ま、迷い猫・・・おいしそうだねーーーー」
だらしなく舌を出した。・・・状況がかなり不味い。
こちらの武器は3mぐらい右の草むらに落ちている。
しかもあまり動くと骨が内臓に刺さるかもしれない。
「あーあーあー、動かないで、すぐすぐすぐ楽にして、あげるわーーーーーーー」
投げた。
ダンッ、右に飛んだ。
すんでの所でかわす。
地面から小太刀を拾う。
(良しっ)
と思った瞬間、・・・後ろから。
シャンッ
「はっ。」
とっさに振り向き、小太刀下から上に動かし弾く。
チャクラムは右へ方向転換した。
なかなかいい動きだっ・・・。
「ごふっ」
血を、血を、血を吐いた。
どうやらどこかの内臓に骨が刺さったようだ。
その場に跪いた。
「あ〜ら、動かないの。さあ、おいしく食べ食べ食べ食べ食べてあげる〜〜〜〜」
今度はいつの間にか回収したチャクラムを投げずに飛び掛ってきた。
どうやら接近戦のつもりらしい。
キンッ
小太刀で応戦する。
キンキンキンキンキンキンキンキンッ
自分がチャクラムの円の中に入り、形状を利用した回転攻撃だ。
まるで<こま>のようだ。
「きーーーーーーーーーーーーーー、おとなしくしなさいーーーーー」
なかなか仕留められずにイライラしてるようだ。
小太刀で応戦しながら少しずつ下がる。
パラッ、小太刀を巻いていた布がとれた。
(チャンスはある)
そう思った。
単純な攻撃は対処しにくい。
だがこれはかなり大雑把だ。
まるでプロペラのような連撃。
当たればひとたまりもない。
しかし、当たらなければ意味はない。
冷静に。
よーく見る。
見る。
見る。
・・・・・・・・視る。
「ヒッ」
その声がした途端、攻撃が緩んだ。
サッ、踏み込む。
チャクラムの中に入った。
「あっ、ひっ」
視た。
<点>は胸の下あたりだ。
今狭い円の中には二人が対峙するよう・・・いや、もう一人だ。
ザッ、バタンッ
チャクラムが落ちる。
女の体が崩れていく。
まるで泥人形に水を掛けたように。
「フー、疲れた。」
その場を少し離れた土の上に座る。
そのまま座らなかったのはチャクラムに囲まれているからだ。
とにかく疲れた。
「・・・さてと、体の中やばいかなーーー」
そう、このままだとおそらく死ぬだろう。
上半身を複雑骨折しているのだ。
ここまで動けたのは、<鬼の血>のおかげだ。
普通の人間なら死んでいるかもしれない。
だが、その前にやるべき事があった。
気配は・・・真後ろに二つのみ。
「出て来たら?。お二人さん」
風で葉のない木々がざわめく。
その音の合わせて近づいて来る足跡。
俺は振り向いた。