Fate/Casterとnightその6 M:キャスター・独自キャラ 傾:ギャグ・壊れ


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1: 黒の衝撃 (2004/04/24 18:43:50)[dzeden at ybb.ne.jp]


「どうやら道に迷ったようだな・・・」

「ふっ・・・いかにも修一郎殿らしい・・・」

「これはもう道に迷ったなんてレベルじゃねぇ!! 遭難だ、遭難!!」

「「そうなんだ?」」

「うわッ―――――――――!!綾子――――――――ッ!!」

頭を抱えてゴロゴロと転がる漁師、もといランサー。木の根がゴツゴツと当たりひどく痛そうだ。それを黒のスーツに身を包んだ修一郎と巨大な乳母車を傍らに置いた小次郎が冷ややかな目で見つめている。

ここは深い、深い森の奥。
彼ら3人・・・いや4人がどうしてこんな場所にいるのかというと話は昨晩に遡る。








「・・・しかし、いつの間にかこのマンションも手狭になったなぁ・・・」

臓硯との戦いから1日が経過していた。
夕食を終えて食後のお茶会と洒落こんでいた修一郎は居間にそろった仲間たちを見て呟く。

メイド服を着たキャスター。エルフ耳メイドでプリンセスな彼女は優雅に紅茶を飲んでいる。彼女はメイドだがプリンセスなので家事・炊事等は一切しない。今日も今日とて朝から修一郎のトランクから見つけた「武蔵」なんかを組み立てていた。ガンプラには興味を示さないがリアル模型・プラモデルなどには興味を示すメイドなプリンセス様だ。

今日はスーツの上に白衣をまとったライダー、通称メーちゃん。今日の趣向はギャップ萌え。美人で眼鏡な女医さんでキリリとした表情が似合うが実はすごいドジっ娘という設定だ・・・っていうか本人そのまんまだし。彼女は缶ビールをチビチビやっている。本当はもっと飲みたいのだが彼女以外全員が「一日2本まで」と宣言したために味わうように、名残りおしそうに飲んでいる。

青いジャージ姿のランサー。通称、漁師。ランサーとして召喚されたがさまざまなクラスチェンジを経て現在「変態」のサーヴァントとしてこの場にいる。現在、女子○生、美綴 綾子とただれた関係、でも甘い日々を過ごしている。プライドを犬に食われたサーヴァント1のパシリの似合う男。

その漁師の隣でラブラブな最強女子○生、美綴 綾子。現在停学処分中。なのに居酒屋で飲んだり深夜まで外を出歩いたり、外泊したりと裏街道まっしぐらな生活を最近送っている。呪詛たっぷりの手作り釘バッドは修一郎どころか間桐 臓硯すら血の海に沈めた宝具級の一品。この中では一番の常識人。誰も彼女には逆らえない。

優雅に梅昆布茶を啜る着物姿の美男子、佐々木小次郎。通称、小次郎。剣の道に生きた侍の中の侍。
間桐 臓硯と別れて。現在未婚の母・・・でなくて父として修一郎の下で生活している。臓硯との間にあったことが原因で心に酷い傷を負っている。常識人だが酷く脆い。

そして巨大な棺桶のような乳母車で眠る真アサシン。通称、大五郎。なぜ大五郎なのかは推して知るべし。小次郎の腹から生まれでたこの赤ん坊は身長2メートル以上と小次郎よりも大きい。当然サイズの合う乳母車がなかったために修一郎が半日かけて一から作り上げたそれは乳母車、というよりも棺桶である。ちなみにその乳母車を押して公園デビューを果たした小次郎が公園にいた罪もない母子たちを恐慌状態にして警察に通報されるまでに至ったという微笑ましいエピソードもあるのだがそれはまた別の機会にお話しよう。


「狭い、というのであれば広い場所に引っ越してはいかがですか?」

「・・・あのねぇ、キャスター。最近出費がかさんで家の財政はやばいところまで来ているんだぞ」

早瀬 修一郎。職業「お宝ハンター」聞こえも姿も怪しい。新聞に載るときは住所不定無職だろう。結構な資金を持ってこの街に来たがその資金も底をつきかけている。

「まぁ、早瀬さんお金持っているようには見えないしねぇ・・・引越しは無理なんじゃない?」

「綾子さん、貧乏は嫌ですね。私なんかビールじゃなくて発泡酒ですよぉ〜」

綾子の発言にメーちゃんが泣き崩れる。もう酔っている。実は酒好きだが弱いのか。

「まぁ、俺ら全員住所不定の無職だし、兄貴一人に何とかしてもらうというのも無理なんじゃねーか。それに、引っ越すとかそういう問題ではなくて今一番の問題は風呂だろ?」

「すまない」

ランサーの言葉に小次郎が頭を下げる。一同は頭を下げる小次郎の背後、かつて風呂場のあった場所を見た。ユニットバスだったそれは大破して原型を留めていない。壁には穴が開き、水が噴出した水道管をさきほど小次郎、漁師、修一郎でなんとか止めたところだった。

「・・・大五郎があんなに暴れるとは思わなかったのだ」

小次郎の言葉に全員がため息をつく。真アサシン、大五郎を風呂に入れる、という時に全員がその役目を小次郎一人に押し付けたのだった。小次郎は泣きながら頑張った。一同はそれを見て見ぬふりをした。自分よりも大きな大五郎をなんとか風呂に運んだ時点で小次郎の精神は彼岸に半ば渡りかけていたが・・・。それでも全員が見て見ぬふりをした。正直言って今でも関わりたくないという気持ちが全員にあった。だからそのあと初めての風呂に怯えた大五郎の手によって風呂が破壊されたとき誰も小次郎を責めなかった。いや、責めようがなかった。全員が小次郎に負い目を感じていたからである。

「あー気にするな、誰も小次郎が悪いとは言っていない。悪いのは漁師だ」

「そうです。小次郎が困っているときに救いの手を差し伸べなかった漁師です」

「漁師は薄情ですね。海の男なのに」

「うーん・・・今のタイミングで出す話題じゃなかったかなぁ」

全員がそう言って漁師を責める。
その心は皆一つ。
「私(俺)は悪くない。誰かに押し付けちゃえ」

「なっ・・・ひでーよ兄貴・・・それに綾子まで」

最愛の人にまで裏切られ半泣きの漁師。その漁師に小次郎が優しく声をかける。

「いや、漁師殿が全て悪いのではない。そう・・・私が1割、漁師殿が9割と言ったところかな」

小次郎、メンバーの一員となってからすぐに力関係を理解したようだ。
ランサーが泣きながら部屋を飛び出していく。いつものことなので誰も止めない。どうせ1、2時間もすればひょっこりと戻ってくるのだ。

「ま、風呂の問題はしばらく銭湯に通うことでなんとかしよう」

修一郎がそう言って食後のお茶会は終了した。
そしてその日まだ風呂に入っていなかった男性陣で銭湯に行こうということになったのだが。











「それにしても修一郎殿、銭湯に行こうとして遭難するとはこの小次郎、思いもしなかった」

「俺もまさか洗面道具かかえて森を歩くことになるなんて思わなかった」

「「あっははははははははッ!!」」

笑う2人。

「現実逃避しないでくれ兄貴ッ!!ちくしょーッ!!綾子ッ!!俺は必ず生きて帰る!!」

泣き叫ぶ漁師。一緒に出かけたのは昨日の晩だがもうすでに12時間はさまよっている。
日付はかなり前に変わっていた。

「あれ?」

笑っていた修一郎がゴシゴシと目をこする。

「ん、どうした修一郎殿?」

「いや・・・気のせいかな。今、そこを美幼女が通り過ぎて行ったような気がするのだが・・・見間違えかな?」

「はっはっはっ、修一郎殿。こんな人気のない森の中にそんな美幼女がいるなどとは・・・」

小次郎が言いかけてやめる。漁師も何度も目をこすって現実かどうか確かめる。









「何やっているの、お兄ちゃんたち?」

彼らの数メートル先に、赤い瞳をキラキラさせ、銀色の腰まで届く長髪を風に揺らせた美幼女が立っていた。

2: 黒の衝撃 (2004/04/24 21:59:56)[dzeden at ybb.ne.jp]






「へぇ、この先にあるお城が君の家なのか」

「うん、と言ってもまだ誰か住んでいるみたいだけどね」

美幼女と一緒に森を奥へと進む修一郎たち。彼女の提案「お城に招待する」を受けてついでに休ませてもらおうことにしたのだ。

「しかし、こんな深い森の中で暮らすとは不便じゃねぇのか?」

「ここは寺よりも山奥だ」

ランサーの言葉に小次郎が乳母車を押しながら同意する。大五郎はまだ眠ったままだ。

「それはね、マネージャーさんがやってくれるから大丈夫。私のために何でもやってくれるの」

マネージャーとはよっぽどいい生活をしているのだなぁ・・・。それにしてもなんでもやってくれるのか。修一郎はそこまで考えてため息をついた。

「うらやましい話だ・・・家のメイドさんは俺に家事をやらせて模型作りやサターンで遊んでばっかりだ。一度だってご主人様って言ってくれないんだぞ」

「・・・家は女子の方が強いからな」

「・・・惚れた弱みだ。綾子には・・・くぅ・・・」

肩を落とし泣き出す修一郎とランサー。暗い顔で2人を交互に見つめる小次郎。

「ああ・・・一度でいいから『ご主人様ぁ』って言われたい」

「・・・できれば記憶を消して欲しい」

「俺は犬じゃねぇ、犬じゃないんだ・・・」

「ああ、膝枕で耳掃除してもらいたい」

「止めてくれ・・・そんな目で私を見ないでくれ・・・」

「・・・綾子、頼むから首輪はやめてくれ・・・」

沈んでいく男たちの思考。周囲の空気が黒く重くなっていく。






「お兄ちゃんたち・・・大丈夫? 気分悪いの?」

覗き込まれる。心配そうに小首を傾げるその姿に修一郎のメーターが振り切った。
この瞬間、まさに修一郎はまた一つ理想郷へと近づいたのである。

「萌えぇぇぇぇぇ――――――――――ッ!!!」

マイナスから反転プラスへ。ゴロゴロと転げまわって木の根にぶつかり傷をつくる。

「あ、兄貴・・・?」

「しゅ、修一郎殿?」

「漁師!小次郎!時代は妹だ!妹なのだ!!美幼女に『お兄ちゃん』と呼ばれる甘酸っぱさ。これが真の漢が求める遠き理想郷!!俺は忘れかけていた何かを取り戻したッ!!!」

唖然とする小次郎、ランサー、美幼女を尻目に修一郎は立ち上がり力説する。

「漁師、小次郎・・・おまえたちも想像するがいい、美幼女に『お兄ちゃん』と言われて抱きつかれるシーンを・・・!!わかるか!?わかるだろう!?わかるよなっ!!」

「・・・ああ、兄貴。俺また新しい扉開いちまったよ・・・」

感涙の涙を流しながら影の国の師匠に報告するランサー。

「・・・ふ、人妻という単語にしか萌えなかったこの私にもフツフツと沸いて来るこの熱いものはなんだ・・・これが萌える、ということか・・・?」

「わかってくれたか同志よ」

「兄貴・・・」

「修一郎殿・・・」

3人で肩を並べて泣き出す姿はどう見ても異常だ、絶対引く。

「・・・お兄ちゃんたち・・・変」

じりじりと距離をとりながらそう呟く美少女に

「「「お兄ちゃん萌え――――――――っ!!」」」

と大の大人がゴロゴロ転がるさまは恐怖以外の何ものでもない。

「いや、いや、変態がいる――――――――――――ッ!!!」

恐怖に悲鳴を上げながら美幼女は逃げだした。



「っ!!しまった!!逃げられた!!」

「追え!追って捕まえろッ!!」

「もう一度お兄ちゃんって言ってもらうのだ!!」

修一郎、ランサーが走る。遅れて乳母車を押しながら小次郎が走る。全員が血走った目で美幼女を追うその姿はまさに変態。警察も発砲を許可する変態ぶりだ。















アインツベルン城。
今ここでは一方的な戦いが今まさに終わろうとしていた

「■■■■■―――――――――!!!」

咆哮があがり黒い巨体が駆けた。
十度目の死を越え男へと突進する。
さながら闘牛のごとき突進に男は舌打ちをする。

「下郎――――――――!」

何十もの矢が黒い巨体へと迫る。
そのすべてを最後の猛りなのか弾き巨人は男に肉薄する。
斧剣が走る。
今まで一度たりとも男に振るわれることがなかった剛剣が一閃され―――――

「――――――――天の鎖よ――――――――」

男の声にどこからか現れた鎖によってバーサーカーは捕らえられた。

「■■■■■■■■」

「ち、その鎖ではおまえを絞め殺すには至らぬか」

男はそう言って片手を挙げる。男の背後に無数の宝具が浮かび上がる。

「やだ――――――――戻ってバーサーカー」

バーサーカーのマスターであろう少女が令呪を使いバーサーカーを戻そうとする、が

「なんで・・・?私の中に帰れって言ったのにどうして・・・?」

「無駄だ人形。その鎖に繋がれたものはどんなものであろうと逃げることはできん。令呪による空間転移など、この我が許すものか」

そして男が片手をバーサーカーに向けようとしたその時。










「あ――――――――ん!!変態が、変態が追っかけてくる――――――――――ッ!!!」

泣きながら飛び込んでくる美幼女。


「もう一度お兄ちゃんと呼ぶのだ――――――――――――――ッ!!!」

間をおかずに飛び込んでくる黒いスーツの男。

「さぁ!お兄ちゃんの胸に飛び込んでおいでぇ――――――――!!!」

青いジャージ姿の男。

「さぁ、お兄ちゃんとままごとでもしようではないか!!」

乳母車を押した侍。








なんかもうぶち壊しだった。


3: 黒の衝撃 (2004/04/25 03:03:28)[dzeden at ybb.ne.jp]



「ギルお兄ちゃん、変態が、変態が・・・!」

泣きながら男に抱きつく美幼女。その背中を優しく叩きながら男は新たな侵入者を見た。

「む・・・あの雑種は」



「くっ・・・なんてうらやましい光景だ」

修一郎はそう言ってギリッと唇をかみ締める。切れて血が流れ落ちる。だが、こちらを睨みつける男と視線が合い表情をいぶかしげなものに変える。

「兄貴、あいつはギルガメッシュだ」

ランサーが囁く。

「そんなやつ聞いたこともない・・・が、どこかで会った気がする」

「あの金髪からするに日本人ではないようだが」

首をかしげる修一郎と小次郎。

「そこの雑種。この間の我に対する無礼、忘れたとは言わせんぞ」

ギルガメッシュが修一郎を睨みつける。

「知らん。記憶にない」

堂々と胸を張る修一郎。彼は自分に都合の悪いことは早めに忘れるようにしている。

「ふざけるなっ!教会で我を盾にしおって、危うく死にかけたのだぞ!!」

しばしの沈黙のあと。

「・・・ああ、思い出した。キャスターと教会に行ったときに出会った盾男か。君が丈夫だったおかげで俺は死なずにすんだ。いやーどーもありがとう」

「殺す」

切れたギルガメッシュ宝具の一斉掃射を放とうとしたとき

「駄目だよ、ギルお兄ちゃん。なんでも力で解決しようとしたら。変態さんでも殺しちゃ駄目だって、アンリいつも言っているでしょ?」

ギルガメッシュに抱きついていた美幼女がそう言って頬を膨らませる。

「・・・む、そうであったな・・・我としたことが雑種相手にムキになるとは・・・」

苦渋の表情でしぶしぶと手を下ろす。

「ここはアンリに免じて見逃してやるからさっさと消えるがよい」

ギルガメッシュは去れ、と背中を向ける。その背中にランサーが尋ねる。

「なぁ、ギルガメッシュ。おまえはこんなところで何をやっているんだ?」

「ランサーか。死んだと聞いていたが生きていたのか」

首だけを動かしチラリとランサーを見る。

「俺は往生際が悪いのが売りでね・・・で、おまえは何している。見れば戦いの途中だったみたいだが」

ギルガメッシュの前方、鎖に繋がれた大男を見てランサーが言う。おそらくアレはバーサーカーだろう。

「ふん、アンリと暮らすのに新しい新居が欲しかったのでな。この城を手に入れようとしたまでのことよ」

教会が全壊して追い出されたのは言峰だけではなかったということだ。

「ついでに我にふさわしい妹がいたので手に入れようとしたがこの大男が邪魔をするのでな」

「・・・妹?」

修一郎は呟いてギルガメッシュの視線の先を見た。
その先にいたのは―――――――

「・・・イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

「修一郎殿の知り合いか?」

修一郎の呟きを聞いた小次郎が尋ねる。が、それを無視して修一郎は叫ぶ。

「そうはさせんぞ、ギルガメッシュ!!美少女は世界の宝!!みんなの希望!それを1人だけではなく2人も妹にするだと・・・うらやましすぎるッ!!」

「・・・雑種が我のやることに口出しをするな。せっかくここは見逃してやるというのだ。去れ」

「黙れ!1人で2人も美少女妹だと・・・許せん!!人として・・・漢としてそんなうらやましいこと絶対に貴様にはさせんッ!!やるなら俺だ!!」

「吠えるな雑種。妹を集めて暮らす兄の幸せ・・・その幸福を味わうのは王たる我だけのために存在するのだッ!!」

「集める、だと・・・貴様、貴様何人集める気だッ!?」

「12人だ。12人集めてシ○ター○リン○スを実現するのが我の野望よ。これぞ王たる我にこそふさわしい・・・!!」

「くっ・・・間違っている。おまえは間違っているぞギルガメッシュ・・・妹は、妹は数ではないのだ。12人いたって実際に気にいるのは1人か2人なんだ・・・無駄に貴様の妹にされて人類全体の至宝を汚されるなど俺は断じて認めないッ!!」

「そうだ、修一郎殿の言うとおり。妹は数ではない。どれだけ萌えることができるかということが問題だ」

「なんでも集めればいいと思いやがって・・・おまえの悪い癖だ」

小次郎が頷きランサーがため息をつく。

「ふっ、持てぬ者の僻みか、見苦しいぞ雑種。我は貴様ら雑種がいくら吠えようとあの妹は頂いていく」

そう言ってバーサーカーに止めを放とうとするギルガメッシュ。

「アンリよ。今おまえに姉妹を作ってやろう。少しの間、目をつぶっているがいい」

「うん。ギルお兄ちゃん」

アンリが静かに目を閉じる。

「いやだよッ!!バーサーカー!!」

イリヤの悲痛な声が響く。それは止めを刺されるバーサーカーに向かったものか、無理やりギルガメッシュの妹にされてしまう自分に向けたものなのか。もしかしたら両方かもしれないが・・・。
だが、その声に押されて修一郎は叫ぶ。

「まて、ギルガメッシュ!!貴様、俺と勝負しろ!!」

修一郎の言葉にギルガメッシュの手が止まる。

「雑種、この我と勝負するだと?」

「ああ、この勝負に負けたら俺は潔く引く。だが俺が勝ったら貴様の野望、あきらめてもらうぞ」

4: 黒の衝撃 (2004/04/25 22:18:47)[dzeden at ybb.ne.jp]









「「「申し訳ありませんでしたッ!!!」」」

ガタガタ震えながら土下座をする修一郎、ランサー、小次郎。
彼らの前で、にっこりと笑うメイド服のキャスター。

「で、どういうことか説明していただけますか、マスター?」

笑みを崩さずに問いかけるキャスターにランサーと小次郎はホッと胸をなでおろす。よかった自分にまわってこなくて。

「・・・すみません、それを今から説明するので、そのモップで小突くのやめてください」

「マスター、勘違いなさっては困ります。これは小突くのではなくて掃除をしているんです」

笑みのまま修一郎を小突くキャスター。濡れたモップで小突かれて修一郎はビショビショだ。
綾子が顔を背ける。あれはトイレの水を浸したものだということを彼女は知っていた。

「ごめんなさい。すみません。すみませんから掃除の手を休めて聞いていただけないでしょうか?」

「・・・そうですね。何かをしながらマスターの話を聞く、というのも失礼ですわね」

モップを止めるキャスター。修一郎はおびえた顔をしながらゆっくりとトランクに手を入れる。

「それでは、いつものようにコレをつかっ・・・痛いッ!やめてキャスター腕がちぎれるッ!!」

「それはもういいです!!普通に説明してくださいッ!!」

トランクを踏みつけ怒鳴るキャスター。修一郎の腕はトランクに挟まれていた。

「まぁまぁ、キャスター、マスターの説明をまず聞きましょう」

それまで様子を見ていたライダーがそう言ってキャスターを止めなければ修一郎の腕はトランクにちぎられていたかもしれない。

「はぁ、はぁ・・・わかりました。マスターの説明を聞いてから彼らのお仕置きを考えましょう」

「え――――――ッ、俺も!?」と顔にべったりと貼り付けてランサーと小次郎が青くなった。









「ほう・・・雑種の分際でこの我に勝負を挑むとはいい度胸だ。せめてもの褒美に苦しまずにすむよう一瞬で殺してやろう」

ギルガメッシュの言葉に反応するように背後に無数の宝具が浮かび上がる。その数40以上。その一つ、一つが必殺の威力を持っており生身の人間ならばかすめただけで死ぬだろう。

「ふっ、あわてるな、ギルガメッシュ。勝負の方法は何も剣だけではない」

「何?」

「貴様は妹にこだわるところを見ると、相当の妹属性と見たッ!!しかも筋金入りの妹属性。妹の話題だけで徹夜で語りあかせそうなぐらいの妹属性ッ!!妹の本質を知り、妹萌えのなんたるかを知る・・・結構な高みにまで上りつめた強者、萌えの強者と見た!!」

「な、何が言いたいのだ雑種」

ちょっと引くギルガメッシュ。真っ向からそう宣言されると少し恥ずかしいものがある。

「ギルガメッシュ、俺と『萌え』で勝負しようではないかッ!!」

ビシッ、とギルガメシュを指し宣言する修一郎。その宣言に驚愕の表情を浮かべるランサー、小次郎。一瞬唖然とするギルガメッシュだが

「ふふ・・・妹こそ無敵、妹こそ無敗。その萌えを知る我に勝負を挑むとは・・・貴様正気か?」

「正気だ。俺はそれを打ち破り貴様に勝利する」

ギルガメッシュと修一郎。彼らを中心に緊迫した空気が流れる。睨み合う視線はゲイ・ボルクより鋭く見据える者の心臓を穿く。立ち上る闘気は小次郎が修行の果てに見出した剣筋よりも鋭く、速く触れる者を切り裂くであろう。小次郎は確かに修一郎の背後に立つ7つの制服を、ギルガメッシュの後ろには熊のぬいぐるみとソフトクリームを持ってにっこりと微笑みかける口の周りにクリームがついた美幼女の姿を見た。

なんとすさまじい闘気。しかし、素に戻るとなんと虚しく納得のいかないものか。

「よかろう、貴様の言う勝負、受けてやろう。して、その内容は――――――――――」

ギルガメッシュの言葉に修一郎はニヤリ、と笑った。









「・・・・と、いうわけなのだ」

無言で放ったキャスターの拳が修一郎を打ちのめす。
彼は窓を突き破り落ちていった。ここはマンションの5階である。

「・・・キャスター殿。それ以上やると本当に・・・いえ、なんでもないです」

キャスターに睨まれて目を逸らす小次郎。救援は届く前に死んだ。

「キャスター。まだ、勝負の内容まで語られていないのにマスターを落としては続きが聞けません」

「あ、大丈夫じゃないライダーさん。早瀬さんならきっと『死ぬかと思ったぞ』とか言って血まみれで這い登ってくるって」

ライダーの言葉に手をヒラヒラさせて答える綾子。彼女もずいぶん染まった。

「・・・死ぬかと思ったぞ。キャスター、せめて最後まで話を聞け」

綾子の言葉通り頭から血を流した修一郎がベランダによじ登ってきた。
肩をすくめる綾子。

「いいか、今回の闘いはいつも以上に真剣なのだ。なんせ美少女の命がかかっている。この早瀬 修一郎一世一代の大勝負なのだ。これに勝たなくて聖杯戦争なぞ勝ち残れるわけがない」

「・・・キャスター、兄貴の弁はともかくギルガメッシュは強敵だぜ。まともに戦ったらまず勝ち目はねぇ。兄貴が勝負の方法を変えてくれなかったら俺ら全員死んでいたかもしれねぇ」

拳を構えるキャスターを怯えた目で見つつランサーが援護を出す。

「ふむ、なんせバーサーカーすら相手にさせなかった男だからな」

小次郎が頷き、隅に座っている銀髪の美少女をチラリと見た。不安そうに下を向く彼女は男ならば誰もが守ってやりたくなる雰囲気を持っている。現に小次郎、今は亡きバーサーカーに代わって彼女を護ろうと決心している。

「・・・彼女はバーサーカーのマスターですか?」

ライダーの問いに修一郎は頷く

「ああ、バーサーカーのマスターでギルガメッシュの元妹候補で現在は俺の妹、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。通称、さっちゃんだ」

「どっから出てきた!?さりげなく自分の妹にするなッ!!」

突っ込む綾子。修一郎以外の全員が頷く。

「修一郎様。通称はイリヤ、イリヤ様でないかと」

「修一郎、頭よくない」

冷静に訂正するセラと直球なリーズリット。イリヤの後ろに控えるこの2人のメイド。彼女ら3人だけが修一郎たちと共にアインツベルン城を脱出できた。バーサーカーは・・・。

「・・・ジョークです。だから突っ込みで正拳突きはやめなさい綾子君。痛いから。それとリーズリット。時に言葉は拳以上に人を傷つけるから言動には注意しなさい」

曲がった鼻を直しながら修一郎は涙目で言う。

「まぁ、イリヤのために俺たちは一丸となってギルガメッシュと勝負しなくてはいけない。そのためにみんな俺に力を貸してくれ。決戦は次の日曜日、冬木市総合体育館」

そこまで言って修一郎はイリヤを見た。

「イリヤ、君を必ず真の漢たちのアイドルにしてあげよう」

なんか嫌だ。

5: 黒の衝撃 (2004/04/26 16:19:29)[dzeden at ybb.ne.jp]







穂群原学園。
山の中腹に建てられた学校であるため。登校の際、坂道がきついと大評判な学校だが生徒の自主性を重んじる校風もあり比較的近隣の学生に人気のある学校である。男子の地味な制服は人気が低いが女子の制服は地味ながらも気品がある、と人気が高い。

「ならば、萌えの似合う女子○生が多数、その存在をアピールできずに埋もれているに違いない」

サングラスにダークスーツ。怪しげな黒いトランクを下げた男はそう呟いてタクシーを降りる。
平日の午後。学園は授業も終わり運動部がグラウンドで練習前の準備運動をしていたりする。

「・・・案内はしてあげるけど・・・停学処分中なんだよ、私」

「マスター、美綴さんに迷惑をかけることだけはお止めくださいね」

そう言って続いて降りてくる2人。一人は穂群原学園の制服を着た気の強そうな美少女。もう一人はメイド服に身を包んだ美女である。

「安心しろ、俺は人質交渉人としてロスで活躍していたこともある交渉のプロだ。綾子君の停学処分ぐらいどうにでも取り消すことができる。そう約束しただろう?」

男は自信満々にそう言って校門をくぐる。

「お客さん!運賃払ってくださいよ!!」

タクシー運転手の声にあわてて戻ってきたが。





男の名は早瀬 修一郎。自称「お宝ハンター」冬木で密かに行われている制服戦争・・・じゃなくて聖杯戦争に参加しているマスターである。少女・・・あ、すみません美が抜けていました。美少女の名は美綴 綾子。この学園に通う現役学生、弓道部主将。現在、不純異性交遊で停学処分中。そしてメイド服に身を包んだ美女はサーヴァント・キャスターである。
何故、彼ら3人が穂群原学園にやってきたのか。その話は数時間前にさかのぼる。










「で、できたっ!!やっと完成したぞっ!!」

ベランダでみかん箱を机に原稿を書いていた修一郎が部屋に入ってくる。2月の風は冷たく長時間外に放置されていたため顔は真っ白、唇は紫になりかかっていたが目はギラギラと輝いていた。その姿まさに幽鬼のようである。

「兄貴、おつかれ。それがギルガメッシュへの切り札か」

ランサーがそう言って温かいお茶を修一郎に淹れる。小次郎も興味深げに修一郎の手にした原稿用紙を見る。

「うむ、これで俺たちの勝利は間違いない。多少の問題が残るがみんなの力を合わせれば圧倒的な勝利をもたらすことは間違いない。そう断言できる作品に仕上がった」

「圧倒的勝利、か。あのギルガメッシュ相手にそう断言できるとは・・・修一郎殿、さすが」

「よせ、小次郎照れるじゃないか。ところでキャスターたちの姿が見えないが・・・」

「・・・向こうの部屋でゲーム中。出来たら呼んでくれ、とさ」

「まぁ、この家での我らの立場などこの程度のものであろう」

しんみりと小次郎が言って乳母車の大五郎をあやす。

「ばぶー」

隣の部屋から聞こえる女性たちの歓声。12連鎖が決まったらしい。
修一郎の足元にポタリと水滴が落ちる。

「・・・そうだよな。でもなんでこんなに涙が止まらないんだろう・・・?」

「あ、兄貴・・・」

「修一郎殿」

無言で涙する男3人。それを不思議そうな顔で見る大五郎。大きくなったらせめて対等な扱いをしてくれる女性と暮らすのだよ・・・これ以上大きくなっても困るけど。

「なぁ・・・漁師」

泣きながらランサーを呼ぶ修一郎。

「なんだい兄貴」

顔を涙で濡らしてくしゃくしゃにしながら修一郎を見るランサー。

「悪いがこれを10部ほどコンビニでコピーしてきてくれ。大至急。ついでになんか弁当も買ってきてくれ腹減った」

「ランサー殿、私の分も頼む」

部屋を満たす沈黙。隣の部屋から聞こえる歓声が遠い世界のようだ。






「兄貴のバカヤロ――――――――ッ!!」

原稿を引ったくり泣きながら飛び出していくランサー。
さすがサーヴァントで一番パシリの似合う男。













「・・・色々と不満はありますが・・・今回は勝利のため、ということで割り切ることにします」

「私にも渡されるということはさぁ・・・私も出るってこと?」

「またあの時と同じようなことをするのですか?」

「何この下品な内容は!?こんなのレディにやらせる気!?」

「イリヤ様。はしたないです」

「修一郎、やっぱり頭おかしい病院逝け」

不満を漏らす女性たちとは別に小次郎もランサーもやる気だ。とくにランサーは前回登場すらなかっただけに今回は嬉々としてシナリオを読んでいる。

「駄目だぞ、みんな主演女優なのだからこのぐらいで不満を上げるなんて。特にキャスター、メーちゃん、イリヤはそんな不満ばっかり言っているから原











只今、お見苦しい発言がありましたことを心よりお詫び申し上げます。
チャンネルはそのままでしばらくお待ちください。











「とにかく、やるといったらやるの。何人かは何役か掛け持ちになるけどその点はよろしく」

「兄貴、それにしても人数が足りないと思うぜ」

「しかし、これ以上人を増やすなどと言っても我々には知り合いなどいません。敵対者ならいますが」

ランサーの言葉にライダーが答える。サーヴァントである彼らの知り合いといえば元のマスターぐらいのものである。マスターである修一郎やイリヤは冬木の人間ではないので知り合いは近くにいない。敵対するマスターはいるが。

「・・・ふっ、いるではないか一人。この冬木に住み、学校に通う現役の女子○生が・・・」

修一郎の発言に全員の視線が綾子に集まる。

「あ、え、私?」

集まる視線に戸惑う綾子に修一郎は悪魔の笑みを浮かべて頷く。

「その通り、綾子君に現役の女子○生を紹介してもらうことにする」

「おおっ!」とあがる声。
女子○生という言葉にランサーと小次郎が男泣きする。もうどっぷり駄目だ。

「と、言うわけで綾子君の通う学校に案内してもらう。が、全員で行くのも綾子君に迷惑がかかりそうなので俺と綾子君ともう一人ぐらいで行くことにする。こういうところまで気を使うとは・・・さすが俺、と褒めてあげたい」

「と、ちょ、ちょっと待った!もうそれは決定事項なの!?」

あわてる綾子。この中の誰が来てもそれは迷惑極まりない。というか来て欲しくない。

「決定事項だ」

宣言する修一郎。

「で、でも私、停学中だし、そういう状態で学校に行くのはマズイかなぁ・・・と」

「ふっ、安心したまえ。その点は俺が責任を持ってなんとかしよう。さぁ、綾子君。一緒に出かけるメンバーを選びたまえ」

修一郎が宣言する。

「綾子、俺を選びな。俺はおまえを何があってもおまえを護ってみせる」

キラッと業界人のごとく白い歯を光らせながらランサーがウインクする。いい笑顔だ。

「ふっ・・・この佐々木小次郎。華麗に美綴殿をえすこーとしてしんぜよう」

髪をバサァとなびかせて小次郎が言う。こちらも自分の持ち味を生かしたいい顔をしている。

綾子は内心暗雲たる思いでため息をつく。早瀬さんを連れていくことが決まった時点でこの2人は除外だ。ランサーを連れて行こうかな・・・と一瞬思ったが、早瀬さんとつるむと大変な事になるのは過去の経験から目に見えている。小次郎を連れて行くとなると当然あの不気味な赤ん坊もセットということになる。・・・・だって子連れ狼だし。ここまで考えてこの2人はパスだ。
女性陣はどうか、と見ると・・・昨日会ったばかりのイリヤ、セラ、リーズリットを連れて行くことには不安がある。ライダー、もといメーちゃんはどうか、と言うと今日の服装はチャイナドレスとわりかし(ナース服より)まともな服装だが・・・学校に連れて行くのには過激すぎると思う。夜に新都を歩くならまだマシかもしれないが・・・それに早瀬さんの暴走を止めることがはたしてできるのか?彼女は逆に不用意な発言で早瀬さんを煽ってしまいかねない。キャスターは意外と抜けているところがあるが真面目で常識人だし早瀬さんの暴走を止めることができる、この中では数少ない人だと思う。思うが・・・普段着でメイド服を着ているのは正直どうかと思う。痛い、痛すぎる。なるべくなら一緒に歩きたくない。だが・・・・。

「じゃあ、キャスターさん、一緒に行きましょうか?」

「私ですか!?」

「ええ、この中で早瀬さんを止めることができるのはキャスターさんしかいませんから・・・」

疲れた笑みを浮かべる綾子。今日の痛みよりも今後も学校に通える道を選んだらしい。

「あ、綾子ッ!!なんで俺じゃないんだよっ!!」

「美綴殿、もう一度考え直すべきだ」

騒ぎ立てるランサー、小次郎に魔力を乗せた輝く拳を放ち、キャスターは疲れた笑みを浮かべた。

「・・・美綴さん。私も結構苦労しているんですよ・・・」

「・・・お気持ち、お察しします」

壁にめり込んだ男2人を視界の端に収めながら綾子は言った。








「お客さん・・・あと230円ですよ。早くしてくださいよ」

「え、あれ?おかしいな・・・財布をここに入れておいたはずだが・・・ポケットの中に小銭は・・・」

ポケットというポケットをまさぐる修一郎。

「「・・・はぁ・・・」」

情けない修一郎の後ろ姿を見てキャスターと綾子はため息をついた。
まだ日は暮れそうにない。早く暮れてしまえ、と願いつつ虚しい時間は過ぎていくのだった。

6: 黒の衝撃 (2004/04/27 18:53:01)[dzeden at ybb.ne.jp]





「まったく、慎二といい美綴、おまえといい何を考えているのだ。学生としての身分を考えて行動して欲しいものだ」

コトリ、と番茶を入れた湯のみを机に置いて穂群原学園、生徒会長、柳洞 一成は目の前に座る美綴 綾子を睨みつける。

「いや、まぁ、色々と事情があったのよ、うん」

そう目を逸らしながら言い訳する綾子。

「ほう、不純異性交遊で停学になるような事情が、か」

腕を組み、綾子を睨む一成。

「そう美綴さんを責めにならないでください。理由は話せませんがそれはこちらの落ち度です。彼女に責任はありません」

それまで黙って2人のやり取りを聞いていたメイドがそう綾子をかばう。

「失礼ですがあなたは?」

「キャスターと申します。このたびはマスターが美綴さんに迷惑をかけた、ということで学校側に謝罪にきたものです」

キャスターはそう言って申し訳なさそうに目を伏せた。
穂群原学園生徒会室。一成、綾子、キャスターの3人は長机を挟んでわずかな緊張をはらみつつ会話を続ける。修一郎はいない。彼は一人で話をつけてくる、職員室へ向かった。廊下で彼を待っていた2人は偶然通りかかった一成に

「美綴、おまえ停学処分中なのに学校に来るとは・・・!!」

と、ひとしきり騒がれた後に人の目につかない場所に行こうと一成を連れて生徒会室に移動したのだった。




「それで、マスターというのは・・・そのあなたのご主人のことですか? そのご主人が美綴にかけた迷惑とは・・・まさか・・・」

ご主人、と言う言葉に傷ついたキャスターだがそれをおくびにも出さずに静かに話しだす。このこめかみに良く見ると青筋がたっているのが見受けられたが一成は気がつかない。

「いえ、美綴さんに迷惑をかけたのはマスターが飼っている犬です。どうしょうもない青い犬です。パシリの似合う青い犬です。飼い犬の不始末は飼い主の責任。そういうことでマスターが美綴さんの停学処分について取り消してもらえるように謝罪にきたのです。ですから、あなたが想像したようなことではございません」

この場に修一郎がいたならば
「あ?若さに任せて欲情の限りを尽くしたことまで俺の責任にされても困るぞ」
と言うであろうが修一郎はいないので話が混迷を極めることはなかった。

「・・・犬ですか。しかし・・・」

「犬ですッ!どうしようもない駄犬ですッ!!」

疑問を口にしようとした一成をさえぎるキャスター。その迫力に一成は椅子を引く。

「わ、わかりました・・・」

「そうです。それ以上の詮索は無用に願います」

そう言って一成の淹れたお茶を飲むキャスター。何かそれでも言いたそうに綾子に視線を向ける一成と視線を逸らす綾子。気まずく重苦しい雰囲気が3人を包む。

「ま、まぁ、さ。そういうことだから・・・ははは」

「そ、そうだな。他人のプライバシーを詮索するとは修行が足らんな・・・ははは」

綾子と一成の乾いた笑いが生徒会室に響く。
が、すれもすぐに止まり気まずい雰囲気が3人を包む。

た、耐えられん・・・この空気には耐えられん・・・!!何故俺はここで茶など綾子とメイドにふるうハメになったのだ・・・わからん。まだまだ修行不足ということか・・・・!!

一成は頬を伝う冷たい汗を拭うと気分を変えるため外の空気を吸おうと窓を開けるため立ち上がる。その一成の目に奇妙な光景が映った。



陸上部がグラウンドで練習をしている。それはまぁ、普通の光景だ。だがしかし、走っている女子陸上部員の横をビデオカメラを抱えて併走する黒いスーツの男はなんなのか。



「何者だアレは!?一体神聖な学び舎で何をしていると言うのだッ!?」

叫ぶ一成につられ綾子とキャスターと綾子が立ち上がり窓からその光景を見た。

「なっ!」

「マスタ――――――――ッ!!!」

叫ぶ2人。一瞬にして殺意と怒気が生徒会室に充満する。

「ひっ!」

その迫力に怯えた声を上げ震える一成の目の前でキャスターの持っていた湯のみが派手な音を立てて砕け散った。おそるおそる顔を上げた一成はそこに確かに夜叉を見た。

「美綴さんッ!行きますよ!マスターに死の鉄槌をッ!!」

生徒会室を飛び出していくキャスターと綾子。その背後でバタン、と音がした。
一成が恐怖で卒倒した音である。

7: 黒の衝撃 (2004/04/28 02:59:57)[dzeden at ybb.ne.jp]







蒔寺 楓は全速力で走る。
おそらく短い人生の中でこれほど必死に走ったことはない。
その顔は引きつり恐怖に歪んでいる。

「はっはっはっ、すばらしい走りだ。だが、まだまだ甘いッ!!」

隣を併走する黒いスーツの変態。こちらが必死に走っているというのにこちらにカメラを構えなおかつ欽○ゃん走りで余裕を持ってついてくるというのはどういうことなのか。もしかしたらこいつは化け物なのか!?変態で化け物なんて救いがない。それに追いかけられる、というか併走されている自分はもっと救いがない。 駆け抜ける400メートル。心臓がバクバクいっている苦しい。たまらずへたり込んだ。

「すごい、蒔ちゃん新記録!!」

タイムを計っていた少女が歓声を上げる。状況を読め、この異常な事態をなんだと思っている。いや、周りが気づいていないのか。この変態は私だけが見えるのか?半ばパニックになった頭を振るって顔を上げた。

「ふふ・・・すばらしい走りだった。が、まだ俺にはかなわないようだな」

カメラから目を離して胸を張って自分を見下ろす変態がいた。

「お、おまえはなんなんだよっ!!」

涙目になって叫ぶ。

「うむ、いきなり400メートルを走っていた蒔の字を後ろからカメラを回しながら追いかけ併走、ゴール直前で追い抜くとは只者ではあるまい。筋金入りの変態と見た」

「君、変態と指して言うのはやめなさい。軽はずみな言動は人を傷つけるからね」

「うむ、しかし、お主を見ていると変態と言う言葉がぴったりのように思えるのだが変な人」

「鐘、おまえなんで平然とこんな変態と会話できるんだよぉ」

涙声で言う蒔寺に

「何、このように変態・・・もとい変な人と話すことなどおそらくもう無いと思うのでな。何事も経験だと思い会話していたまでだ。そろそろ職員室か警察にでも連絡を入れるか」

氷室 鐘はそう冷静に答える。

「待て、待ちたまえそこの美少女。俺の名は早瀬 修一郎。今世紀が生んだ最高のお宝ハンターだ。けして怪しいものでも変態でもない」

しばしの沈黙ののち

「・・・・変質者が出るのはもう少し暖かくなってからだと思ったが・・・・」

「だから俺は変質者じゃないって!」

「いいえっ!!あなたは十分に変質者ですッ!!変態ですっ!!」

「これ以上、私の学生生活を脅かす気かッ!!」

背後から現れたキャスターと綾子のモップ、釘バッドのダブルスイングで修一郎は血と涙を飛ばして空を舞った。
只今の記録。51メートル32センチ。










とりあえず陸上部の練習は中断となった。

「・・・へぇ、あの変態が美綴の知り合いとはねぇ」

あからさまに軽蔑した。といった目で綾子を見る蒔寺。その視線に唇を噛む綾子とキャスター。
弁解のしようもございません。少し距離をとってこちらを見ながらヒソヒソと小声で話す部員たちの視線が酷く痛い。

「美綴、お主は現在停学処分中ではないのか。学校に来てもよいのか」

「あ、それについてはあの変・・・早瀬さんが直訴して大丈夫なはずなんだけど」

氷室の言葉に綾子はそう言って修一郎の姿を探した。





「ふむ、すばらしいッ!君、すばらしいよッ!!いや、俺は君と出会ったことを運命に感謝する!!」

「あ、あう、あの・・・」

「君、名前はなんと言う?いや、名乗らなくて結構。本名など不要、魂の名さえあれば現実のカタチだけの名前なぞ不要だッ!!」

「あ、あ、あ・・・」

「と、言うわけで俺の妹にならないか?名前はそう、早瀬 レンとか」

「「「何をやってんだアンタはッ!!!」」」

キャスター、綾子、蒔寺の蹴りを喰らって吹っ飛ぶ修一郎。飛んでいった方向にいた他の部員が悲鳴を上げて逃げ出す。ゴロゴロと転がってやっと止まる。
只今の記録。10メートル12センチ。

「あう」

「大丈夫か由紀っち。お主にはかなり刺激が強すぎたようだな」

崩れ落ちる三枝 由紀香を抱きかかえて氷室は転がっていった修一郎を見た。女子陸上部全員にフクロにされていた。








「ふ・・・いつの世も真実を貫こうとした人間は不遇なのだ」

ボコボコにされた挙句、体育倉庫から持ってきた綱引きの縄でグルグル巻きにされた修一郎がぼやく。

「いや、あんたが貫いているのは変態道だって。ところで私の停学の件は何とかしてくれたんでしょうね?」

「ふ、無論だ。俺は以前ロイズで保険調査員をやっていたこともある男だ。停学を取り消しにすることなぞ容易い」

「・・・マスター。この前はロスで人質交渉人をやっていたと言いませんでしたか?」

「・・・気にするな。そんなことよりも綾子君は停学解除、今までの停学期間も公欠扱いにしてくれるよう頼んで了解されたから安心したまえ」

「ふむ、ただの変態かと思ったがなかなかやるようだな。一つ訊きたいがどのような手段を講じて教員を懐柔したのだ。お主を見れば真っ当な手段ではないことは一目瞭然だが」

「失礼だな眼鏡君。俺は真っ当に交渉したぞ」

「で、どのように」

「耳元で囁くのだ『おまえの秘密は知っている・・・』こう言えば大抵のものは落ちる。偉そうなヤツ高潔そうなヤツほど後ろめたいことが多いからな。その後は思わせぶりなセリフや小道具で追い込みをかければいい。ここの教頭はよほど後ろめたいことがあるようだな。5分で陥落した」

キャスター、綾子、蒔寺から蹴りを入れられる修一郎。三枝は怯えた顔で氷室の背中に隠れる。

「それは交渉ではなく脅迫というのだが・・・ふむ、あの教頭がなぁ」

「鐘、感心するところじゃない」

突っ込む蒔寺。

「で、その変態さんがなんでカメラ持ってあたしを撮ったりしたわけ。答えようによっちゃ警察呼ぶよ」

眼光鋭く蒔寺が睨む。いや、もう警察に通報しちゃってください、と疲れた顔のキャスターと綾子が頷く。

「ふ・・・実は今、俺たちはある美少女の命を護るために悪と闘う美少女を探していたのだ。そして俺は見つけた。君たち3人をッ!!」

「美綴、こいつ病院に連れて行け。こっちは■■■■と付き合うほど暇じゃない」

行こう、と三枝と氷室を連れて立ち去ろうとする蒔寺に修一郎が声をかける。

「・・・まて、君は人の命をなんとも思っていない薄情な人間なのかね。お兄さん悲しいな。現代社会の歪みは女子○生まで侵食しているなんて・・・もうこの国も終わりだなぁ・・・」

無視。三枝が少し困ったような顔をしてこちらをチラリと見た。ふむ、実に良い子だ。やっぱり妹にしたい。

「わかった。時給800円」

一瞬ピタリ、と足が止まったが再び歩き出す蒔寺。

「もう一声で時給1000円」

「もう一声つけてくれたら考えなくもない」

「・・くっ、やるなこの悪代官。これ以上民から搾取するつもりか・・・ッ!」

「取れるところからは取る。これが現代の常識」

悪代官の笑みを浮かべる蒔寺。その背後に見えるのは越後屋か。

「時代は変わったよ・・・きりっち。くっ、わかった。では時給1150円でどうだ!?」

「1200円」

「足元見やがって、おまえ本当に女子○生かっ!?くそっ!!それでいい、それで勘弁してくださいッ!!」

半ば泣きながらヤケクソ気味に言う修一郎。

「商談成立―――――!いやぁ、ちょうど欲しい風鈴があったんだけど少し値が張ってさぁ」

「まて、蒔の字。商談を成立させるのはいいがバイトの内容を聞いていない。いかがわしいものならば困るのではないか」

笑みを浮かべて指を鳴らす蒔寺。それを冷静に止める氷室。はらはらと見守る三枝。

「それもそうだな。変態、時給1200円で私たちに何をやらせるんだ?」

「君も安易に変態なんて人に向かって言ってはいけません。言葉は時に人を酷く傷つけるのだよ」

「涙目で言うな。キモイ」

血も涙もない蒔寺。頷く三枝・修一郎以外の一同。

「君たちにやってもらうのは・・・女優だ・・・ってコラ、待ちなさい。そんないかがわしいものではない。劇、というかドラマの出演女優だ。感動ものの。お色気シーンなどないから安心して欲しい。子供たちに夢と希望を与えるすばらしい作品だ」

8: 黒の衝撃 (2004/04/28 22:45:46)[dzeden at ybb.ne.jp]






「セイバー、今日は天気がいいな。雲一つ浮かんでいない。晴天とはこのことを言うのだろうな」

「ええ、風も暖かく気持ちがいい。もうすぐ、春ですね」

衛宮 士郎は立ち止まりさわやかな顔で空を見つめる。連れ添うセイバーもやわらかく微笑んで士郎に応える。

日曜日、2人でお出かけ。並んで歩くその姿はまさにカップル。





「あ、すみません」

どん、と太目の男がさわやかな顔で空を見上げる士郎にぶつかる。それを初弾に次々と男たちがぶつかってくる。

雲一つない空に浮かぶ禍々しいまでに金色のバルーン。吊るされた垂れ幕には

『アンリ様初ライヴ・ギルガメッシュ企画が生んだ世紀のアイドルここに参上』

「なんでさ」

呟く。

「シロウ、シロウ助けてください――――――――――!!!」

遠くからセイバーの悲痛な叫びが聞こえる。隣にいたはずのセイバーがいない。すさまじい人ごみに押し流されてしまったらしい。セイバーのいる辺りでは連続したフラッシュ、シャッター音が響いている。バーサーカーを相手に泣き言一つ、悲鳴一つ上げなかった彼女が半ば泣きながら士郎に助けを求めている。

なんか萌え。

一瞬よぎった言葉を振り切って士郎はセイバーを救出するべく行動を開始する。

「まってろセイバー!!今度は俺が護ってみせるッ!!」

カッコイイセリフもなんか微妙だ。







「う、うぅ・・・シロウ、ありがとうございます」

「もう泣くなよセイバー。今度ははぐれないように手をつないでいこう」

「あ・・・・はい」

顔を真っ赤にしてセイバーが恥ずかしそうに士郎の手を握る。握られた士郎の顔も真っ赤だ。

「あ、すみません」








「シ、シロウ、シロ――――――――ウッ!!」

「セイバ――――――――――――ッ!!」

運命が二人を引き裂く。再び人の波に飲まれていくセイバー。

「シロウ――――――――――――――貴方を愛している」

「―――――――――――」

消えたセイバーの告白が胸を打つ。士郎は呆然と立ち尽くし、そして

「―――――ああ、未練なんて、きっと無い」






「いや、消えてないし。自己陶酔に浸ってないでさっさとセイバーを助けに行ったらどうだ、衛宮 士郎」

容赦ない突っ込みを入れる赤い弓兵。

「ちっ、おまえ何やっているんだよ、こんなところで」

「ふっ、バーサーカーのマスターがここに来ている。となれば聖杯戦争で敵対する私がここにいてもおかしくはあるまい。ようはマスターの命令で敵情視察だ。そんなこともわからないのか」

見下ろす赤い弓兵。初めて会った時からそうだった。コイツと俺、衛宮 士郎は決して相容れない存在だということに。コイツの発言は棘があり、その一つ一つがシャクに触る。睨み合う俺と赤い弓兵。どちらか先に目を逸らした方が負け、そんな暗黙のルールを破ったのは―――――――




「バカアーチャーッ!!仕事しろ仕事ッ!!」

後ろからアーチャーを殴り飛ばす赤い悪魔、遠坂 凛その人であった。

「サーヴァントがマスターを働かせて立ち話とはどういうことよッ!!もう時間ないんだから急いで捌かないと・・・一枚でも売れ残ったら入院させるわよッ!!」

とたんに真っ青になるアーチャー。ガタガタと震えだし頭を抱えてうずくまる。

「いやだ、いやだ。止めろ、止めてくれ・・・俺は、俺は・・・ナースが、大根がヤメテ――――――――――ッ!!俺は犬じゃないッ、犬じゃないんだッ!!」

何があったアーチャー。

「さあ、わかったらさっさとチケット売り飛ばしてきなさい。出来る限りふっかけてね」

真っ青な顔で人ごみに消えていく赤い弓兵。心なしか髪の毛が薄くなったような気がする。

「・・・遠坂は何をやっているんだ」

「え?ああ、魔術師っていうのは何かと物入りなのよ。だから稼げるときに稼ごうと思って」

ヒラヒラ、と手に5枚ほどのイベントチケットを手に言う赤い悪魔。ダブ屋かよ。

「士郎、チケット持ってる?同級生割引価格、一枚3万でいいけど」

定価の10倍かよ。それで同級生割引ってどのぐらいで販売しているんですか遠坂さん。

「いや、ネコさんから貰ったチケットが2枚。セイバーの分とあるから」

「そ、じゃあ記念に欲しくなったら言って。3万で売ってあげるから。開演まで残り2時間。今からが稼ぎ時なのよね・・・じゃ」

人ごみに消えていく赤い悪魔。それを呆然と見送る。

「そうだ、セイバーを探さないと」

見渡した周囲はどこも人で、探すには苦労しそうだった。





雲一つない晴天の日曜日。いつもはガランドウな冬木市総合体育館だったが今そこは死闘の名にふさわしいイベント会場と化していた。体育館の周囲では朝から警察が交通誘導とテロ対策に奔走していたし周囲に許可を得て出ている屋台は皆、藤村組の傘下、覗けば士郎の知った顔が何人もいた。今日ここでイリヤがイベントを開く、そう衛宮 士郎が知ったのは2日ほど前のことだった。




「士郎ッ!大変よ。これを見てッ!!」

士郎が家でお茶を飲んでいるとドタドタと赤い悪魔が乱入してきた。学校の帰りにまっすぐ来たようで制服姿だ。

「なんだよ・・・騒がしいな」

「そうです、凛。はしたない。シロウは今日やっとまともに動けるようになったのです。無理なことは言わないように」

冬木市立病院の闘いは士郎の回復力を上回る傷を彼に負わせていた。主に精神に、だが。

「はっ、何のん気なこと言ってるのよ。今、商店街で貰ったんだけどコレ見なさいよ」

「臨時の特売チラシでも配っているのか?」

そう言って凛の差し出したチラシを覗き込む2人。そこには

『永遠の英雄王ギルガメッシュが全面後押し・今世紀最大のアイドル・アンリ。そして突如彗星のごとく現れた美少女アイドル・イリヤスフィール・フォン・アインツベルンがお届けする対決イベント企画。もう2度と見ることがない世紀の決戦が今、冬木で始まる!!!』

「・・・なんでさ?」

「こ、これは確かにバーサーカーのマスター。っ!・・・この男、ギルガメッシュ」

「何、セイバーこの悪趣味な男を知ってるの?」

凛がチラシに写るジャケット姿の男を指して言う。

「はい、この男はギルガメッシュ。10年前の聖杯戦争で私と聖杯を最後まで争ったサーヴァントです。何故、ヤツがこんなチラシに・・・」

それは知らない方がいい。世の中には知らない方が幸せなこともある。

「・・・まぁ、とにかく、そんな奴らが組んだイベントですもの何が起こるかわからない。私たちも乗り込むわよ」

「そうですね。その方がいいと私も思います」

「となるとチケットをとらないとな・・・時刻は午後1時開演、チケット1枚3000円か」





「う、うっ・・・すみませんシロウ。シロウを護るべきサーヴァントである私がシロウに助けられるなんて」

「泣くなよセイバー。たしかにアレは怖いよな。うん」

「はぁはぁ」と荒い息づかいでセイバーを囲んで夢中でシャッターをきる集団を見たとき、士郎は一瞬逃げ出そうかと思った。

「まぁ、少し開演まで時間があるから昼食に屋台で何か買って食べよう」

「そうですシロウ。お腹が空きました」

とたんに泣き止むセイバー。まぁ、そこがかわいいんだけど。近くにあった焼きそばの屋台で2パック注文。一緒に食べる。

「これは・・・これはおいしい」

「だろう? 藤村組の焼きそばはちょっとマネできないおいしさだからな」

コクコク、ハムハムと焼きそばを食べるセイバーに微笑む士郎。とたんにフラッシュ、シャッター音の嵐。おまえら写真撮るな、あっちへ行け。

「先輩・・・?先輩、こんなところで何をやっているんですか?」

「え・・・ああ、桜か。桜こそどうしてここに?」

振り返るとそこには桜が立っていた。その視線が横でコクコク・ハムハムと焼きそばを食べているセイバーと士郎の間をさまよう。

「わ、私は先輩につけていたはっし・・・じゃなくて、イベントのチラシを見てここに来たんです」

「何か不穏当な発言があったような気がするが・・・そうか。じゃあ桜もイベントを見に?」

「え? あ、いや、そのチケットがなくて・・・」

「そうか、ごめんな、桜。俺も2枚しか持ってないんだよ。遠坂に頼めば一枚3万で売ってくれるはずだからチケットが欲しいなら遠坂に頼むといいよ。ここらでダブ屋やっているはずだから」

士郎の発言に一瞬でピシリ、と固まる桜

「ええ、そうですよね。先輩のチケットは長年お慕いしていた後輩の桜ではなく後から来た金髪のナイチチ泥棒猫のためにあるんですよね。ええ、そして私にチケットを、暴利を貪る、クソ姉から買え、と、3万円で。ええ、わかりました。先輩のやさしい心遣いに桜感謝します」

「・・・なあ桜、おまえの着ていた服、そんな黒しまのワンピースだったか・・・それとその背後に浮いている黒いクラゲは一体・・・・」

「先輩、気のせいです」

にっこりと微笑む桜。その笑みが酷く怖い。士郎の手から割り箸がこぼれ落ちた。周囲の人間がわらわらと逃げていく。屋台のおじさんまでも。その様子は船から逃げ出すねずみ。取り残されたタイタニック士郎はもはや沈没するのみ。

「じゃあ先輩、私はチケットをいただきに行きますので・・・また」

そう言って士郎に黒い笑みを浮かべて背中をむけた桜の背後にはやっぱり黒いクラゲが付いて回っていたり。

「士郎、食べないのですか、ならば私がその焼きそば頂きたいのですが」







開演まであと少し。

「切嗣、もしかしたら俺もそっちに逝くかもしれない」

士郎の呟きは喧騒にかき消された。


9: 黒の衝撃 (2004/04/29 07:33:45)[dzeden at ybb.ne.jp]






「ふぅ・・・すごい混みようだな。セイバー、大丈夫か」

「ええ、大丈夫です。しかしすごい人数ですね」

体育館内はすさまじい人だった。それでも全席指定となっているので座れない、ということはなかったが。暖房も要らないぐらいの熱気と微妙な汗臭さに士郎は顔をしかめる。まだセイバーにカメラを切る者がいないだけマシか。セイバーを集まる視線から庇いながら士郎は流れ出る汗を拭った。
入場するまでも大変だった。入り口で念入りな持ち物検査、危険物の所持から撮影機材、録音機器の持ち込みチェック、カメラ付携帯すら没収という入念すぎるほどのチェック。あれを受けるだけでも相当に疲れた。遠くで偽造チケットがばれて連行される男がいたり、隠し持っていた機材が金属探知機で発見されて事務室に連行される男がいたり・・・まぁ、大変なことになっていた。
冬木でこんなに人が集まるイベントというのは初めてではないだろうか。危険で凶悪極まりないやつらが集まるのは何度かあったが。

「えーとZの12−5、と・・・ここだ」

チケットの席を発見して座る士郎。セイバーはその左隣の席だ。

「あと30分で開始か・・・なんか楽しみだな」

「シロウ、楽しみにしてもらっては困ります。これは聖杯戦争に絡む重大な情報収集の一環です」

「・・・ごめん。でもさ、こうしてセイバーと2人で出かけることって少なかっただろう?だからさ、デートみた・・・」

そこまで言って士郎は赤面する。自分で言っていて恥ずかしくなってきた。デート?デート?セイバーとデート?な、なななな・・・何をぶちかましているんだ俺はッ!?そんなのセイバーに失礼じゃないか。見ろ、セイバーも怒って・・・。
チラリ、とセイバーを見るとセイバーも赤面して硬直していた。うつむいていてよく顔は見えないが耳まで赤い。言葉もない士郎にセイバーがゆっくりと恥ずかしげに顔を上げる。その瞳は微妙に潤んでいた。

「シ、シロウ・・・私も、シロウと2人で出かけることができて嬉しい・・・」

「セイバー・・・」

見つめあう2人。もはや言葉は要らぬ。さぁ、おもいっきり「ぶちゅー」と行け、「ぶちゅー」と。2人の距離が縮まる。あと僅かでマウストゥマウス。






「せ・ん・ぱ・い。何をしようとしているんですか?」







すさまじい殺気に生命の危機を感じた士郎とセイバーが瞬時に離れる。振り向くな、と警告する野生に理性で無理やり首を、胴体を、足を動かす。ギギギ・・・と油の切れた自転車のような音を立てて士郎は振り返る。

「さ、桜・・・」

「はい、なんですか先輩?」

そこには全身を真っ赤に、おそらく返り血で染めた桜がにっこりと笑って立っていた。神速のフリッカーが士郎の鼻先をかすめる。その背後にはヒットマンスタイルでやる気満々の黒いクラゲがいたり。

「その、桜の服って・・・さっき黒のワンピースじゃなかったっけ・・・?」

「先輩、気のせいです」

でもさっきは顔、赤く染まってなかったでしょう?うむを言わせぬ桜の笑みに士郎はカクカクと頷く。すまん、切嗣。まだ俺は死にたくない。桜はにっこりと微笑みを浮かべたまま士郎の右隣の席に座る。その顔は士郎に笑顔をむけたまま。助けてくれ誰か!公演が終わるまでこの拷問めいたプレッシャーを受けたら髪の毛が弓兵のごとく白くなってしまう。この年で白髪染め愛用者はいやだッ!!士郎は助けを求めるべく左に座っているセイバーを見た。

「ぐー」

バレバレな狸寝入りをしているセイバー。
もはや援軍は来ない。

「あのーすみません。そこ僕の席だと思うんですけど・・・」

来た。
士郎は期待のこもった目でそう桜に告げる小太りな青年を見た。

「違いますよ。先輩の隣の席は私って決まっているんですから」

「いや、でも僕のチケットの番号はここだし・・・」

シュッ!

「見間違いじゃないですか?」

「・・・はい、見間違いでした。すみません」

ガタガタと震えながら去っていく援軍。その髪型は逆モヒカンに変わっていた。神速で放たれたクラゲのフリッカーが毛根から根こそぎ青年の髪の毛を奪っていったのだ。彼はこれから先、鬘が必需品となる一生を送ることになるだろう。すまん、名もなき青年。正義の味方でも命が惜しいときもあるんだ。心の中でなんの慰めにもならない自己保身の言葉を吐いて士郎はただ、この時が早く過ぎ去ってくれればいいと切に願った。












「・・・ふん。セイバーのプラグも私が目を離した隙に立てていたか」

アーチャーは憎々しげに呟き視線をステージに戻す。まぁ、せいぜい今は両手に花を楽しむがいい。皮肉な笑いを浮かべる。

「ひの、ふの、みー・・・・いやぁ、結構儲かったわねぇ」

その隣で満足気に札束を数える赤い悪魔。

「いや、正直1枚12万でも買ってくれるバカがいるなんて・・・くふふふ・・・」

守銭奴め、札束に溺れて溺死しろ。アーチャーの顔に凛の裏拳がめり込んだ。

「げふっ!・・・な、何をする凛!いきなり殴るとは!!」

「守銭奴なんて自分のご主人様に向かっていうバカアーチャーに鉄槌を与えただけよ」

「・・・しまった。思わず口に出していたか」

「ま、今日は気分がいいからその程度にしておくけど次言ったら・・・入院させるわよ」

「もう2度と言いません」

真っ青になってガタガタと震えるアーチャー。一体何があった?

体育館の照明が次々と消されていく。館内のざわめきが小さくなりかわりにステージにスポットライトが。

「よいよ、ね・・・一体何をする気なの?」








ステージではスポットライトに照らされた。一人の少年が会場のみんなに叫ぶ。

「レディスアンドジェントルメーン!!おまたせしたでござる!!これより世紀のアイドル対決アンリどのVSイリヤどのが始まるでござる!!司会担当は不肖、後藤が担当するでござる!!」

「■■■■■■――――――――――――――!!!!!」

歓声が上がる。すさまじい絶叫に耳がおかしくなりそうだ。いや、なっているのか。バーサーカーの雄叫びが聞こえたような気がするし。

「・・・ってバーサーカー!!」

士郎は見た。巨体をこれまた巨大な半被に通し、巨大な応援旗を振り回すバーサーカーを。自分の目が信じられずにセイバーを見る。セイバーも信じられないものを見た、といった表情でバーサーカーを見ている。何故、あれほどの巨体を見つけられなかったのか。っていうかそもそもバーサーカーが半被着てアイドルの応援やってる姿なんて信じられん、と言うか見たくない。その背中の『アンリ命』はなんなのか。おまえはイリヤのサーヴァントじゃなかったのか?小一時間かけて問いつめたい。むろん自分ではしないが。

「それでは、おまたせでござる!アンリどの先行!!アンリどの、お願いするでござるッ!!」

「■■■■■■■――――――――――!!!!!!!」

会場の熱気はヒートアップ。
バーサーカーが狂ったように叫ぶ・・・って元よりか。
そしてアンリのステージが始まった。


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