その後のあの人たち 春の遠坂さん


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1: kazu (2004/04/20 21:18:49)[kazuyan at alto.ocn.ne.jp]

春の遠坂さん







桜が咲き誇り、少し暑いくらいの日差しがポカポカとと大地を照らす。

俺達は誰一人欠ける事無く戦争も終わり、平穏を満喫している。

半人前の俺があの辛い冬を乗り越え、この暖かな春に辿り付けたのは正に奇跡なのだろう。


「あ゛ー・・・・」


と、少し春の雰囲気に酔っていた所に、ソレをブチ壊す呻き声と幽鬼の様な影。


「ん?どうした遠坂」


振り向くとそこには、完全に座った目をしたヤクc・・・・・ゲフンゲフン!

我らがアイドル遠坂凛がいた。――――――元だが。

彼女、遠坂凛は聖杯戦争を共に戦い抜いた魔術師であり我が師匠、そして第二魔法の到達者だ。

ちなみに何故か戦争が終わった今でも家に残っている。

何気に食費を入れている辺り出て行く気は無い様だ。


「眠い」


遠坂が面倒くさそうに一言発する。

隠しているとは言え、魔法使いの彼女がこんなボケボケしてるのは一寸アレだ。


「なにか飲めよ」


彼女は朝に異様に弱い。

だが、何かを飲めばスイッチでも入ったかのようにシャキッとする。

――――――ある意味羨ましい能力だ。


「飲んだ」


「・・・・・・じゃあなんで目を覚まさないんだ?」


短く答える彼女に少し呆れながら問う。

だが、そんな俺の露骨な呆れ顔にもまるで反応しない。

・・・・・・かなりキてるなぁ・・・・・・。


「春だから」


「は?」


なんでさ。

口から出る筈の口癖も出ないほど訳がわからなかった。

遠坂の簡潔な答えに対して、俺の脳は勝手に連想ゲームを始める。

春→発情期→夜は一人で運動会→寝不足?

―――――って何考えてるんだ俺は?

どうやらここ最近の平穏やら春の空気にアてられて、俺もかなり脳味噌がピンクっぽい。

む、いかんな。鍛錬を増やすか。

俺が一人でブツブツ言いながら今後の鍛錬のプランを組んでいると、遠坂がソレを無視して続ける。


「暖かくなると布団の中と外の気温差が無くなって目が覚めないのよ・・・・」


「今まではどうしてたんだよ?」


そう、春は毎年やってくる。

だが、少なくとも学校で眠そうにしている遠坂なんて見た事ない。

遠坂ほどの完璧超人の人気者だったら、こんな醜態を学校で晒せば少なくとも噂にはなる。


「気合、根性、あと色々な何かで誤魔化してた」


何かって何だコンチクショウ。

なんかもう相手をしてるとこっちまで脱力しそだ。

早々に話を切り上げよう。


「・・・・・・じゃあ頑張れ」


そう言って背を向けようとした直後―――――


「てい」


ぷすり、と遠坂の綺麗な二本の指が両目に突き刺さった。


「はおぅ!?目が!目がぁぁぁぁ!!」


たまらず両目を押さえて転げまわる。

某グラップラーとかいう漫画で結構使われている反則技―――――――簡単に言えば目潰しだ。

可愛い掛け声なのにやる事は凶悪だ。

幸い潰れてないがかなり痛い。

流石遠坂、赤いあくまの異名は伊達じゃないぜ。

セイバーの「ムスカですね」、とかいう呟きは聞かなかった事にする。

ただ飯喰らいの癖に暇潰しに宮崎アニメをコンプした居候は、家主のピンチなのに平然とお茶を飲んで煎餅なんぞ食ってやがった。


「セイバー、遠坂を何とかしてくれ」


一寸ばかし腹が立ったので、少し強めに言ってみる。

するとセイバーは疲れたようにこちらを見ると、暗い瞳でぽつぽつと語りだした。


「無理です、不可能です、何とか出来るのならそれはもう既に魔法です。凛は寝起きが悪過ぎる・・・・・毎朝起こす私の身になって欲しい」


と、余程大変だったのか、そのまま闇を背負って再びお茶を口元に運ぶ。

・・・・・・・苦労してるんだなぁ・・・・・。


「ふむ・・・・・お父上と寸分違わぬ寝ぼけっぷりだな。これも血の成せる業か・・・」


そう言いながら言峰が天井から降ってきた。

・・・・・・・なんでさ?


「オイコラ味覚馬鹿、不法侵入だぞ」


「不幸の気配を感じたのでな。相変わらず幸薄そうな顔だな、衛宮の倅よ」


ダディ、何故にこの男の心臓を貫いたのですか?――――どうせ殺るなら頭撃ち抜いてくれよ。

ちなみにこのエセ神父、和解(?)してからは代行者を辞めてカウンセラーなんぞをやっている。

人の不幸と悩みが何よりの娯楽だとか。

食事の趣味も性癖も変――――――正に変態外道なマッチョだ。


「うっさい。ってかアンタ遠坂の元兄弟子なら、この遠坂を何とかしろや」


いい加減腹が立ってきたので八つ当たり気味に言う。

俺の態度を気にした様子も無く、フム、と頷くと懐から何やらタッパーを取り出した。


「これを食べさせるといい。凛の御父上も愛用していた品だ」


と、差し出されたタッパーには大量の麻婆豆腐。

しかもやたら赤い、見ているだけで目が痛い。

正にアノ麻婆―――――何故か熱々なのは謎だが。

確かに気付けにはなると思うが・・・・・・って遠坂の父親愛用の品!?


「おい言峰、まさかアンタが麻婆を食うようになった原因って・・・・・」


「ウム、師匠の影響だ。はじめは些か抵抗があったのだがな―――――――慣れると病み付きだ」


遠坂の一族は化物か!?

いや、でも桜はこの麻婆食えなかったな・・・・・・。

遠坂はまさか食えたりするのだろうか?

遠坂が赤を好むのはこの麻婆に色が似てるから!?

そんなの酷い!赤に対する侮辱だ!!


「現実逃避するのは構わんが、いい加減戻って来い。冷めては効果が無くなる」


言峰の冷たい声で我に返った。

そして蓋を開け放たれた地獄の釜をズイッと押し付けられる。

その熱さにゴクリと唾を飲み込むと、覚悟を決めてレンゲで一掬いする。


「・・・・・・・」


そしてソレを震える手で、いつの間にか机に突っ伏して寝ている遠坂の口元に運ぶ。

可愛い寝顔だなぁ・・・・とか思いつつも、その可愛い寝顔にアレを突きつけている事に罪悪感を覚える。

許せ遠坂、恨むなら産まれの不幸を恨むのだな。

――――――君のお父上がいけないのだよ。

そう謝罪しながらズイッとレンゲを可憐な唇に近づける。

謝罪になってない気がしないでもないが、そんな余裕は無い。

セイバーと言峰、そして何故か居るギルガメッシュが固唾を呑んで見守る中、俺は破滅の呪文を呟いた。


「遠坂、あーん」


「ん?あーん」


寝ぼけているのか馬鹿正直に口を開ける遠坂の口の中にレンゲを突っ込む。

ゴクリ・・・・

誰かの唾を飲む音――――

ってか言峰、発案者の癖に緊張した面持ちで待つな、不安になるじゃんよ。

ギルガメッシュ、オメーは何気にエアを取り出すな―――――気が小さいにも程があるぞ。

セイバー、私は知りませんからねって目はヤメロ。止めなかった時点で共犯だ。

数瞬の沈黙。

―――――そして終わりは訪れた。


「お父様のバカァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


突然目覚めた遠坂が叫んだ。

かなりの涙目で―――――いや、完全に子供みたいに泣きじゃくっている。

トラウマかよ、麻婆は。


「魔術刻印の移植も、友達と遊ぶのも我慢する!だから麻婆だけはイヤァァァァ!!」


どうやら完全に嫌な思い出の中に入り込んでしまっているようで、普段の凛とした雰囲気なんぞ微塵も無かった。


「落ち着け遠坂!」


「し・・・ろ・・・?」



頭を抱えて泣き叫ぶ遠坂の肩をつかんでガクンガクン揺さぶると、遠坂の目に理性の色が戻る。


「大丈夫だ、ここには麻婆なんてない・・・・アレを食べる必要なんて無いんだ・・・・」


そう言いながらテーブルの上の麻婆豆腐を、ギルガメッシュのゲートオブバビロンの中に投げ込みながら遠坂を抱き締める。


「うぅ・・・・・しろう・・・・・しろう・・・」


と、ここでハッピーエンドなら綺麗な話なんだが――――――

この後完全に覚醒した遠坂に、事の経緯が全てバレて言峰と俺はボコボコにされた。

ギルガメッシュのゲートオブバビロンからは常に刺激臭が漂うようになり、ご近所ではかなりの悪評らしい。

セイバーは止めなかった罪であほ毛を切られた。――――――まぁ、次の日には復活していたが。

そんなこんなで、毎日騒がしいながら楽しい我が家。

出番すら無かった奴らは何時か出るとして、今回はここでお開き。

















終わっとけ










あとがけ

熱でぼやけた脳で書いたほのぼの(?)。
誤字脱字が無いか心配。





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