魔術師殺しの一幕 (独自キャラ主動 傾:シリアス風)


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1: 無識 (2004/04/20 01:41:47)[rossotuono2 at yahoo.co.jp]



 言峰綺礼という魔術師の調査


 それが久しぶりに舞い込んできた依頼の内容だった。
 依頼人は長ったらしいカタカナの名前なので忘れた、後で依頼書を確認しよう。
 何時もの如く怪しい依頼ではあるがそろそろ人間的な食事をしたい、苦しいときには鼻をも削げ。
 最低限の荷物をトランクに詰め、鍵付きの引き出しから自分にとっての命綱、
 魔力殺しのペンダントを首に提げる。
 最後に部屋をロックして見る度に古くなってると錯覚させるアパートを後にした。
 おそらく今度帰った時も古くなったと感じる、間違いない。
 旅費は向こう持ちなので豪勢に新幹線で行こう。
 向かうは冬木市という地方都市。
 聖杯戦争という大層な大儀式をした町。
 言峰とやらはそれに一枚噛んでたらしい。
 改めて考えて後悔した、もしかしたら早まってたのではないかと。


 冬木と呼ばれる分春でも寒いかと思ったがそうでもなかったようだ。
 仕事の方は驚くほどスムーズに進んだ。
 現住所を郊外の教会とつきとめ、
 頻繁に出入りしていたという中華飯店から人柄等を聞き込み、
 万全を期すために武器を調達していた。
 その時にある噂話を聞き、すぐさまその真偽を確かめた。
 言峰という魔術師はすでに死亡していた。
 ・・・・・・遠回りなどでは断じてない、慎重なのは美徳だ。
 もちろん報告書に死んでましたとだけ書いたら先方に殺されかねない。
 聖杯戦争絡みなのは明白だがいまいち決め手に欠ける。
 集団昏睡事件、穂群原学園の惨状、柳洞寺の大規模な破壊跡。
 どれも魔術を匂わすが決定的な死因には結びつかない。
 そこで直接の関係者に探りを入れてみた。
 まず住んでいたと思わしき郊外の教会、即アウト。
 どう見てもその筋の教会関係者を敵に回したくは無い。
 次にこの辺りを統轄し、今回の聖杯戦争にも係わっている遠坂、同じく駄目。
 年端もいかない娘だが俺が敵わないのは瞬時に理解できた。
 おまけにアホかと叫びたくなるような強力な使い魔(?)まで居る始末だ。
 どうにも行き詰っていた所にその少年を発見した。
 衛宮士郎。
 一見した所は一般人、だが観察すると魔術師であることが確認できた。
 注視すると遠坂の娘と懇意である事も伺える。
 だがあまりにも魔術師らしくない。
 魔術師と確認できたのも些細な修理に魔術を使った事から分かったのだ。
 事実、無防備といえる無用心さ。
 消去法で考えてみてもこの少年に接触するのが一番だと判断した。


 新都と呼ばれるビル群の照明がポツポツ点きだした夕暮れ時。
 バイト帰りの衛宮少年を待ち伏せる。
 暫らくすると店の人に挨拶をして出てきた。
 距離感を測りながら声をかける
「こんにちは、衛宮士郎君」
 予想通り怪訝そうな顔をして振り向いた。
「ああ、怪しい者じゃないよ。
 実は探偵でね、言峰綺礼という人を調べているんだよ」
 怪訝な顔がさらに深くなる。
 まあ、言峰とやらの身辺を調べていたので彼の心情はなんとなく解かる。
 あの神父の関係者が怪しくないわけが無いだろう、といった所か。
「・・・・・・なんであいつの事を俺に聞くんですか?」
「もちろん他のいろんな人にも聞いてみたよ。
 それでここ最近接触していたのが君と遠坂って娘とわかってね。
 もう一人の娘はどうにも怖そうだから、とりあえず君の方から聞こうと思ったわけだよ」
 彼はなぜか妙に納得した顔をした。
「長くはならないようにするけど立ち話もなんだからそっちの公園にでも行こうか。
 缶コーヒーぐらいなら奢るし」
 そう言って振り返らずに公園に進むと二歩遅れて付いてきた。
 案の定、こんな怪しい人物にもとりあえず信じるお人好しのようだ。


 缶コーヒーを買いベンチで話すこと五分ほど。
 色々と質問してみたが実になりそうな答えは貰えなかった。
 もっとも彼自身が聖杯戦争に係わっているとは元から期待していない。
 もし係わっていたら真っ先に殺されていそうだ。
 可能性としては遠坂の娘から情報が流れてるぐらいか。
 なのでそろそろ本題に入ろう。
「うん、ありがとう衛宮君。
 色々質問して悪かったね」
 そう言いつつ立ち上がると彼もつられて立ち上がる。
 そして微妙に立ち位置を移動しつつ、
「そういえば言い忘れていたけどね」
 彼の眼を見ながら言い放つ。
「実は俺、協会の魔術師なんだよ」
 一拍の空白の後、面白いように顔の表情が無くなっていく。
 ちょっとしたブラフだったが効果はあったようだ。
 半歩、彼の方に足を向ける。
 まるでバネ仕掛けの人形のように彼が跳び下がる、が。
 その位置はドンピシャでこちらの罠の中心。
 すかさず魔術回路を起動、内面が裏返る錯覚に酔いながら、
 魔術刻印のある右手を地面の起点に置き、仕込んでいた切り札を発動させる。
「結界稼動、魔術回路封殺、身体拘束
 (スタート、マジックサーキットシール、フィジカルバインド)」
 結界自体の持続時間は短いし、範囲も大きくは出来ない。
 だがその効果は魔術師に対しては絶大であると自負している。
 それは魔術回路のスイッチを強制的にオフに固定する事。
 感覚的には目詰まりを起こさせて切り替えられなくすると言えば想像しやすいだろう。
 ついでに肉体も金縛り状態にする、これで詰み。
 少年は苦悶の表情を浮かべて地面に倒れこむ。
 正直彼程度にここまでする必要は無いのだが念の為に、慎重は美徳。
「とりあえず命は取らないから安心してほしい。
 あの遠坂って娘に向かうにはこれぐらいの保険が必要なもんでね」
 取引材料兼人質として役に立って貰うとしよう。
 まあ、問題なのはこの少年がそれだけの価値があるかどうか。
 魔術の弟子ぐらいだったら容赦なく見捨てはしないだろう、多分。
「さてと、人目に付かない内にとっととやる事を」
 そして近づいてみて気付いた。
 彼が動けぬ身体で何かを呟いている事を。
 何か不思議な事をしているのを。
「・・・・・・・・・遠坂に」
 そして理解する。
 何をしているのか、在りえない事をしている。
「・・・・・・迷惑を、かけられるか」
 硬直し息を呑む。
 一から魔術回路を作っている?
 在りえない、そんな事は自殺行為だ。
 そもそもそんな発想が浮かぶか、こんな状態で。
 大体命までは取らんと言ってるのになんで死に急いでるんだ、こいつは。
 やばい、焦るな、冷静になれ、決断しろ。
 こいつはイレギュラーな存在だ。
 今ここで片付けておかないとさらに事態が悪化する。
 手持ちの攻撃用魔術は設置型で使い勝手が悪い、この距離ならナイフの方が早い。
 そう判断すると同時に駆け出し、ナイフを懐から取り出す。
 人質なんて悠長な事は言ってられない、首筋目掛けて振り下ろす。
 しかし、
「トレース・オン」
 その声が一瞬早く響き、
 金属的な音を立てて首筋に差し込まれるはずのナイフは弾かれた。


 口から血を垂らしながら少年が立ち上がる。
 魔力を体内に流して力技で金縛りを解いたか。
 いや、そんな事を気にしてる場合じゃない。
 いつの間にか現れた両手の双剣。
 黒白の刀身はさながら太極図、いやそんな事もどうでもいい。
 肝心なのはあれがなんの魔術なのかという事。
 何も無い所から出したので投影か、いや一度弾いた後も形を保っている事からそれは無い。
 だとしたら物質の転送か分解再構成での武器製造か。
 どちらにしても近接戦闘の心得はありだろう。
 あいにくこちらの体術は二流以下だ。
 跳び下がりながらナイフを投擲。
 結構良い所に投げたのにあっさり弾かれる。
 もはや出来る手は逃げの一手のみ。
 少しでも時間を稼ごうと腰から拳銃を取り出し銃口を向ける、が。
 いつの間にか投げられた片方の剣が回転しながら迫り、握っていた拳銃を斬り飛ばす。
 暴発して彼方に虚しく銃声が響く。
 理不尽過ぎだなんて考えている余裕は無い。
 改めて確認したら少年の両手に剣は二本とも無し。
 嫌な回転音が風を切りながら後ろから聞こえてくる。
 当てにならない勘のみで右に転がる。
 左脇腹に違和感、灼熱感、のち激痛。
 致命傷ではないが軽傷とは口が裂けてもいえん。
 なんとか体勢を立て直し、辛うじて立ち上がる。
 後の事も形振りもかまってはいられない。
 左手で『こんなこともあろうかと』を取り出し、投げつける。
 瞬間、閃光と爆音が渾然一体となって公園を埋め尽くした。


 とりあえず手近な物陰に身を置いた。
 後ろを見ずに逃げていたがどうやら追ってきてはいない様だ。
 中古のスタングレネードは十分以上の効果を発揮したらしい。
 脇腹を応急処置をしながら先の事を考えて目の前が暗くなる。
 まずこの町からは一刻も早く出なきゃならんし、依頼は完遂できてないし。
 そういえばナイフと拳銃も落としてきた、それなりに愛用していたのに。
 考えれば考えるほど底無し沼に落ちていく。
 もっと他に考えることかあるんじゃないかと理性が告げる。
 そう、たとえば、
「まったく、士郎が遅いもんだから迎えに来てみれば」
 いつの間にか前に立ちふさがっている、どう考えても勝てそうにない相手から、
「協会の回し者かな、随分派手にやってくれたわね」
 自分はいったい何が出来るのかという事を考えなければ。
「さて、覚悟は出来てるんでしょうね」
 こういう輩は勝ち目を作らなければ決して表に出ない。
 少し前までは自分も同じタイプだと思っていたが、どうやら詰めが甘かったようだ。
 どの選択肢を選んでも先は長く無いだろう。
 ならば少しでも足掻いてみようと覚悟を決める。
 最後の奥の手、スナップで袖から飛び出すポケットピストルを向けようとして。
「ちょっ、セイバー!?」
 相手の妙に焦った声と共に。
 何か得体の知れない物が胸を貫いた。
 許容をはるかに超える痛みが瞬時に痛覚を麻痺させる。
 逆流してくる血液が気持ち悪い。
 五感がバラバラに連結させられる。
 引鉄を引く筈だった指先の感覚が失っていく。
 視界は白く濁り、認識できない言い争う声も直に静寂に沈む。
 永遠に忘れないような死の感覚はおそらくもう忘れているだろうと確信し。
 結局最後には、アパートの時点で死亡フラグが立っていたなと、
 どうでもいい事を考えて、俺の電源はパチリと切れた。


 DEAD END



 後書き
 ・・・・・・・・・セイバーに人殺しをさせてすみませんでした。
 直前の選択肢はギル様道場のアドバイス通り「疾く自害する」が正解です、多分。


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