DARK HERO 第四十四話「見つけた幸せ」
あー、ちくしょー・・・・まだ腹が痛い。
あの後、結局朝飯も食い逃した。
その上セイバーに謝ったら、「はい?」って、訳ワカリマセンって顔された。
一応理由も説明したんだが、良くわかっていないご様子。
「アレはシロウの性格でしょう、何故謝るのです?私は嬉しかったんですよ?」なんて真顔で言われて、気恥ずかしくなって散歩がてらこの公園に逃げてきた。
「ぷぁ〜・・・・日曜なのにホントに人がいねぇな・・・・・ここは」
軽く煙草の煙を吸い込んで呟く。
本当に人が少ない。
ポツポツと散歩する人が居るだけだ。
「あれ?衛宮君だ。なにやってんスか?」
唐突に後ろから声をかけられたので、顔だけ後ろに向ける。
「おう、ノブか。こんな朝早くにどうしたよ?」
後ろにはいかにもガラの悪そうな金髪――――――――俺の後輩の相楽信行(サガラノブユキ)がポケッと突っ立っていた。
「お?その面はまた喧嘩か」
「ええ。ちょっと女の子がタチの悪いのに絡まれてましてね」
コイツは見た目はアレだが正義感が強い。
素行だけを見ればただの不良だが、理不尽な事はしない奴なので結構気に入ってる。
「衛宮君、最近全然遊んでくれないじゃないですか、みんな寂しがってますよ?」
「ちとゴタついててな。片付いたら飲みに連れてってやるよ」
どうも俺はこういう元気な輩が友達に多い。
まぁ、その原因が俺の髪の色を見て絡んできた馬鹿を潰して周ったことにあったりする。
昔は仲間の中には救いようの無い馬鹿が居たが、そんなのとはツルんでない。
「くぁ・・・・じゃ、失礼します。徹夜明けなんて寝に帰ります」
「ほいほい。んじゃな」
軽く手を振ってノブを見送ると、新しい煙草に火をつける。
はぁ・・・・・・平和だ。
「隣、宜しいかしら?」
煙草を咥えて目を瞑りながら天を仰いでいると、スッと影が覆いかぶさり可憐な声が降って来た手。
「ん?ああ、どうぞ。煙草消しましょうか?」
「御気になさらずに」
何処かで聞いた覚えのある声に、首を傾げながら隣に座った人物を横目でちらりと見る。
その容姿は一言で言えば美人、もっと言えば隣のお姉さん。
尖った特徴的な耳が見えるがさほど気にならない。
しかも外人の割には日本語が普通に上手い。
隣に置かれた買い物袋から覗くネギが、妙に所帯じみていて親しみが持てる。
「久しぶりね、セイバーのマスターさん?」
その声に、体が勝手に反応した。
そのままワンアクションで銃を投影しようとして―――――
「落ち着きなさい。今日は戦いに来た訳じゃないわ」
無理やり魔術をキャンセルさせられた。
女性の声には先程までの柔らかさは無く、顔は氷の表情を浮かべていた。
「まさかとは思ったがキャスターかよ・・・・・。――――――つーかメッチャ美人じゃん」
「ふふ、ありがとう。いい加減にその露骨な殺気を収めたら?」
俺の素直な賞賛に、柔らかい雰囲気に戻りながら笑顔で答えるキャスター。
どうやら本当に戦いに来た訳じゃないらしいので、俺も素直に臨戦態勢を解く。
つーかどの道戦った所で勝てねぇし、今の状態では時間稼ぎも出来ない。
「賢明な判断ね」
殺気を引っ込めて、大人しく座りなおした俺を見てクスクスと微笑む。
キャスターの纏う雰囲気が以前とは別人だ。
憑き物が落ちた様な清々しさだ。
「フン・・・・・アンタも随分丸くなったな。この短期間で何があった?」
「驚いた、貴方鈍いようで中々鋭いのね」
失礼な事に本当に驚いているキャスター。
流石にちょっと傷付く。
しろうくん、ブロークンハートだ。
「手にしていた物の素晴らしさに気付いたって所かしらね・・・・」
そう言って嬉しそうに微笑む。
変われば変わるものだ、あの毒婦の様なイメージのあるキャスターが可憐なお姫様に見える。
いや、こちらが本質なのかもしれないな。
「じゃあ、聖杯なんて要らないんじゃないのか?」
場の雰囲気に流されて軽口を叩く。
だが――――――
「ええ。別に聖杯は必要ないわね」
その答えは俺の予想とは正反対のものだった。
キャスター視点
「ええ。別に聖杯は必要ないわね」
何の躊躇いも無く言い切った。
ここまでスルリと言葉が出たのは産まれて初めてかもしれない。
何故この少年にこんな事を話しているのか――――――
最初はただの好奇心だった。
手を組む以上は相手の腹を探る、それは必然であるので特に問題は無い。
なのに、何故かこんな話をしている。
まぁ、この日差しの所為と言う事にしておきましょう。
冬なのにポカポカと暖かい日差しを全身に受けて深呼吸をすると、少し顔を引き締めてセイバーのマスターに向き直った。
つづく
あとがけ
今回は何故か短め。
・・・・・・・ごめんなさい、ホントはショートツーリング行ってました!春の陽気がいけないのさ!!
いや、ホントすいません、自分調子に乗ってました(超卑屈