第五話「日常風景・魔術師、再来」
20士郎視点
一夜明けて、
朝食はアルトリアが、
「私が作ります」
と言うので、念のため桜をつけて任せてみた
まぁ、セイバーの頃と違って色々家事能力を身につけてるらしいので杞憂だと思うけど
で、結果はと言うと、
「どうでしょうか?」
「うん、心配して損した、
問題ないよ」
「ホントですね、半熟卵の茹で具合なんか私が聞きたい位ですよ」
いや、ほんとに杞憂だった
内容がトーストとサラダ、それと缶詰のコーンスープと半熟卵なんてメニューだったのも理由だろうけど
本人は納得してないみたいだけど、そこはそれ、そう簡単に納得されても困る
で、俺とアルトリア、遠坂と桜とイリヤに『藤ねぇ』を加えた朝食を終えてからしばらく、
「ところで士郎?」
「なんだよ藤ねぇ?」
「いつの間にセイバーちゃん帰ってきたのよ?!
お姉ちゃんぜんぜん聞いてないわよ?!!」
がおおおおおおおおおおおおおおおん!(トラ)
おう、タイガー大爆発!
このシリーズ初じゃないか?
「って、藤ねぇ、アルトリアは春から本名で穂群原学園に通ってるぞ!
俺だって昨日知ったばかりだから人の事言えないけど、なんで藤ねぇが知らないんだよ、
入学式に参加してただろ?!」
「え〜、そんな事言ったって〜、
葛木先生いなくなっちゃってから学年主任とかで忙しかったもん、
入学式の時も弓道部のことで頭いっぱいだったし」
言いながら掴みかかってくる藤ねぇ、
うわ、そう言えば三年の学年主任藤ねぇだったっけ、
能力と責任感は兎も角、人格的に大丈夫かどうか疑わしいぞ、いいのか理事会?
「タイガ、私のほうから挨拶に伺わなかったことは謝ります、
ですからそろそろ士郎を放してもらえませんか?」
「えっ?」
うん、ただいま首がいい感じに極まっててライブにピンチ中、
何処とも知れない川向こうに親父の姿が見えてます
そこで、ぱたんと俺の意識は落ちた
…………ところで親父、そのイリヤ似の女の人誰よ?
21
何とか藤ねぇを説得し、登校する士郎達
で、昼休み
「衛宮、昼食だがどうする?」
「スマン一成、今日は桜たちと約束があるんだ」
柳洞一成の問いに士郎がそう言った時だった
がやがやと廊下が騒がしくなった
「?」
弁当箱を片手に廊下を振り返ると
そこへ
「士郎」
「あっ……」
勢い良く、金髪の一年生が教室に入ってきた
周りのほうで「また衛宮かよ」等々聞こえるがもはや関係ない
「おや、セイバーさんではないですか、
此方に留学されていたとは知りませんでした」
「お久しぶりです、イッセイ」
にこやかに挨拶を交わすアルトリアと一成
「なるほど、本名はアルトリアさんでしたか」
「はい、実は色々と事情がありまして、
士郎と再会したのは昨日なのです」
もろもろの事情を(必要な所は誤魔化して)話すアルトリア
ふむふむと頷く一成、そこへ
「りゅ、柳洞が普通に女の子と話してる!?」
「む、美綴か、多分に失礼な物言いだな」
周囲に集まっていた一同の中、大声をあげた女子生徒に向き直る
「いや、お前そりゃ驚くだろ?
遠坂は兎も角、お前さん普通の子相手にしてる時でも挨拶くらいしかしないじゃないか」
「そう言えばそうだな、一成がマトモに話するヤツって俺のほかにはほとんど見たことない」
女子生徒―――美綴綾子の言葉に頷く士郎
「それはいいのですが、そろそろ行かないとリンに怒られます、
行きましょう士郎」
「おっとそうだった」
アルトリアに促され、慌てて教室を出て行く士郎たち、
時計の針は、昼休みが既に半分終わっていることを告げていた
22士郎視点
あれやこれや言ってる間に、もう放課後だ
弓道部が終わるまで遠坂やアルトリアと一緒に待って、
桜と合流して帰ることにする、
そんなわけで、折角なんで弓道場に顔を出したんだけど
「来たか衛宮、四の五の言わずに射っていけ」
道場の入り口に着くなり美綴に捕まった
仕方ないので弓を持つ、何故か桜が俺の弓を用意していた(何故これがここに?)
弓を構えて射る、一拍の間をおいてもう一回、
とん、と静まり返った道場に俺の矢を放つ音だけが響く
「すごい……」
「改めてみても惚れ惚れする射だよな、
あ〜あおしいよ、こいつだったら全国だって夢じゃないのに」
いや、美綴さん無理なモノは無理だって
ほら、そこの弓道部員、「なんで辞めたんですか」って眼でこっちを見ない、頼むから
と、そこへ
「だ―――!
タイガーって言うな―――!!!!!!!!!!!!!!!」
なにやら虎の遠吠えが聞こえてきた
振り返ると一年生らしい子達をまとめていた藤ねぇが吼えていた
「あ〜、ヤッパ一年か、ウチの暗黙のルールを知らないのな」
「ルール?
何か法則があるのですか?」
生真面目な顔で質問するアルトリア
「ありゃ?
アンタ藤村と面識あるのに知らないの?
ウチの学校では『藤村のことを名前もしくはあだ名で呼んじゃいけない』って言う、
暗黙のルールがあんのよ」
「はぁ、ですがタイガの持っていた竹刀には虎の飾りがついていましたし、
虎のマスコットも熱心に集めていたようですが?」
うん、集めてる、でもそれとこれとは別なのだよアルトリア
そのことを説明しようとした所で
「はい、それじゃ一年生は学校の周りをランニング百周!
一時間以内に!!」
「いや藤ねぇ、それ絶対無理だから」
無理難題を吹っかける虎に流石に止めに入る俺
「何言ってるの、大体先生を気楽にあだ名で呼ぼうなんて考えからして甘いのよ、
そう言う訳だから不心得者どもには『回って回って回りつくしておいしいバターになりました』―――
ぐらいしないと駄目なの!」
びしっと言いきる藤村大河、
それはそうと藤ねぇ、それの元ネタは人種差別問題で発禁処分になってるぞ
ちなみに原材料『虎』!!
「―――今思ったけど、虎からバターなんて作れるのか?」
「無理よ」
で、そんなこんなで部活が終わって帰り道、
学年主任の雑務に追われて学校に残る藤ねぇを置いて下校する俺たち
「さて、それじゃぁ今日は柳洞寺に乗り込むわよ、
サーヴァント連中は惜しいけどアイツはさっさと何とかしたいし」
「そうですね」
そんな事を話しながら交差点に差し掛かったときだった
「失礼だが、衛宮士郎というのは君かな?」
サングラスで顔を隠した女性に声をかけられた
「そうですけど、どちらさまですか?」
「会うのは初めてだな、私は―――」
「―――バゼット…………」
突然、呆然とした顔でランサーが実体化する
バゼットって誰だっけ?
「バゼット―――って、
まさかバゼット・フラガ・マクレミッツ? ランサーの元マスターじゃない?!」
「その通りだよ遠坂の当主、聖杯戦争の顛末について君たちに聞きたくてね」
はぁ、そうなんだ―――って生きてたのか?
やっぱり生粋の魔術師ってのはしぶといのだろうか?
え〜なんだかそのままバゼットさんを連れて帰宅、
藤ねぇが帰る前に彼女に聖杯戦争の結果について説明した
帰ってきた藤ねぇには取りあえず遠坂の進学先の学校のスカウト兼、講師と説明しておいた
実際時計塔の魔術師なので嘘はついてないと思う
さてと、藤ねぇも帰ったことだし、そろそろ柳洞寺へ……
うん?
「まさかアンタにまた会えるとはな」
「私もだ、ところで―――」
なんか込み入った話してるみたいだ、別の道使って部屋に行くか……
23凛視点
「さて、柳洞寺にむかうのは良いが、その前に一つある」
「なに? マイスター」
玄関に集合した所でマイスターが何かを言ってきた
「マスターの戦闘能力だ、凛や衛宮士郎は兎も角、
桜の戦闘能力はたいしたこと無かろう?」
頷く、聖杯戦争のアレは『アンリマユ』のカゲをばら撒いてただけだし、
必要ないと思ってたから教えてないし
「そこで此方で用意させてもらった、念のため君達も持っておけ」
そういって渡されたのは何やら魔術文字の彫られた短剣
「って、これウチのアゾット剣にそっくりなんだけど?」
「あぁ、私が作ると無意識のうちに似せてしまうようだ」
「そう言えば、マイスターって遠坂と付き合ってたんだっけ」
受け取りながらそう言う士郎
「―――まてよ?
そうだ、キャスター!」
「士郎、どうしたの?」
歩き始めて暫く、
何かぼうっと考えた後、突然大声を上げる士郎
「そう言えば、あのキャスター、
リンのようでしたが今のリンと比べると随分雰囲気が違いますね」
「あぁ、キャスターだからだと思ったんだけど、
ひょっとしたらマイスターの知ってる遠坂って、そのぐらいの歳だったのかなって思ってさ」
「同じかどうかは判らんがな、
―――だとしたら厄介だな」
士郎の言葉に考え込むマイスター
「なにがよ?」
「―――そのキャスターが私の知る凛と極めて近いのなら、
そいつは、宝石剣を持っているかもしれん」
「大師父の秘奥をか?」
バゼットが驚いた顔で聞いてくる
「ありえない話じゃないわ、実際士郎は、一度宝石剣を『投影』してるし、
『変化』で作れるかはわからないけど、一度大師父に会って『あれ』を見ている士郎となら、
その気になれば宝石剣を創れるもの」
「だが、それで役に立つのか?」
私の話に尤もな疑問をぶつけてくるバゼット
そうか、士郎の『投影』について説明してなかったっけ
「論より証拠ね、時計塔に報告しないって条件になるけど、いいかしら?」
「かまわん、仕事で鉢が回ってきたわけじゃないしな、
むしろここで聞いておかんとこの先命が無いだろう」
―――この人、時計塔で一、二を争う追跡者じゃなかったっけ?
一応、封印指定級の話なんですけど……
「まぁ、いいわ、士郎、宝石剣用意して」
「うわ、いきなりそう言うかお前!?」
あれ大変なんだぞ、とかぶつぶつ言いながら『投影』の姿勢に入る士郎、
ややあって、
「ホラ出来たぞ、
まったく、『投影』を見せるだけなら他のモンでもいいだろうに」
言いながら『それ』を投げ寄こす士郎、
で、それを見て呆然としてるバゼット
「本気で創ったのか……
確かに封印指定ものだな」
うん、当然の反応よね、わたしもアイツが始めて宝石剣創った時の話聞いた時は
殺意抱いたもの
24
柳洞寺の本堂まで登ってから、士郎は凛に聞いた
「なぁ遠坂、ほんとに大聖杯のトコじゃなくてこっちで良いのか?」
「えぇ、あの入り口がそのままつかえる保証は無いし、今日は取りあえず―――」
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
「なんだ?」
と、言いかけて、
いつの間にか囲まれてることに気付く
「なんだこいつら?」
「サーヴァント?
これだけの数?!」
5人や10人では済まない、
皆一様に黒ずくめに髑髏面をかぶった者である
「うわぁ、団体さんのおつきだぁ」
「ネタが古いわよ」
誰かの言葉に凛が突っ込んだ時だ
「やぁやぁ、良く来てくれた、
良くいらしたお客様」
境内に誰かの声が響く、
「ネーアか! 姿を見せろ」
「すまないけどね士郎、
ごめんね衛宮、
悪いがな衛宮士郎、
悪いけどそっちに行けないの、
生憎そちらに顔を出せない、
残念ながら動けないんでね」
相変わらず独特の癖のある言い回しだ
だが、動けないとはどういうことだ?
「そこのそれは本家本元のアサシンだよ、
宝具は心臓を抉り出す呪いの腕、
アルトリアは見覚えくらいは有るんじゃない?
どうだろうアーサー王?
知ってるんだろうセイバー?」
アレコレという間も無く、周囲を囲む面子の説明する声が聞こえる
「他の特技は―――
あぁごめん、
悪い悪い、
すっかり忘れてしまったようね」
「やれやれ、聞いていると頭がおかしくなりそうだな」
「同感だ」
バゼットが顔をしかめて呟くのに誰かが同意した
悪態に返事が無い、どうやら演説は終りらしい
「他の特技の方は聞かなくても良さそうだな、
どいつもこいつも同じような動きで構えやがって」
アサシン軍団が手に手に短剣を構える、
宝具を使われるよりは良いが―――
「ち、めんどくせぇな」
「そうですね、弾くにしても誰かには当たってしまう」
「無傷ではすまんだろうな、
問題はそれにまぎれて宝具を使われる訳にはいかんということだ」
「ゲイボルクと同じで喰らったら終りだしな」
「そう言えばアサシンは『自己改造』のスキル持ってるって言ってたっけ」
「イリヤ、何よそれ?」
「他人の情報を取り込んで自分を強化するスキルよ、マスターが食われてもそれはそれで危険だけど、
サーヴァントが食われるのはもっと危険よ」
「それって心臓をってこと?
イリヤちゃん」
「えぇ」
「ライダー、『騎英の手綱(ベルレフォーン)』で中央突破を狙えないか?」
「今放てば、味方に被害がでます、アルトリア、貴方の方は?」
「この状況では『万軍を裂く神速の槍(ロンゴミアント)』でも似たようなものでしょう、
ランサー、ゲイボルクはどうです?」
「『突き穿つ死翔の槍(ゲイボルク)』か?
面を討つのは良いが、中央突破とかにはちと使えねぇ」
あれやこれやと不安をあおる発言が飛び交う中で、
「ところでイリヤスフィール」
「なに?」
「君は以前、自分のサーヴァントを最強と称したそうだが、
その気持ち、変わらんか?」
場違いに落ち着いて、バゼットが聞いた
「それってバーサーカーのこと?」
「あぁ」
「あたりまえじゃない、バーサーカーは何時だって私を護ってくれたもの、
彼がいればこんなアサシンの十や二十、一人で蹴散らせるわ!」
「確かにアレがいた方が楽だったかもな」
味方に出る被害を無視すれば出来なくも無い連中も多いのだが、
無いものねだりをしてもしょうがない
「仕方ない、
こっちは『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』で何とかするから、
ライダーとアルトリアは宝具の準備を」
「いや、それより盾を出すなら上にでも向けておけ」
指示を出す士郎を遮ってバゼットが言った
「―――さて、聞こえているんだろう?
お姫様の御要望だ、お望みどおり蹴散らしてやれ」
そう言って指を鳴らすバゼット、
その瞬間、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』もかくやという勢いで閃光が降り注いだ